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第六十九話 黒い三連突



 日も暮れたので、今日は以前から気になっていた場所へ挑むことにした。

 丘陵地帯経由で、黒い樹林の密生地まで北上する。 

 途中、蜘蛛の生息地を通ったが、まだあまり増えていなかったので収穫は我慢した。


 現地につく頃には、どっぷりと暗くなっていた。

 糸のように細い月から漏れる明かりしかないので、立ち並ぶ樹々は黒い大きな影の塊にしか見えない。


 と言いたいが、それは以前の吾輩たちの話である。

 暗視眼を手に入れた今、樹皮のシワまではっきりと見えるようになっていた。

 うーん、猫って凄いな。


 ふと気になったの、周りの骨たちの眼窩を覗いてみた。

 誰の目も光ってなかったので一安心する。

 暗闇で骨の目の部分だけ光っていたら、不気味な上に目立って仕方ないからな。


「あそこに居ますよ、吾輩先輩」

「おお、あれか!」


 五十三番が指し示す先にいたのは、木の幹にしがみついて樹液をすする黒い虫の姿だった。

 なるほど、この見た目なら保護色になって、今まで見逃してきたのも無理はない。


「あんなちっぽけな虫相手じゃ、俺が出るまでもねぇな」

「いやいや、十分にデカイから。ちゃんと盾を構えておいてくれよ、タイタス」


 黒い甲虫の全長は、優に吾輩たちの顔ほどもある。

 命数は2。魂力は見積もっても4。

 数が少ないようなので、今日は能力獲得だけで我慢するか。


「倒す?」

「うむ、アレは倒しても良いやつだぞ、ロクちゃん」


 かなり高い位置にいたので、まずは五十三番が弓で射落とす。


「あれ?」


 当たったはずだが、落ちてきたのは矢だけであった。

  

「意外と丈夫だな。タイタス、ロクちゃん行けるか?」

「倒す!」

「あまり気は進まんな。……腹もそんなに減ってないし」


 そう言いながら盾を下ろしたタイタスが、両手の指を組んで足場を作る。

 ロクちゃんがそこに足をかけ、タイタスが力一杯持ち上げると同時に足場を強く蹴り上げる。


 軽々と跳躍したロクちゃんは、幹にしがみつく虫へやすやすと到達した。

 歪な形の黒曜の刃が、虫の背を切り裂き――。


 はずであったが、硬質な音がしてあっさりとロクちゃんの一撃は弾かれた。

 途中で幹を蹴って減速し、クルリと一回転して着地を決めたロクちゃんは、そのまま地団駄を踏む。


「倒す! 倒す!」

「はいはい、落ち着いてね、ロクちゃん。虫のくせにやたらと硬いですね。どうします? 吾輩先輩」 

「ふむ、こんなこともあろうかとな」 

 

 用意しておいた松明に、火打ち石を打ち付ける。

 そして赤々と燃え立つ火を持ち上げ、虫に見えやすいように振り回す。


「ほーら、灯りだぞ。飛んでこい」


 …………来ないな。

 

「確か虫が火に飛び込んでくるのは、方向感覚が狂うせいだと聞いたことがありますよ」

「熱いのが好きで、飛び込んでくるんじゃないのか?」

「そんな珍妙な習性だったら、山火事とかで全滅してますよ」


 言われてみればそうか。

 

「そうだ、熱だけこの鏃に移せたり出来ません?」

「ああ、それなら簡単だぞ」


 松明に矢をかざして貰い、先端部分の黒曜石の鏃に熱が集中するよう仕向ける。


「あ、そのくらいで。あまり熱いと弓が焦げますからね」 


 さっと構えた矢を、無造作に放つ五十三番。

 狙った様子もないのに、石矢はちょうど前翅の付け根にサクリと突き刺さる。

 見事に弱点を射抜かれたのか、黒い甲虫は一瞬だけ羽を広げそのままボトリと落ちてきた。

 見抜き熟練度の段階8は伊達じゃないな。


 地面に落ちた虫は翅を小うるさく震わせていたが、やがて仰向けのまま静かになった。


「倒した!」

「生きたまま捉えるのは難しそうだな」

「触ってみて下さい、この黒い翅、物凄く硬いですよ」

「おい!」


 動かなくなった虫を調べていたら、唐突にタイタスが鋭い歯声を上げた。

 思わず動きを止めた吾輩らに対し、人差し指を持ち上げてみせる。

 静かにしろという合図だ。


 話すのを止めた吾輩たちは、すぐにソレに気付いた。

 ――音だ。


 先ほどまで静まり返っていた森のアチコチから、その音は鳴り響いていた。

 空気を揺らす振動のような低音が、明らかにこっちに近付いてくる。


 振動音が耳障りなほど高まったその時、何かが続けざまに森から飛び出してきた。

 

 真っ黒な影は凄まじい速度で、タイタスの盾の上部に衝突する。

 衝撃をそらし切れず、鉄の盾が大きく傾く。


 そこに二つ目の影が間髪入れず突っ込んだ。

 さらなる一撃を受けた盾は完全に浮き上がる。


 水平に近い角度となったため、がら空きとなる胴体。

 三つ目の影は、その隙間へ容赦なく飛び込んだ。


 あわやと思われたその瞬間、タイタスはギリギリで身を起こした。

 突っ込んできた影は、肋骨の下をくぐり背骨を掠めてそのまま何事もなく通り抜ける。


 ふぅ、肉の体だったら腹部貫通の重症だったな。

 スカスカな骨の体で助かったぞ。

  

 と、安心してる場合じゃない!

 今や大気を震わせる音は、恐ろしいほどの騒音に達してた。

 

「来るぞ!!」


 タイタスの叫びに、吾輩は即座に命令を下す。


「構え! 前方へ発射!」


 投槍が放たれたのと、黒い無数の塊たちが森から飛び出してきたのは、ほぼ同時であった。

 数個の塊が貫かれて地に落ちるが、残りは続けざまに吾輩らの元へ飛来する。


 吾輩を庇うように立っていた四体の骨が、胴や頭部を吹き飛ばされて骨片を派手に撒き散らす。 

 必死で地面に伏せながら、吾輩は慌てて周りの状況を確認した。


 同様に身を低くしていたのは五十三番だ。

 さらにその状態で矢を放っていたのか、五十三番の周りには二匹ほど甲虫が転がっている。

 そう、この不快な音の正体は、黒い甲虫たちが集まってきた翅音だったのだ。


 タイタスは盾の後ろに身を隠しながら、甲虫の嵐に立ち向かっていた。

 正面からのは何とか防げてはいたが、回り込んだ虫どもに慈悲などない。


 無防備な背中へ向けて、速度を落とさず突っ込んでくる。

 しかし吾輩たちには、頼れる骨がもう一体いた。

 

 タイタスの背骨を守るように、虫どもの前に立ち塞がったのはロクちゃんだ。

 飛来する黒い塊を、両の手の黒曜のナイフで弾き、受け流し、ことごとく叩き落としていく。


 うむ、凄いぞロクちゃん。

 白い骨が一瞬も止まることなく高速で刃を振るい続ける姿は、鮮やかな舞を見ているようだった。

 しかし全ての攻撃が躱せる訳でもない。

 二体の肩や腕には、少しづつ傷が増えていた。


 早急に手を打たねば、吾輩の側に転がる骨どもと同様の姿になってしまう。

 仲間を失いかける状況が、またも吾輩の中に感情の嵐を引き起こす。

 

 虫どもめ、許さんぞ!

 

 吾輩の激しい怒りが、手に持っていた松明の火を燃え上がらせた。

 そうだ、これだ!


 残った骨に松明を手渡し、大きく掲げるように命じる。

 同時に火にありったけの精霊をかき集め、最大限に燃えるよう命令する。


 火柱のように松明が燃え盛り、辺りに眩しい光を放った。

 たちまちの内に、甲虫たちの軌道が怪しくなる。


 炎を中心に円を描くように飛び始め、地面や松明に次々と突っ込み始めた。

 だが火の勢いが強すぎたせいか、松明があっという間に燃え尽きていく。


「槍を燃やせ!」


 タイタスの言葉に、残った骨たちが予備の槍を松明に掲げた。

 灯りがさらに燃え上がり、虫どもが次々と焼け落ちていく。


 全ての槍が消し炭になるころ、地面には大量の甲虫どもが転がっていた。

 何とか際どいところで、間に合ってくれたようだ。

 

「おーい、無事か?」

「こっちは大丈夫ですが、下僕ちゃんが全滅ですね」

「タイタスはどうだ?」

「ああ、無事だが盾がボコボコになっちまったぜ。何匹か吸い取ったので、傷はもう治っちまったがな」

「ロクちゃんは?」

「たおーす……」


 ロクちゃんは流石に疲れたのか、タイタスの背にもたれたままグッタリとしている。

 しかし大きな損傷もなく、手足の傷も塞がりつつあるようだ。


「動けるようなら、さっさと撤退するぞ」


 ここでまた新手が来たら、もう手のうちようがない。

 残った下僕骨四体と吾輩たちで、甲虫どもを持てるだけ持って急いで退却する。

 幸いにも虫が追ってくる様子はなく、無事に吾輩たちは洞窟へ帰り着けた。


 今回の支出。

 下僕骨八体損失。鉄の長盾と黒曜のナイフに損耗あり。投槍と松明も全て焼失。

 対する収入は、生きた甲虫が七体、死んだのは十二体。


 獲得能力は平衡制御だった。

 うーん、しばらく虫は遠慮しておくか。

 


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