第十三話 ポン骨三人衆
「さてと、反省会を始めますか」
その前に、まずは状況把握からだな。
激闘に敗れた六十九番目の体は、棺の傍らに横たわっていた。
耐性のおかげか、胴体部分の骨はほぼ綺麗に形を保ってはいる。
もっとも肝心の頭部がないので、今の段階ではただのオブジェと変わりないが。
六十九番目の頭は、棺の影に転がり込んで横向けになっているようだ。
吾輩の位置からでは見えないのだが、五十三番が大きな損傷はないと教えてくれた。
「反応はどうだ?」
「呆然としてる感じですかね。全く動いてません」
「そうか。あっという間にやられたから、ショックがでかいんだろうな」
「はやく立ち直ってほしいところですね」
犬の姿はとうの昔に消えている。
戻ってくる気配も全くない。
棺に消えたほうの子供に固執しない点は、野生の非情さを感じさせる。
こういう駄目になったら即切り替えられる精神は、大いに学んでいきたいところだ。
では、次に敗因を。
「これはずばり、コウモリだな」
「そうなんですか? 吾輩先輩」
「うむ、見たまえ、五十三番君」
指がないので、代わりに顎で指し示す。
部屋の床には、黒い水溜りのような場所がそこかしこにあった。
最初見た時に、変色した土だと思っていた奴だ。
しかもよく見れば、棺の縁にも黒い点々が付いていた。
端っこの部分などは、べっとりと大きな染みになっている。
む、まさか……吾輩が足を滑らせた要因って……。
「もしかして糞ですか?」
「うっ、うむ。この部屋が物凄く臭いのは、コウモリどものウンコのせいだな」
あとネズミのウンコも、ちょっとは混じってるかもしれない。
まあコウモリやネズミも生き物だし、排泄物が出るのも仕方のない話だ。
「確かに滅茶苦茶、臭かったですしね」
「その臭いのせいで、吾輩たちが放心してしまったのが、今回の失態だったというわけだよ」
ここで棺に加わった新たな能力を紹介しよう。
野犬がもたらしてくれた能力名は、ずばり『臭気選別』。
そう、とうとう吾輩たちは、嗅覚をも手に入れたのである。
その臭気選別だが、すっかり鼻が慣れたのか、今はさほど臭さを感じていない。
どうも匂いをかぎ分けようとする時だけ、敏感な嗅覚が発揮できる仕組みのようだ。
頭頂眼を得た時もそうだったが、感覚が生まれる際の調整が問題だと思える。
新しい器官が備わることで、情報が一気に流れ込み容量をオーバーしてしまうといった感じか。
ただ、これは視覚の時に注意しておこうと思ったが、ぶっちゃけこちら側では対処のしようがないな。
せいぜい新しい生き物を棺に入れる時に、周囲に何かしらの脅威がないか確認するくらいか。
そう考えると、今回のケースは非常に間が悪かったとしか言いようがない。
あそこで嗅覚以外の能力が来ていたら、親犬ごと棺に放り込める可能性がかなりあった気がする。
つくづく勿体ない事件だった。
ただ救いが、全くないわけでもない。
今後、感覚の刺激過多に振り回される確率は、かなり下がったと言えるだろう。
理由は単純で、残っている未習得の感覚は味覚と皮膚感覚のみだからである。
とはいえ、骨の状態で痛覚なんかを取り戻すと、激痛でのたうち回る気もするがな。
「やはり、何かしらの対策は考えておくべきか」
「吾輩先輩なんて首だけだし、そのままショック死しそうですよね」
「うむむ。出来れば痛覚だけは、戻ってほしくない気もするな」
「いえいえ、痛みを知らなければ、人は成長できませんよ」
果たして吾輩たちを、人に分類して良いものだろうか。
結論を出すには、色々と骨が折れそうな問い掛けだ。
そう、骨だけに!
「ま、反省と対策はこれくらいにして、最後は六十九番の頑張りを確認するとしますか」
お楽しみの棺の側面確認タイムだ。
能力
『反響定位』 段階3
『気配感知』 段階3
『頭頂眼』 段階2
『末端再生』 段階1
『臭気選別』 段階1
技能
『棒扱い熟練度』 段階10
『投げ当て熟練度』 段階7
『骨会話熟練度』 段階3
『判定熟練度』 段階3
『叩き落とし熟練度』段階3
『片手棍熟練度』 段階2
『刃物捌き熟練度』 段階1
特性
『打撃耐性』 段階4
『刺突耐性』 段階3
『圧撃耐性』 段階2
技
『しゃがみ払い』 段階5
『齧る』 段階2
『頭突き』 段階0
『爪引っ掻き』 段階0
『粘糸』 段階0
『体当たり』 段階0
『くちばし突き』 段階0
『毒牙』 段階0
『噛み付き』 段階0
戦闘形態?
『二つ持ち 段階3』
分かりやすくカテゴリーごとに分けてみた。
今回増えたのは、臭気選別と噛み付きか。
匂いをかぎ分けることで、生き物を見つけやすくはなりそうだな。
噛み付きは、六十九番目を倒した野犬のあの動きか。
歯を立てるだけなら簡単に再現できそうではあるが、齧ると別物扱いなのが不可解だな。
後はほとんど変化な――む、判定熟練度が3に上がってるぞ。
六十九番目が持ち帰ってきた獲物を、かかさず判定していた甲斐があったか。
ちゃんと仔犬も判定済みだし。
野犬の魂数は5。
これで合計463となる。
かなり魂数は盛り返せたし、新能力も増えた。
今後の展開は、大いに期待できそうだ。
それにこんな言い方はアレだが、身動きできないポン骨仲間が増えるのは、かなり嬉しかったりもする。
まあ、六十九番目の頭から命令が抜けるのは、まだもう少し先のようだが。
それにしても、気になる点が一つ。
親犬の影が一瞬だけ倍の大きさに膨れ上がったように見えたが、あれは一体何だったのだろうか……?