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第九十八話 真夜中の柵作り



「なんか地味っすね、これ。飽きてきたっすよ」

「じゃあ吾輩先輩がいる場所まで、どっちが先に杭を立てられるか競争しますか?」

「良いっすね。乗ったっす!」


 早速、良いようにあしらわれるニーナの姿を見ながら、ふと疑問が浮かんだ。

 タイタスの場合は空腹。

 ロクちゃん倒したがり。

 ニーナは負けず嫌い。


 吾輩は…………、吾輩は消えたくないか。


 仲間の骨たちは、各々が分かりやすい欲求を抱えている。

 だが五十三番に関しては、それがよく見えてこない。

 あえて言うなら、少しばかり他の骨に拘ってるあたりか。


 今度、時間が出来たら、じっくりと聞いてみたいものだ。

 

 二体の骨は前後で交差させた木の杭の柵を、せっせと作ってくれていた。

 手前の杭を五十三番が、後ろ側の杭をニーナが、それぞれ地面に打ち込んでいくが、やや背の高い骨のほうがリードしているようだ。

 木杭の長さは優に平均な骨の身長を越えているので、体格と力の差が出るのは仕方ないか。


「はい、終わったっす! 俺っちの勝ちっすね」

「くっ、残念です。ニーナさん、凄いですね」

「ふふふ、敗者は勝者をもっと褒め称えるっすよ」


 盛り上がる二体を見ながら、吾輩はそっと後ろ向きに歩き出した。

 同時に杖で地面をなぞりながら、固い土をほぐしていく。


 そしてそれなりの距離が開いたところで、五十三番がわざとらしく声を上げた。


「じゃあ、次は負けませんよ。もう一勝負、受けて下さい」 

「了解っす。次も俺っちが勝つっすけど。ほら、次の杭をさっさと持ってくるっすよ」


 下僕骨に命じて新たな杭を運ばせたニーナは、無駄のない動きで次々に杭を斜めに差し込んでいく。

 負けじと五十三番もそれに続く。


 程よい感じで勝負は続き、夜半過ぎにはそれなりの長さの柵が出来上がっていた。

 この調子なら、一週間もあれば完成しそうだな。


「よし、今日はここまでにしておこう。二体ともご苦労様」

「ふふーん、ほぼ俺っちの圧勝でしたね。ま、こんなもんっす。何なら、もっと勝負してやっても良いっすよ」

「いや、もう今日は時間がない。また明日の夜に頼む」

「ええー、骨には昼も夜も関係ないっすよ」

「仕方ないですよ、ニーナさん。僕らには関係ないですけど、人間には関係ありますからね」


 五十三番の指摘の通りである。

 わざわざこんな夜半に作業をしているのは、村の住民たちに配慮してのことだった。

 

 吾輩たちと違って、人間たちには休息が必要だからな。

 だから大きな音を立てる森の開拓は、あえて昼間に行っていたのだ。

 もちろん村人たちに、骨の力を見せつけるという意味合いもあったが。


 そして村人が寝静まった夜は、地味な柵作りを行うと。

 二体に手伝って貰ったのも、下僕骨たちにやらせるよりも静かで正確、なおかつ速いという利点があってのことだ。


 さらに理由は他にもある。


「吾輩先輩は、まだ戻らないんですか?」

「うむ、地均しをして、地面をしっかり固めておかんとな」

「そうですか。かなり力を入れてますね」

「俺っち不思議に思ったっすけど、ここまで大袈裟な柵を作る必要ってあるっすか?」

「そう言えば村の周りの柵って、かなり低かったですね」


 まずは五十三番の疑問に答えていく。


「村の周りの柵は獣用だからな。あれ以上、頑丈にしても意味はないんだそうだ」


 基本的に森側にあった柵は、野犬やトカゲ対策なのであの高さでも十分らしい。

 群れると危険な灰色狼たちは、こんな南の方までは下りてこない。

 さらに厄介な剣歯猫も、実は開けた土地には出てこない習性があるそうだ。


 あと面倒なのは一角猪くらいであるが、川を渡ってまで餌を探しに来るのはよほどの時だけで、この十年で三回ほどしかなかったと聞いた。

 滅多に来ない上に、並大抵の柵ではあの猪を止めるのは不可能である。

 だから最初から諦めて、胸元しかない薄い柵にしているのだと村長が言っていた。


「それなら余計に、この柵を何のために作ってるか分かんないっす」 

「そりゃこっちは、人間用だからな」

「……来ると思いますか?」

「盗賊如きにも、あっさり情報が流れているくらいだしな。警戒しすぎるというのは、悪いことではないだろう」


 現在、吾輩たち骨を、村人たちに何とか受け入れさせることは出来た。

 だが村の外側から訪れる人間どもには、そうもいかない。

 特に男爵の雇っている街道橋の衛兵に見つかると、かなり深刻な事態になるのは間違いないと思える。 


 こうやって真夜中に作業をしているのも、無駄に目撃されるのを避ける為という、もう一つの理由からである。

 一応、カラスのムーやフーも、周囲を飛び回って見張ってくれているしな。


 しかし村に関わっていく限り、いつかは吾輩の存在はバレることだろう。

 そうなると当然、大人数の敵対集団がやってくることも予想がつく。

 この大仰な柵はその日のための備えであると同時に、村人たちの覚悟を促すものであった。

 

 深く関わってる以上、安易に裏切られては敵わんからな。

 

「なるほどっす。この柵は村人を閉じ込める意味もあるっすね」

「これからも何かしら金が入ってくる以上、先日のような争いが起こる可能性は高いからな。今、怖気づいて余計なことをされるのは避けたい」

「でも、これだけ大っぴらに骨が群れていたら、結構すぐにバレる気がしますが」

「うむ。その件だが、すでに手を打ってある。あとは……」


 そこで吾輩は、灯りの全くない村へと振り返った。

 …………頼んだぞ、鍛冶屋。



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