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第二十二話 技能チェック


 まずは能力から。


 燃えるトンボから獲得した火の精霊憑きだが、これは対侵入者戦で大活躍だったな。

 あの時の火を操った感触から思うに、精霊とは燃焼という現象がまずあって、それに影響を与える媒体的な存在だと考えられる。


 自ら発火するのではなく、燃焼促進剤といえば分かりやすいか。

 つまり種火さえあれば、ある程度自在に火を操れるということで、この先使える場面はかなり多そうだ。

 これは最優先で伸ばしていきたい。


 次は腕力増強。

 位置的に見て、人間の能力はこれか。

 ふむむ。ロクちゃんが小男に打ち負けなかったり、気を失った子供を簡単に背負えたりと、骨の体は意外と力強いなと思ってはいたが。

 ただちょっと期待外れ感も大きい。腕の力が上がるだけとは……。


「落ち込むのはまだ早いですよ、吾輩先輩」


 う、がっかりが、顔に出てしまっていたか。


「大男が棺に落ちた時に現れたのは腕力増強だけでしたけど、兄貴分の時は一気に四つも増えてましたし」

「ほほう、あの状況でよく見てたな。うん、四つ?」


 増えた能力は、腕力増強だけしかなかったような。


「はい、技能・・が四つ増えました」


 五十三番の言葉に、慌てて技能欄へ視線を戻す。

 なんだ……これは?


「刃物捌き熟練度が上限に達しているだと。それに短剣熟練度? これが上位に当たるのか。って、本当に?!」

「ええ、事実です。二人目を回収した時に、その技能たちがいきなり現れました」


 五十三番の返答に、吾輩はあんぐりと口を開く。


「…………人の魂だと、技能までも獲得できるのか」

「どうも、そうらしいですね」


 さらっと言われたが、これはとても凄いことだぞ!

 わざわざ努力して技術を磨かなくても、強そうな奴を棺へ放り込めば事足りてしまう。

 うん? でも強い人間の魂を回収するためには、まずそれなりに鍛える必要があるか。

 

 いやそれなら最初は普通の人間から初めて、じょじょに強い奴へ挑めば良い。

 だがそう順序よく、巡り会える可能性は低いだろう。

 やはりある程度以上は、自前で鍛錬しなくてはならないか。

 でも便利であることには、代わりはない。


「なるほど、あの小男は短剣技能を持っていたので、その下位の刃物捌きが最大値になったというわけか」

「と思いますね。考えてみれば、僕らはいわば人の基本形みたいなものですし、不思議はないかもしれません」

「ふむ。そう言われると納得できるな。ところで、この抜き足と差し足というのは何だ?」

「歩き方だと思いますよ。足の持ち上げ方が抜き足、置き方が差し足ですね」


 またも合点がいく。

 あんだけガチャガチャ小うるさかった骨の足音が、妙に静かになったのは技能のおかげだったのか。


「あとは身かわし技能もあの小男か。つくづく当たりを引いたようだな」


 確かにあんだけ攻撃を躱せるのだから、技能としてあって当然か。

 本当によく勝てたなとも思える。

  

「火の精霊術も認知されたか。あと一番下の片手斧熟練度は、もしかして吾輩か?」

「だと思います。ただ少し気になったのですが、吾輩先輩が斧を使ったのって日が暮れる前ですか?」

「ああ、そうだな。作業は日中に済ませたよ。それがどうかしたのか?」

「実は片手斧の文字が浮かんだのは、日が沈んでからなんです。つまり――」

「認識されるのに時間差があったのか……、いや、棒扱い熟練度はすぐに現れたな。となると距離か?」

「そうなりますかね」


 うむむむ。

 吾輩たちは離れていても棺と繋がっている認識だったが、そうなる色々話が変わってくるな。

 これもキチンと調べておかないと、あとで困った事態になりそうだ。


「耐性は刺突が上がっているのみか。これはロクちゃんの頑張りか」

「倒す?」

「いや倒さないよ。むしろ倒されなかったロクちゃんはエラいって話だな」


 呼ばれたと思ったのか、ロクちゃんが骨積み木を派手に崩して駆け寄ってくる。

 健闘を褒め称える証として、その真っ白な頭骨を撫ででやる。

 なぜかロクちゃんも、吾輩の頭を撫で返してくる。

 これは……かなり、気持ち良いものだな。


「ロクちゃんのナデナデは、かなりハマりますよね」


 五十三番もやってもらったのか。しょうがない奴だな。

 さて気を取り直して、最後は技か。


「ふむふむ……念糸? これは粘糸が消えて変化したのか」

「たぶん、コレですよ、コレ」


 ヒョイとまたも頭骨を持ち上げる五十三番。

 ああ、魂の力を糸状にして、胴体とつなげているアレか。


「……蜘蛛に襲われて死にかけたのも、無駄じゃなかったんだな」

「はい、これまでの全部、無駄なことなんて一つもなかったんですよ。ちゃんと積み重ねてきた結果です」


 肋骨を無駄に張る五十三番に、小さく鼻を鳴らした吾輩は棺へ視線を戻した。

 いい感じな風に語っているが、運が良かっただけの場面も結構あったぞ。


「三回斬りというのは?」

「あの兄貴分が骨の首を落とした技ですね。ちょうど三回分、短剣を振ってましたし」

「ほーん、よく見てたな」


 早すぎて回数なんぞ、さっぱり分からなかったぞ。

 こまめに棺をチェックしてたりと、五十三番はなかなか目端の利く奴だ。


「さてと。今回の戦闘で、大幅に力を増すことが出来たのはよく分かった。だが問題はこの先だ」


 五十三番とロクちゃんへ顔を向けながら、吾輩は言葉を続ける。


「侵入者の二人は何とか仕留めることは出来たが、また新手が来る可能性は非常に高い。さらに小規模だが、かなり近くに人の集落があることも判明した」

「戦力的にそこを落として、手っ取り早く僕たちを強化するのはどうでしょう?」

「倒す!」

「いや確かに吾輩たちは一気に強くなれたと思えるが、余りにも数の不利が否めない。それとここを空にするのも、得策とは思えないな」

「黒棺様を持っていかれたら、その時点で終わりですからね」

「倒す?」

「うーん、倒すのはもうちょっと後だな。まずは守りを固めたいと思う」


 もう少し自我持ちの骨がいれば話は変わっていたのだが、それを言っても仕方がないな。


「具体的には、洞窟の入り口を何かで隠して分かり難くしようかと。あとは罠とか仕掛けてみるか」

 

 これは始終、警戒していた小男の様子で思いついたものだ。


「それと並行して生き物の魂を重点的に集めて、吾輩たちの強化を進めようと思う。火の精霊の憑きや末端再生は早急に、段階3まで上げておきたい」

「道具作りも重要ですね。あるとないとじゃ効率が全然変わってきますから」

「そうだな。ではロクちゃんと五十三番は二骨組となって、生き物の収集、骨の回収、道具の材料集めに取り掛かってくれ。吾輩は洞窟の偽装を重点的に進めることにしよう」

「分かりました!」

「倒す!」


 そう、吾輩たちは骨。

 食事も要らず、不眠不休で動き続けられるのだ。

 人などあっという間に、追いつき追い越してみせるだろう。 



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