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第六十話 猫、あっさり



「それで、これからどうします? 吾輩先輩」

「うむ。続けざまに色々と起こりすぎて、ちょっと混乱してきたな。少し考えをまとめるか」

 

 現在の吾輩たちの大目標は、魂の収集だ。

 これは先日、初回の目標値を達成し、下僕骨を呼び出せる機能を頂いたばかりだ。

 なので、継続に異存はないな。

 次の目標値も2000のままで。


 中目標の吾輩らの強化だが、これも順調に進んでいる。

 ただ熟練度はそれなりに上進はしたが、肝心の武器関連の熟練度はあまり鍛えられていない。

 これは武器を振るう対象が、慣れた相手ばかりを選んでいる部分が大きいと思う。

 今後の課題は、もう少し強い生き物狩りだな。


 小目標の生活改善は、下僕骨が増えたことで大きく達成できた。

 道具はまだまだ少ないが、予備骨問題はほぼ解消できた上に、待望の新しい仲間も出来たしな。

 

「この三つがこれまでの目標だったわけだが、ほぼ順調に達成できたと言っていいだろう。うむ、頑張ったな」

「そうですね。色々ありましたけど、ちゃんと乗り越えてきた結果ですよ」

「倒す!」


 ガチガチガチと、一斉に拍手する。

 タイタスも呆れた顔をしながら、一緒に手を叩いてくれた。


「さて、目標自体はこのまま引き続き目指せば良いとは思うが、さらに新たな目標というか対策を立てる必要が出てきたわけだ」

「男爵とかいう人物の件ですね」

「うむ。最悪、この洞窟が発見される可能性も、視野に入れておくべきだろう」

「倒す!」

「ロク助の言うとおり、そいつらを倒せば解決じゃないのか?」

「そうしたいのは山々だが、正直なところ、今の吾輩たちでは歯が立たんのだ」

 

 直接的な意味を含めてな。

 本格的に武装した集団相手では、今だ力不足は甚だしい。


「確かに吾輩たちは日々、強くなっている。だが足りないものが、まだまだありすぎるのだ!」


 攻撃面の成長は素晴らしいが、防御面に関してはまだまだ未熟としか言いようがない。

 倒されることを前提で戦ったり、穴を掘って直に攻撃されない工夫をしたりと搦め手に頼っているのが現状である。


 だがそれが通用しにくい相手となると、一方的に蹂躙されてしまうわけだ。

 そうならないために、身の守りを固め相手の攻撃を跳ね返せる戦い方を学んでいく必要性が出てきたと。


「その点を期待しているぞ、タイタス」

「……俺か?」

「お前はなぜか、吾輩たちよりも優れた骨格の持ち主だからな。それを十二分に活かしてくれ」

「まあ、良いけどな。……腹が満たせるなら」

「空腹は、どうしようもないと言ったはずだぞ」

「いや、それは何とかなりそうだぜ」

「そうなのか。解消できる方法が分かったら教えてくれ。吾輩らも是非、協力しよう」

「倒す!」

「ああ、助かる。……しかし、腹減ったな」

 

 そう言いながら立ち上がったタイタスは、壁に立てかけてあった鉄盾をいきなり持ち上げた。

 盾の背面にある持ち手に手を通すが、なぜかピッタリと嵌まる。

 吾輩たちだと、ブカブカだったのに……。


「武器は、……これで良いか」


 まさかりを片手でひょいと持ち上げる。え、それって普通は両手装備じゃないのか?

 この場合は、どっちの熟練度が反映されるんだ?


「じゃあ、行くとするか」

「えっ、どこにだ?」

「そりゃ、強そうな相手を倒しにだよ」

「いや、ちょっと待て」

 

 そりゃ期待はしたが、いますぐはあり得んだろ。 

 まずは軽く身内同士で手合わせしたり、弱い生き物を相手にして、どの程度まで行けるかの確信が得られてからじゃないと危険すぎる。


「大丈夫、手頃な相手から始めるから安心してくれ」

「なら良いが、くれぐれも無茶はするなよ。お前の体は替えが利かないんだから」


 骨格が違いすぎるため、タイタスと下僕骨との体の交換は無理である。

 末端再生の効く手足なら何とかなるが、胴体部分の損傷は出来るだけ避けておきたい。

 

「もうかなり日が暮れているな。犬にでも出会えれば良いんだが」

「俺は犬より猫が好きなんだ。その川原とやらに案内してくれるか」

「剣歯猫とやりあう気か?!」

「良いんじゃないですか、吾輩先輩。今の戦力なら行けると思いますよ」

「倒す!」 


 ああ、これ止めても駄目な流れだ。

 仲間が増えたことで、二体ともちょっと気分が高揚しているようだな。

 だが鉄の盾を軽々と扱えるタイタスが居れば、前のような一方的にやられるようなことはないと考えられる。

 それに危険だと思えば、下僕骨を特攻させれば逃げる時間くらいは稼げるだろう。


「よし、許可しよう。ただ吾輩が逃げろと命令すれば、絶対に撤退するんだぞ」 


 待つこと数時間。

 川原に猫が現れたのは、どっぷりと夜が更けてからであった。

 腹を抱えて座っていたタイタスが、待ちくたびれた顔で立ち上がる。


「やっと来たか。……行くぞ」

「倒す!」

「ロクちゃんはまだ駄目だよ。このおっさんが注意を引きつけてくれるから、それまで我慢しよう」

「おう、任せとけ」


 茂みから立ち上がった巨大な骨は、枝をガサガサと掻き分けながら川原へと踏み出した。

 獲物を探しうろついていた獣は、突如現れた骨に身を低くして唸り声を上げる。

 

 数歩の距離を睨み合う一匹と一体。

 じょじょに、剣歯猫の喉から漏れる声が大きくなっていく。


 だが動こうとはしない。

 剣歯猫の態度は、以前の即座に攻撃に転じてきた時とはまるで違っていた。


 この差は明らかに警戒の現れだろう。

 剣歯猫は眼前のタイタスから目を離さぬまま、音も立てず膝に力を込めていく。

 

 対するタイタスは、根が生えたかのように身動ぎ一つしない。

 平然と盾を構えたまま、相手の出方をひたすら待ち受けている。


 やがて獣と骨の間の緊張感が最高潮に達したのか、剣歯猫が獰猛な声を上げて溜め込んだ力を開放した。

 

 一瞬で距離を縮める跳躍。

 盾を軽々と飛び越えた剣歯猫は、タイタスの頭部へ長い牙を付き立て――。


 その噛み付きを、いつの間にか持ち上がっていた盾の縁が、寸前で牙を突き上げ食い止める。

 金属を擦る音が響き、間一髪で牙の進行が止まる。


 そこに間を置かず、二本の矢が一時に放たれた。

 同時にタイタスも、右手の斧を盾の上の猫に豪快に叩きつける。

 牙を剥いていた剣歯猫は、即座に足の下の盾を蹴って跳び上がった。


 それに合わせるように、茂みからも影が一つ宙を駈けた。

 空中で交差する猫と骨。


 咄嗟に身を捻った剣歯猫だが、ロクちゃんの二振りの短剣を躱しきれなかったようだ。

 額から血を流しながら、着地と同時に反対側の茂みへ足を向ける。


 しかしその動きを読んでいたのか、五十三番はすでに三本目の矢を放っていた。

 逃げ道を塞がれ、剣歯猫は足を止める。


 そこでようやく痺れ毒が回ったのか、獣は低く唸り声を上げながらうずくまった。

 手足が思うように動かないのだろう。 


 よろけながら何とか立ち上がったが、さっくりと止めの矢が胴体に刺さる。

 追加の痺れ矢を受けた剣歯猫は、ぐったりと動かなくなった。


「よし、アレを回収しろ」 


 吾輩の命令に、下僕骨たちは即座に動き出した。

 それぞれが四肢を引っ張るようにぶら下げ、抵抗できないようにして運んでいく。


「見事だったぞ、みんな」


 前回の敗北が嘘のような、完璧な連携の勝利だった。


「うーん、もうちょっとだな。まぁ調子は掴めたぜ」 

「僕も少し無駄に撃ち過ぎました。もっと的を絞れたかな」

「……倒す! 倒す!」

 

 なんとも頼もしい同胞の返事に、吾輩は大きく頷いた。

 うむ、これならそう遠くないうちに、人間どもに対抗できるかもしれないな。




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