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第三十一話 遠征の成果



 色々と片付けて荷物を洞窟の奥に全て運び入れた吾輩たちは、ようやく安堵の歯音を漏らした。


「やっぱり、この部屋は落ち着くな」

「そりゃ僕たちの生まれた場所ですからね。我が家が一番と言うやつですよ」

「ふむ、そう言われると愛着もひとしおだな」

「倒す!」

「おう、そうだな、ロクちゃん。くつろぐのは後回しにして、まずは魂を黒棺様に捧げないとな」


 お土産第一弾は、死にかけの白犬だ。

 こいつは懸命に主の死体を守って、吾輩たちに牙を剥いてきた素晴らしい忠誠心の持ち主だった。 

 敬意を表しながら、ボコボコにした犬を棺の底へそっと置く。


「犬はやっと三匹か。まだまだ先は長いな。さてと、次は――」

「はい、お待ちかねの新能力ですよ」


 頭部が吹き飛んだ巨大な蜘蛛の屍を、五十三番が嬉しそうに差し出してくる。


「おお、今回の遠征の目玉だな。さてさて何が増えるかな。……ないとは思うが、一応、新しい感覚が来るかもしれんな」

「用心のために、僕は離れておきましょうか?」

「そうだな。黒棺様の影響範囲を測るのにもちょうど良いし、すまんが洞窟の外まで頼む」

「分かりました」


 五十三番を洞窟からやや遠い位置に、ロクちゃんは洞窟の入口で待機してもらって、吾輩は部屋に戻る。

 では、お土産第二弾をどうぞっと。


 大蜘蛛をポイッと棺へ投げ入れる。

 …………何も来ないな。


「さて、どんな能力だ? って、文字が増えてないぞ!」


 慌ててロクちゃんと五十三番を呼びに走る。


「能力の出ない生き物もいるってことですか」

「それってただの総命数にしかならんってことか? さらに死体だと、吾輩たちには全く無用な存在になってしまうぞ……」

「今回は骨折り損、いや骨は折れてませんし、技能の鍛錬は出来ましたので、前向きに考えていきませんか」

「そんな正論は聞きたくなーい!」

「倒す!」


 悔しそうな顔で、ロクちゃんが子蜘蛛の死体を棺へベチっと投げ込む。

 うん、その気持ちは凄く分かるぞ。

 あの楽しかった狩りの思い出が、全てまやかしだったなんて余りにも辛すぎる。


「あ、増えましたよ、文字」

「何だと!」


 五十三番を押しのけて、棺の横を覗き込む。

 確かに能力のところに新しい文字が増えていた。


「…………麻痺毒生成?」

「これは使えそうな、そうでもなさそうな、判定が難しい能力ですね」

「ロクちゃんが子蜘蛛を入れたら、これが出たのか?」

「時間的にそうだと思いますよ」


 うむむ、考えられるのは二つ。


 一つ目は親蜘蛛と子蜘蛛が、別の種の蜘蛛である可能性。

 実は判定での命数は親蜘蛛は4、子蜘蛛は1と差があったのだ。

 犬の場合は親子共々、命数は5であったので違いは明らかだ。

 だがサイズを除けば見た目はそっくりだし、共生的な関係なのも間違いない。

 

 二つ目の可能性は、能力を発生させる器官の有無だ。

 親蜘蛛の死体は頭部がほぼ失われていた。 

 現れた能力は麻痺毒生成なので、蜘蛛の場合、毒腺は顎周りだと考えられる。

 つまり毒を作れる部位がなかったので、能力として認定されなかったという推論だ。


「二つ目はすぐに確かめられるな。ロクちゃん、カゴを頼む」

「倒す!」

「そうだな、ロクちゃんの頑張りは無駄じゃなかったぞ」


 まだ生きている蜘蛛の数は十一匹、死んでいるのは六匹と。

 これなら二段階まで上げるには十分だ。


 まず生きている蜘蛛を、ポンポン棺へ投げ込んでいく。

 八匹目で止めた後、子蜘蛛の死体から頭をもいで投げ入れる。

 これで十匹なので、いつもなら麻痺毒生成の段階が2に上がるはずだ。


「上がってませんね」

「そうか、じゃあこれでどうだ?」


 もぎたての頭の方を放り込む。

 その途端、麻痺毒生成の段階が2に変化した。


「仮説その二が正しかったか。これで判明したのは死体でも能力は発生する。ただし該当する器官がないと無理ということだな」

「むしろ器官さえあれば十分ということになりますね」

「蜘蛛の場合、死んだら頭部だけ千切って持って返れば良い訳か。荷物の量をかなり減らせるぞ」


 残りの蜘蛛をまとめて投げ込み、カゴを空にしてスッキリする。


「それではいよいよ、最後のお楽しみと行くか」


 床に横たわる裸の男を担ぎ上げる。

 腕力増強って、一段階なのに物凄く使えるな。

 段階を上げればどうなるか、今から楽しみで仕方ないぞ。


 男の死体を棺へ落とすと、床の部分にズブズブと沈みながら消えていく。

 相変わらず、よく分からない構造だ。


「どうだ?」


 と問いつつ、急いで棺の横を確認する。

 おお、かなり変わったな。


能力

『反響定位』 段階4

『気配感知』 段階3

『頭頂眼』 段階2

『末端再生』 段階2

『麻痺毒生成』 段階2

『臭気選別』 段階1

『火の精霊憑き』 段階1

『腕力増強』 段階1

技能

『棒扱い熟練度』 段階10

『刃物捌き熟練度』 段階10

『投げ当て熟練度』 段階8→10

『叩き落とし熟練度』段階7→8

『身かわし熟練度』 段階7→8

『判定熟練度』 段階5→6

『抜き足熟練度』 段階5→6

『差し足熟練度』 段階4→5

『見抜き熟練度』 段階2→4

『骨会話熟練度』 段階3

『短剣熟練度』 段階3

『片手斧熟練度』 段階2→3

『動物調教熟練度』段階0→3

『片手棍熟練度』 段階2

『長柄持ち熟練度』段階2

『火の精霊術熟練度』 段階1

『投擲熟練度』 段階0→1

『投斧熟練度』 段階0→1

特性

『刺突耐性』 段階7

『打撃耐性』 段階6

『圧撃耐性』 段階3

『炎熱耐性』 段階1

『しゃがみ払い』 段階6

『念糸』 段階1→3

『齧る』 段階2

『狙い撃ち』 段階1

『頭突き』 段階0

『爪引っ掻き』 段階0

『体当たり』 段階0

『くちばし突き』 段階0

『毒牙』 段階0

『噛み付き』 段階0

『三回斬り』 段階0

戦闘形態

『二つ持ち』 段階4


総命数 606


 数字の変化があったものを、分かりやすくしてみた。

 能力の麻痺毒生成は、さっき確認したばかりだな。

 どうやって使うかは、あとで検証しないと。


 技能はかなりの項目が変化してるぞ。

 目立つのは投げ当て熟練度の文字が灰色になってる点だ。

 五十三番がよく使ってくれるせいで、早くも上限に到達したようだ。


 そして投げ当て熟練度から分岐発生した上位熟練度らしきものが二つ。

 名前の響きからして投擲熟練度は、投げる武器全般を指すような気がする。

 そして個別の熟練度として投斧熟練度か。

 これは吾輩が咄嗟に投げた石斧のせいだろうな。

 

 叩き落としと身かわしが1ずつ上がっているのは、ロクちゃんと大蜘蛛の対決の結果か。

 判定と抜き足差し足は、途中かなり使ったしな。 

 

「増えた熟練度は三つか。心当たりがないのは動物調教熟練度だな」

「それが、犬を連れていた男の技能でしょうね」

「これまた使いどころの難しい熟練度だな……。戦闘の役に立つのかもサッパリだ」

「あとは斧が3になってますね。多分、これもあの犬男のだと思いますよ」


 そう言いながら、五十三番が床に置かれた男の持ち物の一つを指差す。

 

「それって、鉈じゃないのか? 斧にしては刃の部分が長い気がするが」

「僕もそう思うんですが、区分が曖昧だから片手斧扱いにされてるんじゃないですか?」


 今回は石斧はほとんど出番がなかったしな。

 となるとやはりこれは斧扱いなのか……黒棺様も結構、適当だな。


「気を取り直して耐性は変化なしと。技の方は新しいのがでてるな」


 狙い撃ち、五十三番のあの技だな。

 よく見れば念糸も3まで上がっている。

 うん、これは素晴らしい。


「こう見ると今回は五十三番の活躍が著しいな。よって第一回遠征の功労者は、五十三番とする。拍手!」

「倒す!」


 カチャカチャカチャカチャ。


「いえ、皆さんの支えがあっての働きでした。ありがとうございます」

「倒す!」

「うんうん、ロクちゃんも負けていられないな。二回目の遠征では期待してるぞ」

    

 まあ、その前にもっと人間の対策を考えないと、おちおち留守も出来んがな。



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