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第十二話 わんわん大騒動



 意気揚々と生き物を狩りまくってくれた六十九番目のおかげで、魂数は一気に盛り返す結果となった。

 これまでの戦果は、トカゲ十一匹とムカデ五匹。

 59の加算で、現在の合計は466である。

 まさに一人で、骨六体分の働きをしてくれたと言っても過言ではない。


 いやはや、素晴らしい新人が現れてくれたものだ。

 と、逆さま状態で、ほとんど何の役に立ってない吾輩が先輩風を吹かすのもアレであるが。


 魂数だけではなく他の技能もグイグイと伸びており、もう六十九番目には足を向けて寝られない有り難さである。

 ここでいつもの吾輩なら、そもそも向ける足がないなどと宣うところだな。

 ふふ、ふふふふ、それ以前に骨は眠らないのだ!


 すまない、ちょっと気分が高揚しているようだ。

 これまでは信じて送り出した仲間たちが、皆あっさりと消息を絶ってばかりだったので……。


 ホントここまで好調だと、逆にあまり無茶はするなと言いたいほどだ。

 なんなら、たまには無難なネズミやコウモリ辺りで良いんだぞと。


 しかしなぜか六十九番目は、その辺りを完全にスルーしている。

 かといって、強力な相手に挑んでいる素振りもない。


 ちょうど自分が狩れる適切な強さの生き物を、ピンポイントで狙っている感じなのだ。

 なんとも抜群な嗅覚をお持ち――あっ。


 もしかして…………判定か?

 影の大きさで相手の強さをちゃんと判断してから、狩っているのか?

 今までのお仲間の無謀な突撃ぶりを思い返すと、どうもそれが正解のような気がする。


 ああ、なんだ。

 吾輩でも役に立っていたのか。

 ストンと頭の中のつかえが下りる。

 その弾みに、顎が落ちて軽く音を立てた。


 思わず立ててしまった吾輩の歯音に被せるように、五十三番が小さく歯を鳴らしてくれた。

 うむ、ありがとう。


 しみじみとした空気に浸っていると、なんだか洞窟の入口付近から騒がしい物音が聞こえてくる。

 六十九番目が帰ってきたようだが、どうにも気配が多い。


 何事かと待ち構える吾輩たちの前に現れたのは、毛玉っぽいものを携えた六十九番目と、それに追いすがる四本足の存在であった。

 猛々しく吠える声や棍棒が振り回される音が、天井や壁に反射して洞窟内に響き渡る。


「カチィ(なっ、なんだ?)」

「カチリ(犬……ですかね?)」

 

 五十三番の冷静な受け答えに、ちょっと落ち着いた吾輩は改めて状況を確認する。

 

 後退りながら部屋へ入ってきたのは、一匹の仔犬を手に持ち、もう一匹を口元からぶら下げた六十九番目だった。

 仔犬たちは小さく鳴き声を上げているが、がっちり首根っこを押さえ込まれて逃げ出せないようだ。


 その声に応えて、大きな犬が唸り声を発しながら牙を剥く。

 犬の体高は、優に六十九番目の大腿骨の半ば近くまで達していた。

 薄黒く汚れた毛並みからして野犬であろう。

 身を低くして、今にも六十九番目に飛びかかりそうな雰囲気だ。

 

 様子から察するに、仔犬たちを捕まえて棺に入れようとする六十九番目を、親犬が懸命に阻止しようと頑張っている感じか。


 油断なく腰を落とし、骨棍棒を握った右手を前に突き出しながら、六十九番目は棺へにじり寄っていく。

 流石に武器が一本しかない上に仔犬を咥えたままで、素早そうな母犬と戦うのは不利と判断したのだろう。

  

 だが、親犬も必死のようだ。

 威嚇の吠え声をさらに大きくして、六十九番目の動きを牽制する。

 

 対峙する二体を見ながら、五十三番がカチリと肋骨の投げ骨刃を外した。

 援護する気だな。

 なら、吾輩も何か――よし、判定!


 親犬の影の大きさは…………ふっ、たったの5か。


 六十九番目の半分ではないか。

 これは勝ったな。


 じりじりと下がる六十九番目。 

 その口元と手元で、哀れに鳴き続ける二匹の仔犬。

 

 助けを呼ぶ子らの姿に親犬は我を忘れたのか、猛然と部屋の中へ踏み込んでくる。

 無防備な後ろ姿が晒された瞬間、吾輩は小さく歯ぎしりの合図を送った。


 五十三番の左手が勢いよく振り下ろされ、投げ骨刃が鋭く空を裂いて親犬へ襲い掛かる。

 だが寸前で、親犬はその身を大きく跳ね上げた。


 く、野生の勘という奴か!

 背後からの攻撃をかわすとは――小癪なマネを。 


 空振りとなった投げ骨刃は、地面へ当たって砂を小さく巻き上げる。

 ダメージを与えることは叶わなかったが、本来の目的は果たせたので良しとしよう。

   

 親犬の注意が逸れた短い間を、六十九番目はバッチリ捉えていた。

 さっと左手を持ち上げ、仔犬の一匹を棺目掛けて放り投げる。  


 仔犬は空中を歩くように足をばたつかせながら、棺の中へ吸い込まれるように姿を消した。

 よし、まずは一匹。


 って、なんだこれ!

 く……くぅ…………臭いぞぉぉぉおおおおおお!!!!


 は、鼻がもげる。

 あががががががが。

 

 凄まじい臭いが、頭の中に押し寄せて溢れかえる。

 こんな……こんな臭い場所に、吾輩たちはずっと居たのか!

 全然、気付かなかったぞ…………。


 ああ、糞!

 臭すぎて何も考えられない。

 って、危ない!

 

 仔犬を咥えたままヨロヨロとよろめいていた六十九番目を、親犬が見逃すはずもない。 

 身構えたと思ったその時、親犬はすでに跳躍していた。


 咄嗟に、右手の骨棍棒を振り下ろす六十九番目。

 その一瞬、犬の身体を覆う影が大きく膨れ上がったのを、吾輩はしっかりと見届けた。

 

 空中で器用に身を捩る親犬。

 その身体ギリギリの位置を、骨棍棒が通過する。

 空振りとなったせいで、六十九番目の体勢が大きく崩れた。


 何が起こったのかを理解する暇もなく、次の瞬間、六十九番目の首の骨は親犬の顎によって鮮やかに噛み砕かれていた。

 

 頭部が胴体から離れ、仔犬ごと地面に落下する。

 すかさず親犬が駆け寄り、我が子を咥え上げた。

 ブンブンと首を振って六十九番目の頭を払い落とした親犬は、そのまま脇目も振らず部屋の外へと飛び出した。

 

 そして残された六十九番目の胴体が、一呼吸置いてゆっくりと倒れ込む。

 悪臭に苦しむ吾輩たちは、呆然としたまま地面にぶつかる骨の音を聞いていた。


 

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