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第二十三話 忙しい日々の始まり



 不自由な身であった時は、自在に動けるようになった未来をよく想像していたものだ。

 あれもしよう、これも出来ると。

 だが実際に手足を得てみると、逆に出来ることが多すぎて迷うことになろうとは思いもよらなかったな。


 胴体復活一日目の夜。

 とりあえず黒棺様を、他の場所へ移せるかどうか試してみる。

 骨三体で押してみたが、びくともしない。


 根でも生えているのかと疑って地面を掘ろうとしてみたが、なぜか棺の下の土が鉄のように堅い。

 指でほじくり返すのも不可能な有り様だ。

 これはもうこんなモノだと割り切って、さっくり諦めることにした。


 その後、五十三番とロクちゃんは、洞窟近辺の見廻りと骨の回収へ。

 吾輩は一人残って、骨の組み立てに勤しむ。


 夜明け前に二体が戻ってきて、ムカデ二匹と長めの木の枝をお土産にくれた。

 石斧の切れ味は上々だが、逆に殺傷力が上がり過ぎて生け捕りには向かないらしい。

 それと樹液を吸っていたでっかいカブト虫を見かけたが、近寄ったら逃げられたそうだ。

 網のようなものを作るべきか。


 熟練度に変化はなし。

 総命数は570となった。


 二日目の朝から昼。


 棺を動かせないなら、最初の考え通り他の部分で工夫しようという話になった。

 まず近くの下草を洞窟の入口前に植え替えて、目立たないようカモフラージュしてみた。


 洞窟の入り口はちょっとした山……いや丘かな。

 違いは詳しくないが、さほど高くはないので丘だろうか。

 えっと、その丘の横っ腹に、こじんまりと開いている。


 丘の斜面の上から蔓草を垂らすと、遠目からでは緑の濃い窪みにしか見えなくなった。

 もっとも吾輩たちの頭頂眼は精度が低いので、人の目を誤魔化せるほどなのかは不安が残るが。


 それと吾輩たちが出入りする以上、その瞬間を目撃される可能性が高い。

 下草も何度も踏みつけていれば、枯れてしまうだろう。 

 まあ、その辺は枯れたら植え直せばいいか。


「頻繁に出入りする場合は、夜間をメインにして。あと周りに気配がないか探ってからだな」

「そうですね。しばらくは夜行性の生き物を狙いますか」

「倒す?」

「草はあんまり踏み倒しちゃダメだぞ、ロクちゃん」


 ニ日目の夕方から夜半。


 五十三番たちは、またも狩りへ出かけた。

 この付近の地図を作っているのだそうだ。


 吾輩は洞窟内部の調査に取り掛かる。

 木の枝を使って、あちこちの壁をほじくり回してみた。


 石がかなり埋まってはいるが、粘土質なので意外と簡単に掘れる。

 これなら横部屋はすぐに作れそうだ。


 ただ問題は掘った土や石をどうすべきかだな。

 洞窟の外に積み上げると居場所を宣伝するようなものだし、川へ流すと水が濁ってバレてしまう。

 

 ついでに棺部屋の入り口そばに、落とし穴も掘ってみた。

 帰ってきたロクちゃんが落ちてしまった。

 怒られた。


 お土産は、トカゲ二匹と大量の薄い木の皮と骨が一山。

 少し離れた場所で、皮が綺麗に剥ける木を見つけたとか。

 骨たちは残念ながら、印持ちではなかった。


 熟練度は片手斧の段階が2になった。色々切ったりしているせいだろう。

 それと新しい技能も出ていた。

 名前は『長柄持ち熟練度』。

 以前、長い棒を持てば両手棍熟練度が出るかなと考察したが、その前段階があったようだ。

 もしかしてサクサク土が掘れたのは、棒扱いが上限に達してたせいもあったのか。


 総命数は578となった。


 三日目の朝から夕方。

 

 五十三番とロクちゃんに、通路横の窪みを掘り返してもらう。

 出てきた土と石は選り分けながら、いったん通路に積み上げることにする。


 吾輩は細い木の皮を三つ編みにしてロープを作る。

 次に出来上がった紐を交差させて、それらしい籠を作ってみた。


 うむ、中々の出来栄えだ。

 木の枝につければ網にもなるし、紐を伸ばして両方につければ天秤棒にもなる。

 ただし強度が心配ではあるが。

 次は木の皮を干してから作ってみるか。


 横穴がある程度大きくなったので、完成した骨の胴体ストックを並べてみた。

 

「うーん、これ見た目がアレですね」

「うむ、どう見ても地下墳墓だな」

「倒す?」

「そうだな、侵入者が腰を抜かしてくれたら成功と言えるな」


 三日目の夜。


 外回り組に籠を持たせて、木の皮の追加と手頃な木の枝を数本、あと片手で持てるサイズの石を数個お願いする。

 洞窟内で取れる石は大きすぎて加工に不向きなのだ。

 

 吾輩は新たな横穴を掘りつつ、洞窟のあちこちに石を積み上げてみた。

 真っ直ぐ奥へ向かえないよう、足止めの障害物のつもりである。


 上から石が落ちてくる仕掛けも考えたが、今の手持ちの材料では厳しいので諦める。

 掘り出した土が多くなったので作業を中断していたら、五十三番たちが帰ってきた。


 お土産は両手いっぱいの木の皮に、二十本ほどの枝。

 それと手頃な石たち。


「川原に行ったら、真っ黒な鳥がいましたよ。石を投げたら、逃げられちゃいましたけどね」 

「ふむ、なら良いものを作ってやろう」


 まず肘くらいまでの長さの枝を用意する。

 出来れば先端が枝分かれしているのが良い。

 あとは二股の部分に、縄を左右交互に巻きつけて網状にするだけだ。 

 

「ほら、投石棒の完成だ」 

「おお、ありがとうございます」

「まあ、有り合わせだから長持ちはしないだろうが、当面はそれで良いだろう」


 木の皮が乾けば、次は回転運動で威力倍増な投石紐を作ってやろう。


「うん、どうした? ロクちゃん」

「……倒す?」

「ロクちゃんも何か欲しいみたいですね」

「ふむ、そのために石を取ってきてもらったのだよ。これで武器を作ってやるぞ」

「倒す!」


 頭をナデナデしてもらった。


 長柄持ち熟練度が2に上がった。

 総命数は、暇を見て捕まえたネズミ二匹とコウモリ一匹を足して582。


 四日目。


 明るい内に地形をよく確認したいと、朝早くから五十三番とロクちゃんは出掛けてしまった。

 吾輩は石の加工に取り掛かるとする。


 石を削ろうとぶつけてみたら、黒い方の石が綺麗に割れた。

 割れ口が異常に鋭い。


 どうやら黒曜石という種類のようだ。

 上流に火山でもあるのだろう。


 これは有り難いなと思い、早速加工してみる。

 おお、何という鋭利な断面だ。


 楽しくて、ついつい割り過ぎてしまった。

 形の良いものを棺の縁に並べて、他の石屑は落とし穴の底に撒いておく。


 試しに木の枝を削ってみた。

 むむ、簡単に石が埋まるな。


 という訳で、黒曜石のナイフの完成である。

 もっとも手頃な長さの枝に、先の尖った黒曜石を埋め込んだだけであるが。

 滑り止めに木の皮を柄に巻いたり、刃の加工もしたいところだが、まずはこれで良いだろう。

 

 ナイフを使って、今度は石斧の柄を削る。

 うむ、いい感じで出来たな。


 次は刃作りだ。

 こっちは意外と難しい。

 大きめの刃を作りたいのだが、なかなか狙った通りに割れてくれない。


 じっくりと打点を見極めて、ここぞという場所を軽く叩く。

 よし、上手くいった!


 ふと顔をあげると、棺に文字が増えていた。

 『見抜き熟練度 段階1』。


 なんと。

 意外なところから、技能が生まれたようだ。

 

 嬉しさにあまり黒曜石を叩きまくっていたら、あっという間になくなってしまった。

 元からあまり数がなかったせいもあるが、これは調子に乗りすぎたか。


 つい石斧だけではなく槍や矢も作れるかも考えて、張り切ったのが原因のようだ。

 うむむ、あれこれしなければと焦って、仕事が杜撰になるのは頂けないな。


 やるべきことは、一つ一つ丁寧にこなして行こう。

 ここ数日の周囲の様子から見て、今すぐ慌てる必要もないようだしな。

 

 五十三番たちは、まだ帰ってこないか。

 留守にするのは不味い気もするが、ちょっと川原に行って石を拾ってくるだけだし、警戒しすぎて時間を徒に浪費するのもよくないな。


 一応、地面に行き先と目的を書いてから、黒曜石のナイフを持って外へ出る。

 何かに出会うこともなく、川のせせらぎが聞こえてくる場所まで辿り着けた。


 良さげな木の枝があれば持って帰ろうと考えつつ、川原へ目を向けた吾輩は思わず動きを止める。



 そこに居たのは、水に戯れる子供たちの群れであった。

 


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