第六十八話 ルーチンワーク、再び
さて、面倒事は増えたが、吾輩たちに出来るのは相変わらず地道に強くなっていくことだけだ。
今日の深夜の森巡りの収穫は、カラス六羽のみ。
最近は五十三番のメキメキと上がった弓術熟練度のおかげで、警戒心が強いカラスもそれなりに仕留めることが出来るようになった。
剣歯猫には出会えず、タイタスとロクちゃんは始終退屈そうだった。
やはり懸念していたことが、ハッキリ現れてきたようだ。
午前中は軽作業に当てる。
作業部屋の骨五体には、矢の量産体制に入って貰っている。
並行して弓づくりも進めているが、現在はもう少し丈の長い弓の制作中である。
さらに弓弦にも、猪の脚の腱を使ってみることにした。
ネズミに骨と腱以外を食べさせて綺麗にしたあと、陰干ししておいたものだ。
蔓よりも張りがある上によくしなり威力が格段に増したのは良いが、たまに親指の骨を持っていかれると五十三番が愚痴をこぼしていた。
今度、革手袋でも作ってやるか。
投槍の方もかなり量産が進んではいるが、それに劣らす消耗も早い。
衝撃が強すぎて、簡単に折れたり割れたりしてしまうのだ。
だからといって手加減して投げろという命令は、曖昧すぎて下僕骨にはまだちょっと難しいのである。
こちらも石斧や石のナイフでの生産なので、効率を上げるために鉄製の品が欲しいと考えている。
そのために川へ派遣しているのが、鉄鉱石収集隊である。
赤みを帯びた石か黒くて硬い石を集めろと命じてあり、素材部屋がかなり石で埋まりつつあるので専用の鉱石部屋を作るか検討中だ。
ただ鉄に変えるのは炭が大量にいるらしく、その点が足止めになっている。
吾輩が火の精霊を操れば良いのだが、何日もかかりっきりになる時間を取られるのは厳しい。
これに関しては、他に精霊術を扱える仲間が増えることを祈るしかないな。
一応、捜索隊も出してはいるが、今のところ成果は皆無である。
話がずれるが、下僕骨の内訳はこんな感じになっている。
吾輩直属の投槍部隊、八体。
こいつらは索敵と戦闘に特化して調整してある。
五十三番が率いる守備部隊、四体。
盾が量産できれば持たせる予定なので、現在は棍棒のみで骨盾の役目を果たしてくれている。
捜索部隊が八体。
彼らは能力重視の調整のため、感覚は鋭いが戦闘力はあまり高くはない。
森の中から様々なモノを集めてくる役目を担っている。
作業部隊は十体。
この子たちは調整出来る前に生み出した古参の下僕なので、洞窟内の単純作業に当てている。
あとは門番の四体。
五十三番の守備部隊と同じ調整で、欠けると補充に入る仕組みになっている。
最後に棺を守る防衛専門の骨が一体。
下僕骨を作る過程で分かっているのは、選べる能力と技能、戦闘形態はあわせて十個まで。
そのうちの一個は生命感知が固定になっている。
能力も全てが選べるわけではなく、精霊術や集団統率、視界共有や危険伝播などは無理である。
単純な見たり聞いたりや、麻痺毒を作ったり限定になっている。
技能も初期のみで、棒扱い熟練度や刃物捌き、投げ当ては選べるが、そこから派生した片手棍や投槍熟練度は習得できない。
単体の戦闘力で言えば、人間なら村人にはギリギリで勝てるが盗賊には厳しいといった感じだ。
この辺りも黒棺様の機能開放で、上限が外れてくれたりしたら大助かりなんだが。
そもそも、最初から使えるようにしておいて欲しいよ、ホント。
話を戻して午後からは、子供たちが来たので貯水池の視察に出向く。
タイタスの肩車で、双子と弟は始終ご機嫌だった。
崖を登る時に吾輩も肩車してくれと言ったら、虚ろな眼差しで見つめられた。
雨季からかなり経ったせいか、池には水草が生え魚影がいくつか確認できた。
狼狩りは三体に任せて吾輩とアルは早速、池の調査に取り掛かる。
ロナとチビたちは木の積み重なった天然堰に驚いたり、滝を覗き込んではキャイキャイとはしゃいでいた。
一応、護衛の下僕骨をつけておいたが、森や池にはあまり近付くなと注意してある。
池の調査だが、いつもの川魚に加え、吾輩の腕の長さほどもある魚が釣れて驚いた。
アルが言うのは蒼魚という種類らしい。
魂数が1足らずだったので、子供たちの土産に持たせてやることにする。
竿をさらに垂れていたら、釣り糸がやたらと切られる行為が発生し始めた。
もしや棘亀かと思ったが、泥と藻のせいで水が濁りすぎて確認できなかった。
持ってきた針が尽きたので、調査はそこで断念する。
下僕骨に抱えさせて子供たちを下へおろし、吾輩も出来るだけ周囲を見ないようにして崖を下る。
川原まで子供たちを送った後、洞窟へ戻り最優先で太い釣り針作りを命じておいた。
現在、糸はアルが持ってくる麻糸を使っているが、もっと強い物を作る必要があるな。
土いじりをしながら待っていると、夕方頃に三体と下僕骨たちが戦利品の狼たちと帰還する。
瀕死状態のものは棺へ捧げ、死んだものは毛皮を剥いでおく。
一日が終わったので、黒棺様を確認しておく。
<能力>
『気配感知』 段階4→5
『末端再生』 段階2→3
『集団統制』 段階0→2
『反響定位』4『頭頂眼』3『危険伝播』3
『麻痺毒生成』2『視界共有』2『臭気選別』1『腕力増強』1
『賭運』1『暗視眼』1『角骨生成』1『生命感知』1
『火の精霊憑き』1『土の精霊憑き』1
<技能>
『見抜き熟練度』段階7→8
『骨会話熟練度』 段階6→7
『短剣熟練度』 段階5→7
『土の精霊術熟練度』2→6
『弓術熟練度』 段階4→5
『動物調教熟練度』 段階4→5
『忍び足熟練度』 段階4→5
『盾捌き熟練度』 段階3→5
『鑑定熟練度』 段階2→4
『受け流し熟練度』 段階2→3
『回避熟練度』 段階1→3
『投槍熟練度』 段階0→1
『棒扱い熟練度』10『刃物捌き熟練度』10『投げ当て熟練度』10
『火の精霊術熟練度』10『長柄持ち熟練度』10
『片手斧熟練度』4『投擲熟練度』4『指揮熟練度』3
『片手棍熟練度』2『両手斧熟練度』2『両手槍熟練度』2
『片手剣熟練度』2『投斧熟練度』1『火の精霊術熟達度』1
<特性>
『打撃耐性』 段階8→9
『圧撃耐性』 段階7→8
『毒害無効』10『刺突耐性』9『炎熱耐性』5『腐敗耐性』3
<技>
『念糸』 段階8→9
『しゃがみ払い』 段階6→8
『狙い撃ち』 段階6→7
『飛び跳ね』 段階4→5
『早撃ち』 段階4→5
『三段突き』 段階4→5
『痺れ噛み付き』 段階2→3
『盾撃』 段階1→3
『二連射』 段階1→3
『脱力』 段階1→3
『威嚇』 段階0→2
『齧る』3『頭突き』0『爪引っ掻き』0『体当たり』0
『くちばし突き』0『三回斬り』0『棘嵐』0『兜割り』0
『突進突き』0
<戦闘形態>
『二つ持ち』 段階6→7
『弓使い』 段階4→5
『盾使い』 段階2→4
総命数は749。
増えた分だけネズミを入れていったら、百五十匹に達したので気配感知が初の段階5になった。
おかげで半径三十歩以内の距離までなら、ほぼ確実に生き物の位置が分かるように。
そしてなんと、気配感知はこれで文字が灰色に変化してしまった。
他の能力が中々、鍛えられないためまだ確定ではないが、5で打ち止めの可能性が出て来たのは残念だ。
あとは末端再生がとうとう3になり、破損修復速度が見違えるように上がった。
前までと比べると所要時間は、半分ほどに短縮できたと思える。
技能は上達が著しい。
格上の相手を選んで、練習しながら倒すようになった成果だろう。
併せて技もよく上がっている。
耐性も地味ながら、少しづつ向上中だ。
ただやはり一気に骨を出したり、戦闘中に壊れる下僕骨も出てきたりと総命数は緩やかに減少しつつある。
しかし戦力が安定してくれば損耗も減るはずなので、初期投資分は仕方がないと割り切っている。
特に集団統制や危険伝播などの団体行動向きの能力加入で、下僕骨軍団の地力はかなり底上げされたはずだ。
この調子で行けば、人間の兵隊相手でも近いうちに、互角に戦えるようになるに違いない。
いや、そうなって貰わないと困るんだがな。
そのためにも、もっと魂を集めないとな。
「では、夜の狩りに出掛けるとするか」
「ええ、準備はできてますよ」
「倒す!」
「俺、あんまり腹は減ってないんだがな。ま、付き合ってやるか」




