第九十四章 ジーザス
嵐の前触れ。かろうじてヘリは地図にない島………人造人間研究所へ着いた。
真音とユキ、トーマスとエメラ、二ノ宮とリオ、そしてオリオンマンの七人は、再び踏んだ島の土が以前とは違う事に気付いた。
「乾いてない………」
真音は足を擦りつけて何度も確認する。
「っていうか、整備されてないか?」
トーマスも真音と同じ行動をとる。
アスファルトまではいってないが、かなりしっかりした感触だ。例えるなら、陸上競技場のトラックだ。
「あれ見て!」
ユキが叫び指差す。そこには無数のレプリカ・ガールがいる。
「何………あの数………」
エメラも絶句を余儀なくされる数。ざっと見積もって軽く千体はいるだろう。七人の眼前を塞いでいるのだから。
「ようこそ!我が牙城へ!」
レプリカ・ガールとの真ん中辺りに、ふわりと少年と少女が降り立つ。
「メビウスッ………!」
「ダージリン!!」
二ノ宮は少年を、真音は少女の名を呼んだ。
「あれがメビウス………」
トーマスは息を呑んだ。漂う不気味な空気。気を抜けば負ける。
「貴様がメロウを殺した犯人か!」
オリオンマンは怒りを沸騰させる。復讐すべき相手に自制心が効かない。
「やあ、オリオンマン。君が来たところを見ると、どうやらヒヒイロノカネを取り入れたみたいだねぇ」
「黙れッ!なぜメロウを殺した!!」
「フフ。それはねぇ、彼女が僕の正体を知っている可能性があったからだよ。まあ、結局は顔までは覚えていなかったようだけど。それでも記憶はほとんど残っていた。どっちにしても生かしておくわけにはいかなかったんだよ」
メロウを殺した事など、片隅にも置いてないような言い草だった。
突進しようとしたオリオンマンを二ノ宮が止め、リオが前に出た。
「お久しぶりです、博士」
「久しぶり、Type−Ω(オメガ)」
悪戯に笑ったメビウス。その言葉に、真音達が反応する。
「Type………Ω(オメガ)?」
エメラが呟く。
「そのシリアルはロザリアのはずじゃ………」
ユキも納得出来てない。
確かType−Ω(オメガ)はロザリアだったはず。真音もユキもトーマスも周知の事実。それに、二ノ宮はリオを『Type−ζ(ゼータ)』と紹介していた。なのに、メビウスはリオをType−Ω(オメガ)と呼んだ。
だが、リオも二ノ宮も説明する気はないらしい。注視を受けるリオは、それすらどこか誇らしげにしている。
「君だけは手が出せなかったよ。もっとも、僕に隠れてなにやら工作をしてる時に殺しておけば、こんなにも苦労はしなかったんだろうけど」
「興味が勝った………そんなところでしょうか。私がやる事を最後まで観察したかった。そのおかげで私は人造人間研究所から逃げられたんですが」
リオも負けじと微笑み返す。
「フッ。引導は渡すよ。僕には叶えたい夢があるからね」
相変わらずキャップとサングラスはしたままで素顔はわからない。知ってるのはリオと二ノ宮だけだ。
「愚かな夢を見る辺りは、お前も所詮は人だという事だ……メビウス」
そう言って、二ノ宮がリオの横まで行く。
「人として生まれはしたけど、僕は君達とは違う」
「どう違うってんだ。変わんねーよ。人として生まれた者は、決して人の領域を出る事は敵わん。それを思い知るいい機会だ」
「言うねぇ………まるで教祖様だ」
皮肉った風に見えたが、明らかにメビウスは不快感を見せた。
「まあいいさ。数時間もすれば結果は出るだろうし。あ、地面も研究所内部もちゃんと整備したんだ、出来る事なら一日くらいはもってもらいたいね」
メビウスとダージリンがふわりと浮遊し、
「待ってるよ。哀れな人類の代表者達」
姿を消した。
「整備しただあ?バカにしやがって!」
トーマスがブチ切れる。
「真音、トーマス、ディボルトしろ」
二ノ宮が言うと、二人は頷いてユキとエメラに視線で合図する。
リオも二ノ宮に合図されて小さく頷く。
特に変身の掛け声があるわけではないし、派手なコスチュームを纏うわけでもないが、自分の意識の中にガーディアン・ガールが入って来ると、やはり気が引き締まる。
「準備は出来たのか?」
オリオンマンはすぐにでもメビウスを倒したいようだ。苛立つように三人を急かす。
「行きましょう、時間が勿体ない」
真音も戦闘準備は整った。
「よっしゃっ!メビウスの野郎をぶっ殺してやろうぜ!」
トーマスも意気揚々だ。
「泣いても笑ってもこれが最後だ。誰でもいい、メビウスを倒してマスターブレーンを破壊するんだ!」
「「「おうっ!!」」」
二ノ宮が叫ぶと真音達が同意の声を上げた。意識の中ではユキ達ガーディアンも。
そして真音達は走る。レプリカ・ガールの海へ。