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6話

「さぁ到着したわよ」


ふふん、と鼻息荒く腰に手を当て胸を張っている。

ここが冒険者ギルドというところなのだろう。

建物自体は割と大きい。


「元気いっぱいだな」


門に到着したときは死にそうな顔をしていたのに、今は溌剌(はつらつ)としている。


「不思議と力がわいてくる感じがするのよね。なぜかしら?」

「変な物でも食べたんじゃないのか」

「あなたの料理以外に変わったものは食べてないわ」


美味しかったわよ、と感想を述べる。

料理を褒められるのは嬉しいが、変わった物として取られてたんだな。

ちょっとショックだった。


「入る前にまず気を付けることがあるわ」

「なんだ」

「絡まれても反応しちゃだめよ」

「ガラの悪い連中なのか?」

「悪くはないわ。他の冒険者ギルドや傭兵ギルドに比べればかなり大人しいほうよ。あっちからしたら挨拶みたいな感じね」

「ちゃんと挨拶しないと失礼になるな」

「ッ本当にやめてよ!! ややこしくなるから」

「はいはい」

「登録が終わるまで問題を起こさないでよ。いいわね!!」

「あいあい」

「さぁ行きましょ」

「あいよ」


冒険者ギルドの中に入っていく。


中は雑多な雰囲気で賑わっている。

職員らしき人物と話したり、酒を飲んだり、仲間と雑談をしたり様々だ。

ギルドの奥には様々な掲示板が設置され、そこに紙がたくさん貼っている。

ただ、何が書いているかさっぱりわからない。


言葉と文字は別ってことかルテル。


後でルテルに文句言ってやろうかと思ったが、言葉が通じるだけマシかと思いなおす。

すると「こっちよ」とフレアに声をかけられ受付のカウンターに案内される。


「ようこそ冒険者ギルドへ、本日はどのようなご用件でしょうか?」


女性職員が挨拶をする。

髪は短髪で金色に近い藤黄とうおうだ。

胸はあまりない。


「今日は新規登録に来たわ」


そういい、黒いプレートと紋章の入った杖を出す。


「フレア=レイ=ブライトネス様ですね。いつもご利用ありがとうございます。新規登録はお連れ様でよろしいですか?」

「そうよ、あとブライトネス家はこの人を推薦するわ」

「了承しました。それでは、Cクラスからのスタートとなります。少々お待ちください」


ちんぷんかんぷんだ。

何を言ってるのかさっぱりわからない。


「どういうことだ?」

「お爺様は冒険者ギルドで大きな功績があるのよ。だからCクラスからのスタートする事が出来るのよ」

「違う初めから。もっと詳しく」

「そうね、待ってる間に説明するわ」


要約すると


冒険者は基本的に貼りだされている依頼を受けたり、魔物を倒して生計を立てている。

ランクはG~Sまであり、ランクが高いほど依頼内容は難しいが高額な報酬が望めるそうだ。

ちなみに、Aランク以上になると学園と同じぐらいの身分証明になるそうだ。

なれるのは一握りの優秀な人だけらしい。

その冒険者ギルドにフレアの爺さんが多額の資金提供と地位向上に尽力したらしく、様々な優遇措置が受けれるそうだ。

ちなみにフレアはBクラス。


「お待たせしました。登録いたしますので、こちらにご記入後このプレートに唾液か血をつけてください」


そういい何かが書かれた紙と透明なプレートを渡された。


字がよめない......しかも書けない.......。


「フレア」

「なによ」

「利き腕を痛めたみたいで痺れているんだ。かわりに書いてくれないか?」


ウソである。


「仕方ないわね。名前は?」

「知ってるだろ?」

「ふふっ、そうね知ってるわ」


なぜか嬉しそうにそう言って、さらさらと書いていく

成程、名前はこんな字で書けばいいんだな。


「得意な武器とかあるの?」

「特になし、苦手なものもなし」

「.....何か一つ上げてよ」


そういえば、確かルテルが剣術を付けとくねっと言ってたな


「剣で」

「わかったわ。他に特技とかある? 自分の長所でもいいわよ」

「料理だな。これだけは自慢できる」


家族全員が認めてくれた唯一の特技だ。


「特になしっと」

「おい」

「特技や長所は、依頼を任せるための目安の様なものよ料理なんて依頼見たことないわ」

「......ぬぅ」

「はい、さっさと終わらせましょう」


そういいプレートを手渡される。

指に唾液を付けプレートに触れる。

すると周りから嘲笑があふれた。

これが挨拶ってやつか。

返答に大声で笑い返してやろうかと考えるが、無視しなさいとフレアが睨んでくる。


わかってるって


「はい、登録完了いたしました。お持ちのプレートが冒険者ギルドの証明書になり、ご自分のステータスを確認することができます。再発行には金貨1枚かかりますのでお気を付けください。今回はブライトネス家様の推薦がございますので登録料、更新料は無料です。Cクラスからのスタートとなりますが、どうぞご自愛くださいませ」


そういい丁寧にお辞儀した。


「これで終わりよ、自分のステータス見ときなさいよ」


そう言われ持っていた透明なプレートを見てみると黒色に変色しており文字が刻まれていた。



Lv23 シヒロ=シラズミ

魔量 無

魔質 無

スキル 剣術Lv3 槍術Lv2 料理Lv2


こんな内容が書かれていた。

不思議なことにこのプレートだけは理解できる。


ちらりと横にある掲示板を見返すがさっぱりわからない。

どうやらこのプレートが特殊なのだろう。


「見せてもらってもいいかしら?」

「ああ、いいぞ」


そう言い手渡す。

渡したプレートを見て一気に渋い顔をする。

納得いかないといった顔だ。


「納得いかないわ」

「なにがだ?」

「弱くはないけど......弱すぎる。平均よりレベルは高いけど、慨嘆の大森林に行くようなレベルじゃないわ。行っても死ぬだけよ。それに、」


本当に魔力がないのね.....と聞こえないぐらい小さく呟く。


「死んでないんだが」

「それは......」


「おいおい、なんだこのヘボステータスは、こんなのが俺より上のランクとか納得いかねぇーぞ」


無精ヒゲを生やしたハゲがフレアから掻っ攫うようにプレートを奪い、わざと見せびらかすようにプレートを掲げる


どこがおとなしい連中なんだか。


「ちょっと返しなさいよ!!」


フレアはそのハゲヒゲに声を荒げて返却するように訴えるが、無視して騒ぎ続ける。


「レベルは、たったの23で、一番高い剣術でもたったのLv3だ」

「やめなさいよ!!」

「しかも、こいつは劣人種ときたものだ。そりゃあ、血を出すのもブルっちまうのもわかるなぁ」


そういうと、周りからドッと笑い声が沸き上がる。

こいつは自分より弱い奴を見ないと安心できないタイプなんだな。

まるで鬼の首を取ったかのようにうれしそうだ。


.......憐れだな。


「いい加減にしなさいよ!!」


とハゲヒゲの前に立った。


「おっと、手が滑った」


ワザとらしくフレアを殴ろうとする。

それはダメだろうと、フレアの服を掴み後ろに引っ張る。

ハゲヒゲの拳は大きく空振る。

ただ、フレアを服を強く引きすぎたせいか少し咳き込んでいた。

ちょっと涙目になっているが大丈夫そうだ。


しかしどうするか、フレアには無視しろと言われたが、暴力をちらつかされると少し癪だな。

ハゲヒゲは涙目のフレアを見て調子に乗ったのか、さらに絡んでくる


「どうしたんだ劣人種。さっきから喋ってないが、話し方を忘れたのか?」


周りは今の煽りでまた笑いが沸き上がる。

約束の事もあり無視してもいいんだが、今後の事を考えるとちょっとだけ文句を言った方がよさそうだ。


「そういうお前は知性を母親の腹の中にでも忘れてきたみたいだな」

「やっと話したと思ったら.......この劣人種は口の利き方を知らないようだな。血も出せねぇ根性無しが!」

「ははっ、お前の毛よりはあるつもりだぞ」

「テメェ!!!」


怒り心頭でこちらに向かってくる


「知性だけでなく髪と一緒に品性もなくしたのか? 貧相なうえに憐れだな」

「死ね!!」


沸点が低いな。まだ文句も言ってないのに。


剣を抜き、こちらに向かって横一線に切り裂こうとするが、金縛りにあったかのように急停止する。

先程まで憤怒で赤かった顔から、驚愕で蒼白な顔をしていた。

まるで、信じられないことが身に起こったかのように


「どうした? 無抜け面して。唐突に剣の振り方を忘れたのか? それとも、首を切られる幻覚でも見たのか?」


ハゲヒゲはその場で倒れ気絶した。

周りの連中はポカンとしており、近くで見ていた何人かは驚いたように首を抑えていた。


「返してもらうぞ」


ハゲヒゲからプレートを取る。


「んじゃ、フレア行こうか。ここでやる事は終わりだろ?」

「え、ああ、はい」


雑多に騒いでいたギルドは水を打ったかのような静けさだ。

針が落ちても気づきそうなほどだ。

少しは文句を言えたので、気分良くギルドから出ようとすると声を掛かられる。


「ギルド内で問題行動を起こさないでください」


さっきの受付の女性だった。


「それは、そこで伸びている奴に言えよ。問題を起こしたのも剣を抜いたのもあいつが先だ」

「ですが」

「それにだ。本当にこっちがまだ何もしていないのは、あんたも分かっているんだろう?」

「........どういう意味でしょうか」

「さあな」


そういいギルドから出ていく。


・・・

・・



フレアと一緒に目的地である学園に向かって歩いている。


........気まずい。


ギルドから出て一切会話がない。

無視する約束を違えたから怒っているのだろうか。

どうしたものかと考えているとフレアから声をかけられる。


「シヒロ」

「ん、なんだ」

「あの時、別に手を出さなくても私が皮一枚でローストしてたわよ」

「そうか悪いことしたな」

「別にいいわよ」


気にしてなかったのならよかった。


「ねぇ、あれどうやってやったの?」

「あれって?」

「あいつが止まって気絶したやつよ。殴ったの?」

「まさか、どちらかと言えば威嚇に近い。ジジイと母さんから学んだ」


正確に言うと何度も経験して覚えた。

吐いて漏らした幼少の記憶が蘇る。


ッ.....いかん思い出すと吐き気が......


蘇った記憶はすぐさま封印した。


「そう、よくわからないけど......その.....ありがとうね」


最後の方が声が小さく聞き取りずらかったが、感謝はされているようだ。


「あいよ」


俯いて赤くなっている。

照れているのだろうか。


「何見てるのよ。さっさと行くわよ」


プイッと顔をそむけズンズン歩いていく。



◇◆◇ 受付嬢



彼が冒険者ギルドを出ると、またいつも通りの賑わいが戻ってきた。

刃物を振り回そうとしたバカな男は憲兵に受け渡した。

ギルドと両方の罰を受ける事になるだろう。

受付を離れてギルドの地下に降り、ギルド職員だけが持てる金色の大きなプレートを確認する。

そこには先ほど登録した彼のステータスが映し出される。

平凡なステータスだ。本来ならFかEクラスのステータスである。

次に捕まった男のステータスを見る。

現在はDクラスではあるが、実力だけで言えばCクラス相当はある。

しかし、横暴な態度と依頼態度の悪さがDクラスに留まっている理由だった。


ふぅ、と一呼吸置きプレートを置く。


「しんどいな」


そういうと見た目がみるみる変わっていく。

スキル【変装】を解除したからだ。

金色の短髪から薄い緑色の長髪へ

耳は大きくとがった耳へと変わっていく。


「慣れない仕事は疲れる」


ハァ、と大きくため息をつく。

そして軽く目を閉じ、先ほど事を思い出す。

本来なら彼は死んでもおかしくない状況だった。

振り上げた剣はそのまま振り下ろされ最悪なら絶命してもおかしくなかった。

ましてや彼は劣人種。

魔力を持っていない人なのだから。


なのに........


首にそっと触れる。


首を切断されたのかと錯覚するほどの鋭い殺気だった。

まだ首に違和感が残っている。


「なんかあったのか」


と上から声がかかる。


「特に変わったことはありませんよ。少し揉め事があったぐらいです。役立たずは引っ込んでてください」

「きつい言い方だな。ギルドマスターに対して」

「ギルドマスターならちゃんと仕事してください」

「怒るなよ。確かにAクラスでエルフのお前には役不足な仕事だが、勇者が来てるんだ。我慢してくれ」


何かあったら困るだろう。と、ものぐさな口調で語る。


「さっさと仕事に戻ってください」

「おお、こわ」


そういい階段をのぼっていった。


私は勇者に対しての保険......。

何かあった時、暴力によるブレーキ役が私だ。

しかし問題は勇者だけではなさそうだ。

まったく、役不足どころか力不足だ。

引き受けたことを後悔している。

出来れば何事もなく終わってくれればいいのだが。



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