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69話


条件がある。

その言葉にタヌキは救われたかのような満面の笑みを浮かべるが、その条件の内容を確認すると苦笑した。


・依頼に関する手数料は一般的な金額であること。

・どんな形であれ、依頼を受けるか断るかはこちらで判断することが出来ること。

・劣人種であろうと一般的なサービスを受けられること。


内容は最低限必要な事と依頼に関する事だけにした。

知りたい情報等はタヌキとの雑談や自分で調べる事にする。


「えっと、手数料なんですが、一般的と言うのはどういう事でしょうか。はい」


言葉の端から出来るだけ高くしたいという魂胆が見える。

何とも図太い奴である。

その辺は良く分からん。大体どれぐらいだ? と聞く。


「そうですねぇ。...... 17%......ぐらいですかねぇ」


視線が泳ぐ。

そんな暴利があってたまるか。

しかも中途半端な数値にして信憑性を持たせようとしている。

他の奴にも確認してみる。と席を立とうとすると服を引っ張られる。


「最大で、です。一番高い人でそれぐらいで、平均は8%です」


ジッと目を見つめる。


「最近は5%ぐらいだったと思います」


断腸の思いと言った感じである。

交渉次第では、このまま手数料を無しにすることも出来そうだが、利益がなくなると何をしだすか分からない。

取り敢えずは消費税か何かだと思って割り切ることにする。

席に座り、話を続けるよう促す。


「えっと次の『依頼の決定権』ですがモノによっては断れな......そうですね。そういったものは回さないようにしますです。はい」


特に何も言っていないがなにやら深読みしてくれたようだ。


「最後の条件ですが......私を通してくれるなら問題ないのですが、他の人だとちょっと厳しいかもしれませんね」


タヌキを通せば問題ない......か。

選択を絞られている感じがするな。他の奴を通すとまずい事でもあるのだろうか。

一応確認しとくか。


何故?


「んー。ここは本当に実力主義なんですよ。手っ取り早く言わせてもらうなら、弱い人に人権なんてない物だと考えていただければいいです。そういった.......ええと、その、弱者代表っていうのが.......えっと、その......」


魔力がない奴か?


「そうです。はい。すみません。今のところバレていないと思いますが、他の人だとシヒロさんの情報を見てバレてしまう恐れがあります。ここで活動するならば劣......魔力がない事は秘密にされた方がいいです。はい」


分かった。

誤魔化す方法とかは無いのか?


「そうですね。何かスキルが付与されている装備か道具を持っているとだいぶ誤魔化せますね」


根拠は?


「人間には稀に【鑑定】と言うスキルを持っている人がいるじゃないですか。我々獣人には持っている人はいないのですが代わりに【嗅評】という相手の魔力とスキルの個数を把握できるスキルがあるんです。ほとんどの獣人が持ってるんですよ。はい」


凄いな。


「聞くだけだとそう感じますが、レベルが高くないと魔力の匂いしか分からないんですよ。実際私がそうなんですけどね。 おほん。まぁ、スキルのある装備や魔道具は、それ自体に多少ですが魔力がありますので、例え【嗅評】を使われても魔力がないこと自体は誤魔化せます。上手くすれば強いとアピールすることも出来ますよ。はい」


強いとアピールするのはいい事か?


「それは勿論! 侮られたり、蔑まれたりする事は劇的に減りますし、店などのサービス等も上がります。それに異性同性にモテモテですよ!」


へぇー、そいつはいいな。

ところでだ。

自分は、その弱者代表の劣人種だが、蔑まないのか?


前回に比べれば随分と親身に接してくる。

何となく気になったので聞いてみる。

その質問に対して、極度の緊張による顔の強張りと視線の動き、生唾を飲み込む喉の動きによって雄弁に答えていた。

前回と比べれば弱いとは思われなくなったと言う事だろうか。

何を見て判断したのだろうか。


「え......えっと、ですね。その件に関しましては、本当に私の見る目が無かったと言いますか、馬鹿だったと言いますか、申し訳ありませんでした。はい」


そういう意味で聞いたわけではなかったんだが、まぁいいか。

気にしてない。と答えておく。


「ありがとうございます。あのぉ、ところで、専属担当の方は如何でしょうか?」


静々(しずしず)と上目使いで尋ねる。


今のところは嘘をついているようには感じないし、事情を知っているタヌキの方が面倒がなくて都合が良いのも否定しない。

だが、何となく信用する事が出来ないのは先程の胡散臭い説明があったからだろうか。

まぁ、いざとなれば全て放り投げて『逃げる』という究極の選択が出来る。

揺れ動く両天秤の行く末は『短い付き合いならいいだろう』だった。


よろしく。と書いたメモを見せて手を伸ばす。

「ありがとうございます」とテーブルに頭を叩き付ける勢いで頭を下げた。

行き場を失った手を戻す。


噛み合わないな。


バッと顔を上げたタヌキは早速契約書を取り纏め、手渡す。

余計なものが足されたり消されてないか入念に確かめ、サインする。

ここで緊張の糸が緩んだのかソファーにもたれ掛かり、安堵の表情で紅茶を飲むタヌキ。

そういうのは本人がいなくなってからしてくれ。

だが、今のタイミングなら嘘をついて騙す可能性は低いだろう。

この国について軽く教えて貰うか。


「へ? この国についてですか? そういえばまだでしたね」


こほん。と軽く咳払いする。


「ようこそ、この国の名前は『オオトリ』です。人間の勇者が建国し、歴代勇者が愛した獣人の国です。名前の由来は建国した勇者からとったそうですよ。特徴としては世界最多にして最大のダンジョン数を保有し、管理している事ですね。数多あるダンジョンは、勇者が作り出した魔道具【門】のおかげ、一瞬で望みのダンジョンに入る事が出来、戻ってくる事が出来るんですよ。はい」


なるほど、最多で、最大か。

ここがルテルが言っていた場所かな。


「あ、そういえば、獣人全般に言える注意事項と言うか、特徴みたいなものはご存じですか?」


首を横に振る。


「まず、身体能力は人間と比べれば圧倒的に上です。魔力は人間に比べれば低いです。魔法も使えますが身体強化のほうを良く使いますね。そして一番気を付けなくてはならないのは、獣人は圧倒的に女性が強い事です。はい」


そうなのか。

それならこのタヌキも強い部類に入るのかな。

そうには見えないが。

前見た兎みたいなやつの方が強そうだったな。


「先ほども言いましたが、獣人は顕著な程の実力主義、強い事が全てです。故に! 女尊男卑と言う事になります。弱いと言う事は罪です。はい」


ヤレヤレと言った感じで首を振る。


「あぁ、ちなみにですが、強いと言っても色々な種類があります。単純な力や生き残る力は勿論ですが、知力、権力、財力等も入ります。なので、シヒロさんだと魔力がない事がバレない限りは一般人扱いされると思いますよ。もちろん、私もフォローしますが、実際に強いですよね?」


少し考え、そうだな。と肯定しておく。

比べる者によるだろうが、弱くはないだろうと思う。


「それにシヒロさんはたくさん食べますからね。たくさん食べられると言う事は内臓が強いと言う事でもあります。最近開催される大食い大会で優勝すれば、ちょっと自慢できますよ。はい」


ふーむ。食事代を浮かすために出ようかと思っていたが、悪く思われないなら本腰入れようかな。

自信はある。


他に気を付けた方が良い事とかないか?


「そうですね。んー........。あ! そういえば忘れていましたが、ここは人間の冒険者ギルドと少し違うんですよ。ダンジョンのレベルもランクも高いです。なので、Cクラス以上でないとダンジョンに潜れないんですよ。つまり、ここの住人は全員Cクラス以上です。はい」


そうなのか。

ん? ちょっと待て、ここのダンジョンに入れないのか。

それはちょっと困るな。


ダンジョンに入れないのか?


「あぁ、そうでした。シヒロさんランク下がってDランクでしたね。まぁ、救済措置として上げる方法もありますよ。あるんですけど......ちょっと運がなかったというか、時期が悪かったというか」


申し訳なさそうにしているが、口調から全く思っていないのは明白だ。


「残念なことに、ランクアップ用の救済措置が出来ない状態なんですよ。別に意地悪しているわけではないんですが......特殊依頼がですね......ちょっとそちらの方が大変なようで、必要な人材がいないので一時的にストップしている状態なんですね。はい」


この後しばらく言い訳じみた茶番を挟むが、要するにランクアップは難しいと言う事だ。

他の方法もあるにはあるらしいが、とてつもなく危険性ある上にかなりの時間が掛かるようだ。

短期間でランクアップしたいなら、タヌキが推している特殊依頼を受けなければならない。

死んだ前任者の後釜として。


「悪い話ではないんですよ。難しい依頼ではないですし、貰えるお金や実績は普通では考えられない位いいものです。シヒロさんもポーターとしての実績もあるようですし、最低でもすぐにCクラス。上手くすればBクラスです。楽な仕事です。はい」


死傷者が出たのに楽な仕事。

そして2階級特進。

嫌な想像をするなと言うのが無理だろう。


そっと資料を渡される。

内心渋い思いをしながらその資料を眺める。

先程した専属担当の条件通りにこのまま断ることも出来る。

だが、そうすれば何時まで立ってもランクは上がらないだろう。

そうなると、このタヌキと長い付き合いになってしまう。

非常に断り辛い。

このタヌキの悪知恵だろうか。


一先ず、資料だけでも目を通す事にしよう。

内容を見てから判断してもいいだろう。

資料を受け取り内容を追っていく。

こちらがする仕事内容は後方支援ではなく、前線での調査をするようだ。

出て来る魔物や地形の調査。

基本的に戦闘はせず、出来るだけ情報を持ち帰るのが仕事で、危険だと判断すれば現場の判断で戻っていい......か。


悩む。

リスクを冒してまでする事だろうかと疑問がよぎるが、母さんとのやり取りで自分の成長がドン詰まりであることを思い出す。


良い機会......なのかな。


これ位から慣らしていくのも悪くないかもしれない。

逃げる事に関しては、ちょっと自信がある。

タヌキの思惑通りに進められたのは癪ではあるがいいだろう。


分かった。依頼を受ける。


「ありがとうございます!!」


満面の笑顔を浮かべ、喜びを前面に振りまくタヌキだったが、足の震えと冷や汗を止める事が出来なかった。



◇◆◇ 某所。走り書きのメモ。



500年前の凶悪犯罪者であり、転生者である人物の居場所を補足する。


その人物がいると思わしき場所に、隠された人工ダンジョンを発見。


勇者を中心とした精鋭を招集し討伐隊を結成。


人工ダンジョンへ強襲を掛けるも勇者の独断専行により失敗。


37名の死者を出す。


戻ってきたのは勇者と重傷者数名。(後に、勇者以外は死亡)


士気やスポンサーに配慮して、この事を内密にすることに決定。


一部の冒険者の暴走による失敗だと公表。


また、対象の逃亡防止のため迅速な対応が求められるが、奥へと進むことが非常に困難な状況である。


多少の犠牲は必要だと判断。


情報収集のために、使い捨ての人材が必要。


一部の職員を除き、この事実を秘匿したままで募集することに決定。




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