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第八十三話 先の見通し



 ここ二週間ほど地道に整地していたおかげで、ようやく洞窟の裏手の土地が平らになった。

 いや正確には平らではなく、少し広めの畝がたくさん並んでいるが。

 畝には丸芋を移植する予定である。


 その横には、丸太を積んで作った広い囲い場が完成している。

 さらに丸太を組んで家畜小屋を作ろうとしてみたのだが、適当に積み上げたら傾いて崩壊してしまった。

 うむ、動物を入れる前で良かった。


 仕方がないので代わりに横穴を掘っておいた。雨をしのいで、暖まるくらいには十分だろう。

 こっちは一角猪の飼育場予定地だ。


 魂集めに専念せずに、色々とこれらの準備に取り掛かっていたのは大きな理由がある。

 前々から言っていた話だが、近場の森から回収できる生き物が減ってきているのだ。

 それだけではない。

 採取できる木の実やキノコも、少しづつ減ってきていた。


 至極当たり前だが、黒棺様に捧げられた存在は跡形もなく消えてしまう。

 何も残らないのだ。

 基本的に生命とは、互いに関わりながら生存するものである。

 食ったり食われたり、死んだあとも他の生き物の養分になったりと。


 だが黒棺様とその従僕である吾輩たちにはそれがない。

 一方的に断ち切っていくだけの存在なのだ。

 生きている者たちにとって、本当に迷惑かつ危険な相手だと思う。

 小鬼たちが吾輩たちを"滅びの骨"と呼んでいたのは、あながち骨違いではないのかもしれないな。


 と、話しが逸れてしまった。

 まあ手っ取り早く結論を述べると、ずばり生き物や飼料が減ってきたのなら自分たちで増やそうじゃないか計画である。

 そのための食糧増産であり飼育場なのだ。


 それに今はまだ人口五十人足らずの村であるが、住みよい環境になれば将来的にもっと住人が増えていくに違いない。

 今からそれに備えておくことに、骨惜しみしてはならないと思える。そう、骨だけに! 


 ああ、もちろん遠征しての魂集めも、続ける予定ではあるが。

 新しい能力が増えることは、それだけ吾輩たちの生存確率が上がっていくことだしな。

 それにあまり目立たない能力でも、文字が増えるだけで嬉しかったりするし。


 そんな訳で、本日の確認である。


<能力>


『聴覚鋭敏』 段階0→3

『平衡制御』 段階2→3


『気配感知』5『反響定位』4『頭頂眼』3

『末端再生』3『危険伝播』3『麻痺毒生成』2

『視界共有』2『集団統制』2『臭気選別』1

『腕力増強』1『賭運』1『暗視眼』1

『角骨生成』1『生命感知』1『火の精霊憑き』1

『精霊眼』1『地精契約』1


<技能>


『見抜き熟練度』 段階9→10→『見破り熟練度』段階0→1

『短剣熟練度』 段階8→9

『弓術熟練度』 段階6→7

『忍び足熟練度』 段階6→7

『盾捌き熟練度』 段階6→7

『鑑定熟練度』 段階5→6

『指揮熟練度』 段階3→4


『刃物捌き熟練度』10『投げ当て熟練度』10

『火の精霊術熟練度』10『両手槍熟練度』8

『骨会話熟練度』7『動物調教熟練度』5

『土の精霊術熟達度』5『片手斧熟練度』5

『投擲熟練度』4『受け流し熟練度』4『回避熟練度』4

『両手棍熟練度』3『片手棍熟練度』2『両手斧熟練度』2

『片手剣熟練度』2『投斧熟練度』1『投槍熟練度』1

『火の精霊術熟達度』1


<特性>


『斬撃耐性』 段階0→3

『聖光耐性』 段階0→2

『圧撃防御』 段階1→2

『刺突耐性』 段階9→10→『刺突防御』 段階0→1


『毒害無効』10『炎熱耐性』5『打撃防御』3『腐敗耐性』3


<技>


『しゃがみ払い』 段階8→9

『狙い撃ち』 段階8→9

『早撃ち』 段階5→6

『飛び跳ね』 段階5→6

『盾撃』 段階4→5

『地壁』 段階2→5

『脱力』 段階3→4

『地段波』 段階0→4

『三回斬り』 段階0→1

『両鎌交撃』 段階0→0


『念糸』9『三段突き』5『痺れ噛み付き』3

『二連射』3『威嚇』3『齧る』3『頭突き』0

『爪引っ掻き』0『体当たり』0『くちばし突き』0

『棘嵐』0『兜割り』0『突進突き』0『地槍』0


<戦闘形態>


『二つ持ち』 段階8→9

『弓使い』 段階6→7

『盾使い』 段階6→7

『精霊使い』 段階1→2


 総命数799


 新しく追加された兎の能力は、聴覚鋭敏だった。

 これは本当に文字のまんまで、音がより細かく聞き分けできるようになったといえば早いか。


 兎は死体を含めてすでに八十五匹が棺の中へ納まり、能力の段階は3にまで上がっている。

 おかげで可聴範囲が広がり、それに合わせて反響定位の映像化できる距離まで伸びた。

 こういう相乗効果は非常にありがたい。


 余談だが兎は頭部だけでも能力のカウントは出来たので、一、二匹ほど首を取って血抜きした肉を村へ差し入れしている。

 なので村での吾輩たちの評判はうなぎ登りらしい。


 あと地味に平衡制御が3になった。

 これの恩恵で、前衛全員の動きがかなり良くなったと思う。本当に地味だが。


 技能は見抜きが見破りの上級技能へ。

 他はいつもよく使っているのが、じわっと上がったくらいか。

 最近、新しい技能が生えてこないのが、ちょっと気になっている。

 

 特性は、刺突耐性が上級特性の防御になったのが嬉しい。

 そしてこちらはついに新たな耐性、斬撃耐性が出現した。

 赤いカマキリの一撃で、五十三番が半壊してくれた甲斐があったというものだ。

 斬撃耐性も早く防御まで上げたいが、斬ってくる生き物なんてそうそういないのが問題だ。

 花園には、しばらく行きたくないし……。


 それともう一つ出現している耐性があるのだが、この話はひとまず置いておこう。


 次に技であるが、これも順調に上昇中である。

 どうも強い相手に使って成功すると、結構すぐに上がるようだな。

 

 それと小鬼の短剣は刃の部分が広く切り付け易いせいで、突き一辺倒だったロクちゃんの動きが少しばかり変わったようだ。

 ずっと段階0だった三回斬りが、ようやく1に変化した。


 それから吾輩の地段波であるが、未だに地面が揺れるのみである。

 地槍も頑張ってイメージしてみるのだが、これも使えるに至っていない。

 何かコツが分かれば良いんだが……。


 最後は戦闘形態だが、全部一段階ずつ上がっていた。

 特に言うべきこともないな。


 総括で見れば小さな変化はあるものの、全体的にはじわっとした成長ぶりだ。

 つまり前とほぼ一緒としか言いようがない。

 だがそれが当たり前なんだろうな。


 成果だけを求めて急いで積み上げたものは、簡単に崩れやすい。

 地味に基礎からが、やっぱり大事である。

 と、吾輩は崩壊した丸太小屋で学んだのだ。

 うん、やっぱり地道が一番。 

 

 日課の確認を終えた吾輩は、飼育部屋と足を運ぶ。

 そこで吾輩を待っていたのは、優しい顔でカラスの羽を撫でる少女であった。


「こんにちわ、御使い様。フーちゃんの様子、だいぶ良くなってきましたよ。この分だと、近いうちに飛べる思います」


 おお、それは朗報だな。

 フーちゃんというのは、以前に五十三番が取ってきてくれたカラスの名前である。

 捕獲の際に羽を怪我して、飛べなくなっていたのだ。


 偵察用に捕らえたので、それが無理なら棺に入れようかと思っていたのだが、たまたま飼育部屋に入ったロナがぐったりと檻にうずくまるカラスに気付いたのが事の切っ掛けだった。 

 弱っているカラスを見て助けてあげたいと、彼女が言い出したのだ。


 話を聞いてみると、どうやらロナには生まれつき不思議な力があるのだそうだ。

 その力とは、手で触っているだけで対象の怪我の治りが早くなるといったものだとか。

 あと自分の傷も、結構早めに治ったりするらしい。


 言われてみれば、心当たりが少しあるな。

 最初に助けた時、骨に頭を殴られて流血していたはずだが、袋を取って顔を洗った際にあれだけの傷がもう治りかけていたこと。

 それとアルが下僕骨に殴られてたんこぶが出来た時も、ロナが撫でるだけで治りかけてしたしな。


 で、試しにやらせてみたら、少女の言った通りになった。

 あれだけ衰弱していたカラスが、見違えるように元気になったのだ。


 で、興味が湧いたので、吾輩もその治療の手当てというのをやってもらった。

 結果、腕が崩れて落ちた。

 そして棺を見ると、聖光耐性の文字が浮かび上がっていたという訳である。


 その時は衝動的にロナを棺へ入れかけたが、寸前で思い止まった。

 もし仮に"癒やしの手"とかそれっぽい能力が備わった場合、そのまま吾輩たち自身が崩れ落ちてしまう危険性に気付いたせいである。

 うむ、危機一髪だった。


 また崩れてしまった部分は、数時間待ってみたが末端再生が発動する気配は皆無だった。

 それで懸念した吾輩は、ロナがカラスを治すついでに一緒に手当てをしてもらい耐性を上げてきたのだ。


 頭骨を逆さまにした餌入れに兎の臓物を山盛りにして、治療が終わったカラスたちの側においてやる。

 雌のフーと、そのつがいである雄のムーは、すぐに仲良く腸を突き出す。


 ちなみにフギなんとかとムニなんとかな名前をつけたのはタイタスである。

 一応、二羽とも吾輩に従うようになったので、今は檻から開放して自由に動けるようしてやった。

 なのでもとから元気なムーのほうは、よく森の中を飛び回っている。


 餌をついばむカラスたちの様子に笑顔を浮かべていたロナだが、吾輩に見られていることに気付いたのか頬を赤く染めた。

 誤魔化すように慌てて話題を振ってくる。


「そうそう、御使い様。母さんと村長さんは明日帰ってくるはずですよ」


 お、もう二週間経っていたな。

 ならこれを持って帰って、歓迎のご馳走でも作ってやると良い。

 腸を取り出したあとの、首なし兎の本体をロナに手渡す。


「ありがとうございます、御使い様。いつもいつも頂いてばかりで。私も何かお返しできれば」 

 

 気にするな。

 カラスを治してくれただけでも、十分に釣りが出る。


「でも、もっと何か……」


 なら、そうだな。

 吾輩らが困ったときに、また力を貸してくれれば良いさ。


「はい、それなら喜んで。いつでもお呼びして下さい、御使い様」


 そう言いながら少女は、花のような笑みを浮かべてみせた。




   ▲▽▲▽▲




 最北街道の街道橋から丸一日の距離にあるロックデルの町。

 そのうらぶれた安酒場で、しがない行商人のデムカは水のように薄い麦酒エールを呷りながら一人管を巻いていた。


「糞、あいつら一体何を持ち込んだんだよ。フレモリ家の連中が直々に馬車で送り返すなんて、よっぽどの品だぞ、おい!」


 はぐれ村の住人をひそかに見下していたデムカは、村長がフレモリ商会に顔つなぎしてくれと言い出した時は内心腹を抱えていた。

 世間知らずの田舎者が珍品だと勘違いしたがらくたを売り込んでは、けんもほろろな対応をされるのは良くある話だ。


 今回もてっきりそれだと思っていたら、予想はあっさり裏切られた。


「そもそも、長年付き合いがある俺に一枚噛ませないなんて、どういう魂胆だよ。薄情すぎねぇか、ええ?」


 自分から加わる気は全くなかったことを棚上げして、デムカは声を張り上げる。

 彼の頭に中には、自分勝手という単語は元より存在していない。


「あんなチンケな村まで、わざわざ足を運んでやっていた恩人様だぞ、俺は!」


 商機を見抜く才能に乏しいせいで、商売相手を選り好み出来なかっただけの話であるが、彼の中ではそうではないようだ。

 むしろ足元を見た値の釣り上げに、文句も言わず応じてくれた村人のほうが恩人に近いのだが。


「畜生、畜生! 何で俺はいつもついてないんだよ! 折角、金の成る木が転がり込んできたかと思ったのによ……、畜生」


 大声で泣き言のような愚痴を叫んでいたデムカだが、誰にも相手にされていないことに気付くと、テーブルに銅貨を数枚投げ出して立ち上がった。

 酒場をあとにしたデムカは、そのまま裏手の路地に足を運ぶ。


 ベルトを緩め一物を取り出した男は、板壁に勢い良く放水し始めた。


「小便みたいな酒飲ませやがって。ったく、催して仕方ねぇな」

「よう、ご機嫌はどうだ? あんまり良くないみたいだが」


 気持ち良くぶっ放していたデムカは、いきなりに首筋に当てられた冷たい感触に息を呑んだ。


「い、生きていたのか? ……ドン・ドムロン」

「何だ? 生きてちゃ不味いような言い方だな」

「とんでもねぇよ、兄弟。てっきり妖術師に殺されたって噂が本当かと」

「はっ、生憎だが、俺はしっかり生き残ってるぜ」

「流石のしぶとさだな。取り敢えず、その物騒な代物を俺の首に当てるのは止めてくれないか。そうだ、再会祝いに飲み直すか? 少しなら奢ってやってもいいぜ」


 デムカの言葉に、元盗賊団の頭は低い笑い声を上げてナイフを引っ込める。


「相変わらずケチな野郎だな。別にお前に奢ってもらおうとは思ってねえさ。少しばかり話が聞きてぇだけだよ」

「そうかい。用事があるなら、ちょっと待ってくれるか? まだ全部出てねーんだ」


 ホッと安堵したデムカは、尿道に残った液体をチョロチョロと絞り出す。


「いや、すぐに済むさ。ほら、さっき面白そうな話を愚痴ってたろ。あれをちょいとばかし、詳しく教えてくれねーか?」

「あ、ああ、そいつは無理なんだ。実は口止めされていてな」

「気にすることはねえよ。俺も気にしないからな」


 淡々と話の続きを促すドン・ドムロンの態度に、デムカはゴクリと生唾を呑み込んだ。


「あ、あんたに、銀貨十枚の懸賞金がかかってるって知ってるか? 俺が今、大声を出すとかなり不味いことになると思うぜ」

「そんときはお前も道連れになっちまうぞ、デムカ。盗品の横流しを手伝う代わりに、荷を襲われないよう盗賊と約束してたなんてバレちゃ、同じ商売人仲間からどんな扱いを受けると思う?」

「…………わ、分かったよ。ここだけの話で頼むぜ、兄弟」

 

 デムカは自分が知っている洗いざらいをぶちまける。

 話し終えるころには、小便もすっかり出尽くしていた。


「なるほど、あの村の連中が何か金蔓を掴んだと」

「もうこれで全部だ。これ以上は勘弁してくれよ、ドムロンの旦那」

「するわけねーだろ。オメェは口が軽すぎんだ」


 言い終わる前にドン・ドムロンはデムカの口を押さえ、その喉にナイフを当てて素早く横に動かす。

 そして血飛沫がかからぬよう、軽やかに身を離した。


 地面に倒れ込んだ行商人の懐に手を入れた盗賊は、財布の紐を切り取ると懐にしまい込む。

 ついでにデムカの服の袖でナイフの血脂を拭き取ったドン・ドムロンは、静かに路地の奥へと姿を消した。

 


 路地裏で行商人の死体が発見され、彼の唯一の財産であった荷馬車が消えていたことが判明したのは、それから三日後だった。




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