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4話

少女を助けて一夜が明けた。


今は簡易で作ったテントで眠っている。

そろそろ目が覚めると思うので、少し多めの朝食を準備している。

今回のメニューは、木の実と野草のスープとクマ肉の串焼きである。

食材にはかなり神経を尖らせて餞別した。間違っても毒になる様なものは入っていない。

そして、それらを持ってきた調味料で味を調える。


「んー。よし、うまい」


絶妙な味付けである。

スープのほうは甘めの味に調えている。

病み上がりには丁度良いだろう。

スープの湯気と共に優しい香りが辺りを包む。

すると、眠っていた少女が呻き声をあげのっそりと体を起こした。


匂いにつられて目が覚めたのだろうか......だとしたら妹たちにそっくりだ。


家族の事を思い出し苦笑してしまう。


「おはよう。よく寝てたな。飯ができてるがすぐに食べるか?」


不安を煽らないように自然な感じで声をかける。

少女のほうは目を擦り欠伸をしながらテントから出てくる。


「あれ? 何で私......外にいるの......?」


寝惚けているようだ。

周りをキョロキョロ見渡して目が合うとハッと思い出したように飛び上がる。


「あ、あなた誰よ! ここは慨嘆の大森林よ! こんな所で! こんな......とこ、私......確か殴られて......あなた一体何者よ!!」


距離を取り、手から炎を出しながら警戒している。

しかし寝惚けているのか支離滅裂な事を言っている。


刺激するのはよくないな。

しかし、ここが慨嘆の大森林と呼ばれていることが分かったのはよかった。


「落ち着けよ。別に危害を加えるつもりはないって」


木で作った器にスープを注ぎ、そっと手渡す。


「私は、あんたが何者か聞いてるのよ!!」


手の炎を少し大きくして威嚇する。


「はぁ、わかった。白墨家長男、白墨 史宏。歳は19。これでいいか?」


納得していない顔をしている。

まぁ聞きたいことの本質を答えてないのだからそうなるだろう。


「聞きたいことがあるのはこっちも同じだ。話し合うなら飯を食いながらでも出来るだろうし、食後でも出来るだろう」


差し出したスープを引っ込めてグイッと一気に飲み干す。


「毒とか入ってない。食べるなら温かい方がいいぞ」


そう言い新しくスープを注いだ。

すると少女のお腹から可愛らしい音が鳴る。

手を当て赤面していた。


「し、信じられないわよ!!」


毒殺されると思っているのか。心外だな。


「いいか、もしこちらが危害を加えようと考えるなら、寝てる時にいくらでもチャンスはあった。なんだったら、その......何だ?......良く分からない奴に襲われた時に見捨てても良かった。それなのに助けた上に目が覚めるまで護衛して毒殺する。そんな面倒くさい事すると思うか?」


手の炎が弱まる。


「どうして助けてくれたの。狙いは何?」


ここで、人助けに理由がいるのかい? なんてことが言えればカッコいいんだが、それで納得する様な感じじゃなさそうだし、実際そんな理由でもない。

素直に話すのが良いだろう。


「もちろん慈善事業じゃないから狙いもある。お前に頼みたい事があるから助けた。引き受けたくないと思うなら断って帰ればいい。引き受けるなら一緒に飯を食べよう。話だけでも聞く気はないかな?」


優しいスープの香りと香ばしい串焼きの香りが辺りを漂う。

ゴクリと少女の喉が鳴る。


「頼みたい事って.....何?」


訝しげた顔をしている。


「人がいる所までの道案内。できれば身元の保証とかもしてくれると有難い」


これぐらいの要求なら容認しやすいはずだ

まぁ、仮に断られても後を付けるだけだ。

どちらにしても人のいる所まではいけるだろう。

向こうも迷子じゃなければだが


「で、どうする?」


差し出した容器に木の匙を付けて再度聞く。


「......引き受けるわ。でもそれ以上のことは絶対にしないからね!!」


器を受け取りスープを口にした。


「.......美味しい!」


気に入ってのかどんどん飲んでいく。

食べ方に品があるな

良い所のお嬢さんなのかな。


「......私の名前は、お前じゃないわ」


そう言い、グッと空になった器を突き出しおかわりを要求してくる。


「私の名前は、フレア=レイ=ブライトネス。ブライトネス家の三女でアズガルド学園の第八席よ」


取り敢えず、新しくスープを注ぎ串焼きを一本手渡す。

豪快にガブリと齧り付くがやはりどことなく品がある。


「貴族か何かなのか?」

「そうよ、あまり裕福な方じゃないし、三女だから誘拐しても身代金は出ないわよ」


そんな事はさらさらしないが貴族なら品があるのも納得だ。

しかし、貴族か.....民主的な感じではなさそうだ。

それに学園の八席とか言ってたな、こいつ学生か?


「フレアは学生なのか?」

「そうよ、あと名前で呼ばないでよ。確かあなたはシヒロだっけ? 変わった家名ね」

「逆だ。シラズミが家名で名前がシヒロだ」


自己紹介したときに家名だって言ったんだがな、聞いてなかったのか。


「......もしかして、勇者の血縁か何か?」

「なんだそりゃ」

「......まぁいいわ、呼びにくいからシヒロって呼ばせてもらうわ」

「あぁ、いいぞ。こっちもフレアと呼ぶからよろしくな。フレア」


ピクッと眉が上がったが、それ以上何も言わなかった。

どうやら了承したようだ。


「そういえば、1人じゃないんでしょ? シヒロ以外の人はどこにいるの?」

「ん? 1人だが。どうしてだ?」

「どうしてって、ここは慨嘆の大森林なのよ!! 1人で来る様な所じゃないわ。それに、この料理の量を見なさいよ!! 二人で食べる切れるような量じゃないわ!!」

「あぁ、気にすんな体質の関係でな。これぐらい食わなきゃダメなんだ。それを言ったらフレアも一人じゃないか」

「私はアズガルド学園の八席よ!! これぐらいの場所なら一人でも問題ない.....はずだったのよ....」


気絶させられたのを思い出したようだ。


「油断して死にかけたなら世話ないな」

「違うわよ。本来ならこんな浅い所には来ないのよ。そのうえ団体で......まるで何かから逃げるような必死さがあったし......異常よ......」


どんどん声が小さくなってくる


「なら、何かやばい事でも起きるのかもな。ゆっくり食べてる場合じゃなくなったな」

「こんな場所で優雅になんか食べれないわよ。本来ならいつ魔物が襲ってきてもおかしくもないのに、今は鳴き声どころか気配さえないわ」


何かの前兆か前触れなのか。

まさか、あのクマを倒した事が原因......なわけないか。


「じゃあ急いで離れるか」

「それには賛成だけど、これ捨てるの? 私もう食べられないわよ」


そう言い、口元をハンカチで拭う。


「誰が捨てるか勿体ない。全部食べるに決まってるだろう。少し待ってろ」


ゆっくり味わって食べたかったが仕方がない。

掻っ込むように食べ進めていく。


そして10分後


「ん、よし。んじゃ行くか」

「ちょ......ちょっと待って、さっきの料理はどこに行ったの」

「腹の中だが? 見てただろう」

「見たけど信じられないのよ.....あなた人間?」

「人間だ。先にも言ったが体質の問題だ」

「詳しく聞いていいかしら?」

「あんまり覚えてないが、体重が人よりかなり重くなって、食欲がかなり増すってことらしい」

「女の敵みたいな体質ね」


確かピスタチオの関連する筋肉だっけか?

昔、父さんに教えてもらったがあやふやで覚えてない。


「さて、そんな事より道案内は大丈夫なんだろうな?」

「....ハァ....いいわ、取り敢えずアズガルド学園に帰ろうと思うのだけど、あなたをそこに案内するってことでいい?」

「いいぞ」

「じゃあ、ついて来て」


そういい、ポケットから小さな水晶を取り出した。

水晶の中にはコンパスの針が宙に浮いている。

その針が示している方向に歩いていく。


「その先に学園があるのか?」

「そうよ、結構歩かなくちゃいけないけどね」

「どれぐらいだ?」

「私がここまで来るのに2日かかったわね」


女の足で2日か.....


「んじゃ、今日中につけるな」

「あなた聞いてた? 2日かかるって言ったの、私が魔法を使っ.....ちょっ、やめなさいよ!! 降ろしなさい!!」


喋るフレアを無視して抱っこする。


「さて最短距離を最速で行くぞ!!」


針の向いてる方向に全力で走り出す。

文字通り一直線に。


「いやぁぁぁっぁぁあ、降ろしてぇぇぇぇぇえぇ」


少女の悲鳴が森にこだました。



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