第四十一話 方針会議
「よし、慌てず落ち着いていこうか。まず能力についてだが……」
「はい」
「増えてるな」
「増えましたね」
「なんで増えるんだよ!」
視界共有が増えたのは、理由がハッキリしてる。
あの赤い目のカラスを、五十三番たちが仕留めてくれたおかげだ。
問題はもう一つの賭運、これだ。
これが洞窟を留守にしてる間に、勝手に増えていたとかならまだ納得がいく。
自分から棺に落ちるような間抜けな生き物は、結構見てきたからな。
だがこの能力は、四体目の黒焦げ死体を入れた際に出現した。
なので間違えようがない。
そうなると導き出される答えは――。
「人間には二種類、いや複数の能力があるということか……」
「もしかしたら、人間だけじゃないかもしれませんね」
「ふーむ、今まで人間以外には、そんな例は現れなかったからな。個性が強く出やすい人間だけの可能性が高そうだが」
「それもそうですね。どのみち損失ということでもないので、人間はたまに当たりが出るぞくらいの認識で良いんじゃないですか」
「そう考えると、凄くお得な気分になれるな」
見事な発想の転換だ。
どんな能力が出るかわからないって、入れる時にワクワクしてしまうな。
「それはそうと、賭運ってどんな能力なんでしょうかね」
「うーん、ここぞという場面で選んだ行動が、正解に近づきやすいとかじゃないかな」
「それはかなり、いや結構素晴らしい能力ですよ」
「ただ、過信しないほうが良いな。所詮は運試しだ。外れる場合も当然ある」
そういえばサイコロ賭博でやたら強い奴が一人いたな。
四番目はアイツだったのか。
簡単に死んでしまった挙句、燃やされたんじゃ幸運の主とはとても思えないぞ。
「やっぱり、せいぜいマシなくらいだな、うん。能力は以上で、次は技能か。これはまた増えたな」
「長柄持ちが灰色になってますね」
「その上の技能を会得したせいだろうな。両手斧に両手槍か。あまり使いこなせる気がしないんだが」
そう言いながら吾輩は、壁に立てかけられた武器を眺める。
両手持ちの長い斧、まさかりが一丁。
それに踏み鋤が一丁と、鍬が二丁。
あと三叉棒――干し草とかを運ぶための、先端が三つに別れた金具がついた棒だ。これが一丁。
すべて砦の畑の傍にあった農具入れから失敬してきたものである。
手入れはそこそこされていたが、どれもかなり使い込まれた老朽品だ。
他に手に入ったのは、鉄の鍋が二つだけ。
武器や道具類は二階にあったらしく、階段が焼け落ちた上、いつ天井が崩落するか分からないため取りにいけなかった。
死体の方も衣服は焼け焦げて使い物にならず、あとは精々、銅貨が少々といったところだ。
「とりあえず吾輩はこの三叉棒でも使うかな。黒曜石の槍よりは随分とマシだろう」
「僕は投石紐のままで。あとは投げナイフで十分です。どうも切ったり突いたりってのは苦手ですし。ロクちゃんはどうする?」
「倒す?」
ネズミお手玉をしていたロクちゃんが顔を上げる。
「新しい武器で欲しいものはあるかな?」
「倒す!」
嬉しそうに鉈と黒曜石のナイフを、それぞれ持ち上げてみせる。
「両手で持つ武器には全く興味なしか。片手剣熟練度も増えたというのに、肝心の武器がないのではな」
「剣は流石に石では作れませんしね」
作れなくもないが、この環境では無理筋というものだ。
だが他の材質でなら、作れるかもしれんな。考えておくか。
「武器はこれで行くとして、他に上がった熟練度は……。移動系と、判定、見抜きがよく使うから上がるのが早いな。あとは吾輩の見間違いでなければ、火の精霊術熟練度が二つあるように見えるのだが」
「よく見てください、吾輩先輩。微妙に違ってますよ」
「うん? うむむ、うん? 熟達?!」
「ええ、灰色になったのは火の精霊術の熟練度で、新しく出たのは火の精霊術の熟達度ですね」
「熟練が一定の段階に達したので、熟達度ってことか。そうなると……」
「他の技能も、まだ上があるってことですかね」
なるほど、そう簡単に極めたとは言い出せないようだ。
盗賊の段階では2か3が精々、これを一般人よりやや強いと考えるなら、戦闘の専門家である兵士は5段階以上あたりだろうか。
さらにその道の達人となると、もっと上、まさに熟達した世界というわけか。
「ふむふむ、まさに到達者の道か。ふふん~♪」
「どうしたんです? 吾輩先輩。へんな歯ぎしりして」
「これは鼻歌の代わりだ。失敬な」
「そうだったんですか。かなり不気味ですよ。それでどうして歯ぎしり歌を」
「うむ、吾輩、今回はちょっと頑張ったんだなと」
来る日も来る日も、種火扱いされた甲斐があったというものだ。
だがおかけで長時間かつ、自在に熱の移し替えが出来るようになったのは大きい。
問題は火種がないと、糞の役にも立たないという点だが。
「気を取り直して耐性に行くか。軒並み上がったのは、おそらく剣歯猫にやられた時だな。炎熱耐性は毎日暖炉で炙られたのと、火災に巻き込まれたせいか」
「この腐敗耐性ってなんですか?」
「それか。心当たりは全くないんだが、五十三番は何かないのか?」
「あったら尋ねませんよ」
「ふーむ、謎だな。まぁ腐りにくくなったのは、良いことじゃないかな」
考えても分からないことは仕方ない。
飛ばして技に行こう。
「念糸と狙い撃ちは、五十三番の頑張りか」
「カラス相手に散々、苦労しましたから」
「よく倒せたものだな。どうやったんだ?」
「最初は撃とうとした瞬間に気取られて、あっさり逃げられていたんですが、ちょうど良いお手本を思い出しまして」
「もしかして、剣歯猫か?」
「はい、正解です。ようは気付かれない範囲外から、避けられない速度で撃ち込めば良いんだなと」
「それを可能にしたのが、この上昇というわけか」
「一羽目は狙いがつけれなくて大変でしたけど、二羽目からはロクちゃんが目の役割を果たしてくれまして、ほぼ確実に仕留められるようになりましたよ」
早速、視界共有を使いこなす辺り、五十三番は侮れないな。
「あとは痺れ噛み付き? 噛んで麻痺毒を送り込むやつか」
「毒牙と噛み付きが消えてますね」
「二つを組み合わせた技になるのか……。使ってて思ったが、物凄く地味な技だぞ」
「効果はありそうですけど、頭部は僕たちには弱点でもありますからね」
後は二つ持ちが5になってるか。
ロクちゃんも頑張ってるな。
「総命数は637か」
「カラスの他に、見かけたトカゲとかムカデを仕留めてましたから」
「うむ、見所はこんなところだな。それじゃ、これからについて決めようか」
「はい、ロクちゃんもこっちおいで」
「倒す!」
三週間近くに渡る拉致監禁の結果、能力や技能も増えたし、武器や道具も手に入れることはできた。
貴重な人間社会の情勢も少しは分かったし、優秀な配下も加わった。
良いこと尽くめと言いたいが、同時に浮かび上がった問題もある。
普通の人間を倒して技能を手に入れても、精々手に入る熟練度は2か3。
その程度では、剣歯猫にさえほとんど歯が立たないのだ。
砦にいる間、盗賊たちの噂話で聞いたが、森の奥にはもっとヤバイ生き物がウジャウジャと居るらしい。
ソイツらを仕留めるには、どうすれば良いか?
悩んだ吾輩が出した答えは、一体じゃ無理でも三体ならどうだ作戦である。
互いに連携して戦えば、格上の敵でもなんとかなるんじゃないかと。
仮に負けたとしても、技能や耐性は上がっていくしな。
「そんな訳で協力して強い奴に挑もう遠征を開催したいと思う」
「良いんじゃないですか」
「倒す!」
「うむ、当面の目標は打倒、剣歯猫だ!」
その前に、まずは犬あたりで練習しないとな。




