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第七十話 森の奥での出会い



 収支的には赤字だと思われた甲虫退治だったが、意外なところで拾い物があった。

 なんと甲虫の上翅が、思っていた以上に硬かったのだ。

 

 甲殻だけ剥がして実験してみたところ、石斧どころか鉄の鋤でようやくへこみをつけられるほどの強度であった。

 早速、盾に応用しようと考えてみたが、翅単体では少しばかり小さい。

 それと当たり前だが、かなり持ち難くもある。


 理想としては、左右の翅の合せ目にかすがいを撃ち込めば小型の盾。

 数枚を円状に並べて中央を鋲で固定できれば、少し大きめな盾が出来ると思える。


 流石に石製の道具では限界があるので、村長を通して村の鍛冶屋に加工を頼んでおくことにした。 

 

「小型のを四つ、大型のを二つですね。承りました。それと革の方は燻しが終わったのですが……、肝心のなめし汁の材料が足らないと言われまして」


 詳しく聞いてみると、木にできた虫瘤というのが要るらしい。

 見本を一つ持ってきてあったので、捜索部隊に見せて同じものを集めるよう命じる。

 

「それと黒絹糸の方は無事完成いたしました。今週中には王都に立つ予定です」


 近いうちに行商人が来るらしいので、王都まで便乗させて貰うそうだ。

 往復で二週間ほど留守にするらしいが、代わりに村からは鍛冶屋を寄越してくれるとか。

 また応接室の模様替えをしておく必要があるな。

 

 下僕骨に川原まで村長を見送らせた後、交通の便について考えてみる。

 村と洞窟の間で物流が行き来し始めているが、村長一人に荷運びをさせるのはやや効率が悪い。

 かといって骨が動けるのは、精々川原までが限界である。


 運搬に関しては、他にも問題が起き始めていた。

 獲物が減ってしまったのだ。


 ここ一週間ばかり探し回ってみたが、洞窟半径千歩以内では肉食獣の痕跡が全く確認できなくなっていた。

 ……どうやら、狩り尽くしてしまったらしい。


 ある程度の時間が経てば、縄張りが空いたことに気付いた獣がまた棲みついてくれるかもしれない。

 だがそれを悠長に待つほどの余裕は、今の吾輩たちには正直ない。


 だからどんどん遠くへ遠征に行っているのだが、当然新しい問題が出てくる。

 獲物が途中で死んでしまったり、痺れ毒が解けて暴れだしたりするようになったのだ。

 もっと素早く移動できれば良いのだが、ただでさえ森の中は歩き難いのに、そこに大きな獲物を持ち運べは無理がありすぎる。


 そんなわけで今、吾輩が候補として考えているのは運搬路の形成だ。

 移動しやすいよう、予め森の中にしっかりとした道を作っておく作戦である。

 また船を作り、川を下ることで時間短縮を目指すという手もある。

 

 確かにこれなら、かなりの時間を節約できるだろう。

 しかしもう一つの問題、洞窟が見つかりやすくなる危険が高まってしまう可能性がある。

 それを回避するために、ちょっとした大規模な工事を構想しているが……。

 大量の骨と道具を必要とするため、実現はまだまだ先になりそうだ。

 

 道以外の解決法として浮かんだのが、吾輩たちの移動能力自体の底上げだ。

 これは足が速い生き物を入れたら、ちょっとは早くならないかなという目論見である。

 もしくは忍び足のような、早く走れるぞー的な熟練度があるかもしれない。

 望みはあまり持てないが、努力は続けるべきだと思っている。


 それにどのみち何かしらの能力は手に入るので、骨折り損に終わらないのが吾輩たちの良いところだ。

 まさに骨折り儲けと言い直したほうが良いな。


 最後の案は、動物を飼育して乗り回すというものだ。

 吾輩の動物調教熟練度があれば、何とかできそうな期待はある。

 だが聞いてみたところ、馬は騎士様専用の乗り物なので非常にお高いらしい。


 あとの家畜、羊や山羊はこの辺りでは飼育していないのだとか。

 牛や豚は足が遅そうだし鶏は論外。

 となると、やはり自前で調達するしかなさそうである。


 そんな訳で今日の遠征先は砦奥の森へ決まった。

 うむ、狙いは一角猪である。

 脚力、体格、性格、あと飼育条件で考えてみた結果だ。


 それと砦跡にしたのは、ついでの捜し物もあったからである。


「タイタス、腹の具合はどうだ?」

「ああ、さっさと行こうぜ。……ちょうど良い感じに、腹が減ってきたぜ」

「骨の補充も終わりましたから、いつでも出発できますよ」

「倒す!」

「今日は生け捕りが目的だからな、ロクちゃん」


 変革者四体を先頭に、十二体の下僕骨を引き連れて洞窟を後にする。

 川を渡って砦跡を横目に進み、森の奥へ警戒しながら進む。


 と、その前に。

 盗賊どもの元畑を、適当にほじくり返す。

 おお、出て来る出て来る。


 かつて散々、シチューに使った丸芋である。

 ロナたちに聞いてみたところ、村では小麦と青豆がメインで野菜は少ししか栽培していないらしい。

 水はけの悪い土地では、この丸芋は育ちにくいから仕方がないか。


 幸いにも洞窟の裏手は、ちょっとした空地になっている。 

 あの辺りなら、芋の栽培もかなり楽であろう。


 骸骨の一体にカゴを背負わせて、芋を多めに入れておく。 

 さらに先日、猪がほじくり返して場所を調べると、黒い根っこが出てきた。

 これも盗賊たちが、水にさらしてアクを抜いた後でよく食べていたな。

 葉っぱごと引っこ抜いてカゴに追加する。

 

 食べ物はこれくらいして猪の捜索だ。

 気配感知が三十歩限界となったので、五十三番とロクちゃんをふた手に分けて先行させる。


 タイタスは逆三角形を作る感じでやや下がって、どちらかが猪を発見した際すぐに動ける位置に居てもらう。

 吾輩と下僕骨は、タイタスの後ろをぞろぞろとついて回る感じだ。


 行き先は北西方面にしぼり、北部に広がる黒樹林を迂回して歩くこと半日。

 何も出会わないまま、日が沈んでしまった。

 えー。

 

 意外と出会わないものなんだな……。

 前回、昼間に会えたので昼行性の生き物かと予測したのだが、もしかしてあの一匹はたまたまで実は夜行性だとか?

 

「どうしよっか?」

「倒す!」

「おう、倒すぞ! もう腹が減って死にそうだ」

「おっさん、落ち着いて。僕たちはもう死んでますから、さらに死ぬことはないと思いますよ」

「継続賛成は二体か。五十三番は?」

「僕も手ぶらは勘弁してほしいですね。なので夜半過ぎまでこのまま進んで、見つからなかった場合、そこから引き返す形で探索を続けるのはどうでしょう?」

「うむ、それが良いな」


 本日は雲が濃いせいか、月明かりはほとんどない。

 真っ黒な森の中を、吾輩たちは生き物気配を探りながらひたすら歩き続ける。


 そろそろ引き返すべきかと思い始めたその時、五十三番が慌てた様子で腕を上げた。

 何事かと思ったら、なぜか引き返してくる。


「猪がいたのか?」 

「いえ、そうじゃありません。灯りです」

「灯り?」

「はい、かなり遠くに光って見えます」

「…………人家でもあるのか?」

「こんな森の奥に家なんぞ建てるバカが居るのか?」


 居そうもないな。

 ロクちゃんを呼び戻し、最大限の忍び足で接近してもらう。


 そっと木立から覗き込むロクちゃんの視界を、吾輩たちも急いで共有する。

 そこに映っていたのは、やや開けた場所で野営中の団体であった。


 座って焚き火を囲むのは四人。

 横になっている奴も入れると、全部で十人ほどか。

 少し離れた位置に立ったままのが二人。

 森の方角を睨んでいるので、見張り番だろう。


 全員が革鎧を身に着け、哨戒中の二人は槍を手にしている。

 どう考えても、軍隊のようにしか見えない。



 だが注目すべき点は、もっとほかにあった。



 彼らの背丈は普通の人間よりも小さく、吾輩たちの胸元ほどしかない。

 そして、その頭部には毛髪が一切なく、代わりに小さな瘤のような角が生えていた。

 


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