8話
「ちょっと!!どういうことなのよ!!」
ドンとテーブル叩き抗議する。
今は個室にいる。
最初は、協力者申請のため受付カウンターにいたが、フレアが騒いで暴れるので個室に移動させらてしまった。
なぜフレアが荒れているのかというと、どうやら十席から外されてしまうらしい。
「今から説明いたしますので、まずは落ち着いてください。何か飲まれますか?」
そうして説明を促すのは見た目年上の事務員さんだ。
とても冷静で落ち着いた雰囲気を纏っている。
こういう対処になれているようだ。
「いらないわ! キチンと納得できる話なんでしょうね!!」
フレアは物凄く怒っている。
まぁ、当然だなこちらとしても納得できる理由が聞きたいものだ。
こちらもフレアの協力者になれるかどうかの分かれ道だからな。
「では早速、今回フレア様が十席から外される理由を説明いたしましょう。単刀直入に言いますと勇者様達がこの学園に在籍されることが決まったからです」
「なっ.........」
物凄く驚いている。
なるほど、勇者か........なんだっけ?
誰かがそんなことを言ってたような........。
「さらに申しますと、現在の七席以下の人はすべて降格という形になり十席の資格の剥奪となります。本来であるならフレア様の【慨嘆の大森林】での生物調査と魔石回収の功績により本来なら七席への昇格になりますが、残念ながら勇者様の学園在籍により十席の資格剥奪となります」
まるで死刑宣告でも告げられたかのようにフレアの顔から血の気が引いていく。
「お......横暴よ!! いくらなんでも、勇者だろうが国王の息子だろうがここではそんな特別扱いはしないはずよ!!」
声が震え、絞りだすように必死で声を張り上げている。
「ええ、確かに普通に入学されるのなら特別扱いはしません。たとえ国王の推薦であったとしても一般生徒と同じように扱います」
「だったら!!どうして......」
薄々だが察しているのであろう。
最後には俯いて、泣き出してしまいそうである。
「勇者様方がそれに相応しい力と功績を示されたからです」
当たってほしくない予感が的中したのか次に出てくる言葉が出てこない様子だった。
代わりに聞いておくことにする。
「それでどんな功績をあげたんだ?」
「【慨嘆の大森林】を攻略なさいました」
・・・
・・
・
曰く、この世界には様々な人種が住む世界と魔族だけが住む世界とで半分に分かれているそうだ。
その魔族が人種による侵攻を恐れて、4つの楔となるダンジョンを作り長年に渡って侵攻を阻止したそうだ。
その4つの楔となるダンジョンとは
忿懣の焦土
銷魂の聖域
怯懦の湖沼
慨嘆の大森林である。
その4つのダンジョンの一つを勇者達によって解放されたそうだ。
つまり、あのクマはやっぱり関係なかった。
よかった、よかった。
ああ、いや、今はフレアだな。
「まぁ......あれだ、別に死ぬわけじゃないんだから......さあ。また初めからやればいいんじゃないのか?」
先程の事がよほどショックだったのか廊下の隅っこの方で膝を抱え落ち込んでいた。
こちらが声を掛けると少し睨み上げる。
目が少し腫れていることから泣いていたことが伺える。
ここまで落ち込むってことは、それだけ真剣に取り組んできたという証拠だろう。
半端に気持ちがわかるだけにどう接すればいいのかわからない。
「それにだ。勇者がこっちに来て正式な手続きをするまでは一応仮とはいえ七席なんだろう。何とかなると思うぞ」
こちらも様々な説得の末、補欠として協力者にはなれた。
ただ、フレアが十席から外されると無かった事になる。
「........あなたは知らないのよ」
小さくぼそぼそと呟く。
「五席以上は全員化け物クラスよ、凡人との境界線と言ってもいい。私がここまで来るのにどれだけの年月と労力を注ぎ込んだか.........十席から落とされたら、また這い上がるのにどれだけ時間が掛かるのか、あなたは知らないのよ。さらに勇者まで来るっていうんだから........もう無理よ」
また落ち込んで小さくなる。
まるで昔の自分を見ているようだ。
母さんとジジイに遊ばれたあの日。
初めて妹と弟に負けたあの頃。
とても良く似ていた。
妙な親近感がわいてくる。
「本当はね、あなたに助けられたお礼に協力者にするって言ったけど、本当は五席以上に対しての対抗手段として使うつもりだったの。魔力を持っていないのに【慨嘆の大森林】に生きていられる不思議な強さ、あの五席を切り崩すのなら貴方ぐらいの不確定要素じゃないとだめだと思った。でも、ごめんなさいね。あなたを騙すような真似をして、でも、もういいの.......」
心が折れている。
志が高いほど一度折れるとひどい状態になるものだ。
このまま放って置くと、心が腐って死んだような状態になる。
ただ、粉微塵に粉砕していないだけマシだともいえる。
経験者が言うんだ間違いない。
「気にするな。こっちもフレアのコネを利用したとも言えるんだ。見方を変えれば持ちつ持たれつって関係だろう? 悪いと思うようなことじゃない」
実際、利用するだけでは心苦しいので、情報収集が終えるまではフレアの頼みなら多少聞いてもいいかなと思ってたしな。
「それにだ、仮でも七席なら何とかなるじゃないか。ほらさっきも言ってたが七席以下がダメってことは今から急いで六席になればいいんじゃないのか? 五席以上が化け物で難しくても六席なら大丈夫なんじゃないのか?」
「.......それもダメよ。私も考えたけど六席に上がるための功績をあげるには時間が掛かるわ。勇者達が戻ってくるまでなんて不可能よ。.......でも、時間をかけない方法はなくはないわ」
「どんな方法だ?」
一呼吸置き弱々しく呟いた。
「決闘よ、自分の席を賭けての決闘しかないのよ」
ため息のように呟いた。
「だったらそれでいいんじゃないか」
「無理よ」
「なぜだ? もしかして相当強いのか?」
「弱くはないわ、でも強くもない。本来なら彼の実力では六席に座れないわ。彼は、親の権力と人脈、お金の力で今の場所にいるのよ」
「そうか」
「それに単純な実力だけが問題じゃないのよ。決闘で『席』を賭ける場合、両者の同意が必要なのよ。あの彼がその席を賭けて戦うなら、彼が納得する様な物を提示しなくては駄目だし、今の彼には『白老』達がいるもの。私にはその両方どうにかする力はないのよ」
後半の部分だけなら何とかなりそうなんだが.........。
ん?『白老』って確かあのガキの護衛をしていた......ってことは
「六席って、まさかあのガキか?」
「そのガキよ」
すごい偶然だな。
さて、それならば一番の難所は、決闘の同意か....
向こうは、あの爺さんがいるってだけで負けることはないと考えてるなら、こちらが好条件を出すだけで飛びついてきそうだな。
なら何に飛びつくか、だな。
金か? いや金持ちみたいな感じだし、金には困ってないだろう。
名品珍品を蒐集するようなタイプでもなさそうだし.......
軽く会話した感じだと、自己顕示欲が強いタイプかな? 年齢から考えれば、みんなから羨望されるような事が........ふむ。
「なぁフレア、さっきカウンターで出した石みたいな奴が魔石だよな?」
「そうよ」
「大森林でしか取れないのか?」
「取れるわよ。強い魔物に限るけど、大森林なら大体の魔物から取れるわね」
「フレアが提出した石って結構強い奴の石か?」
「そうよ、結構大粒だったでしょ。強い魔物程大きく、稀にだけど色もつくわ」
つまり、この石は強いモンスターを倒した証みたいなものか
ポケットに入れてある、適当な魔石を取り出す。
「なぁフレア、これがあれば決闘の御膳立てができると思うか?」
そういい、親指大の薄緑色の魔石をフレアに見せる。
「.............え!?」
胡乱げな目から光が戻り、今は大きく目を見開き驚いている。
「っこ、これ、これは........なんで!?」
「出所は聞くな。説明が面倒だし、頭がおかしいと思われるぞ」
そういうとフレアは、ッグと口を閉じ小さく頷いた。
まぁ、デカい蛙モドキを倒して手に入れた、と正直に言っても信じてくれないだろうしな。
「これを餌にすれば受けると思うか?」
「.......受けると思う。自己顕示欲を満たすためならお金に糸目をつけない様なやつだから、これほどの魔石なら喉から手を出すほど欲しがると思う」
やっぱりそういうタイプか。
「ほら、フレア」
そういいフレアに向けて魔石を放る。
それをハシッと大げさにキャッチする。
「え? え!? どうして? なんで?」
「自分じゃあ交渉の席に着くこともできそうにないからな。こちらとしても、フレアには六席になってもらわないと困る、終わったらちゃんと返せよ」
「わ.....わかってるわよ!!」
まぁ、捨てようと思っててやつだからあげてもイイのだが素直に貰うタイプじゃなさそうだしな。
貸し借りという事にすれば素直に受け取ると判断した。
「さて、1つ目途がついたところで聞こうか。まだ出来ないと思うか? 『白老』達がいるから無理だと諦めるか?」
そうフレアに聞いた。
「やるわ! チャンスがあるなら、諦めない!!」
目に光が戻り、やる気に満ち溢れている。
その姿がどことなく妹に似ているな、と苦笑した。
・・・・・
・・・・
・・・
やる気に満ちたフレアに手を引かれ、知らないところに連れていかれる。
所々に置かれた検問所を通り、着いた先は小さな闘技場の様な所で、半透明な半円で包まれた場所だった。
管理人らしき人に一言、二言、言葉を交わすと「中に入るわよ!」とフレアに促され中に入っていく。
おぉ、なんか小さな闘技場だな。
軽く100人くらいなら入れそうだ。
「それで? どうしてこんなところに連れてこられたんだ?」
「貴方、武器か何かの用意はある? 今なら準備する時間ぐらいはあるわよ」
「聞けよ」
「そうねまず理由は2つ。恐らく決闘となるとここで戦うことになるからよ」
つまり下見か。
「そして次にあなたの実力を把握しておきたいからよ」
ブンブンと杖を振りながらそう答えた。
「一緒に戦うのか?」
「当然よ、向こうは確実に『白老』達と一緒に戦うわよ。私一人で勝てるなんてうぬぼれてないわ。だからあなたにも協力してもらうわよ、私の協力者なんだから」
「この2人以外で、他はいるのか?」
「いないわよ。私、友達いないもの」
悲しい事実を聞いてしまった。
と言っても、こっちも友達は一人しかいない。
「どれほどの力量があるのか知りたいと?」
「そうよ!」
「弱いと思われてたのか」
「まさか、直で感じたいだけよ。それより武器はいいの? 貸出できるわよ」
「いらない。武器ならここに2つある」
父さんから貰った小太刀と武器屋でもらった短刀の二つである。
だがこの2つを使う出番はないだろう。
「そう」
「具体的なルールとかはどうするんだ?」
「何でもありよ、どちらかが『参った』と言うまでね」
言わせるまで終わらないのか。
面倒だな。
「それで、開始の合図はどうするんだ?」
「開始の合図? 何言ってるの。もう始まってるわよ!!【フレイ 」
「だよな」
「っな」
そういいフレアが何かを言い終わる前に一足で近づき、優しく抱きしめる。
そのままゆっくりと万力のように締め上げていく。
「.......っぐ......ァ」
腕が、あばら骨が、背骨がゆっくりと悲鳴を上げ軋む音が聞こえだす。
フレアは空気が吸えない苦しみと痛みで呻き声をあげる。
少し残酷な気もするが下手に手を出すと骨が折れる以上の怪我をさせる恐れがある。
出来るだけ怪我をさせないようにするならこれが一番いいと判断した。
あとは、このまま参ったと言うまで締め上げるだけだ。
「......ッ舐めるんじゃなわよ!」
そう言うとフレアの体温が上がり、締め上げる腕を押し返そうとする。
そこでふと思い出す。
そういえばあのクマも似たようなことがあったな。
体に変な模様が浮きだしクマの周りの温度が下がった。
その後、やたら速く強くなっていた。
あれと同じ理屈だろうか?
だけどあんまり意味はないな。
クマほど劇的に強くなったわけでもない。
フレアのわずかな抵抗も意に返すことなく締め上げる。
「ッく.......アァ......」
上がったと思われる体温は温かいと思う程度だし、抵抗する力も綿菓子から麩菓子程度に上がったぐらいだ。
問題ない。
骨が折れない程度のギリギリまで締め続けていると、全身の力が抜けぐったりとする。
気絶したようだ。
さてここからが本番だ。
一度拘束を解き、腰に引っ掛けてあった収納袋を取り出す。
そして気絶したフレアの鼻めがけて水を流し込む。
「.......っぶ.....ゲッホ....ッカ......ケホケホ、やめ.......」
どうやら起きたようだ。
「おはようフレア。早速だがもう一回いくぞ」
そういいまた抱き上げ締め上げようとすると
「まいった!! 私の負けよ!!」
顔を水で濡らし、必死に声を荒げながら降参をした。
よしよし、狙った通りの無傷の決着。
良かった良かった。