奪い合い
「お姉さんは僕のなのー」
「はっ、そんなの誰が決めたんだよ」
「意味わかんないし、この人は誰のもんでもないでしょ」
はい、何時も通りのやり取りが続いているこの場所は私の家です。
保護者が居ないこの三人は私が引き取る事になり、同居中です。
私に弟が出来たのは嬉しいよ、うん。
ただね、頭上で喧嘩するのやめようか?気迫が伝わって来る。
「お、落ち着こうか」
……落ち着ける訳無いか。
凄い勢いで私の方を向いた三人は声を揃えてじゃあ誰がいいのかと聞いてきた。
弟達にランキングをつけられる訳無いじゃないか……
「皆好きかグフォ」
エイト、腹パンやめよう。私じゃ無かったら気絶してるよ。
「お、ね、え、さ、ん~?」
うん、目が笑ってないね。悪寒が走ったよ。
「……」
ルイ、無言の圧やめよう。私は君のそれが一番怖い。
「あのね、男として異性として恋愛としてっ、誰が好きなのか聞いてるの」
「え」
そんなこと考えたことも……無くは無いけどそれは妄想と言いますか、何と言いますか。
顎に手を当てて考えているとその様子に三人は溜息をつく。
「こうなったら徹底的に惚れさせてやる……」
「もっと強引にしないとか……」
「お姉さんに男の子って事を分からせないと……」
そう呟く三人に恐怖を覚えたのは言うまでも無い。
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「お姉さん、起きて」
もう少し夢の中に居たい。もう少し、もう少しで倒せる。
「お姉さん、いい加減に起きないと何されても知らないよ」
耳元で声が聞こえると体が反応して起き上がる。
「っ……何だユアか、って何で私のベッドにイルノカナ?」
「お姉さんが鈍いから体に分からせようと思って」
何処で覚えたのかそんな言葉を発して近づいて来るユアを男の子だと意識すると顔に熱を感じていき……
その瞬間、いきなりドアが大きな音を立てて開く。
「……あんた、もう少し危機感持ったら?」
呆れた様に言うルイが朝ご飯、と一言言って部屋から出て行った。
この状況を助けてくれても良いと思う。
ご飯作ってくれるからそんな事言わないけどっ。
「ユア、行こうか」
「はーい……」
少しふて腐れた様にそう言うがちゃんと私の後をついて来てくれる所を見て頭を撫でる。
可愛い。
「……子供扱い」
そう言っているユアの声は私には聞こえなかった。
朝ご飯になると、またアレが始まる……と思ったが今日は静かだ。
いや、無言。
何時もと違う反応に逆に困惑してしまい自分から話しはじめる。
「え、と……良い天気だねぇ」
「……だから何だよ」
痛い所をついてくるな、エイトは。
ちょっと黙ってよう。
なんて考えていたら朝ご飯は食べ切ってしまい手を合わせてご馳走様と皆で言う。
エイトが一番に部屋を出ていこうとしたので思わず手を掴むと、私の方を向き押し倒して来る……え?
「俺に構ってほしいのか。そうかそうか、そうと言ってくれりゃあたっぷり遊んでやったのによ……」
そう言うエイトは何処か怖い笑みを浮かべている。
おう……羞恥心。
何せ、青春という物を全て化学兵器に捧げてきたので恋愛経験が無く、ただただされるがままになるんですよ。
あの頃のウブなエイトクンは何処へ。
「ストップ。何で人の目の前で襲ってんのか聞いていい?」
怖いよ、ルイ。……圧力。
私とエイトの前で仁王立ちしているルイは真顔で聞いてくる。
「あ?隠れてりゃあ良いのかよ」
「まず質問に答えてくんない」
一番怖いこの二人の喧嘩。
何故って?仲良しな人達が喧嘩し出したらなんか怖くない?
「ていうかさぁ、何でエイトは自分の良い方に捉えるかな?お子ちゃまなんだよねぇ」
あ"ー、ユアも何故巻き込まれに行く。
こうなったら手が付けられない……私は逃げますよ。
忍び足で音も立てずに逃げたはずなのに行く手を阻まれる。
「お姉さん、僕が一番だよね」
「俺だよなぁ?」
「こんな人達より付き合いが長い俺がいいよ」
「ひぃ……」
結局、こうなるのね。
この先も長そうだと実感しながらも四人で過ごすこれからを楽しみにしている自分もいた。