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第六十七話 話し合い


 まあ魂が欲しいと言っても、そうそう出せるものでもないだろう。

 それに吾輩が求めるのは、何かしらの技能を持った人間の魂だ。

 となると狙い目は……。


「え、死にそうな年寄りですか? ……俺より年上なのは一人だけですが」


 う、予想以上に寿命が短いのか。

 集落は夜中に一度見たきりだが、あまり住み心地が良いとは思えなかったな。

 確かにあんな生活環境では、老人になれるまでの余裕もなさそうだ。


 そういえば子供たちも、最初に見た時はガリガリだった記憶が。

 村長もよくよく見れば、頬が痩けて魂力もかなり薄い。

 

 気になって、猪の脚はどうしたかと尋ねてみた。


「あ、あの肉ですか。はい、肉なんて久々なもんですから、もう村中大喜びで。大変、ご馳走になりました」 


 出どころが怪しい上に、血抜きもしてないような肉だぞ。

 これは全く期待できそうにない気がしてきた。


 そうだ病人はどうだ?


「病気ですか? 有り難い話ですが、大病を患っている者はおりません。ええ、幸いにも腕の良い薬師が村におりまして」


 こっちも駄目か。

 このままだと、貧相な村から健康でまだ役に立つ人間を差し出せという無茶振りになってしまう。 


 うん、薬師だと?


「村一番の老体ですが、何かと物知りなもので。え、他には? あと鍛冶屋が居るくらいですね」


 おお、鍛冶屋が居るのか!

 なら武器の強化もだが、防具も期待できるんじゃないか?


「防具ですか……。その、小さな村の鍛冶屋ですので、せいぜい鍬や鋤の修理程度しか出来ませんが、が、頑張れば!」 


 うん、当たり前だな。無理を言って済まなかった。

 やっぱり防具は、当分の間は自前で作るしかないようだ。


 使えそうな材質となると、この狼の毛皮なんかが手頃なんだが。

 皮を指差すと、目を真ん丸にして首を横に振る。


「申し訳ありません。皮に詳しい者も……。せいぜい、なめすくらいでしたら」


 このままだとそのうち腐ってしまうので、革に加工できるだけでも有り難いか。

 半分を売り物にして、半分は吾輩たちで使うことにしよう。

 あと、何か出来そうなことと言えば……。


(吾輩先輩、うちの斧や鋤とかもそろそろヘタってきてますし、研いでもらうのはどうですか?)

(ああ、かなり使い込んだしな。ふむ。最初のうちは、そんなもんで勘弁してやるか)


 当面はこいつらに栄養をつけて、そこから増やしていく方向で行くとするか。

 ま、余計な人間が森に入らないよう噂を立てるくらいでも、十分に役には立つだろう。


 吾輩たちは森の外れに棲みついた狩人だと、村人たちには説明するよう指示しておく。

 最初のうちは、余計な波風が立つに決まっているからな。


 あとこの黒腐りの森は国境外となるので、狩猟権などは気にする必要もないらしい。

 元から気にしていないし、これからも気にすることないだろう。

 権利が不要なら先人の狩人が少しばかりは居るはずかなと思ったら、この場所は本当に危険らしく近寄る人間は元から皆無だったそうだ。

 

 最後に権利で少し気になったので、村長たちがこれからどうするつもりかを確認しておく。

 男爵と言うからには、この辺りの土地を治めている主である。

 これ以上、そんな人間から目を付けられずに、上手くやり過ごすことはできるのかと。


「黒絹糸の件ですが、行商人に王都まで連れて行って貰える話はついてます。その行商人の知り合いの商会に、引き合わせて貰う手筈もです。糸の出所をハッキリとは致しませんから、多少買い叩かれるのは覚悟しておりますが、土地を買うには十分かと考えてます」 


 あんな集落でも、行商人が来るのか……。

 それと商人たちから、男爵に話が漏れたりはしないのか?


「流石に塩や油は、村でも賄いきれませんから。あと男爵様ですが、その、商人どもからは、あまり好かれておりませんので……」


 ああ、街道の盗賊は放置してたくせに、高額な橋の護衛代を請求してたんじゃ、そりゃ嫌われるな。

 しかし土地というのは、そんな簡単に購入できたりするものなのか。


「正確に言いますと、俺たちには土地を買う権利はありません。郷士様にお願いして、俺たちの土地の持ち主になってもらう形になります」


 なるほど、名義人のようなものか。

 だが今度はソイツから、地代を請求されるだけではないか?

 

「はい、その辺りは取引の際にあらかじめ決めておきます。少なくとも、男爵様の要求された額を超えることはないと思います」


 目処はついているのか? 


「先日、村に来られた騎士様に、お願いしようか考えております。高名な方なので、自らの名誉を汚すよう真似はなさらぬかと」


 どうもややこしい話だが、強欲そうな男爵がちょっかい掛けて来なくなるなら良いか。

 て、騎士だと!


「ああ、ご安心下さい。村の名代になっていただくだけで、わざわざこんな僻地の飛び地までお越しになりませんよ」


 なんか大きな旗が、バタバタと風になびく音が聞こえた気がしたぞ。

 本当に大丈夫なのか?


「ええ、お任せ下さい、骨王様。村を必ず守ってみせます!」 


 最初のおどおどした様子が嘘のように、元気になったな、村長。

 あと骨王って、もしかして吾輩のことか? もしや、この玉座はやり過ぎだったか。


 うむむむ。信用できるかと言えば、正直、心許ないというしかない。

 だが村のことをちゃんと考えているようだし、利害が一致してるなら、そうそう裏切りはしないだろう。

 仕方がない。ここは他に選択肢もないことだし、一任しておくか。


 しかし一応、人質は確保しておこう。

 吾輩らの背骨の一部を、目印として渡しておく。


「これを持っていると、骨の方には襲われないと……」

 

 一日一度は、子供たちを洞窟か川原に寄越すように言いつけておく。

 裏切った場合は、その日の内に村を滅ぼす予定である。 

 

 こうして第一回目の、村人との面談は終わった。

 狼の毛皮を背負った親子を川原まで護衛付きで送り返すと、吾輩は椅子に座りなおして大きく肩甲骨を捻る。

 それからふと思い立ち、黒棺様を確認しに行ってみた。

 

 あ、やっぱり上がっていたか、動物調教熟練度。 

 どうりで、こちらの言いたいことが、やすやすと伝わる訳だ。


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