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65話

獣人と言うのは割と種類がいる事に驚いた。

ホノロゥさんや受付嬢のタヌキのように耳、尻尾など一部だけが獣で、それ以外が人間というイメージだったが、獣がそのまま二足歩行している者までいる。

素直な感想として、バリエーションが多いんだな、と連行されながらそう思った。


時間は少し遡る。


兎の獣人と別れ、毛玉と同じような妨害を受けつつ進み続けた6日目の朝。

ようやく獣人の国らしきところに到着した所から始まった。

門で待ち構えるように立っていた門番の獣人に一言二言声を掛けられると答える間もなく、連行される。

有無を言わせなかった。

言っても言葉が通じない事は知っていたので、こちらも対抗策として簡単な応答が出来る単語帳を作っていた。

見せようとすると無理矢理奪われ破り捨てられる。

まぁ、予想できたことだ。

ただ、反応が予想に反して、何とも嬉しそうであることに違和感はあった。

碌でもない事が起こりそうだったが、来てすぐに問題を起こしたくないので黙った従う事にした。

外へと歩かされ、留置所のような場所まで連行される。

少し古めかしいが、立派な建物だ。

中にいた獣人達に、持っている荷物は没収される。

荷物は見た目に反してかなり重かったのか、必死の形相で運んでいる姿は少し面白かった。



――視線が半分開いた扉へと集中する。

――周りで騒ぐ声がスッと遠くなるような感じがした。

――扉から見える向かいの廊下。

――獣人が何かを持っていた。

――それは見覚えのある小さな袋。

――妹からプレゼントとしてもらった小さな袋だ。

――それを開けて、中身を取り出し齧っていた。



連れていかれた先では、まぁひどい尋問が待っていた。

こちらの世界に来て、一番ひどいと言ってもいいだろう。

いや、尋問と言うには暴力に頼りすぎている。

ここではどうかは分からないが、場所が違えばこれは拷問と言ってもいいだろう。

殴られ、蹴られ、木の棒で叩きつけられる。

反応が薄いと判断すると、鉄製の棒で殴りバケツで水をかけた。

水は気絶防止だろうか? 痛くはないのだが、心が痛かった。

トラウマを思い出しそうになる。

これ以上、状況が変わらないのなら逃げる事も考えようと、逃走経路確認のため扉の方を見た。



――その獣人には硬く食べれなかったのだろう。

――それを吐き出すと袋ごと地面に叩き付け、踏みつけた。

――中身は土塗れとなった。



立ち上がる。

立場が悪くならないよう大人しくしていたが、そんな事がどうでも良くなることが起きた。


「何立ってやがる!!」

「誰が立ち上がれって言った!!」

「座ってろ!!」


立ち上がった男の腹と背を挟み込むように鉄製の棒が直撃する。

しかし、鉄製の棒は宙を舞い地面に落ちた。

殴った2人には何が起こったのか理解できなかった。

ただ、硬いナニかを強く叩いたかのような手の感触だけが残っていた。

手の痺れと痛みで動けない。


「何しやがった!!? このクソ劣人種が!!!!」


「......こっちのセリフだ」


巨大な音と共に、地面が身震いするように大きく揺れた。

その後、悲鳴が......いや、生物の声とは思えないような金切り音が周辺に響いた。



◇◆◇ 獣人の国・とある会議室



部屋中に煙が充満する。

だが、誰もそれに気にかけない。

それがただの煙ではなく、また充満させることに意味があることを知っているからだ。

機密を守るために必要な処置。

小さな会議室に少数の獣人が押し込められ、その全員が部屋に充満する煙と同じ作用の煙をふかしていた。


「このぐらいでいいでしょう」


大きく煙を吐き出す。


「ここに居る者は信用が置けると判断した人だけに集まってもらっています。つまりは、それほどの機密案件だと判断してください」


一人が手を上げる。


「なんでしょうか?」

「今取り掛かっている勇者関連の事よりも優先するべきだと判断してもいいのかね?」

「いえ、最優先は勇者ですが、早急に片付けなければならない案件であることは間違いありません。それに全く無関係であるというわけでもありません」


そうか、と呟いて続きを話すように促す。


「事の始まりは、2日前の地揺れにあります。その地揺れ後に、生き物とは思えないような絶叫が国の外から聞こえたと通報が入り現地調査をしました。現場の様子がこれです」


投影機のような道具に、立体で建物が映し出される。

半壊状態で見るも無残な廃墟になっている。


「これは何ですか? 見たことの無い建物のようですが」

「場所は国外から少し離れた場所にあります。調べた所によりますと、かなり古いですが勇者が作り上げた”カガク”研究所という建物のようです」

「カガク? ですか? それは何でしょうか?」

「詳しくはわかりませんが、研究内容は『カヤク』『ジョウキ』『ヒコウキ』と名称されたものを作っていたようです。ですが、すべて失敗に終わり、だいぶ昔に施設ごと破棄されたと報告されています」


また一人挙手する。


「最近までここに誰か住んでいたのかね? 瓦礫以外にも色々と転がっているようだが」

「はい、今回の被害者達が勝手に占拠していたようです。転がっている物は、生活物資だと思われます」

「その被害者達の素性はわかるのかね?」

「はい、こちらをご覧ください」


映像が変わり、被害者達の顔写真が映し出される。


「今回の調査原因である絶叫も、彼等であると判断します」

「.......こいつら、どこかで見たことがあるな」

「恐らくこの中の人にも心当たりがある人がいると思いますが、この被害者達は全員『脱落者』です」


一人が手を上げる。


「聞いたことはあるが詳しい事は分からん。どういった奴等なんだ?」


「端的に言えば、この国に居られなくなった。もしくは実力不足で居場所が無くなった者たちです。大概は諦めて人間の国に行くのですが、未練があるのか今回のように国の外に拠点を作って生活をしているようです。まぁ、今回の『脱落者』はこの国に入ってくる人間を襲って食糧や金品を奪って生計を立てていたようですね。自供による裏付けもとれています」


「どうして取り締まらないんだ?」


「簡単です。この国の害にならないからです。国内ですら喧嘩や争いは日常茶飯事で手が回りません。もし、商人やこちらにとって得になる人物であるなら取り締まりまるのですが、向こうもそれは承知しているのか、そういった人物には手を出しません。この国に初めて訪れる冒険者や放浪者を狙っていたようです」


「被害者の素性は分かった。絶叫の原因は内輪揉めか?」


「いえ、違うと考えます。こちらをご覧ください」


映像が切り替わる。

先程の映像とは違い、現場での『脱落者』達の被害状況が映し出される。

皆その惨状に眉をしかめる。


「......むぅ」

「これは.....酷い」

「被害状況は、重症6人 重体1人 死者0人です。逃亡者は12人。辛うじて意思疎通できるものからも確認は取れていますが......正常とは程遠い精神状態ですので、信憑性は薄いです。なので、これは私見になってしまうのですが、とても内輪揉めとは思えません」


「なるほど、確かに内輪揉めと考えるのは難しいな。ここまで悲惨な状態にする必要はないし、したとしても、これほど痛めつけているのに死者がいないのもおかしい」


「やり方から考えても.......国内の者とは思えないな。先程の説明を踏まえて考えると、他所から来た人物で間違いないだろう」


「それにしても、これで本当に死んでいないとは......生きていることが不思議でならない」


「何処をどう潰せば死なないのかを知ったうえで破壊している」


「いや、待て待て。確かに残虐で腕が立つ事に異論はないが、だからと言って今回の議題はこのような奴が国内に入ったから気をつけようといったことでは無いのだろう? そうならば、わざわざ議題に挙げるほどじゃないし、我々が動く程の事でもない」


「確かに、多少痛めつける知識があるようだが、逆に言えば、知識さえあれば国の大半の者が同じことが出来るだろう」


「自業自得だな。ようはこいつらの洞察力の無さが原因だ。『脱落者』が襲う相手の力量を測り間違えて返り討ちにあった。さしずめ、『湖沼に手を突っ込んだ』っと言ったところだろうな。問題になるとしたらそいつが国内に入って暴れる事だが、たかが知れている」


「その見解は少し改めなければなりません」


その言葉に怪訝な表情をする。


「どういう事だ?」

「こちらをご覧ください」


映像ではなく、実物の大きな欠片を人数分、机の中央に置く。


「? これは?」

「先程確認してもらった建物の一部です。一度手に取って確認してください」


一同はそれを手に持ち確認する。


「見た目は石材のように見えたが、これは金属か?」

「その通りです。これを詳しく調べてもらった結果、金属の硬度と飴の様な粘性を持ち合わせた特殊合金であることが分かりました。分かりやすく説明すると、鋼の硬さを持った粘土だと思ってください」

「ッ!! まさか『勇者の置き土産』か」

「勇者が使っていた研究所の建物に使われていたので、そうだと考えます」

「驚いた。これ程の物がこんなにも近くにあったとは」

「こんな素晴らしい素材があるなら、勇者の遠征でかなり役立つんじゃないか? 加工は可能か? 時間は掛かるのか? 今からでも間に合うか?」


「まだ詳しい事は分析中です。しかし、少し落ち着いてください。確かに議題する価値はありますが、先程の話を思い出してください。これがなぜ瓦礫になっていたのかを」

「風化や経年劣化ではないのか? ふむ、良く見れば確かに表面部分と違い、他の所が随分と新しい傷跡の......まさか」

「そうです。今回の加害者がやったものだと思われます。意識ある被害者達も、うわ言でしたがそのように発言していました。この『勇者の置き土産』に使われている施設を半壊状態にし、壁や床を破壊したことは間違いありません。断言できる根拠としてこれから映す映像を確認ください」


映像が切り替わる。


「他の箇所より、さらに頑丈に作られた壁で、拳一つ分よりも厚い壁です」


その壁には指と手の平がハッキリと確認できるほど凹み変形しており、紙粘土を無理矢理引き裂いたような状態だった。

目の前に映る異常な光景は、まだ見ぬ相手に恐怖を抱くには十分であった。


「まさか、これを素手でか?」

「いや......まさか、そんな事は.......」


もしこれが国内で暴れたらと想像し、誰もが言葉を失った。

確かにこれは早急に片付ける案件だと一同は認識した。


「そして、」

「まだあるのかね」

「これが最後です。そして、これが一番の問題であり、今後の事に左右する物です」


取り出したのは透明な容器に入れられた幾つもの肉片だった。


「これは?」

「この施設を半壊にした人物が持っていた物のと思われる物です。潰れた瓦礫の下で発見され、その一部を特別に持ってきました。これは、あの『欠陥の玩具シリーズ』を作った人物の新たな『玩具シリーズ』ではないかと思われます」

「な!?」

「まさか」


この場の全員が緊張する。


「この件の加害者は、この国にとって敵か味方か判断できません。ですが、早急に手立てを考えなければならないほどの力と情報を持っていると判断します」


皆が困惑する表情から、真剣な表情へと変わる。


「早急に、この人物の発見と確保。もしくは抹殺です。もし、話が出来る人物であるなら生け捕りにし、詳しい事情を聞きだしてもらいたい。ですが、生け捕りが難しく非協力的であると判断したのならば関係者の可能性があります。最悪でも抹殺してもらいたい。頭さえあれば情報を抜く事が出来る準備が整っています」


深々と頭を下げる。


「長年尻尾すら出さなかった敵の急所を握れるチャンスかも知れないのです。情報はありすぎて困ることはありません。ぜひ、ご協力お願いします」


誰も、否と答える者はいなかった。

その答えは沈黙をもって答えられた。


「では、よろしくお願いします」


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