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82話


決行日当日。

2度目の攻略。


やる気みなぎるアーシェと全く起きる気配がないハクシと共にダンジョン探索である。

今回は大人数での攻略となる。

仕事の内容は、この広い人工ダンジョンに先行隊が作った中継地点へ補給物資を届けること。

ひたすら運搬する事である。

拠点をを作るための制圧や、維持には関わらない。

特別報酬が出る内容もあるが、こちらも基本的には関わらない方針で行く。


フードを深くかぶり、髪と顔を隠す。


前回は髪の色を見せないために兜のようなモノを被っていたが、ジャンク品に丁度いい物が無かったので、アーシェに貸していたクマの毛皮のコートを使う事にした。

返せと言ったときは、渋っていたが服を買い与える事を伝えると一瞬にして上機嫌になる。

現金な奴だ。


隠したところで、今回の懸念の一つであるメンバー確認に勤しむ。

人の集まっている所を遠目で確認すると、勇者と思しき人物たちを見つけた。

何か統一された装備を着ているが、何というか緊張感に欠けているような気がする。


そして、『蒼花』。

女性のみのパーティと言う事もあり見つけやすかった。

前回の事もあり、争いの火種になりかねないのであまり近づきたくはない。

装備に統一感が無いので顔で判断する。

見たことのあるメンバーもいたが、見たことが無いメンバーもいた。

鉢合わせにならないためにも確認しててよかった。


そして周りとは少し違った空気を纏った集団がいる。

統制された動きと同じ服装から、例の軍人たちで間違いなさそうだ。

ここの角度からでは、指揮を取っている人物の顔が良く見えなかったが、あの服装を着た人物たちに近づかない方がよさそうだな。


一通り、確認できたところで栄養補給。

タヌキに準備させた携帯食を胃袋に詰めていく。

元はタダだ。食えるだけ食っておく。


それにしても、軽く見ただけで前回の人選とは一線を画している事が分かる。

勇者を除き、良い意味で緊張感がある。

全体の空気が締まっている。

タヌキのことだから、多少は大袈裟に言ったと思っていたが本当に優秀そうで、本命に時間が割けそうだ。


そうこうしている内に、どうやら先行部隊がダンジョンへ潜入したようだ。


そして、このタイミングでポーター達が集められ、収納ポーチを大きくしたカバンのような物を渡された。

これで荷物の受け渡しをするようだ。

見た目に反して大量の荷物が収納できて、重さも大分軽減されるそうだ。

ポーチの上位互換の様なものだが、こちらに魔力が無いので取り出しが出来ないのが難点だろう。

取り出す場合はアーシェに協力して貰う他なさそうだ。


「流れを話す。一度しか言わないからな」


要約すると、これを拠点へもっていき、確認印を貰い、不要になったカバンか道中で見つけた負傷者を持って帰る。そして、中身を詰めてまた拠点へもっていくの繰り返しだ。

まぁ、イメージするなら飛脚みたいなものだろう。

違うとするなら、人も運ぶことがある事と道中に変な生き物が襲ってくる事ぐらいか。

そして一番大事だと念押しされたのは、他のポーターが死んだとしてもカバンだけは絶対に届けるように、とのことだ。

カバンを1つでも無くせば連帯責任として報酬から引かれ、無くした者はそれ相応の罰が待っている。


「生きていれば、罰が受けられるな!」


貼り付けたかのような笑顔に、ポーター達はドン引きしていた。


まぁ、寄り道して時間が掛かってもキチンと受け渡しが出来れば問題ないようだ。


「とは言っても、基本的には攻略が終わった道を通るだけだから前線に行ってる奴等よりは安全だ。だが、死ぬときは死ぬがな! 特に......ん?」


説明の途中で拠点が出来たと、報告が届いた。

予想よりも早いペースで攻略が出来ているようで、説明を切り上げこちらもダンジョンへと突入する。



・・・

・・



初めの方は順調だった。

集まった人が優秀だと言う事もあり、順調に奥へと攻略は進み、中継点も問題なく作られ個人的な探索も楽に進んでいた。

奥へと進んでいくにつれ攻略スピードは落ちていっているようだが予想の範囲内であり様々な要因を考えても順調に進んでいる状態と言えた。


違和感を感じたのは荷物の往復が10回を過ぎたころだろう、運搬している他のポータとすれ違う回数が減ったように感じたことだ。

それが確信に変わったのは、運びに行った人数と実際に到着した人数が合わなくなったことだ。

道に迷ったのか道中何かに襲われたのか。

警戒のためポーターに付き添う人数が増え、単独行動を控えるように御達しが届く。


対応としてはいいのだろうが、こちらはいい迷惑だ。

自由に動く事が出来なくなった。


そして、予想通りと言えばいいのか悪い意味で事態が一転する。


荷物を受け取り、拠点まで運んでいる道中。

何度も通っていた道が何かに塞がれていた。

塞がれている時点で問題ではあるのだが、それ以上に道を塞いでいるモノが問題だった。


「お、おい。あれって」


誰かが呟く。

幻覚だと思っての確認なのか、無意識に呟いたのか分からないが、見たままだろう。


「人の.....」


肉の塊が道をふさいでいた。

おおよそ乱雑に引き千切り、叩き付けたかのような肉の塊が道一杯に塞いでおり、こちらにゆっくりと近づいているように見える。


「なぜあれが?」


アーシェが呟く。


「なんか知ってるのか?」


小声で聞き返す。


「はい、試作№C‐011F『フレッシュゴーレム』です。本来ゴーレム系統は金属や無機物で作られるのが主流ですが、これは生きた肉体もしくは直近の死体で作られています。急速に腐敗していく体を保つためにひたすら生きた生物を襲います」

「趣味が悪いな」


ホラーだ。


「同意します。しかし、本当の問題はこれ(・・)に遭遇したのではなく、ここ(・・)で遭遇したことが問題です」

「どういうことだ?」

「本来ならもっと奥に居るはずなのですが、こんな浅い所にいるという事は、少し不味い事になってます」


アーシェが言い終わると同時に後ろから叩き付けるような大きな音が響く。

振り向いてみると、先程まで通っていた道が塞がっている。


「詳しく説明してくれ」

「はい。閉じ込められました」

「それは見ればわかる」

「いえ、ここだけでなく全ての道が封鎖され外に出れないようになっています。出口も、換気口も全てです。想像よりも事態は悪化しているようです」

「何が原因だ?」

「恐らく、というよりも確実に勇者を筆頭にその他の攻略前線組の尽力のせいでしょう。あまりにも優秀過ぎたせいで、生かして捕獲する事は無理だ判断され、強制的に殲滅する方へシフトしたようです」


侵入者が厄介な相手だと判断された場合、比較的倒しやすい囮を使ってダンジョンの奥深くへ誘導し、所定の位置まで誘い込むとすべての出入り口を締め出し、密閉状態で閉じ込める。

そして、本命が囲うように強襲する。

こちらの補給路を断ち、連戦で体力を奪い、本命で押し潰す。

例え倒せなくても時間さえ稼げれば、窒息させることも出来る。


「やっぱり、アイツを仕留めそこなったのが原因か?」

「いえ、おそらくは死んでいるかと思います。リモートではなくオート状態で撃退モードになっていると判断します」

「何でそう思う?」

「シヒロ様相手に『フレッシュゴーレム』は力不足です。それに、確実性を求めるならこんな中途半端な場所は選ばず、もっと奥深くへ誘導してから畳みかけて、窒息を狙うだろうと推測します」

「敵じゃなくてよかったよ」

「これからもずっと味方です。それよりも提案ですが同行者を『フレッシュゴーレム』に食わせて酸素消費を減らす作戦は如何でしょうか?」

「それは最終手段だ。それに出来ればしたくない。一緒に中へ入った事は外部の連中に見られてるから疑われたら終わりだ」

「確かに、その通りですね」

「窒息死はしたくないから換気口ぐらいは開けたいんだが、可能か?」

「少し手間であり、シヒロ様の手を煩わせる事になるとは思いますが、あります」

「穴を掘れとかいうなよ」

「それは最後の手段です。独立した換気口があるので無理矢理手動で開けましょう」

「楽な仕事ってないよな」

「本当にそう思います。あ、来ますよ」


こちらへゆっくりと近づいてきていた肉の塊が、横一線にパックリと割れて、ゆっくりと開く。

それは口を思わせ、肉が千切れ骨が折れる不快な音は気味の悪い生き物の鳴き声を想起させた。

口内に見える白い骨の羅列が巨大な歯列を思わせる。

限界まで大きく口を開けたかと思うと、骨や肉片、何かの破片等さまざまなモノを吐き飛ばす。

慌てて護衛の後ろに隠れてやり過ごす。

硬い物がぶつかる音と悲痛な叫び声がダンジョン内で木霊する。

上手く防げたものもいたが、破片をまともに受けた者もいるようだ。

だが、死人がいなかったのは運が良かったのだろう。


「......おい、無事か?」


盾で防いでくれた護衛が声を掛けてくれるが、その声は酷く濁り重傷を思わせる。

そして、糸が切れるように倒れる。

どうやら飛んできた破片が盾を貫通し鎧にめり込んでいるようだ。

すぐに状態を確認する。

鎧は大きく凹んでいるが貫通はしていない。

だが、骨は折れているだろう。内臓も酷く圧迫しているように見える。

顔色が優れず、小さく呻いている。


「見捨てますか?」

「んー、そうしたいが少し利用できそうだ。生かす方向で考えよう」

「聞いてもよろしいですか?」

「換気口を開くために本来の仕事とは違う事をしないといけない。そのための言い訳と説得力を持たせるためだ」

「なるほど、この人達を助ければ多少変な動きをしても、他の人達を助けるためだと言い訳が出来ますね。実際に助けた実績もあり、証言してくれる人もいれば説得力も増す、と言う事ですか」

「それに、ボーナスも貰えるしな」

「了解しました」

「まぁ、危なくなったら見捨てよう」

「はい」


とりあえず、邪魔にならないように端へと寄せる。

周りの反応を伺うが、何かを諦めたかのような途方に暮れている顔をしている。

あぁ、これはダメだな。

あの肉の塊は誰かに任せて応急手当をしようと思ったが、現状のままだと全滅だ。

生き証人を残すために、どうにかしないといけないようだ。


「少し借りますよ」


返答は出来る状態ではなさそうだが、とりあえず壊れた盾を借りる事にする。

そして、地面に落ちていた折れた剣を持ち、盾を激しく叩きながら注目を集める。


「何をするんですか?」

「鼓舞する」

「全員助けるんですね」

「肉盾と証言者は多い方が良いからな」


軽く咳払いをして、大声を張る。

反響を繰り返しながらも紡ぎだされたその声は良く響き渡る。

その声に、惚けていた者たちの目に光が戻り、力が戻ってくる。

心胆を凍らせる程の恐怖を吹き飛ばし、絶体絶命の死地を忘れさせた。

その言葉によって火が灯る。

落とした武器を拾わせ、もう二度と離さないと思わせるほどに力強く握りしめた。

倒れていたものは立ち上がり、立ち尽くしていたものは再び歩き出した。




その光景に、アーシェは思わず呟いた。


「おぉ......これは酷い」


その紡ぎだされた言葉を一言でいうなら、罵詈雑言である。


「「「「「 ぶち殺してやる!!!! 」」」」」





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