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第九十九章 救え!主無き心

「ダージリン……」


トーマスとエメラの前にはだかったのは、かつての仲間だった。

呟いたトーマスを相変わらず虚ろに見つめる。だが、その姿に愛嬌は感じられなかった。

大きな翼、顔には入れ墨でもしたように黒い模様が浮かぶ。


「お前、ジルを殺そうとしたんだってな?」


「ジルは死んだ」


トーマスの言葉を否定するように言った。


「残念でした。ジルはまだ生きてるぜ」


「生きてる…………」


「ああ。重傷だけどな」


「おかしい…………なぜ?」


確かにとどめは刺したのだと、ダージリンは首を傾げる。


「それはこっちのセリフだ。なんでジルを殺そうとした?あんなに仲良くしてたじゃないか」


「それは記憶が欠けていたから」


「だとしてもだ!ジルを殺す理由なんてないだろ?」


ダージリンの様子がおかしい事は気付いていた。しっかりと受け答えが成り立っている。普通の人ならそれが当たり前なのだが、ダージリンとなると話は別。いつものボケる気配がない。


「理由はある……………ジルはアントワネット一族。だから殺す」


「アントワネット一族だから?」


「そう。アントワネット一族は、百年前、博士の研究が中止になる時に援助を申し出た。そして、被験者を集める為に世界中に手を回して若い少女をさらって来た。私も、メロウも、ガーネイアも、そしてエメラも。あの時、アントワネット一族さえ余計な事をしなければ、誰も傷つかずに済んだ。だからアントワネットの血を継ぐ者は全員殺す」


「ちょっと待てよ!だったらメビウスを怨むべきじゃないか!メビウスの研究の犠牲になったのに、どうしてメビウスに手を貸してるんだ!?」


「理由は単純。アントワネット一族は私の両親と姉を殺した。だからアントワネット一族を許せない」


「答えになってない!ちゃんと答えろ!ジルを殺すのなら、メビウスも殺すべき、怨むべき相手だろ!」


「博士は人類を滅亡させようとしている。私はそれに賛成なだけ」


「そんなの………!」


トーマスとダージリンのやり取りを聞いて、これ以上は無駄だとエメラは知る。


『無駄よ』


「エメラ?」


『ダージリンはアントワネット一族に深い怨みを持っていた。彼女にとってはアントワネット一族への復讐が生きる望みだったのよ。それが果たされた今、怨みは人へと向けられ、博士に加担する事で成し遂げようとしてるのよ』


「なんでわかるんだよ?」


『わかるわよ…………私だって同じ想いだったもの。トーマス(あなた)を好きになるまでは』


「エメラ………まさか思い出したのか……?」


『人は不幸が訪れると、まずは目の前の不幸を怨むわ。そして次に、そうなった原因を探る。止せばいいのに。ガーディアン・ガール(私達)の悲劇の背景には、戦争という時代があったから。世界中で戦争して、民すら戦争の道具として扱っていた時代。こんな世界、無くなってしまえばいいとみんなが思っていたのよ』


「じゃあ………お前も百年前の………」


逆恨みだと言えるわけがなかった。戦争さえ無ければ、メビウスがガーディアン・ガールを創造しなかったとは断言は出来ない。しかし、当時メビウスの餌食になった少女達は、時代の裏に引きずり落とされ何もかもを壊された。人生、身体、心。なぜ自分達だけが?そう思ったとしても不思議ではない。そうなれば矛先は戦争を始めた連中へ、最終的には人類そのものへ向けられても不思議ではなかっただろう。

今のトーマスには、エメラ達の気持ちがよくわかる。もし、エメラや真音達に出会わなければ………李がそうであったように、自分も怨んだだろう………この世の全てを。


『戦いましょう。ダージリンを百年の呪縛から解き放ってあげるのよ』


強い意志を持って挑む相手は、同じ悲劇を味わった少女。


「本気かよ………」


『彼女は手加減はしてくれない。やるしかないの』


エメラは泣いている。トーマスの意識の中で。さっきからずっと。


「また仲間を手にかけなきゃならないのか………」


避けられぬ戦いがトーマスを苦しめる。だが……


「いや、ダージリンは意地でも目を覚まさせる」


『トーマス!?』


「エメラ、お前には感謝してる。カッとなりやすい俺を、いつも冷静にコントロールしてくれる。だけどな、頭でわかってても心が着いて来ない事だってあるんだ」


『でも!』


「お前だって心ん中じゃ叫んでるはずだ。ダージリンを殺したくないって。エメラ、時には感情的になれよ。なっていいんだ!」


冷静でいなければならない。そう思うのは、取り乱し自分を見失って死んでいった少女達を見て来たから。そうなるまいと、冷めた感情を植え付けて来たのだ。


「エメラ!」


トーマスはエメラの言葉を待つ。


『私は…………』


トーマスの意識の中からダージリンを見る。悲しい過去を共に生き抜いて来た親友だ。殺し合う為に生き続けて来たわけじゃない。


『私はダージリンを殺したくない!もう……誰も死なせたくない!!』


抑えていた感情は溢れ出し、トーマスに伝わった。一滴の漏れもなく。


『お願いトーマス!ダージリンを……私の親友を助けてあげて!』


「よっしゃ!任せとけ!」


トーマスとエメラの熱い気持ちなど知るよしもなく、ダージリンは冷ややかに言った。


「深い怨みは………力になる」


歪んで行くダージリンの心を救うべく、厳しい戦いの道を選んだトーマスとエメラ。

二人の胸には、李とガーネイアを救ってやれなかった後悔がある。


「いいや、それは違うな。力になるのはいつだって信じる心だ!俺達がわからせてやる!」


あれこれ考える必要はない。真っ直ぐぶつかって行くだけ。


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