第九十一話 それなりの見返り
終の棲家に無事戻ってこれた吾輩であるが、気になっていたので先に飼育場を覗いてみることした。
捕まえておいた一角猪であるが、そのままだと確実に棺につっかえてしまう。
かといって下僕骨たちに生きたままの猪の解体は難しい。
ということで、飼育場の中へ放り込んでおくよう指示をしたのだが。
囲い代わりに積み上げた丸太へ近寄ってみると、ブラブラと動く骨の両足が見える。
誰かが丸太塀の上にぶら下がっているようだ。
足元に出した土の壁に乗って、吾輩も見学中の骨の横まで移動する。
丸太の天辺にしがみついて、中を覗き込んでいたのはロクちゃんだった。
頭骨にはいつも通り、羽耳族の子供がしがみついている。
「たおすっ、たおすっ!」
楽しそうにロクちゃんが指差す先には、穴ぐらにうつ伏せになっている猪の姿があった。
少し狭かったようで、顔の部分がはみ出てしまっている。
目をつぶっているが、魂力は少し減っているだけで死にそうな状態とは程遠い。
疲れて眠ってしまっただけのようだな。
飼育場の地面はあちこちがほじくり返され、丸太も少しえぐれている箇所があった。
相当に暴れたとみえる。
「たおーす!」
「ギャゥ……、ギャギャ!」
「真っ暗だから、この子には見えないと思うぞ、ロクちゃん」
「たおす?!」
「うむ。また明日、見せてやればいい」
吾輩の提案に頷くと、ロクちゃんは軽やかに地面に飛び降りた。
そのまま洞窟へ駆け込む骨の後に、吾輩も続く。
黒棺様の部屋に入ると、ちょうど作業中であった。
呻き声を上げる盗賊どもから、五十三番とタイタスが手際よく装備品を引剥している。
「お帰りなさい、わがはっ! その体はどうしたんです?!」
「ああ、これか。とある女性にやられてな」
吾輩の言葉に、五十三番は側にあった弓と引っ掴み勢いよく立ち上がる。
そして矢筒を腰骨に回しながら、抑えた声で尋ねてきた。
「その女の特徴を教えて頂けますか?」
「落ち着け、ロナと双子の母親だぞ」
「それが?」
「今、彼女を殺すと面倒なことになる。却下だ」
吾輩の言葉に、五十三番は奥歯をわずかに軋ませた。
普段は冷徹な行動をとるくせに、こういう時に感情を出してくるとは意外だったな。
「話は終わったか? そろそろ、こいつらを放り込みたいんだが」
「ああ、待たせてすまなかった。頼む」
死体が一人、生きているのは五人。
全員、裸にされて床に転がっている。
痺れて動けないまま、吾輩たちを睨みつけたりガタガタと震えたりと大変忙しそうだ。
ま、こいつらも散々、他人を殺めてきたのだ。
自分たちもいつかは同じような目に遭うことくらい、分かりきっていただろうしな。
吾輩が頷くと、男どもは次々と棺へと投げ込まれていった。
全員が消え去った時点で、改めて棺の側面を確認する。
<能力>
『肉体頑強』 段階0→1
『気配感知』5『反響定位』4『頭頂眼』3
『末端再生』3『危険伝播』3『平衡制御』3
『聴覚鋭敏』3『麻痺毒生成』2
『視界共有』2『集団統制』2『臭気選別』1
『腕力増強』1『賭運』1『暗視眼』1
『角骨生成』1『生命感知』1『火の精霊憑き』1
『精霊眼』1『地精契約』1
<技能>
『盾捌き熟練度』 段階7→10→『盾捌き熟達度』 段階0→3
『騎乗熟達度』 段階0→10→『騎乗熟達度』 段階0→2
『両手槍熟練度』 段階8→10→『両手槍熟達度』 段階0→2
『両手剣熟練度』 段階0→10→『両手剣熟達度』 段階0→2
『弓術熟練度』 段階7→10→『弓術熟達度』 段階0→2
『片手剣熟練度』 段階2→9
『投剣熟練度』 段階0→7
『回避熟練度』 段階4→5
『罠感知熟練度』 段階0→6
『罠設置熟練度』 段階0→5
『射撃熟練度』 段階0→5
『火の精霊術熟練度』10『短剣熟練度』9『骨会話熟練度』7
『忍び足熟練度』7『鑑定熟練度』6『動物調教熟練度』5
『片手斧熟練度』5『土の精霊術熟達度』5『指揮熟練度』4
『投擲熟練度』4『受け流し熟練度』4『両手棍熟練度』3
『片手棍熟練度』2『両手斧熟練度』2『投斧熟練度』1
『投槍熟練度』1『見破り熟練度』1『火の精霊術熟達度』1
<特性>
『聖光耐性』 段階2→6
『毒害無効』10『炎熱耐性』5『打撃防御』3
『腐敗耐性』3『斬撃耐性』3『圧撃防御』2
『刺突防御』1
<技>
『地槍』 段階0→2
『重ね矢』 段階0→0
『水平突き』 段階0→0
『聖光』 段階0→0
『しゃがみ払い』9『狙い撃ち』9『念糸』9
『早撃ち』6『飛び跳ね』6『盾撃』5
『地壁』5『三段突き』5『脱力』4
『地段波』4『痺れ噛み付き』3
『威嚇』3『齧る』3『二連射』3
『三回斬り』1『頭突き』0『爪引っ掻き』0
『体当たり』0『くちばし突き』0『棘嵐』0
『兜割り』0『突進突き』0『両鎌交撃』0
<戦闘形態>
『二つ持ち』9『弓使い』7『盾使い』7『精霊使い』2
総命数799→949
うむ、予想以上の上がりっぷりである。
まずは能力。
肉体頑強という分かりやすいのが出たな。
持ち主は、畑で通せんぼしてきた大男のオグである。
土の槍を何本か受けてもまだ動けていたようだし、かなり期待が持てそうだ。
次に技能だが、これが凄い。
一気に熟練度を通り越して、熟達度に達してしまうとは。
盾、槍、片手剣に騎乗と、一定水準以上の技能持ちだったのは、盾を持っていた副長である。
この男、あつらえたようにピッタリの銀色の薄金鎧一式に、造りの凝った片手剣。
それと菱型の盾には、明らかに表面を擦って下の柄を消した跡が残っていた。
「……もしかして、元騎士とかじゃないでしょうか?」
「うーむ、所持技能にこの装備品、それっぽいな」
「それじゃ、紋章でも削ったのか? この盾」
「ああ、多分これもそうだと思いますよ」
五十三番が差し出した長剣の柄頭にも、何か削り取ったような跡があった。
この長剣を使っていたのは、副長と親しげに喋っていた男だったな。
さらに五十三番と良い勝負をしたレッジの革鎧にも、同じような跡が残っていた。
熟達の技能保持者という共通点もあることから、この三人には何か複雑な過去があったかもしれんな。
ま、棺に消えてしまった以上、もう聞き出すことも出来ないが。
それと三人とは無関係なようだが、ロクちゃんが引っ張ってきたシュナックも中々だった。
罠関連の熟練度二種類と射撃熟練度である。
射撃というのは、おそらく弩を使う熟練度だろう。
そんなに熟練度とかが要りそうな武器にはあまり見えないが。
巻き上げ機もなく、足を引っ掛けて矢をつがえる簡単な型なので、誰にでもすぐに使えそうだ。
他の装備に関しては、あとでじっくりどうするか決めるとするか。
ちなみに長剣熟達度が出た時点で刃物捌き熟練度が、射撃熟練度と投剣熟練度で投げ当て熟練度が表記から消え失せた。
これで武器関連の熟練度は、出尽くした可能性が高いな。
片手武器は、片手棍、片手剣、短剣、片手斧か。
両手武器は、両手棍、両手剣、両手槍、両手斧だな。
投擲は、投剣、投斧、投槍、弓術、射撃に投擲と。
あとは特性だが、聖光耐性だけ上がっていた。
しかも一気に4も。
消えかけた甲斐はあったが、これでどの程度まで耐えられるかはすぐには試す気にはなれんな。
最後は技か。
今回増えた項目は四つ。
地槍は吾輩の消火活動から生まれた技だな。赤い服の小鬼が使っていたのと、随分違ってしまったが。
あとは五十三番が粘って引き出した重ね矢という技か。
二連射と違いまとめて撃つため、やや威力は落ちるが、躱され難さは上がったという感じらしい。
水平突きは、長剣使いの技だな。
現在、普通の剣を使う骨が居ないので、これはよく分からんな。
あとは聖光、まんまだな。
技に出てきたということは、将来的に吾輩たちにも使える可能性があるということか……。
総命数は一気に150増加の949である。
下僕骨で換算すると十五体分となる。やはり人間は効率がいいな。
最後に気になったことが一点。
「あの盗賊の首領、特別な能力や技能は何もなかったのか。……よく頭が務まっていたものだ」




