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作品集 ~望世録~

私は今、窮地に立っている

作者: 未知空


 私は今、窮地に立っている。


 目の前には、私の何倍もの大きさの猫。その猫に部屋の隅へと追い詰められているのだ。都合のいい抜け道は無く、逃げるためには正面しかない。

 しかし、と思う。この手元にある戦利品だけは死守しなければならないと。この戦利品はどうにか見つからずに忍び込み、やっとのことで手に入れたもの。これのために此処へ来たのだ。これが手に入らなければ、骨折り損のくたびれ儲けだ。

 もっとも、目の前の猫から逃げ延びなければ苦労すら手に入らなくなるのだが。


 しかし、どうやって逃げ出そうか。どうやってと言っても、右側の壁沿いに走るか、左側の壁沿いに走るかしか無いのだが。どちらを選んでも、戦利品が落ちないようにしっかりと口で咥えなければならない。そんな状態で猫から逃げられるとは思えない。

 早速、先ほどまでの決意が揺らぎはじめた。戦利品は捨てて、今はとにかく逃げるべきかもしれない。そんな思いが代わりに心の中を占め始める。

 やはり、今回は命優先でいこう。命あってのものぐさだ。


 今度はもっと緻密に計画を立てよう。こんな猫に邪魔されない計画を。そのためにも今は逃げよう。戦略的撤退だ。

 そうと決まれば、次は何処へ逃げるか決めなくては。選択肢は二つだ。右側の壁沿いに走るか、左側の壁沿いに走るか。右側の壁沿いに進めば隠れ家はすぐそこだ、しかし猫は右寄りに距離を詰めてきている。ならばと、少し空間の空いている左側の壁沿いはどうかと言えば、こちらは単純に隠れ家から遠のいてしまう。遠回りをしたら、猫にやられてしまうかもしれない。

 どちらも、良いとは言えない。


 だが、選択肢はこの二つしかない。

 ここは、右側の壁沿いに走る方が良いだろう。その方がチャンスがある。猫の一撃を躱せれば、隠れ家まで追いつかれない自信もある。

 スタートダッシュが肝心だ。猫の前を一瞬で走り抜けられれば危険もない。そうなると、猫がもっと近くに寄ってくれた方が安全かもしれない。猫の爪が振り下ろされる前に猫の前を通り過ぎることが出来る。


 猫はまだ動かずにこちらの様子を見ている。猫も分かっているのだろう、下手に攻撃をすれば私に逃げられるということを。

 だから私は、注意深く私を見ている猫にむかってケッケッケ、と笑ってやるのだ。そうすれば猫は怒って少しずつ私に近づいてくる。現に、猫は今もジリジリと近づいてきている。

 もう少し、もう少し猫が近づいてきたら走り出そう。


 今だ! 私は近づいてきた猫の前を通り過ぎた。猫が腕を振り上げたときには、もうそこに私はいない。もう隠れ家は目の前だ。隠れ家に入りさえすれば、私の安全は保証される。

 後ろから猫の鳴き声が聞こえる。後ろを振り向けないから、正確には分からないが、怒り心頭に違いない。部屋の隅まで追い詰めた私に逃げられたのだから。


 そうして、私は隠れ家に辿り着き、猫に邪魔されない計画を考え始めた。













 とある家の、とある一室、その隅に齧られた小さなチーズが落ちていた。



私の正体は……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 擬人化も面白いですね~ まさか食べ物とは(笑)最初ネズミ辺りかと思ってましたので。テンポも良かったです。
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