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第十一話 驚異の新人



 謎の技能を出現させた六十九番目であるが、半日も立たずに戻ってきた。

 両の手に骨棍棒をそれぞれ持って、ぐったりとしたトカゲを口からぶら下げて。


 新人の快進撃はそこで終わらない。

 夜遅く帰ってきた六十九番目が次に咥えていたのは、半分千切れたかけた大きなムカデであった。


 これには吾輩も、驚きのあまり顎が外れそうになった。

 

 さらに次の日には、またもトカゲと。

 その次の日には、ムカデとトカゲを一緒にと。

 おかげで能力や魂数が一気に増えて、嬉しい歯ぎしりが止まらない吾輩である。


 まず新しく棺の生贄に参入したムカデであるが、これは見た目がかなり強烈だった。

 頭部と足が赤く、胴体は真黒。

 うねうねと数十本の足を一斉にくねらせて、六十九番目の身体にしがみ付こうとする姿は虫嫌いなら気絶しそうな眺めであった。


 大きさはトカゲよりもやや小さいので、成人男性の腕一本ほどだろうか。

 魂数は3。そして肝心の棺に浮かんだ文字は『末端再生』。

 

 ついに来た。

 末端というには手足の指辺りだろうから、頭部しか残っていない吾輩では今のところ効果はなさそうだ。

 だが、再生という能力自体が非常に重要なのだ。

 失われた部位を治せる生き物がいるなら、いずれ本体全てを元通りに出来る生き物が出てきてもおかしくはない。

 もしくは末端再生を鍛えていけば、段階によっては胴体部分まで再生できる可能性もあり得る。


 これは吾輩たちが体を取り戻すのに、一歩、いや五歩くらい進んだと言えるだろう。

 ついでだが、『毒牙』という技も増えていた。

 こっちは段階0なので、単に喰らっただけっぽいな。

 六十九番目の体に目立った変色や変形がなかったので、やはり骨だけの吾輩たちには毒は効かないようだ。


 技能にも変化があった。

 『棒扱い熟練度』の段階が10になり、文字自体が灰色に変わったのだ。

 これは上限に達したと考えるべきだろうか。

 

 そしてさらに灰色の文字の下に、新たに『片手棍熟練度 段階1』の文字が現れた。

 意味から察するに、片手で持てる棍棒の熟練度ということなのか。

 

 ここから考えられることは、棒扱いと片手棍は別の技能であり、たまたま習得したという可能性がその一。

 もう一つは棒扱い技能が段階10となったので、その上位である片手棍技能が現れたという可能性その二だ。

 

 偶然で名前が似たような技能を覚える理由は薄いので、ここは可能性その二を推し進めていこう。

 ただその場合、ちょっとした疑問が浮かぶ。

 以前に『尻尾払い』から『しゃがみ払い』へ変化した際に、元となった『尻尾払い』の文字は消えてしまった。

 なら上位である片手棍技能が出た時点で、下位の棒扱い技能は消えても不思議ではない。


 そこで注目したいのが、"片手"という名称だ。

 片手があるなら、当然ここは両手で持つ棍棒武器の区分もあるのだろう。

 つまりは『両手棍熟練度』という技能も、あってしかるべきなのだ。


 となると、棒扱い技能と片手棍技能は上下関係ではなく、派生した関係ではないかという結論に至る。

 まあこれは実際に長い棒を振り回せば、すぐに解決する疑問なので今は保留しておこう。

 

 そして増えた技能は、それだけではなかった。

 防御系っぽいのも、こっそり追加されていたのだ。

 名前は『叩き落とし熟練度』。

 

 もう字面を見ただけで、どんな動きか簡単に浮かんできそうな技能だ。

 正直、黒棺様のネーミングセンスは分かり易くて良いんだが、そのまんま過ぎる気がしないでもない。


 まあ、この技能のおかげで、六十九番目の生還率が上がっているのだろう。

 あとは『しゃがみ払い』が5に上がったのと、『齧る』が2になっていたくらいかな。

 たぶん両手が塞がっているので、得物を口に咥えて運んでくるせいだと思う、齧るの段階アップは。


 その両手が塞がる理由、これが今回の最大の謎である。

 六十九番目が産み出した技能『二つ持ち』であるが、これはすでに段階3になっていた。


 これも字面と六十九番目の姿を見れば、一目瞭然な技能である。

 うーん、武器を二つ持てば、強さ増し増しといった感じなんだろうか。


 確かに遠隔攻撃手段は失ったが、棒を二つ持てば片方を防御に回すことが出来る。

 片手で相手の攻撃を弾き、もう片手で殴りつけているのだろう。

 成果が出ている以上、素晴らしい戦闘スタイルだと言える。



 問題は、果たしてこれは何なのかという疑問であった。



 今までの観察で、棺の左上に浮かぶ文字には一定の分類があることが判明していた。

 一番上は棺に捧げられた生き物の性質、『能力』たちである。

 これらは感覚系が多く、同じ種の生き物を捧げることで能力の段階を上げることが出来る。


 その下に並ぶのは、熟練度の言葉がつく『技能』だ。

 こっちは主に身体を使った動作がメインで、何かの挙動が切っ掛けになって習得するようだ。

 同じ動作を繰り返して行けば段階は上昇するが、単一の対象では上がりにくい特徴がある。 


 『技能』の下には、耐性の言葉がついた文字列が続いている。

 改めて考えると耐性と熟練度は同じ身体的成長ではあるが、中身も鍛え方も別物だ。

 良い機会なので、攻撃に耐えることで上昇するこれらを『特性』と呼ぶことにしよう。 


 最後は『技』だ。

 吾輩のお仲間たちが生き物に倒された場合、その方法を学んでいるのだろう。

 それをヒントに骨たちが、自分たちの体に合った動きとして活用すれば段階が上がる仕組みといった感じか。


 これら四つの分類は、全て棺側面の左上に順次表示されている。

 しかも段階が上がると勝手に、並び替えてくれる便利機能付きだ。


 だがしかし『二つ持ち』という文字だけは、なぜか右上にあるのだ。

 明らかに、これだけ場所が違う。

 

 自然発生なので、まず能力ではないと考えられる。

 同様に何かをされた素振りもないので、生き物の技ではないと判断出来る。

 となると消去法で技能しかないのだが、熟練度や耐性という表記がついていない。

 

 ……うーん、謎だ。

 考えられる候補としては、六十九番目にしか使えない固有形態だとか?

 今の段階では、情報が少なすぎて断言できないな。


 ま、一つだけ明らかに分かることがある。

 

「カチカチ(六十九番目は、確実に変革者だな)」

「カッチン(僕もそう思いますよ、吾輩先輩)」



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