表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/132

59話


魔王様に荷物を奪われ2日目。


多少落ち込んだりもしたが、立て直す。

ここがどこか分からないが、ルテルの言葉を信じて西へ目指す。

収納ポーチがないので荷物が嵩張ってしまうが、移動する分には問題なし。


3日目


同じ服ばかり着ているので、匂いが気になってきた。

毎日水浴びはしているが、洗濯はしていない。

一度洗濯すると、乾くまで全裸で待つか、濡れた服を着なければならない。

この状況下で風邪になるのは不味い。

死のリスクがある。

なんとか服が手に入らないかと考えていると、不思議な植物を発見した。

筍のような木だ。

近づく動物を捕食する食肉植物なのか襲ってきた。

伐採する。

包皮状の木の皮をめくり、煮沸すると薄皮が綺麗に剥けることを発見。

植物の繊維を糸状にして、縫っていく。

少し個性的だが、簡易の服が出来た。

見た目は悪いが、着心地は悪くない。


3日目。


道中、大量の生き物の死体を見つける。

死体のほとんどは腐っており、所々獣に食い荒らされていた。

頭に小さな角のようなものがあったので、ゴブリンだと推察する。


軽く手を合わせ、病気にならないうちに素早くその場を後にする。


10日目。


野を越え、山を越え、谷を渡り、岩場に足を取られつつも、西へ西へと向かい、ようやく人の通る道へと出ることができた。

道中は、様々な生き物に遭遇。

流石は異世界といったところか、どういった進化をたどればそうなるんだ? といった生き物たちがたくさん襲い掛かってきた。

食糧に関して気にしなくてよかったのは運がよかった。


12日目。


大きな街にたどり着く。

ここらで、獣人族の国がどこにあるのか情報収集や食糧、路銀の確保をしたい。

しばしの拠点としてもいいだろう。

運が良い事に商人らしき人物の往来が多い。活気がある街はそれだけで安心する。

門が開いたときに少しだけ街の中の様子を伺う。

獣人族と思われる人が多々いることが確認できた。

これは期待ができると、意気揚々と街に入ろうとするが門番に止められる。

思わぬ事態が発生。

言葉が理解できない。


あの収納袋が、翻訳代わりの機能を果たしていたことを思い出す。

怪しむ門番にジェスチャーを交え、耳が遠く、声が出せないことを説明。

咄嗟だったとはいえ、的確な判断だったと思える。

文字が書けることも功を奏した。

なんとか信じてもらえた。

しかし、入るのには身分証か保証金がいるようだ。

勿論、両方とも魔王様に盗られてしまったので無い。

追い出された。

このまま街をスルーする選択もあるが、これほど大きい街が今後あるとも限らない。

効率を考えると、この街に入っておきたい。

最終手段として、こっそり入る事も考えておく。


15日目


遠くから門を見張ると、出る時と入る時にカードを見せている人物を見つけた。

冒険者ギルドの関係者だろう。

ならばここには冒険者ギルドがある。ギルドカードを再発行すればお金はなくても入れる。

何人かに声を掛ける。

一緒に入れてもらえないか頼み込む。

しかし無視されたり、魔法で追い払われたりした。

言葉が通じないというのは、やはり大きなハンデだと思い知らされる。


17日目


冒険者をさらに良く観察すると、何やら手に紫色の植物のようなものを持っている人が一定数いたことが確認できた。

それが何なのか調べるために、後を付ける。


言葉は分からないが、何やら不満を漏らしている。

恐らく、自生している場所が面倒な場所にしかないことに愚痴を漏らしているのだろう。

崖にぶら下がりながら、例の紫色の植物を採取していた。


ある程度の危険を冒してまで採取していることを考えると、一定の需要はあるようだ。

これらが一体いくらで売買されているか知らないが、安くはないだろう。

この植物を格安で売ることで、一緒に中に入れてもらえないか交渉してみる。


17日目


失敗した。


街に一緒に入れてくれるなら格安で提供します。と文字を書いて頼み込んでみるが、喋れないとわかると、盗まれた。

懲らしめようかと思ったが、事態が好転する気がしないので諦める。

苦労したわけでもない。

別の方法を考える。


18日目。


ターゲットを冒険者から商人に変更する。

カバンの中から何かお金に変えれそうなもの探していると、巾着袋が出てきた。

着物擬きを作った時に余った生地で作った物だ。

良い生地で出来ているので高値が付かないかと商人に交渉してみる。


鞭を振り回したり、魔法で追い払われる。

取り付く島もない。


乞食だと思われているのだろうか。


19日目


乞食だと思われている原因が判明した。

着ている服装だ。

植物の皮で作った服を着ていたのが不味かった。

朝、川で顔を洗っていると水面に映る姿は浮浪者と思われても仕方がない格好であった。

いつもの服を着て、話しかけてみる。


前回と違って手応えを感じる。

文字による会話だが、きちんと成立している。

だが、やはりと言っていいのか向こうも商売だ。買い叩こうとしてくる。

何度か交渉すると、納得のいく値段と中古で服をくれた。

木の皮の服はこれでお役御免だ。

早速、保証金を払い街の中へ入る。


この街はガルフォディア。

ここまで来るのにかなりの時間を要したが、結果オーライだろう。


オーライではなかった。


ギルドでのカードの再発行を頼んだが、再発行にお金がかかる事を忘れていた。

手持ちでは全く足りなかった。

謎の装置に唾液をつけて、本人だと分かってもらえたので、ギルドからお金を借りるという形で発行してもらえることになった。


23日目。


ここ何日か人の話を聞く事で耳が慣れたのか、何を話しているか何となく理解できるようになった。

耳が遠いふりをしてゆっくり話してもらえれば理解できる。

ただ、こちらからの言葉は通じない。

同じ言葉を同じ発音で話しているが、全く通じなかった。

何度か色々な人に試すが、反応は同じだった。

ここでも魔力というものが関係しているのだろうか。

収納袋が戻るまで、声が出ないフリをしないといけなさそうだ。


いくつかギルドの依頼を受け、終わらせる。

依頼で受け取ったお金は全てギルドの返金に充てている。

利息は早いうちに減らしておきたい。

節約のため、食事や寝床は近くの山で狩りをして野宿ですませる。


話は変わるが、この近くにいる兎みたいに跳ねる豚がおいしい。

次点で酸を吐く芋虫が美味だ。


30日目 現在。


リスクが少ない依頼をすべてしたが、返済には届かなかった。

そして、しばらくはそういった仕事は無いそうだ。

返すお金の目途が立たなくなった。


どうしたらいいのかと、冒険者ギルドで考えていると、酒気をまとわせた男が隣に座る。


「なんだよ、なんだよ。随分暗い奴だな。今日はデカい獲物を仕留めて全員に奢ってるんだ。あんたも飲んで嫌なこと忘れて楽しみな」


ガッハハハ。と大声で笑う。


手に持っていた糸で文字を書く。


『どうも』

「ん~? 兄ちゃん声が出ないのか?」

『耳も遠い』

「そりゃあ気の毒だな。暗いのはそれが原因かい?」


さらに文字を書く。


『金がない』

「そりゃあ、ここにいるほとんどの奴がそうだよ」

『ギルドに借金』

「あぁ、それは大変だ。遅れるとブラックリストだ。貸してもらえなくなるし、除名もされる。何が原因だ? 賭け事か? 女か?」

『女かな? 有り金と荷物のほとんど盗まれた』

「ぷはっ。そいつは重ねて気の毒だ。そりゃ暗くもなるって話だ。おっさんに言ってみろよ。金は貸さねぇが聞くだけ聞いてやるよ」


他人の不幸は、酒のツマミに丁度いいのか嬉々として聞いてくる。


『面白くはないぞ』



・・・

・・



「あ~、そりゃ詐欺だな。間違いねぇ。兄さん運がなかったな」


グビグビと酒を一気に飲み干す。


「そもそも兄さんも悪いやな。相手が魔王って名乗った時点で胡散臭いよ。疑わなきゃ。詐欺だって」


ナッツのようなものを口に放り投げ咀嚼する。


「相手は最低でも2人組だな。小さいガキで油断を誘ってだ。姉だか母親だか、とにかく似た大人で金を巻き上げるんだ。兄さんの話だと、実際に大きくなったり小さくなった瞬間は見てないんだろ? その時に入れ替わってるんだって」


『なるほど』


「兄さんの話だと、ダンジョンで手に入れたもの全部盗まれたんだろ? 狙われてたんだな。ダンジョンから出る時に道案内してたのは、兄さんじゃなく相手が道を選択して外に出た。変だなと思わなきゃ。行くときは兄さんが道案内して、帰りは相手が道案内。相当おかしいね。危ない事を兄さんにやらせて、美味しい所は全部貰う。それで、ダンジョンから出たら盗人の仲間に待ち伏せされて盗まれた。これが本筋よ」


『人の気配はなかったんだがな』


「そりゃ、むこうもプロだ。人間一人嵌めるにしたって金額がデカけりゃ全力よ。兄さんは最初から最後まで掌で踊らされてたんだよ」


『女は怖いな』


「たしかに!! ハッハハハ。命があっただけましだと思わなきゃ」


そういうと、一気に酒を煽る。


「っあ~。よしわかった。兄さん、金は貸さないがいい事話してやるよ」

『なに?』

「ポーターだよ。ダンジョンに行くときに荷物もったり、魔物の材料を運んだりする仕事だ。最近ダンジョンの隠し通路が発見されたり、今までなかった道が出来てたり攻略する連中が増えて、ポーターの需要が増えてるんだよ。やるなら今が美味しいぜ?」

『危険はないのか?』

「そりゃ危険だよ。でも実際に戦ったりするわけじゃない。荷物を守り時には同行者をサポートするのが仕事だ。戦わない分リスクは少ないがな」

『そうか』

「まぁ、興味が湧いたら明日ギルドに相談してみるんだな。今は宴会状態だから職員がイライラしてる」

『そうか』

「まぁ、なんだかんだ言ってもポーターは信用商売みたいなものだ。信用がないならできない仕事だぜ。真面目に依頼をこなしてたら問題ないってことだ」

『ありがとう』

「おうよ」


良い話を聞いた。

早速明日聞いてみることにしよう。

街を出て野宿の準備をする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ