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幕間 下準備

◇◆◇ 魔王連合


『狂乱』魔王が主催している会談に招かざる客がやってきた。

まるで我が城のように威風堂々と闊歩し、驚く魔王達をわき目も振らずに中央へと進み、胸を反らして軽快な声で語り掛ける。


「やぁやぁ、久しぶりじゃな。戦場以来か? 知った顔がいまだに生きているところを見るとホッとするのじゃ」


『泡爆』魔王がやってきた。

死んでいたと思っていた人物が生きていた。


「はぁ? 何で生きてんのよ」

「むぅ、しぶといのぅ」

「ッカ!! 運だけはまだ残ってたみたいだな。何しに来た戦争狂が、こっちは相手するほど暇じゃねぇんだよ」


『泡爆』魔王はニヤニヤと笑う。


「おぉ、『狂乱』。相変わらず真面な事を言うのじゃ。その名が泣いてるぞ?」

「ッハ!! くだらねぇお喋りをしに来たのか? 話なら後で聞いてやるからこの場から失せろ」

「なに、こちらもそんなに暇ではないのじゃ。でなければこの場で宣戦布告をしておる」


その言葉に魔王たちの空気が張り詰める。

しかし、言葉を聞く限りでは、戦争をしに来たわけではなさそうではあるが、その言葉を本気にしている者はいない。次の一言で戦争を始めるような奴だ。

その時、パチンと泡が弾ける音がした。


「どうしたのじゃ『蘇生』? 珍しく挑発するじゃないか。嬉しくて反撃してしまいそうになる」


『蘇生』魔王を知る者からすれば、敵意をにじませるていることに驚いた。


「.......胸に手を当てて考えろ。僕の所に馬鹿をけしかけやがって」


あぁ、と得心が言ったように納得した。


「誤解じゃ『蘇生』。ほんの手土産としてお前に死をプレゼントしようと思っただけなのじゃ。最近死ねんそうじゃないか。多様性と量で2回ぐらいは死ねると思っていたんだが、死ねんかったか?」

「......死ねなかったけど」

「最近の奴はだらしないのじゃ。よし、次はワシが全力で殺すから大目に見てくれ」

「......まぁ、そういう事なら。いいか」


パン! と手を叩き仕切り直す。


「さて、誤解も解けた所で本題に入ろう。全員そろって......はいないようじゃが、『蝕淫』はどうしたのじゃ?」

「ッカ!! 人族領で玩具の品定め中だ」

「おぉ、そうか。相も変わらず物好きな奴じゃな。相手される奴には同情するのじゃ。ではアイツは追って話すとして」


体から泡が溢れる。

即座に臨戦態勢を整える魔王達だが、泡爆魔王は深く笑って言葉をつづける。


「落ち着くのじゃ。今回は血を流すようなことをしに来たわけではないのじゃ。お前たちに休戦を持ちかけるために来たのじゃ」


とんでもない言葉が飛び出て来た。

理由があろうが無かろうが戦争を吹っ掛ける奴が......何度休戦や停戦を持ちかけても袖にしきた泡爆魔王が自ら休戦を申し込んだのだ。


「飲むというのなら、それ相応の手土産もあるのじゃ」

「ッハ!! 休戦を持ち掛けだけでなく手土産もあるとは、大盤振る舞いじゃねぇか。だが、気軽に承諾は出来ねぇな」

「気味が悪いわね」

「あまりにも過ぎると疑いたくなるのう」

「......」


泡爆はニタリと口角を上げる。

喰いついた、と判断した。


「分かるぞ。わしと戯れる事が出来なくなり、退屈な日々が来ると思っておるのじゃろ。だが、安心するのじゃ。短い間だけじゃ。心配せんでもいい」


それについては残念だと各々感じたが、休戦が短期間である事が信憑性の高さを伺わせた。

これは、ハッキリ言って垂涎の条件だ。

短期間とはいえ『泡爆』に対する人員も金も時間も大幅に削減できると言う事だ。

各々が抱く思惑を一気に推し進める事が出来る。

すぐに承諾したくなるが、ここは堪える。

これは向こうが提案した事である。選択の意思はこちら側に委ねられている。

出来るだけ有利にもっと好条件を引き出したい。

魔王達は画策する。


それを感じ取った泡爆魔王は、自身が生み出した泡に向かい小さな声を吹き込んだ。

吹き込み終えるとそれを操作し、各々の魔王の元へ飛ばしてとパチンとはじけさせた。


魔王達の顔色と場の空気が変わった。


「ッカ!! 上等じゃねぇか。どういう意味か分かっていってんだろうな」

「何で知ってるのよ」

「参ったのう」

「......それから先は慎重に言葉を選べよ」


それは各々の急所となりうる話題で、破滅と進展を内包している内容であった。

本来なら無理矢理にでも争うための火種や脅し、恩を売るための交渉材料にするつもりだった情報ではあるが、今回は休戦を結ばせるために開示した。

それは、何が何でも飲ませてやるという裏返しでもある。


『泡爆』魔王は、とある事情のために内政を整える時間が欲しかった。

いずれ来るであろう人物がいつでも来れるように、話した内容以上の待遇を準備しておきたかった。


「休戦の条件はいたってシンプルなのじゃ。お前らの気になっている情報の開示と物をくれてやるから、ワシが望むものを寄越すのじゃ!」


誰かが何かを言う前に、すぐさま要求を述べる。


「『狂乱』! お前の所は酒が上手かったな。上等な酒を上から順番に寄越すのじゃ。『孤毒』は珍味や美味い食材が豊富じゃったな。上等なものから順に寄越すのじゃ。『凝固』お前の所は中々センスのいい調度品があったじゃろう。上等なものから順に寄越すのじゃ。『蘇生』は少し人脈を借りるのじゃ。『蝕淫』は、色んな種類のペットがいたのじゃったな。華やかさや賑やかしのためにも、いくつか借りる事にするのじゃ」


魔王達は顔に出さないまでも驚いた。提示されたその条件はハッキリ言って破格である。

無茶苦茶な要求を提示されても断れないほどの急所を知られたのだ。ある程度の事は覚悟していたが、これはデメリットですらない。

むしろ、断る事の方がデメリットであるぐらいだ。

『泡爆』には、それほどまでの何かがあるのか、ただの気紛れか。

どちらにせよ異論はなかった。

魔王達は、この後の話し合いで決める細やかな条件や擦り合わせに思考が傾いていた。

ただ一名を除いては。


「......信じられるか」


いつも死んだように突っ伏している『蘇生』魔王が起き上がる。

それほどまでにデリケートな問題に触れていたようだ。


「ッカ!! やるなら両方とも外に行け。俺の城で暴れたらぶっ飛ばすぞ」


その言葉に従い立ち上がろうとする『蘇生』魔王。


「うーむ。そうじゃな。信じられんか。まぁ仕方ない。先程の詫びついでといった感じでサービスしてやろう」


泡の中から一振りの短槍を取り出す。

立ち上がろうとする『蘇生』に向けてその槍で心臓に突き刺した。


『蘇生』が大きく痙攣すると、ゴボリと黒い液体を口から吐き出した。


「どうじゃ?」


グリグリと傷口を広げるように短槍を動かす。

やがて短槍が粉々に砕けると、『蘇生』にむかって問いかけた。


「何回死ねた?」

「......2回」

「言った通りじゃろ? これをあともう一本用意しておる。どうする?」

「......分かった。こちらも誤解だった。引き受けるよ。それよりもこれは一体何?」

「企業秘密じゃ」


クスクスと小さく笑った。

これは人属領のダンジョンで見つけた物の劣化コピー。

複製するのに莫大な費用が掛かり、オリジナルに比べれば鼻で笑うほどにお粗末ではあるが、『蘇生』を2度殺すほどの力を持っていた。


結果は予想以上。

ここへ来た目的の一つは満足のいく結果で終える事が出来た。


そして、ここからが本命の総仕上げに入る。

他の魔王達も提案に異論はなさそうではあるがここからが大変であることは重々承知している。


「さて、この条件で異論があるなら聞くのじゃ。......なさそうじゃな。では、細かい所でも詰めていくのじゃ」


ここからは王達の舌戦が繰り広げられる。

己が利をより大きく獲得するための血を流さない戦争が始まった。



◇◆◇とある職員



気に入らない。

その一言に尽きた。

たかが劣人種に論功行賞をやるとは信じられない。

確かにこれまでの評価が高いのは事実であり、達成率も裏金を渡しているのではと思うほど高い。

だが、内容は誰もがやれそうなものばかりであり、難しい内容は必ず高レベルの同行者がいた。

今回も評価は高いが、たかだかポーターの仕事での範疇であり、特別なことはしていない。


「どいつもこいつも頭が狂ったのか」


不満は積もるが、決定内容に口を出すほど地位があるわけでも力があるわけでも無い。

目についたリストを確認する。

劣人種に送られる論功行賞の内容は『宝物と高級な酒を数点』と書き込まれていた。


「劣人種にくれてやる物では無いだろうが」


ただ、気に入らなかった。

受賞できなかった者がこの劣人種未満の仕事ぶりだというのだろうか。命を落とした者はこの劣人種よりも役に立てなかったと言う事なのだろうか。

何にしてもこの特別待遇は他の者に示しがつかない。

100歩譲って行ったとしてもこの進呈物は異常である。

愚かしいと言っていいだろう。


「本当に何を考えているんだ」


その時ふと思い出した。

『脱落者』事件での事後処理。【蒼花】が見つけた盗品の品物。

論功行賞を無くす事は出来ないが、内容を書き換える位は出来る。

丁度処理にも困っていた。それに劣人種であるならこれぐらいが妥当で丁度いいだろう。

処理も出来て一石二鳥である。


「ふん、これでも充分過ぎるがな」


書かれた内容を無断で修正し、とある項目を書き加えた。



◇◆◇ 慨嘆の大森林



楔を外した奴を探していた。それは、勇者である可能性が非常に高かった。

それだけであったのなら問題はなかった。

問題なのは、楔の革鎧をつけた女だった。

勇者によって飛ばされた近くを念入りに調査した結果。厄介な因子を内包している可能性が浮上した。

無理から生じた歪みの因子。白い炎。

痕跡は小さい。まだ未覚醒ではあるが潰すのは確定だ。

ただ、裏付けのために原形を保たないといけないと言う事だ。


「面倒だな。近々旦那が人属領に行くみたいだし、ついでに頼みたいんだけど、旦那はギリギリまで枠を超えていないか見極めようとするからな。時間切れになるだろうな。そもそも、こういう領分はアイツの仕事だろうが。上手くいってないからって押し付けやがって」


だが、文句は言っても方がないと言う事は分かっている。

他の奴等では影響力が強すぎて入念な準備をしないと表に出る事すら難しい。

唯一、楽に動くことができるのは俺だけなのだ。

余計な事をしなければ、人属領にすら入る事すらできる。

だが、裏を返せば余計な事は出来ないと言う事でもある。

多少時間はかかるが足を使って探す方が長い目で見れば効率がいい。


「いつ帰れるのやら」


そんな不満を愚痴っていると、少し地面が揺れた。

地震か? と歩みを止めた瞬間、地面がせり上がり、行く手を阻む壁となった。


「なんだ?」


その土壁から突然刃が飛び出した。

慌てて躱すも、手の甲を切り裂かれる。

攻撃を受けた。

体制を整えるよりも早く、地面を這うような魔法が放たれおり、土壁ごと粉砕するような鉄槌が頭上から見えた。


「うぜぇな!!」


何処からともなく巨大な剣が現れて、それらの攻撃を防ぐ。

そして、柄を掴み振り上げると土壁を粉砕し、鉄槌を押しのける。

舞い上がる土煙の向こうに人影が見えた。


「うむ!! やはりこの程度では無理か!!」

「楽はさせて貰えませんね」

「ッチ。手ごたえはあったんだが、浅かったか」

「段取り通りやってくれ。いきなり突っ込むな」

「あ、合わせるのが大変だった」


次手を打つわけでも無く、余裕をもって談笑している。

何かの勘違いで襲ったと言う事ではなさそうだ。

腕に刺さっている髪ほどにも細い針を引き抜く。


土煙を目隠しに眼球を正確に狙ってきやがった。


恐らく毒が塗られているだろうが、体には届いてはいない。

驚くべきは反撃を許さない速攻と連撃。

ただ者では無い事は確実だが、目の前の人物達に強烈な違和感を持つ。

何処の誰かは知らないはずなのに、知っているような感覚。

扱う魔法や、戦い方、何気ない癖や間の取り方。

記憶にある姿は違っており、話し声すら違うというのにその人物達に心当たりがあった。


「コルトル......ドーマ、タラタクトにアイデン? まさかとは思うがホノロゥか?」


その言葉に獣人が反応し答える。


「私の名前まで知っているとは驚いた」


その言葉に呆れてしまい、変な笑いが出てしまう。


「これは、これは、人属領の英雄達とは驚いた。お会いできて光栄だが、迷って化けたと言う事ではないんだろう? 死人が何してる」

「そんなの決まってるぅ」


そういうと、巨体のドーマの後ろからひょっこりと顔を出す。


「あぁ、恨めしい、と出てきたのだよぅ」

「い、いや。恨めしくはない」

「うむ!! 特段の未練もないしな!!」


現れた童女の姿をみて顔を顰める。


「何が目的だ。エヴェリー=フォロン=トロント」

「いやだな。馴れ馴れしい。余所余所しく『人形使い』って言えよ」


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