第九十六話 性能比較
「おお、眩しいっす! うわ、音が見えるっす! それとこの部屋、かなり臭いっす! なんか色々と凄いっすね!!」
黒棺様の説明をざっくりと済ませ、能力の共有範囲内にニーナを連れて行くと、この騒ぎっぷりである。
強引に手で顎を閉じさせても、気にする素振りもなくガチガチと喋り続けている。
もしかして吾輩よりも力が強いのか?
「はい、吾輩先輩、予備の体をどうぞ」
「ああ、助かる。本当に五十三番は頼りになるな。……余計なことをする、どこかの骨たちとは違ってな」
じろりと床に正座中の骨どもを睨んでみる。
「ハッハ、グリンブルが意外とやんちゃでな」
「倒す!」
「ギャオス!」
おい、猪に勝手に呼びにくい名前をつけるな。
反省をさせるために、正座させてみたのだが全く堪えてないようだ。
ほぼあぐらに近い状態まで足を崩したタイタスの膝の上に、器用にバランスを取りながら足を折りたたんだロクちゃんが乗っかっている。
さっきからその膝の上に、羽耳族の子供がよじ登ろうとしては地面にコロンコロンと転がっていた。
「楽しそうっす! 俺っちも膝の上に乗って良いっすか?」
「もう体の方は、自在に動かせるの……えっ」
何で少し見上げる感じになる?
吾輩たちはタイタスを除けば、全員同じ大きさの筈だぞ。
「身体があるってめっちゃ新鮮っすね。それじゃお邪魔するっす!」
「倒す!」
「おいおい、でかい奴が急に入ってくるなよ」
今、でかいって言ったな。
吾輩の勘違いじゃないのか。
「ちょっと全員、そこに並べ!」
「急にどうしたんですが? 吾輩先輩」
「良いから整列だ。ほら早く」
う、やっぱり背の高さが違うぞ。
吾輩を平均的な基準とすれば、タイタスは頭二つ以上、ニーナは頭一つ分くらい大きい。
逆にロクちゃんは明らかに頭一つ分ほど小さい。
唯一、五十三番だけが吾輩と同じ背丈であった。
「これは一体、どういう理由だ?」
「えっ、気付いてなかったんですか? かなり前から違ってましたよ」
なん……だと…………?
吾輩、全然認識してなかったぞ。
他骨の外見なぞ、全て同じものだと思いこんでいたしな。
いや、ここは逆の発想をすべきだろう。
この場合は気付けない吾輩が鈍いのではない。
むしろ気付いた五十三番が凄いのだ。うむ、骨偏執狂の称号を授けておこう。
しかしそうなると、これはそれぞれの個性に合わせて、素体の骨部分が伸び縮みしているという解釈で良いのか?
そもそも変革者ごとに出来る出来ない能力や技能があった時点で、この可能性に気づいておくべきだったな。
より一点に性能が特化していくと、形質が変化してしまうのも当たり前のことか。
「よし、今更だが、各自の性能を調査しておくか」
「倒す!」
「面白そうっすね! 俺っち、誰にも負けないっすよ」
「また面倒なこと言い出しやがったな。ま、腹も空いてないし、ちょっとだけならな」
「良いですけど、どうやって調べます?」
「まずは自己申告でって、あ、ロクちゃんには無理か」
仕方がないのでロクちゃんだけ片足立ちさせたり、頭の天辺や耳の辺りを塞ぎながら試していく。
結果、様々な違いが浮かんできた。
まず能力であるが、基本の感覚系は全骨共通であった。
末端再生、危険伝播、平衡制御も全骨あるようだ。
変化が出てきたのは、生成系からである。
麻痺毒を作れるのは吾輩とロクちゃんと五十三番、角骨は吾輩とニーナとタイタスに別れる。
さらに精霊眼と火と土の精霊契約に関しては、吾輩だけであった。
賭運と集団統制に関しては、はっきりあるなしが言い切りにくいので保留。
肉体頑強や腕力増強らへんは皆にあるようだが、そこにも差異が出てきた。
腕相撲対決の勝敗順が、タイタス、ニーナ、僅差で五十三番、ロクちゃんに指三本で負けた吾輩となったのだ。
吾輩が一番非力だったのか……。
かけっこ競争の順位は、ロクちゃん、五十三番とニーナが同率、タイタス、圧倒的どべは吾輩だった。
吾輩が一番鈍臭かったのか……。
「…………皆の動きが凄く速かったり、力が強いなとは薄々感じてはいたんだが」
「げ、元気だして下さい、吾輩先輩」
「倒す!」
「その精霊なんとかって何すか? 俺っちもそれ使ってみたいっす! めっちゃ羨ましいっす!」
「まあ何だ。吾輩さんには、他に色々と良いところが一杯あるじゃねぇか。すぐには思いつかんが」
ふむ、皆が慰めてくれているっぽいのは、辛うじて分かるな。
気を取り直して次へ行こう。
「さて技能のほうだが、武器で分けたほうが分かりやすいか」
ロクちゃんは短剣メインであるが、片手系は全て大丈夫なようだ。
それと回避系や忍び足なんかは、明らかに精度が違う感じである。
五十三番は弓術、射撃と遠隔武器専用のようだ。
だが武器投擲系も、一通り使いこなせると。
それと罠感知と罠設置も行けますと、本骨から申告があった。
吾輩は初級レベルなら、全ての武器は一応使える感覚はある。
だが得意武器と訊かれると、どれもしっくり来ないとしか。
その代わり、精霊術は二種類とも使えるな。
あと動物調教も行けるか。
基本、盾を持つため片手しか空いていないタイタスだが、逆に片手持ちの武器ならなんでも来いと言っていた。
ただロクちゃんほどには、使いこなせいらしい。
それと意外だったのが、タイタスも動物調教を持っていたという点だ。
よくネズミ部屋に入り浸っているなとは思ってはいたが……。
あと騎乗技能持ちであることも、今日の猪騒ぎで判明している。
そして新顔のニーナであるが――。
「この武器は簡単っすね。次はこっちっすか? これも余裕っす」
驚いたことにほとんどの武器を、あっさりと使いこなしてみせたのだ。
武器熟練度の多さに加え、素早く力もある。
これは前衛として、かなり期待できるんじゃないだろうか。
「俺っち超器用っすから。何でも御座れっすよ」
ま、結論を出すのは、実際に戦闘に参加してからだけどな。
それから結構、重要な下僕骨の指揮であるが、これは吾輩と五十三番、それにニーナも持っているっぽいことが判明した。
指揮系統が一つ増えるのは、とてもありがたいぞ。
特性に関しては各骨でぶつかりあって見たが、大きな差異は確認できなかった。
もっともタイタスの硬度だけは、頭一つ分抜きん出ていたが。
最後に技であるが、これは各骨の持ち技が固定になりつつあるな。
ロクちゃんはしゃがみ払いなどの回避と組み合わせた技や、多段系の剣技。
五十三番は念糸による強化と、精密な射撃。
タイタスは盾を使った体当たりが多く、吾輩は地面を使った精霊術だな。
ニーナの新規参入もあるし、技はもっと積極的に開発していった方が良いかもしれん。
大体の戦闘で、吾輩たちの決め手になっているし。
以上のことを調べ上げてみたが、気がつくと夜もかなり更けてしまっていた。
カラスたちと石置き遊びをしていた羽耳族の子供も、落ち葉のベッドに入ってすやすや寝息を立てている。
時間的にちょっと動くには半端な時間だな。
夜明け前まで待って、それから狩りに行って貰うことにするか。
「よし、夜が明けたら狼狩りでもしてきてくれ。革も量産して、防具をもっと作っておきたいしな」
「吾輩先輩は不参加ですか?」
「うむ、しばらくは村の方の手伝いに専念する予定だ。隊長は任せたぞ、五十三番」
「ええ? 仕切りは俺っちじゃないっすか?」
「倒す! 倒す!」
「もう出発しねぇか? ちょいと良い感じに腹が減ってきたぜ」
てんでに勝手なことを言い出す仲間たちに、吾輩と五十三番は顔を見合わせたあと小さく歯音を鳴らしあった。
うむ、たった二体だった頃からここまで来たんだな、吾輩たち。




