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七つの創作神話による習作  作者: 竹中芳視
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 まことに異なることではございますが、世界ははじめのそのときからあらゆる動物を備えていたとされつつ、つはただ一つ人だけを持たなかったのであります。それでは如何にして我々人が生じ得たかと疑問を抱きますのは道理でありますが、今それにつきましてはひとまずふでを措くことに致します。

 とまれ人間が生じます前の世界に於きまして、恰も今日の我々の如き身形をしたものと致しまして、一人の巨人が世を闊歩しておりました。まこと山の如き巨人ではございますれどもその心根は幼な児のようにあどけなく、玩れに大地を捏ねては山川をかたちづくり、葡萄の木を根こそぎ引き抜いては弓矢を作り、日月が昇るたびに射落として遊んでおりました。日と月が中空へ上がってもそこで留まりもせずするすると降りてゆくのは、いつも落とされ続けることに辟易としたがゆえの習慣に違いありません。

 身体が巨きいぶんだけ巨人は成長もゆるゆるとしたものでしたが、やはり生物である以上年を経るものであります。ふとあるとき巨人は己が胸中にもやもやと何か湧き上がるのを覚えました。その云われを求め周囲を眺め回したところ、なるほど己以外の全てのものは数多くの仲間と暮らしておりますのに、ただ巨人だけが大地を玩びながら只一人でそこにあったのでございます。通りすがりの鴉にその由を訊ねましたところ、「我々は皆伴侶を得て数を増やすべく繁殖しているのです」との答えを得ることができました。なるほど同族が数を増やさないのは己に伴侶がいないためと得心し、巨人は伴侶を求めることに致しました。

 しかし巨人にとってそれは容易いことではありませんでした。何しろただでさえ巨きな巨人は年頃を迎えるに当って更に成長し今や世界の凡てを半時足らずで廻り尽せるほどでありましたし、余りに巨きすぎて身を隠せるものすらありませなんだから、これほどに大きな生物が世界のどこかにあるならば直に見つからなければ可笑しいのです。にも係わらず見つからないとなると、いよいよ難儀なことには違いありません。巨人は世界を何度もぐるぐると廻り、それでも伴侶を得かねて悄然としながら岬の岩に腰を下ろしたのでした。

 「わたしにとって世界は余りに小さい」と巨人が落とした歎息を聞きつけたのは、小さな魚でありました。ぴしりぴしりと銀の尾で波を撃ち、魚が巨人に言いますには「それは貴方の見識が狭いだけのこと。海中には未だ貴方のご存知でない巨きな世界がございます」と。愕く巨人を促し乍ら魚は鱗を翻して海中へ姿を消しました。慌てて巨人はその後を追いました。

 はたして巨人が海中にて伴侶をう得たか定かではありませんが、未だ巨人が地上へ戻らぬところを見ますと、なるほど魚の云うように海中が極めて巨きな世界であったことは偽りとも思えますまい。

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