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第九十六章 応えを待つ因果

研究所内部はそれはもう完全なるSFのようだった。メビウスによる単なる演出か、それとも本来ここは何か機能に優れる建物なのか………以前訪れた時とは打って変わる雰囲気は、ここが天国と地獄の分かれ道であると告げている。


「なんつー趣味してやがるんだ………目がチカチカするぜ」


トーマスには、もう五百年くらい先の未来に来てる印象さえあった。


「それはいいけど、どこに向かったらいいんだ?前来た時と違い過ぎて迷っちゃうよ」


複雑な迷路を前に、真音は早くもお手上げ状態に陥りかけている。


「それがメビウスの思惑だろう」


「何の為にだよ」


オリオンマンの偉そうな口調にトーマスが噛み付く。

オリオンマンからすれば、思惑もなく派手に飾り立てるなど有り得ないとわかりきった事。むしろ、真音とトーマスの思慮浅い言葉がムカつく。


「メビウスは私達の力を知っている。レプリカ・ガールとて、その気になれば早々に片付けられる事も。それでも数で押したかったのは、少しでも研究所内部に侵入されるのを防ぐ為だろう。そして侵入した後も、気が滅入るような演出と複雑な迷路で自分の元に来るのを遅らせる為に」


「だ〜か〜ら〜、何の為にそんな必要があんだっつってんだよ!」


「時間稼ぎだ」


「あん?時間稼ぎ?」


オリオンマンには何よりも頼れる直感がある。言わば本能。本能が告げているのだ、メビウスが他にも何か企てていると。


「きっとメビウスは俺達と戦う事を目的としていない。そう言いたいんだね?」


真音にもオリオンマンの言いたい事がわかった。


「何を企んでんるかは知らないが、奴はこの戦いをゲームくらいにしか思ってない。一番厄介なタイプだ」


そう説明しながらも、オリオンマンはどの道を進むべきか模索していた。


「まとまって行動しても仕方ない。ここで別れよう」


一人、勝手に進んで行くオリオンマンを、


「ま、待てよ……………ったく勝手な野郎だ」


トーマスが嘆いた。


「どうする、トーマス?」


「フン、こうなったら俺達も二手に別れるしかないだろう」


「よし。なら俺はこっちだ」


山勘で真音は道を選ぶ。


「真音」


「ん?」


「絶対に死ぬな」


「トーマス…………うん。トーマスと『エメラ』も」


拳をコツンと合わせてそれぞれに再び走り出した。

お互いに、いつの間にか芽生えた絆。どんな時も、その絆が勇気をくれる。










冴子はモニターを介して、各国の国連大使らと緊急の会議をしていた。


「選定者達は既に人造人間研究所で戦ってます。彼らが戦ってる間しかチャンスがないんです!今すぐ決議して行動を開始しなければ!」


石田から受け取ったデータを、国連に提出………というより、同じように送信した。それを見れば、世界が現在どうなっているのか一目瞭然だ。裏も取れている。

大使らは三分ほど議論を交わすと、白髪の男性議長が代表で口を開く。


「確かに、これは世界の危機だ。だが、これだけ広範囲に渡っていては手の打ちようがない。部隊を派遣しようにも、こちらが動けば間違いなく三回目の世界大戦が起きてしまう。話合いで解決の道を探る事にした」


「そんな…………」


またか………そう思った。眠れる獅子がやっとの思いで健全な組織になれたばかりなのに、立ち直る手伝いをしてくれた国連が悪意はないにしろ、たいそうな平和ボケを噛ましてくれる。


「これから対象国に同時に交渉を行う。それまで眠れる獅子は待機だ」


「待機?世界の危機を前に何もなさらないんですか!?」


「何もしないわけではない!交渉に入ると言った………」


「いい加減にしなさいっ!!」


我慢の峠を越えた冴子はブチ切れてデスクを叩いた。

モニターの向こうでは大使らが驚き目を丸くしている。中には椅子から転げ落ちた者もいた。


「たった数人で世界を救う為に戦ってる者達がいるんです!命を賭けて!あなた達には使命感というものが無いんですか!?」


「お、落ち着きたまえ………」


「これが落ち着いてられますか!!『核』ですよ!?『核』!!見て下さい!白い光が……発射可能な核兵器がもう30!それでもまだ増えて………これが一斉に発射されたら世界大戦のレベルで済まないでしょーがっ!!」


段々とエンジンがかかって来て、部下を叱る上司へと変貌する。後先など考えてはなかった。クビ?構わない。地位や名誉などにしがみついて、陽を浴び続けられた者はいない。あの世まで持って行けないようなステータスなら、こちらから切って捨てるまで。


「それに、世界大戦はもう始まってるわ!交渉なんかで鎮火出来ない炎に包まれてるのがわからないの!?国際連合が聞いて呆れるわ!そもそも、この戦いの元凶はメビウス一人ではないでしょう!?アホな主導者達が妄信した結果じゃない!その尻拭いをしに戦ってる者達が………いるんですよ……………なんで………なんで関係の無い彼らが………命を賭けるのよ…………」


怒りは沸点を抜け、嘔咽に変わる。見苦しいかもしれない。いい歳の女が、モニターを介しているとは言え惜し気もなく泣いているのだ。

沈黙は続いた。冴子の必死の訴えを晒すように。


「…………奇襲しよう」


ふいに大使の一人が言った。

冴子はゆっくりモニターに目をやる。


「攻撃ポイントは対象国の首都。そこに的を絞る。対象国は五ケ国。短期決戦を望めばクリア出来ない課題ではない」


また誰かが言った。


「批難を浴びるぞ。一般人を巻き込むやり方では」


また一人。

今、たった数人が世界の行方を決めようとしている。『前向き』に。


「背に腹は代えられん。『あれ』が発射されても批難は浴びる事になる。どうせ批難を浴びるなら、人類の為に浴びようではないか」


次から次へと交わされる議論は、採択を議長に委ねられる。

すぐに応答はなかった。

一般人を巻き込まずに済む方法は無い。最悪の選択を最悪の場面で強いられる。

冴子は黙って言葉を待った。


「わかった。強攻に出よう」


「議長………」


「人類の為とは言え、無関係の人間を巻き込むのは心が痛む。だが、それでもやればならん。メビウスの気が選定者達にいってる間が勝負だ。時間が無い。すぐに採択を」


そう言うと議長が挙手する。

誰も迷わなかった。全員が手を挙げてくれた。


「決まりだな。すぐに部隊の派遣を加盟国へ要請する」


大使達は席を立ち解散する。


「議長…………」


冴子はまだ泣いていた。


「私達は責任者だ。責任は私達が負う」


議長は冴子と目が合うと、温かい笑みを見せた。


「あ………ありがとうございます」


決して喜ばしい結果にはならないだろう。

因果応報。人が得た悟りも、後の無い場面でしか理解されない。

人類は後何度、過ちを犯すのだろうか………。


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