俺と恋春
君が俺に私には明日がないと言った。
でも、俺は君の明日を見つめて、君と生きて行きたい。
「恋春帰るぞ」
俺は目の前にいる彼女の名前を呼ぶ。彼女の名前を呼ぶのは、ちょっとむずがゆい。
付き合い始めて今日で2ヶ月。一昨日からお互いのことを名前で呼ぶことになった。
「夏樹、ごめんね。先生に呼ばれてるんだ。だから、先に帰ってていいよ?」
彼女は両手を合わせてごめんのポーズをしている。それをちょっと可愛いと思ってしまう俺はどうかしてるのだろうか。
「じゃあ、図書館で待ってる」
「30分以上かかると思うよ?」
恋春は優しいからこうなると引かない。頑固なんだろうな。
「別にいいよ。恋春がいいって言っても、俺は勝手に待ってるから」
「もう〜 夏樹ったら。わかった。じゃあ、なるべく早く終わらせるね」
「うん、わかった」
恋春は案外簡単に引いた。いつもなら引かないのに。
まぁ、そんなの気分だろう。
「もう行くね。また後で」
「うん」
恋春はにこっと笑ってから俺に背を向けて行った。俺は恋春の背中が小さくなってから図書館へと足を進めた。
「失礼しま〜す」
俺が奥のテーブルで本を読んでいると恋春の声がした。
「夏樹、またせてごめんね」
本を読んでいたから気づかなかったけど、図書館に来てからもう50分も経っている。
「先生がなかなか帰してくれなくてさ〜」
「全然いいよ。俺は本読んでたし。それにしても大変だったね」
「本当にそうだよ」
最近、恋春が先生に呼ばれることが多い。恋春は手伝いって言ってるけど多分嘘。
恋春は嘘をつくと耳を触るくせがある。
先生に呼ばれてるのを手伝いって言った時、恋春は耳を触っていたのを俺は見逃さなかった。
なんで俺に嘘をつくのか、それがわからない。俺は恋春の彼氏なのに。
「じゃあ、そろそろ帰る?」
「うん!」
帰り道。何気無い会話。聞こえてくる人の声。アスファルトの道。恋春と一緒に歩く道。
俺は恋春と歩く帰り道が好きだ。
「ねぇ、夏樹」
「ん?」
「私たちが付き合い始めた時のこと覚えてる?」
「ちゃんと覚えてるよ」
あれは春の終わり。この地方では桜が散り始める頃。桜の舞う屋上で、俺が恋春に告白した。恋春は顔を真っ赤にしながら「よろしくお願いします」と言ってくれた。俺の顔も多分、真っ赤だっただろう。
「…私ね、夏樹と付き合う前から夏樹のこと、好きだったんだよ」
「え?」
初耳だったから俺は思わず足を止めた。
すると、恋春も足を止め、振り向いた。恋春の顔が夕日に照らされている。綺麗だ。そう思った。
「入学式の日、夏樹が私の落としたハンカチを拾ってくれたでしょ?その時私、夏樹に一目惚れしちゃったんだ。でも、夏樹は女子にすごく人気だったし、私なんかって思ってたから今、夏樹と付き合えてすごく嬉しい」
俺は照れを隠すために歩き出した。恋春も俺のちょっと後ろを歩いた。
「なんか照れるな。…俺も入学式の日に恋春のこと好きになった。だからそう言ってもらえて嬉しい」
「…夏樹。大好きだよ」
なんか今日の恋春の様子が変な気がする。
「俺も大好きだよ…」
なんかいつもと違う。いつもはこんなこと恋春は言わない。デートの時とかは言うけど、帰り道なんかでは言ったことがない。
その後すぐに恋春の家に着いたから俺はその理由を聞けなかった。
「夏樹ありがとう。じゃあまたね」
「えっ、あっうん」
恋春が『また明日』と言わなかった。恋春はいつも『また明日』と言っていた。理由を聞くと『また明日』と言うとまた明日会えると思えるから安心できると言っていた。恋春が『また明日』と言わないのはこれが初めてだ。
やっぱり何かあったんだ。
「恋春、悩んで」
「またねっ」
恋春は俺の言葉を遮るように家に入って行ってしまった。
次の日も、次の日も、恋春は学校に来なかった…。
はじめまして すずねです。
今回、初投稿となります。
私もまだ中学生で小説を投稿しているので、まだまだ手探りです。
それでも頑張って書いているので、これからよろしくお願いします。