NO MUSIC NO LIFE!
とある世界のとある国のとある学校にて。
私、旧姓モブ山モブ子ことモブリン・モブリアス17才。
国立第一学院高等部魔術部魔道具科の2年生です。
この国では日本の小学校が義務教育
中学校が専門課程
高校以上は大学、大学院なエリート扱い。
大学卒業にあたる22は立派な行き遅れです。
貴族は10代、平民でも20代前半で結婚出来なければ行き遅れの時代錯誤な時代ですが平均寿命が日本の戦国時代よろしく50代なので致し方ない。
なので中には産休取りながらだったり自宅で中継でリアルタイムで講義を受ける通信なんかもあります。
その昔エライ大賢者が平民出身の遅咲きだったため、
どこに優秀なものが埋もれているかわからないから
という理由で全ての者に、奴隷にすらしっかりと教育を施す義務教育が制度として作られました。
たぶん私と同じく前世の記憶持ちの方だったんだろうと思います。
そして魔術、魔法の素養のある者は寿命が80代と日本人に近いところにまで延びる上健康で女は40近くまで子を産めるということがわかってるので、魔術の素養のある女性はしっかり勉強して魔力を増やし強い魔力を持つ跡取りを産むことを期待して、優秀な魔女ならば30までに結婚してくれればいいよ~みたいな風潮があります。
まあ、優秀な魔女を獲得すべく早いうちから婚約という形で囲いこみ、子作りは後回しにして結婚だけ先にさせるというのが最近増えていますが。
どういうわけかわかりませんが、この世界での魔力持ちはあまり産まれに作用されません。
王族でも魔力持ちではないこともありますし、平民通り越して奴隷でも時折とんでもない魔力を持って生まれる子がいます。
両親ともに魔導師、魔術師の場合は子に受け継がれやすいですが、魔力持ち同士は代を重ねる毎に子が生まれにくく、近親婚の繰り返しにより体の弱い子やなんらかの障害を持って生まれる確率が高いことが研究により立証されているため
大貴族家や王族などは意識して平民生まれの健康で多産な家系の突然変異の魔導師を養子に迎え入れたりしています。
青田買いなんてしょっちゅうです。
この場合「平民のくせに!」なことも起こりません。
なぜなら魔力持ちはその時点で貴族になるからです。
全ての魔力持ちは全て貴族です。
なので両親は平民だけど子供だけ貴族、なんてことはよくあります。
奴隷の場合は子が魔力持ちとわかった時点でその両親と兄弟姉妹まで解放奴隷となり平民になります。
そして専門課程である中学校までは実家で養育します。
昔、これまたどっかの研究者が、両親の愛情を注がれてすくすく育った魔導師と不仲な代々魔術師家系の貴族の魔導師とを比べて、愛情を受けて育った方が成長期に魔力量がたくさん増える傾向にあると結論付けたからです。
そんなわけで、現在の主流は恋愛結婚。
貴族家でもいつでも白紙に戻せる仮の婚約。
母親と父親が子育てに参加するのは当たり前!な現代、いい時代に生まれたものです。
そう思ってました。一年前までは。
「やあ、モブリン。待たせてしまったね。」
「別に待っていませんが。」
爽やかにシャンプーや歯磨き粉のCMに出れそうな笑顔で勝手に隣の席に座ってくるのはこの国の第三王子のナルシー殿下。
第三王子という本来なら気楽な立場ですが第一王子が魔力無し、第二王子は魔力持ちだけど側室の子とあって王太子最有力と黙されているからかだいぶチヤホヤされて育ったようです。
それでもお勉強は出来るはずだったんですけどね?
「モブリンは本当に美味しそうに食べるよね。」
「たった今不味くなりました。」
「何、今すぐ料理長に文句を「あんたと一緒に食べてるからだよ。」つまり私に見惚れて味がわからなくなったと?なかなか言うではないか。」
遠回しに言ってもダメで分かりやすく伝え続けた結果、不敬罪まったなしな言い方になっても素晴らしき前向き過ぎる勘違いナルシー野郎には通じず日々困ってます。
他にも側近のグリードくんやエンヴィくんにラストの色ボケ野郎なんかも居ます。
名は体を表すと言いますが、前世での英語や神話の名前が今世でのことにここまで影響出るとは思いませんでした。
いつになるかわからないけど将来自分の子には古式ゆかしい真面目そうな名前を付けてあげようと思います。
「ふふ、見て。みんなキミのことを羨んでるよ。僕達と一緒に食べたいなら言えばいいのに。」
このバカ様達は自意識過剰なようで周りの視線が嫉妬だと信じて疑っていません。
たしかに最初はそうでしたが今では大部分が「あいつらまたやってる」であり、私に対しては「頑張れ、生け贄」という同情の混じった視線が大半です。
このバカ様達は自意識過剰過ぎて、仮の婚約者達は自分達の家柄目当てと信じて疑わず、いつでも白紙に戻せるのに婚約破棄すると息巻いています。
子育てをどう間違えてしまったのかと泣きながら侘びてくるバカ様達の御両親に免じてスルーして下さってるだけで、実際は既に白紙撤回され御令嬢方は新しい恋を探したり暫くは研究に生きると勉学に励んでいたりされています。
最初は嫉妬でなんやかやありましたが、
ナルシー殿下のナルシスト全開な発言や
グリード侯爵子息の俺様誰様THE俺様発言
エンヴィくんの理不尽過ぎる理不尽事件に
色ボケラストの10股発覚事件等
要するに100年の恋も醒める色々な騒動を経て御令嬢方とは和解、現在では多大なる同情をいただいております。
他の生徒でこれ幸いと後釜を狙ってる方々はまだ一定数いるようでそちらの風当たりは強いですが、正直いつでも代わってやると常々叫んでおりますのですが中々申し出てくれる方がおりませんし申し出ても3日でギブアップされる方ばかりです。
まあ、そうですよね。
いつもいつも鏡で自分を見つめ実技の授業ではいかに美しく魔法を放つかに終始し、
「キミの瞳に映る私が一番美しい」
と私の眼球に映る自分を見続けるために椅子に縛り付ける。
エンヴィに至っては「僕ばっかり君を好きで不公平だ」と言いながらいちゃもん付けては私物を全て奪っていきます。
毎日着てる制服に嫉妬して切り刻んで返してきてくれやがり、仕方なく新しい制服に着替えたら「せっかく僕が切り刻んであげた制服を着ないってどういうこと?!」と癇癪起こして室内で爆炎魔法を放ち、
渋々切り刻まれた制服で羞恥心に堪えながら行けば誰にやられたのとか叫ぶやつもいるし、
色ボケラストに至ってはそのまま連れ込んでコトに及ぼうとすること数十回。
切り刻まれた制服の時は「どうせ捨てるんだしいいよね」とそのまま切り裂いてしまいあっちゅうまに裸にされてしまい、股間に爆発魔法を放つことでなんとかギリ未遂ですんだがPTSDを発症し暫くは外を歩けなかった。
私に前世での日本人としての恋愛経験がなかったら色々終わってたぞ。
平民出身の者の多くは田舎や下町生まれの者が多いため純潔はそれほど重視されてはいないが、合意なしに無理矢理ということでさすがに感化できないと学園から正式に抗議をしてもらえた。
もういやだ。
そもそも好きでもない目の保養にもならない顔面のやつらのためになんでこんな目に…
前世純日本人でアイドルとかに興味なかった私にはナルシー達の「(性格はともかく)顔だけは国宝クラス」の顔に魅力を感じれない。
だって典型的なアジア顔だったり白人顔なんだもん。
私は醤油顔が好きなんじゃい!
日本人持ってこい!
侍な日本男児連れてこい!
つーかそもそも顔には興味ないんだよ!
無理ならせめてジェントルマンな騎士道精神溢れる紳士を連れてこい(泣)
そんな私、モブリンがそれでもなんとか頑張れているのは夢のため。
私、前世での名はモブ山モブ子
今世ではモブリンは、音楽が好きだ。
過去の転生者の皆様が頑張ったおかげで住みやすいし国民もそれなりに豊かな暮らしが出来ている。
しかし足りない。
娯楽が足りない。
この世界での音楽はやはりクラシック系が主体だ。
こんなにも魔道具が溢れているのに。
冷蔵庫も風呂もスイッチ式の電灯も各ご家庭に普及しているのに。
なぜ音楽や演劇等はこんなにも古典的なのだ?
きっと過去の転生者の皆様がその分野にそこまで興味を持たなかったか、そこまで行く前に寿命が来てしまったのだろう。
一般のご家庭にまで娯楽として音楽を普及させるには、やはり蓄音機とか、レコードとか、エレキギターとかキーボードとか、
つまり電気を使った楽器を発明し普及させねばならないのだ。
電気は魔道具でどうにか出来るとして、やはり各ご家庭に普及しるには、もっと広く大衆に好まれるものとして広めねばならない。
これは時間が掛かることだ。
義務教育を既に広めて下さった方に感謝だ。
ある程度の教養と豊かさがなければ音楽など聞くだけの余裕はないだろう。
私の最終目標はロック、それもヘビメタだ。
そう、モブ山モブ子はライブハウスに通い最前列でヘドバンし、モッシュダイブするメタラーであった。
自分でも楽器を嗜んでいた。
一生ものの事業になるだろう。
マイクみたいなものはあるし緊急連絡用に王都からの連絡用にラジオの受信施設みたいなものも各村にはある。
魔道具技師として改良し、まずはラジオから作ろう。
なんとか自分が死ぬまでにはロックをこの世に誕生させたいと思ってたが、出来る限り早急に色々作らなくては。
そう思っていた。
鬱陶しいバカ様達を撒いて昼休みの校舎裏に向かう。
いつも、ここでギターを爪弾く先輩がいる。
大学で魔道具専攻のロック先輩。
彼が奏でる音を聞いた時、私の中で稲妻が走った。
この音を、この曲を私は知っている!
前世で私が愛した憧れのロックスター
憧れのギタリスト
あの方だ、間違いない!
あの弾くときの癖、早弾き、コーラスの微妙な歌唱力
彼の作った曲に彼の書いた歌詞
私は涙した。
そして誓った。
必ず、必ず彼のギターを、彼の曲をステージで聞くのだと!
いつかなんて言ってられない、出来うる限り早急に実現しなければ。
だから、だから私は心のそこからウザいと思っててもナルシー殿下の側にいる。権力者になれば改革は早く出来る。
産業改革を推し進め全ご家庭にテレビとラジオを置きロックを誕生させるのだ!
でも、心が挫けそうだから
このこっそりギターをぬすみ聞く時間は暫くやめられそうにもないです…
今日も聞きに来てる。
前世での自分のファンだった女の子。
自分の曲を聞いてる時の顔はまさしくファンの顔だ。
コピーバンドをやってて動画サイトにupされてる映像の中に彼女らしき姿を見た覚えもある。
女性でコピーバンドをやってるのは珍しいからね。
自分のバンドの曲を口ずさんでいるところに遭遇した時は耳を疑った。
いつか絶対この世界にロックを、ヘビメタを!
と拳をあげてる姿を見て、この世界でのビートルズに、エルビス・プレスリーになってやろうと再びギターを手に取った。
色々な機材を一から作るのは大変だが、この世に一人でもファンがいると思えばやる気も出るし。
前世で作った曲を忘れないために気分転換を兼ねてギターを弾いているとこっそりと聞きに来てるあの子に気付いた。
もっと堂々と聞きにくればいいのに。
いつ、どんな曲をリクエストされてもいいように日々練習しているからね。
歌は…正直ボーカルが上手すぎて自分の歌唱力はあれだけど、彼女に歌ってもらのもありだ。
いつから記憶があるの?
どの曲が好きなの?
俺のギターの、俺の曲のどんなところが好きなの?
聞きたいことが、話したいことが沢山あるんだ。
実はロック先輩が魔力無しの第一王子だったり、そのうち別の転生者がヒロインぶってナルシー達に近付いてきたり、これ幸いと押し付けて魔道具作りに専念したり、
なんだかんだで30才でなんとかロックミュージックをこの世界で誕生させることが出来るかもしれない話。