表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
107/126

第百一章 暗雲の中

クローンを製造している工場は地下にあった。

二ノ宮はそこに辿り着くまで、そして辿り着いてから、何千体とレプリカ・ガールを斬った。ようやく通路を抜け野球場一個は入るほどの工場には、それでもまだ大群のレプリカ・ガールがいる。


「腕が限界なんだがな」


『頑張って下さい。あの大きい透明な球体がクローン製造マシーンの本体です』


リオが言った球体は工場の中心にあり、その中でバチバチと紫の稲妻が走っている。

その周りには、やはり透明なカプセルがいくつも並び、中には生産途中のレプリカ・ガールが入っている。


「薄気味悪い奴らだ」


青生生魂せいじょうせいこんにはべっとりとレプリカ・ガールの血液が付着していて、切れ味にいささか不満を覚える。

正直なところ、疲れてが出て来ている。このままでは返り討ちに合ってしまうのは必須。なんとか打開策を見つけたい。


「リオ、翼を出せ。一気にあそこまで飛んで行く」


もはや自分の意志で翼を出せるほど集中力はない。残存する集中力は、青生生魂を振るう事だけに使いたい。


『行きます。いいですか?』


言われた通り翼を出す。


「うおおおお−−−−−−−−−−っ!!


唸り声を上げ、全身を青い炎に包む。

その炎を引っ提げクローン製造マシーンに向かって突っ込む。

周囲にいるレプリカ・ガールは、二ノ宮の炎に焼き尽くされて行く。

青い彗星の如く寸分のぶれもない鮮やかな直線を描き、クローン製造マシーンに青生生魂を突き立てる。

勢いよく亀裂が四方八方に広がり、やがて中心部の電源を破壊して突き抜けた。


「やったか?」


全身の炎は消え、振り返り成果を確認すると、クローン製造マシーンは爆発してその機能を停止した。


『お見事です』


「まだだ!まだレプリカ・ガールが残ってる!」


青生生魂を頭上にかざし、やはり青い光の粒子を集める。数の減った今なら一撃で殲滅出来る。


「これで終わりだ!ブルームーンバースト!!」


青生生魂を振り光球を投げる。

光球はレプリカ・ガールの真ん中で派手に破裂。塵になった。


「うっ……」


疲労からか、胸を抑え膝まづく。


「セイイチ!」


ディボルトを解き、リオは二ノ宮を介抱する。

大分我慢していたのだろう、気分悪そうに崩れ落ちる。


「ハァ……ハァ……こんなに苦労させられるとは………ハァ……ハァ……」


息が絶え絶えで喋る事すらままならない。


「少し休みましょう」


リオは二ノ宮の身体を後ろに倒して、自分の膝の上に寝かす。


「お、おい………」


「大丈夫。誰もいません」


ディボルトは選定者の体力を大幅に減少させる。まして、その状態で戦う事は細胞の一つ一つに負荷がかかる。二ノ宮の状態は決してよくはない。


「どうです?私の膝枕…」


ちょっと恥ずかしそうに言った。


「ああ………最高だよ」


体力の回復を待つには申し分ない。目を閉じれば、より安らぐ。


「このまま……二人でどこかへ行ってしまえればいいのに」


「リオ………」


「す、すいません。流して下さい」


「………戦いが終わったら誰も知らない土地を探して、そこで一緒に暮らそう」


「セイイチ………」


それはリオも望んでいた事。嬉しかった。その嬉しささえ、この男は奪おうとする。


「また僕から逃げるのかい?」


メビウスだ。


「博士!」


「博士………懐かしい響きだ。そう呼ばれた時代もあったな」


リオは立ち上がりメビウスを睨む。


「リオ……」


「あなたはそこで休んでいて下さい。私が戦います」


ディボルトして戦う体力は二ノ宮にはない。リオは数メートル先のメビウスに寄って行く。


「僕と戦う?随分、威勢のいい話だ」


「あなたこそ……随分、偉くなったのね」


「それにしてもやってくれたね。これじゃあレプリカ・ガールは造れない。かなりお金がかかったのに」


「こんなもの、無い方が世の中の為よ」


「Type−Ω(オメガ)、あんなにも大切にしてあげたのに、僕を裏切って二ノ宮につく理由はなんだい?」


「裏切る?裏切るほどの何が私達にあったのかしら?無理矢理ガーディアンにされて………一度だってあなたを慕った事なんてないわ」


「恩知らずめ………」


かつては自分のモルモットだったリオの反抗的な態度に、メビウスは苛立ちを隠せない。


「誰のおかげでその力を得られたと思ってるんだ」


「ウフフ………恩着せがましいとはあなたの事を言うのよ。もっとも、この時代まで生きられた事であの人に出会えたんですけど……」


「そんなに二ノ宮が大切なのか………なら壊してやる!」


メビウスは懐からナイフを取り出し、二ノ宮に向かって投げた。

ナイフはリオの横を擦り抜け、二ノ宮の腹部に刺さる。


「うあっ………!」


「セ、セイイチ!!」


慌てて二ノ宮の元に戻る。リオでさえ見切れなかった速さで刺さったナイフは、深く突き刺さっていた。


「無様だな!ガーディアンがいなければただの人間!そこで黙って待つといい!僕が夢を叶える瞬間を!アハハハハ!!」


一番邪魔だと思っていた二ノ宮は、ディボルトしても戦える状況にはならない。

高笑いは、メビウスが消えるまで響いていた。


「許せないっ!」


愛する者を傷つけられ、リオは怒りをあらわにする。


「ここで待っていて下さい。博士は私が倒して来ます」


だが、二ノ宮はリオの腕を掴み、


「ダメだ!メビウスはお前を怒らせておびき出すつもりだ。罠と知って行かせるわけにはいかない!真音達に任せるんだ!」


必死になって案じてくれている。それだけでリオに十分だった。


「愛する人を傷つけられて黙っていられるほど、おしとやかではありませんよ………私は」


「リオ………くっ!」


腹部に激痛が走る。それでも二ノ宮はリオを止める。


「頼む………ロザリアを失って、お前まで失いたくないんだ」


二ノ宮の想いは伝わっている。

リオは優しく微笑み、キスをして何も言わずにメビウスを追った。


「リオ!!」


ロザリアが頑固だったのだ、リオがそうであってもおかしくはないと二ノ宮はわかっていた。

その事実は二ノ宮だけがわかっている事。その頑固さに釘を刺しておくべきだったと、今だけは悔いていた。


「クソッ………動け!動いてくれよっ!!」


言う事を聞かない身体に懇願しながら、ナイフを引き抜く。傷口から血が溢れ出た。


「ここで死んだらなんにもならない………なんにもならないんだ………」


這ってでも行かなければならないのは、リオをロザリアの二の舞にはさせたくないと思うから。



ただ、人並みの幸せが欲しかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ