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七つの創作神話による習作  作者: 竹中芳視
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 さて我々人がいかに化生せしめたかということは誰しもに共通する関心事に違いありませんが、まず人が発生する前に世界には自由に生命を創造することの能う何ものかが現れたのであります。便宜的にそれに名をつけるのでしたら、「女神」とでも呼ぶのが相応しくありましょう。とはいえ既に世界には既に数多の動植物がございましたので、寧ろ女神は人という生物一種を生み出すために現れたと申し上げても過言ではないかもしれません。

 ともあれ女神はまだ世界が十分に固まります前の混沌の裡より現れまして、じっと相応しい時が訪れるのをお待ちになられました。やがて静置されました原初の天地が比重の違いにより分たれますと、ようやく女神は地上に人をお作りになろうと思し召されました。そこでまず桶の中に黄土の泥を流されますと、おん手頭からお結いになった縄の端をお持ちになって泥水にお浸しになり、お引き揚げになられたそれをくるくるとお振りになられました。びしびしと世界中へ飛び散った飛沫しぶきは全て人と化し、蠢きさざめくようになりました。

 しかしそれにつけましても、未だ世界は混沌の最中でありました。天地は依然として数多の破綻を孕み、大地はところどころが割れて割け、天空は大きく綻びておりました。大地の割目から炎が噴き出せば、天空の綻びからは水が流れ落ち、せっかく女神のお作りになった人々は猛獣に襲われ、或いは猛禽に攫われるありさまでございました。

 そこで女神は秩序を整えようとお思いになり、世界の破綻をお繕いなさろうとなさいました。まず大海の上で惰眠を貪り浮遊する大亀をお掴みになるとその脚をお裁ちになって大地を支える柱となされ、次に水際に鬱陶しいほど生い茂る葦が焼けてできた灰をお集めになると川を堰き止められ洪水をお止めになりました。これによって炎と水の害を防ぎあたうるようになりましたが、それでも天地を迸る巨きな亀裂そのままに、世界には混沌が蔓延り、禽獣などはおしなべて混沌の手下でありました。これも凡て天地の理が未整であることによるもので、不十分な世界に十分な秩序が伴わないということはまさしく道理でございましょう。

 そこで女神は遂に五色の石をみ手にお取りになり、それを以て天地の亀裂に一つずつ埋め込んでゆかれることになさいました。女神のほそいみ爪よりもまだ小さな小石で天地をお繕いになることはたいそう難儀でございましたが、お厭いになる気色もなく、女神はただひたむきに秩序を取り戻さんとなさいました。

 ところが愈最後の一つというところで、女神がお油断召されたということもなかりましょうが、その小石がみ指の先を転がり落ちたのでございます。「あ」とお声を上げる間もなく、小石は地上を覆う人々の群れに紛れてしまいました。み爪の先よりまだ小さな石が無数の土の飛沫に紛れては余りに見分け難いとお思いになられ、女神もまた女人の姿をお取りになり地上へまかり越されたのでございます。

 さて、ひとたび女神のみ手を離れた石は、微かな軌跡を描きつつ、今尚地上を転がり続けているとのことでございます。女神はその石をお求めになり、恐らく今も幾度となくお姿をお改めになりながら追われているのでございましょう。

 なぜなら女神がその最後の欠片をお拾い上げになられるそのときまで、凡そ天地の秩序は綻び続けたままなのでございますゆえに。

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