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第五十四話 機能開放



 光は一瞬だけであったが、部屋中を照らすには十分な明るさだった。

 棺はピッカリと光った後、すぐにいつも通りの沈黙を取り戻す。


 数秒ほど動きを止めたまま見守っていたが、それ以上は何も起こらず、吾輩たちは静かに互いの顔を見合わせた。 


「…………倒す?」

「ああ、うん。今、光ったな」

「僕の気のせいじゃなかったみたいですね。何だったんでしょう?」

「何かがあったのは間違いないな。中は……相変わらず真っ暗なままか」

「能力の表示にも変化はないですね。総命数も1006のままですし」

「倒す!」

「お、ロクちゃん、何かあったのか?」


 棺の反対側に回り込んでいたロクちゃんが弾んだ声を上げたので、慌ててそっちへ移動する。

 こっちには何もなかったはずだが……。

 と、文字を発見。これがさっき光った理由か。


「偽魂創生?」

「何でしょうね、これ」

「吾輩たちの新しい能力か? なんで裏側に出たのかサッパリだが」

「何かできるようになった気はしませんけどね。文字の意味もよく分かりませんし」


 偽の魂を創り生かす?

 まるで吾輩たちの存在そのもの――。


 何かに突き動かされたように、吾輩の手が知らぬ間に伸びていた。

 差し出した指で、そっと棺の側面に触れる。


 途端、偽魂創生の表記の下に、一斉に新たな文字列が現れた。


「倒す!」

「えっ、何をしたんですか? 先輩」

「いや。この文字に触れただけだぞ」


 偽魂創生に続いて現れた文字は、骸骨・野鼠・小蜘蛛・蝙蝠・百足等の名前が延々と縦に並んでおり、一番下は棘亀で終わっていた。

 

「これって、今までに捧げてきた生き物の名前ですよね?」

「そのようだが、皆、灰色になってるな」

「倒す!」

「お、骸骨の文字だけは白っぽいな。よく気付いたな、ロクちゃん」

 

 骸骨の二文字を得意げに指差していたロクちゃんだが、どうも指先が滑ってしまったようだ。

 またも新たな文字が、今度は骸骨の右側に浮かび上がる。


「集魂? 何だこれは……さらに謎が増えたな」

「ちょっと僕にも触らせて下さいよ。あ、これ替わりましたよ」


 横から手を伸ばしてきた五十三番の指が触れた瞬間、集魂の文字が消え代わりに違う文字が浮かび上がる。


「防衛? あ、また変わった。攻撃? 司令……あ、また集魂に戻りました。全部で四つですね」

「単語から推測するに、これはもしや骸骨の行動を決められるということか?」

「集魂は多分、魂を集めてこいって例のアレですね。防衛は守れで攻撃は攻めろ。司令は単純に考えて、命令できるみたいですね」


 何ということだ。偽の魂に命令を与えて創る行為だと。

 これってつまり……。

 

「もしかして、こっちの側面の文字は、黒棺様の能力ってことでしょうか?」

「あ、今、吾輩がそう言おうとしたのに!」

「倒す!」

「え? いや、ロクちゃんは気付いてなかっただろ。嘘は駄目だぞ」

「た、倒す!」


 なぜか吾輩の頭がコツンと叩かれた。


「で、黒棺様がこれをわざわざ見せてくれたのは、どんな意味があるんだ?」

「さあ、他の生き物も作れるようになれっていう、お知らせでしょうか?」

「倒す!」

「あ、もう、勝手に触ると危ないぞ、ロクちゃ――あっ」

「え?」


 ロクちゃんが骸骨の文字を突いた瞬間、何かが棺の中からむっくりと起き上がった。

 ソイツはヒョイと棺を跨ぐと、カシカシと関節を軋ませて歩き出す。

 余りにも見慣れたその姿に吾輩たちが絶句する中、ソイツは壁に立てかけてあった石斧を拾い上げ何も言わず部屋から出ていく。


 それはこの部屋で、何十回となく目にしてきた光景そのものだった。

  

「…………って、呆けてる場合じゃないぞ!」


 慌てて先を行く骨に追いついて、後ろから首をすっぽ抜く。

 頭部を失った骸骨はあっさりと動きを止めて、その場に座り込んだ。

   

 じっくりとその体を見てみたが、吾輩たちとそっくり同じである。

 ただこっちの方は、新品同様に綺麗であったが。

 一応、頭骨も裏返して調べたが、印らしきものなかったので元の位置に戻してやる。


「動かんか。一度、行動不能になると機能が停止する仕組みのようだな」


 ただの骸骨になってしまった元同胞から石斧を返して貰い、担いで予備骨部屋に持っていく。 

 棺の部屋に戻った吾輩を迎えてくれたのは、三体の骸骨だった。


「お帰りなさい、吾輩先輩」

「倒す?」

「ああ、首を取ったら止まってしまったから予備骨部屋に置いてきたぞ。で、コイツは何だ?」


 何も言わず突っ立ったまま動かぬ骨を指差すと、五十三番が何とも言えない笑いを浮かべた。


「見てて下さい。進め!」


 歯音を聞いた瞬間、骸骨は無言のまま歩き出した。

 そのまま壁に向かっていくが、歩みは止まらない。

 壁に密着したまま、骸骨は両手両足をひたすら動かし続けていた。


「指令で出した骨か。ふむ、あまり融通が効かないようだな」

「今のは命令が悪いせいですね。戻れ!」


 五十三番の指示に、骸骨は振り向いて元の位置へと戻ってくる。


「細かい命令も結構、有効みたいですよ。避けて進め!」


 またも歩き出す骸骨だが、今度は壁まで行き当たると進路を右にとって壁沿いに進み始めた。

 そのまま部屋の出入り口まで行き着くと、ちゃんと進路を左に変える。


「よし、戻ってこい」


 部屋から出かけた骸骨は、五十三番の命令でくるりと踵を返した。

 そしてまたも元の位置まで戻ると、直立不動の姿勢を取る。


「どの辺りまで有効なのかは、じっくり調べたほうが良いな。ただ無駄遣いは禁物だぞ」

「ええ、分かってますよ」


 やはり、きっちりと気付いていたか。

 棺に表示される総命数だが、986に減っていた。一体10の消費は、そのままのようだ。


「ところで一つ気になったのですが、吾輩先輩はこのことを知ってたりました?」

「どうして、そう思った?」

「総命数を1000まで集める目標にした点が、どうも怪しいなぁと」

「それか。偶然と言えば偶然だが、予兆めいたモノはあったな」


 五十三番がかすかに首を揺らしたので、言葉を続ける。


「考えてみろ。吾輩たちが自意識に目覚め動けるようになった時点で、必要性が大きく減ったものがあるだろう」

「えっと、総命数のことですよね?」

「そうだ。新しい骨が生まれない以上、吾輩たちにとって魂を集める意義はほぼなくなったと言っていい。強くなるだけなら、死体でも十分だからな」

「でも魂を集める行為を続けることに、全く疑問が湧きませんでしたね」

「ああ、だから骨を生み出す以外にも、総命数には何かしらの役割があるのではと睨んでいたのだよ」

「それが僕たちにも、骨を生み出せる機能の開放だったと」

「うむ、ようやく吾輩たちにも、総命数の使い途ができたと言えるな」


 これで自在に命令できる百体近い骨が、吾輩たちの配下に加わったこととなる。

 うんうん、流れがきてると言っても過言じゃないぞ。


 チマチマと魂を集めてきた甲斐が、とうとう報われたのだ。

 そしてこれは、きっと始まりに過ぎない。 


 さらなる魂を集めることで、出来ることはもっともっと増えていくはずだ。

 そう考えると、ワクワクが止まらんぞ、全く。



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