生存率 【恋春side】
今日は夏樹とのデートの日。
外はとっても暑い。セミがうるさい位に鳴いていて、夏だなぁって感じる。
「恋春~。夏樹君が来たわよ~」
「は~い」
どうしよう。
私の心の中はそんな気持ちで覆い尽くされている。今のまま夏樹に会っても心配されるだけ。夏樹が私はポーカーフェイスができないって言ってたから私が隠しても夏樹はすぐに気付いちゃうんだろうな。
そんなことをだらだらと考えながら私は階段を下りた。
リビングに行くと夏樹が椅子に座っていた。
「夏樹、またせてごめんね」
「ダイジョブだよ。それより、今日はどうするの?」
「…そうだね。何しようか」
「あれ?決めてなかったの」
「あっうん。ごめんね」
「恋春、向日葵畑はどうかしら。母さんね、よく父さんと行ってたのよ」
お母さんは洗い物をしながら言った。お父さんと行ったのか。
「ほら、あそこならバスで行けるし、そんなに人いないでしょ」
そう言うとお母さんは洗い物をしている手を止めて私のところによって来て小声でこう言った。
「夏樹君にちゃんと相談しなさい。あなたの彼氏なんだから相談しないと可哀想よ」
お母さんはすぐに洗い物に戻ってしまった。
「恋春、向日葵畑でいい?」
「うんいいよ。じゃあ行こう」
私はそう言ってリビングを出た。夏樹はお母さんに何か言ってから来た。私は遠くにいたから聞こえなかったけど、夏樹が私の様子が変だって気付いてないといいけど…。
「恋春、なんか俺に隠してない?」
バスに揺られながら夏樹は言った。
やっぱり気付いてたんだ。
「夏樹だって私に隠してる事あるでしょ?」
「あるけど…」
「それとおんなじ。ちゃんと話すから」
私はそれだけ言った。大丈夫。夏樹にはちゃんと話すから。だって、私の大好きな彼氏だから。
「うわぁ〜!すごくない?こんな景色、今まで見たことない!」
「すごいな。向日葵畑がある事は知ってたけど、来たことなかったからな」
私たちは目の前の向日葵畑を見て感動した。
一面に向日葵が咲いているのだ。太陽に向かって力強く。
「あっ、あそこに座ろっ!」
私は夏樹の手を引いてベンチへと走った。
お母さんが言ってたとおり向日葵畑には人が誰もいなかった。貸し切りみたいだ。
「ねえ恋春、そろそろ話してくれる?…俺には話せないこと…?」
ベンチに座ると夏樹がそう言った。
まだ、心の準備がてきてない。
「夏樹の隠し事って何?」
私は心の準備ができてないからといってそう投げかけた。私って最低だよな。
「…中学の頃、彼女がいたこと」
「え?初耳!」
「言ってないからな。でも、キスすらしなかったな」
「ふ〜ん」
なぜかキスの所を強調してるのが気になったけど、夏樹の過去なんてどうでもいい。だって、私は今の夏樹を見ていたいから。
「俺は、恋春が運命の相手だと思ってる」
「夏樹も運命とか言うんだね」
「俺は言ったよ。次は恋春の番」
私は迷った。夏樹に本当に打ち明けていいのか。まだ、心の準備ができてないのもそうだけど、怖かった。夏樹が優しすぎるから。
「………あのね、ドナーが、見つかったの」
「え…?」
「私、手術するかもしれないの。手術はほぼの確率で成功するんだって。1年生存率が約80%で10年生存率が約45%なんだって。だから手術しても完治するわけじゃないんだって。それに、手術が成功しても私の体に適応しなきゃ死んじゃうんだって」
「恋春はどうしようと思ってるの…?」
夏樹の顔は暗くなっていた。私はこんな顔をさせるために夏樹と付き合ってるんじゃない!私は夏樹の笑顔の方が見たいのに。…やっぱり夏樹は私といたら笑顔になんてなれないのかな?
「…わからない。手術して1週間で死ぬかもしれない。でも、10年生きられるのかもしれない。…このままって選択もある。そうすれば手術後、1週間で死ぬ心配もないし」
「………」
「でもね、私はもっと長く生きたい。ずっと、夏樹の明日を見つめたい。…だけど、私は夏樹の意見も聞きたいの。まだ、手術をする決心がついたわけじゃないし」
夏樹はずっと私の顔を見つめてる。ドキドキが止まらない。心臓が悪いんじゃない。私はやっぱり夏樹のことが好きなんだ。だって、見つめられてるだけでこんなにドキドキしてるんだもん。
「俺は、恋春に生きてほしい。生きる希望を見失いでほしい。俺だってこの先のずっと、恋春の明日を見ていたいよ。でも、それは俺が決めることじゃない。…恋春自身でこれからのこと、決めな。恋春の人生なんだから」
私の言って欲しいことを夏樹はいつも言ってくれる。もう、泣いちゃいそうだよ。
「私、考えてみる」
「俺は恋春がどういう道を選んでも賛成するつもりだよ。あっでも、自殺はなしな?」
「大丈夫。自殺はしないよ」
夏樹は本当に優しい。だから、夏樹が傷つかない方法があれば1番なんだけどな。