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第十四話 成長する影



 犬騒ぎから一週間が経過した。



 その間に生まれた骨は一体。

 新たな骨が持ち帰ったのは、コウモリ三匹とネズミ四匹、そしてムカデ二匹である。

 魂数は16の加算と10の減算で、差し引き合計469。


 順調この上ない感じである。

 ――ガチッ!


 現在、せっせとお仕事に勤しんでくれている骨であるが、注目すべき部分が二つほどある。

 一つ目は、獲物にコウモリやネズミが混じっている点。


 六十九番目の時は、その辺りの魂数が少ない生き物はスルーされていた。

 てっきり捕まえる手間と得られる成果を差し引いた上で無視してるのかと思ったが、どうやらそうでもないようだ。

 推測ではあるが、もしかしたら六十九番目は単に選り好みをしていた……?


 二つ目は、武器の二つ持ちがどうやら後輩の骨にも伝わっているようであると。

 断言できないのは部屋に戻ってくる時の骨の姿が、片手に骨棍棒、もう片手に獲物のスタイルだからである。


 だが棺に浮かぶ二つ持ちの段階は、今現在4になっている。

 ――ガチッ!

 段階が上がっている以上、二つ持ちを使用しているのは間違いない。

 となると戦ってる最中は両手に武器を持ち、獲物を行動不能に追い込んでから持ち替えているのだろう。

  

 口に咥えて持ち運べば、わざわざ武器を手放さずに済むのだが、それよりも回収を優先しているのか。

 何にせよ、六十九番目のやり方とは違っているようだ。


 この違いの部分こそが、六十九番目の個性だったのかもしれない。

 どうも変革者である六十九番目は、通常の骨よりも闘争心が高い傾向にあったようだ。

 その証拠が、今もこの部屋に鳴り響く――ガチッ!


「僕もこんな感じでした?」

「いや、一週間目だと、もっと大人しくなっていたよ」

「吾輩先輩の時は、どうだったんですか?」

「ふむ。うろ覚えだが、歯を鳴らした記憶はないな。そもそも顎が動かせたのも、自意識に目覚めてしばらく経ってからだったしな」

「そうなると、やっぱりこの子は特別なんですね」


 ――ガチッ!

 

 さっきからガチガチと小五月蝿いのは、ポン骨仲間入りたての六十九番目が定期的に歯を打ち合わせているからだ。

 ちなみに骨会話で通訳した場合、「倒す!」の一言である。

 ちゃんと言いきれてないので、「ギャオス!」って感じだが。


 倒されて頭だけになっているくせに、やる気が満ち溢れているのは随分と頼もしい。

 正直、ちょっとやかましいけど。


「あ、そう言えば、また増えてますね」

「もしかして影の話か?」

「はい、今はだいたい3くらいです」 


 先日、野犬との戦闘の際に判定技能を上回る影の大きさを計測した件だが、これに関して五十三番が面白い仮説を持ち出してきた。

 彼曰く、影とは魂の器の大きさであると同時に、生命力を表しているのはないかと。

 そしてピンチになった際、生き抜こうとする力が器から溢れてしまうのではないかとも。 


 なるほど、面白い着眼点だ。

 言うなれば、火事場の馬鹿力的な感じだろうか。

 確かにあの時、親犬が見せた子供を助けようとする執念は、並々ならぬものがあった。

 振り返れば、トカゲの死んだふりからの尻尾攻撃も、同じようなモノだったのかもしれない。


 そして今、野犬に敗れた六十九番目にも、同様の力の発現が観測できているのだそうだ。

 頭部だけになった六十九番目の影の大きさは、吾輩と同じく1である。


 だが時折、歯をガチガチ言わせながら、影が倍以上に膨れ上がる時があるらしい。

 五十三番の目撃証言によると、頭部の影は地面に倒れたままの六十九番の身体の方へ伸びていこうとしているのだとか。

 もしかしたら、復活しようと頑張っているのかもしれない。


「仮に五十三番君の説が正しいとしたら、気になる点がいくつか出てくるな」

「どの辺りにですか? 吾輩先輩」

「一つ目は、強さ判定が難しくなるという点だ。魂数だけで判断すると、手痛い反撃を喰らう恐れがある」

「それはあり得ますね。魂数が最小だからってネズミを侮ったら、超反撃されたりする感じですね」

「うむ。それこそ窮鼠骨を齧るだな」

「他の点はなんですか?」

「……二つ目は、呼称の問題だ」

「呼び名?」

「ああ、生命力だと、死者である吾輩たちにもあるのは少々表現がおかしい。なので呼び名を、魂力にしてはどうだろうか?」

「それは良いですね。でも魂数とちょっと間違えそうな気もしますが」

「なら魂数は、生命の数だから命数でどうだろう」

「うん、それで良いんじゃないですか」


 という訳で、さっくりと新しい名前は決まった。

 まあ、さほど重要なものでもないしな。


 だらだらと会話してると、出稼ぎに行ってくれていた骨が戻ってきた。

 左手にぶら下げていた瀕死のムカデを、ポイッと棺に投げ入れる。

 もうすっかり安定して、獲物を持ち帰るようになったな。

 これまで積み重ねてきた努力が、ようやく実を結んだ感じか。

 

 そう言えばムカデの命数は3だったが、よく見ると影の色がかなり薄くなっていた。

 これはボコボコにされて、魂力が減ってしまったということだろうか。

 だが棺に加算された数字も3だったので、黒棺様は獲物の状態は問わないようだ。

 となると、もしや……?

 うむむ、早く自由に動けるようになりたいものだ。


 棺にムカデを投げ込んだ骨は、足取りを緩める素振りもなく真っ直ぐ部屋の外へと向かう。

 よしよし、その調子で頑張ってくれたまえ。

 なにせ吾輩たちは、急いでもっと強くなる必要が出てきたからな。

 

 能力に臭気選別が加わったおかげなのか、骨たちの生き物発見率は一気に向上した。

 だが獲物を持ち帰ってくるペースは、以前よりも明らかに少し落ちていた。


 これはコウモリの時と同じく、洞窟周囲の生き物をある程度狩り尽くしてしまったせいだと思える。

 そのため、骨たちは洞窟からどんどん移動範囲を広げているようだ。


 横を通り過ぎる骨に対し、吾輩は穴しか残っていない鼻の部分をひく付かせた。

 骨の体から様々な匂い溢れ出して、吾輩の頭の中に広がって渦巻く。


 湿った土。

 腐った葉っぱ。

 澄んだ水の香り。


 雑多な匂いの中に、それは微かに入り混じっていた。

 人であった頃を思い起こさせる懐かしい匂い。



 それは、何かを燃やしたあとの灰の匂いであった。


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