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第二話 残数



 吾輩の聴覚の世界が開けてから、またしばらく時が流れた。

 そして相変わらず、吾輩は逆さまのままだった。

 

 最近では、もうすっかりこの状態に慣れてしまった気がする。

 とはいえ、胴体を取り戻したいという望みが消えてしまった訳でもない。


 むしろ希望は、前よりも高まっていた。

 理由はとても簡単で、人工物の文字が増えていたせいだ。


 増えた文字は二つ。

 これと最初の『反響定位』を加えての三つが、現在の吾輩たちが使える『能力』であり『技能』だった。


 まずは反響定位。

 これはすでに段階2になっている。

 

 おかげで、音の像もかなりクッキリと浮かぶようになった。

 範囲自体は広がった感じはないので、そこは固定なのかもしれない。


 この能力は三十三番目が、人工物に生き物を入れた瞬間、吾輩に備わった感覚だ。

 大健闘してくれた三十三番目だが、残念ながらその後の消息は不明となってしまった。

 しかし、それから数体のお仲間が同じように生き物を捕まえてきてくれたので、ちょっとばかり仕組みが明らかになったという訳だ。


 感覚が強化されたので、色々と分かったことも多い。

 人工物は長方形の形をしており、中から骨が湧いてくるので、吾輩はこれを"棺"と呼ぶことにした。


 生き物、魂を持つ存在は、"棺"に入れられると消滅してしまう。

 そして"棺"の側面に文字が浮かび上がり、吾輩たちはその能力が使えるようになる。


 なぜ、そうなるのか?

 というのは、サッパリ分からない。

 

 ただ少しばかり考えてみたが、吾輩たち骨は魂を集めろと命令されて目を覚ます。

 魂とは生きた存在だ。

 

 生きた存在を"棺"に入れると、能力が現れる。

 これはつまり能力と魂は同じような物か、もしくはその一部だということだろうか。


 生き物は生まれついてや経験によって、様々に生き延びる術を獲得している。

 それらは魂を形成する一部、性質と呼ばれるモノだ。


 

 魂、すなわち生き物の性質を集めること。



 創造主に課せられた吾輩たちの使命とは、これではないだろうか。

 そして集められた生き物の性質は『能力』に変換されて、吾輩たちに反映される仕組みではないかと。

 結果、能力を獲得した骨たちは、さらにより多くの魂を集めやすくなるという感じか。


 その辺りは、ちょいちょい獲物を持ち帰ってくるお仲間が増えたことで証明できる。

 どうやら反響定位のおかげで聴覚が格段に上がり、正確に攻撃を当てられるようになったのが大きいようだ。


 そして皮肉なことに一番の被害者は、その能力の元の持ち主であるコウモリたちだった。

 この小さな生き物こそが、棺に捧げられた最初の魂であり、吾輩らに反響定位を授けてくれた先生でもある。


 ここはどうやら洞窟の中らしく、コウモリは結構たくさん生息しているらしい。

 もうすでに十匹以上のコウモリの魂が、棺に捧げられていた。


 ところでコウモリの能力だが、今のところ反響定位しか出現していない。

 なら同じ種類の生き物をたくさん捧げても意味がないかと思ってしまうが、どっこいそうでもない。


 『段階』が上がるのだ。

 コウモリの場合は十匹目で、反響定位の後ろの付いていた段階の数字が2に変わった。

 今、十四匹なので、あと六匹で3段階になれば十単位で上昇する計算となる。

 

 今から楽しみで仕方ない。


 そうそう、骨たちの生き物捕獲数が上がったのは、反響定位以外にもう一つ要因があった。

 それが『棒扱い熟練度』だ。


 これはいつの間にか、棺に浮かんでいた文字だ。 

 思い当たる節は、一つだけある。


 吾輩の太ももの骨だ。


 あれを振り回すことで、骨たちに武器という概念が出来たのではないだろうか。

 魂から授かったのではなく学習して覚えたことなので、吾輩はこれを『技能』と呼ぶことにした。 


 棒扱い熟練度の段階は、なんともう3に達している。

 こっちはどうやら振り回していれば、自然と上がる仕組みのようだ。


 そんなに振り回せるほど太ももの骨が、あるのだろうか?

 実はあるのだ。


 すでに四十近い吾輩のお仲間が、帰らぬ骨となっていた。


 無理もない。

 そもそも吾輩たちは筋肉がないので、動きが超鈍いのだ。

 というか、どうやって動いてるかさえ不明なレベルだし。


 あと同じく肉や腱の守りがないので、超もろいというのもある。

 それは尻もちで全壊した吾輩が、身をもって証明済みだ。

 

 さらにどうやらこの洞窟には、コウモリ以上に強い存在が生息している可能性が高い。

 たぶん骨たちは、そいつに返り討ちにあっているのだろう。


 その証拠が三つ目の技能、『頭突き』であった。

 これも気がついたら、棺の側面に浮かんでいた文字だ。

 ただしこちらの段階は0のままである。


 この頭突きに関してはまだハッキリと断言できないが、ちょっとした仮説を考えてみた。

 自然に浮かんだ文字ならば、学習によって習得した技能のはずだ。


 普通に考えて、棒扱いというのは骨棍棒を使った戦い方を指すのだと思う。

 だから熟練度という文字が付く扱いに納得できる。


 じゃあ頭突きは、頭を使った戦い方か?

 熟練していくと頭が鉄のように固くなるとか?

 いやいや、あり得んでしょ。

 

 ならばもっと単純に考えて、これは技そのものじゃないかと。

 種類が違うものだから、熟練度という表記がつかないのも頷ける。 


 けれども先ほど述べたように、吾輩たちは非常に衝撃に弱い。

 なので自分から進んで、頭をぶつけるような真似をするとは考えにくい。


 つまりこれは逆に頭突きをされたことで、その攻撃方法を技として学んだのではないだろうか。

 そう考えると段階が、ずっと0のままなのも辻褄が合う。


 たぶんその頭突き使いに、骨たちは一方的にやられているに違いない。

 なんとも恐ろしい話だ。


 だがしかし、吾輩たちもじょじょに強くなりつつはある。

 その謎の強敵も、こうやって能力や技能が向上していけば、いつかは倒せるに違いない。

 

 そしてそのうち、吾輩の胴体を復活させる能力が……。

 夢はどんどこ膨らんでいく。



 でも現実は、そう甘くはない。


 

 実は棺の側面の右下に、とても小さく浮かんでいる文字がまだあったのだ。

 それは正確には、588と刻まれた数字であった。


 関節を軋ませながら、新たな骨が棺から立ち上がる。

 その途端、数字は578へ減ってしまった。



 どうやら吾輩たちは、有限であるようだ。



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