44話
どうやら、自分が選ぶ仕事は雑用が多い様だ。
今は道に柵をつける作業を手伝っている。
幾つかあった依頼の中で、最も安全そうなものを選んでおいてなんだが、『道の整備作業』と『柵の設置』の依頼を選ぶとは、冒険者ギルドに所属している割には冒険をしていない。
妙な皮肉に笑みがこぼれる。
それにしても道の整備はインフラの整備だと分かるが、この柵の設置は一体何だろうか。
大通りのほとんどに似設置されている。
大規模な催しでもあるのだろうか?
それとなく聞いてみる。
「なんだ。知らなかったのか? 5日後に『喧嘩旗』って祭りがあるんだよ」
「なんか物騒な祭りだな」
「まぁ、毎年怪我人が出るし、下手すりゃ死人も出るが、勇者が考案した由緒正しい祭りだよ」
勇者が伝えた祭りか。
詳しく聞くと、煌びやかな4つの山車に男達が歌を歌いながら街を一周して街の中央広場で合流する。
所定の場所に山車を置くと広場の出入り口を柵で囲い、祭りが始まる。
広場中央にある巨大な柱の頂上にある旗を奪う祭りだそうだ。
そして、旗を奪った者は福男の称号を貰い1年間無病息災となり、山車のメンバー共々に景品と賞金がもらえるそうだ。
何とも血生臭さい祭りだ。
「それにしても兄ちゃん。よく働いてくれたねぇ。どうしても人手が足りなかったから仕方なく冒険者ギルドに頼んだが、来たのがアンタでよかったよ」
「仕事だからね」
「見ない顔だけど流れかい?」
「あぁ、他所から来たよ」
「どおりで」
そう言ってカードを渡す。
「あんただったらいつでも歓迎だ。名前なんだっけ?」
「シヒロです」
「よっしゃ。覚えたよ」
満面の笑顔で答えてくれる。
もしかしたら、あの冒険者ギルドの人だけが特殊だったのかもしれない。
取り敢えず終わったことを報告に行かないとな。
正直あそこには行きたくないが。
「んむ? やっと終わったのか? シヒロ」
まぐまぐ、と何処で買ったのか焼き鳥のようなモノを食べている。
「それ、どうしたんだ?」
「ん」
遠くを指さす。
「お金とか渡してなかったよな」
「暇じゃから、そこらをハクシと一緒に歩いとったのじゃ。そしたら行く先々で貰ったのじゃ。の?」
「ぎぃ」
どうやらすでに出店のようなものまで出ているらしい。
微かにだが、いい香りが漂っている。
「...........ちゃんとお礼言ったか?」
「当然じゃな」
「ぎぃ」
何となく信用ならない。
「ちなみに、なんて言ったんだ?」
「貢物とは大儀なのじゃ。とか?」
「ぎぃー」
「そのあと、頭を撫でられたのじゃが。変わった風習じゃの」
残った物を食べ進める。
「今度からありがとうって言うんだぞ」
「気を付けるのじゃ」
「それで美味かったか?」
「悪くはないのじゃが。シヒロが作ってくれたスープの方がうまかったの」
嬉しいこと言ってくれるじゃないか。
もう少し手の込んだ料理を作ろうかな。
・・・
・・
・
冒険者ギルドに到着。
1人と1匹は入ることを拒否した。
仕方ないか。
ドアをくぐり、中に入ると鼻を突く悪臭で眉をひそめる。
換気ぐらいしなさいよ。
早く終わらせたかったので受付にカードを渡す。
顔をあげてこちらを確認すると舌打ちをする。
露骨に態度が悪かった。
手間を増やさないため、見えるように依頼の写しを見せておく。
忌々しそうに睨らまれた。
何でこんなに態度が悪いのか、お前の親を殺したわけじゃないぞ。
すると、カードと報酬を乱暴に投げ渡す。
予想していた事なので、一枚も落とすことなく掴む事が出来た。
そして目の前で一枚一枚確認する。
嫌がらせではない。
信用できないからしている事だ。
その事に怒っているのか瞼が痙攣している。
おっ。ちゃんとあった。
幾つか誤魔化していると思っていたが、写しが効いたな。
ポケットに報酬を入れると、この場から離れる。
悪臭漂う場所にはいたくない。
外に出て、2人と合流する。
「臭いのじゃ」
「ぎ」
僅かな時間だというのに臭いが移ったそうだ。
まったく。もうあそこにはいかない事にする。
さて、ここからどうするか。
多少は稼げたが、少し心もたない。
同行者も増えた事だし、出来ればもう少し懐に余裕を持ちたいが、あそこで依頼は受けたくはない。
賞金があると言っていたな。
飛び込みで祭りに参加してみようか。
いや、流石に血生臭い祭りには参加したくないな。
何かいい方法はないかと考えていると、ふわりと食欲をそそる良い香りが漂ってくる。
「.......う~ん」
「どうしたのじゃ?」
「ぎぃ?」
こちらを覗き込むように聞く。
「出店という方法も悪くないか」
「なんじゃ? シヒロも店を出すのか?」
「そうだな。今のところは考え中だけどな」
「シヒロの腕があれば間違いなく流行るのじゃ」
「ぎぃぎぃ」
「この魔王たるワシの専属料理人に指名しても良い位じゃしな」
堂々とそう言われると悪い気はしない。
だが、失敗した場合は大赤字だろう。
まぁ、お金ならまた稼げばいいだけだ。
「そうだな。何事も経験だし、出してみるか」
「おおう!」
「ぎぃ!」
1日目。
準備。
一先ず、出店ができるか聞いてみる。
どうやらお金を払えば誰でもできるようだ。
流石に出遅れているので、良い所は全て押さえられていたが、それでも悪くない場所があったのでそこを選ぶ。
そして、出店に必要な設備などはレンタルできるようだ。
しかし全て魔道具だった。
鍋だけ借りようとした時、何やら遊んでいる魔王が魔道具を使いこなしていた。
遠慮なく借りることにしよう。
次に調査。
こちらは料理を売りだそうと考えているので、この街の人の好みを調べることにする。
水質から特産品。
どういう味付けが好みなのか、苦手なのか。
それ等を調べるために、人気のある料理屋を片っ端から食べ歩く。
そのお陰で、どういったものが売れそうなのか把握する事が出来たが、その分お金も使った。
今日は大盤振る舞いの日だ。
頑張って稼がないと大赤字になってしまう。
2日目。
仕込み開始。
調査で調べた時に目を付けていた果実を購入する。
デカいブルーベリーのような見た目で、酸味が少し強いのが特徴だ。
大量に買うので安くしてもらえるように交渉する。
旬ではあるが、例年より酸味が強いということで在庫が沢山あり、格安で出に入れることに成功した。
運も良いようだ。
皮が分厚いので皮を剥いて借りた大鍋にいれていく。
そしてフレアの家で手に入れた砂糖をまぶす。
それを交互に繰り返して、一晩おいておく。
まぁ、ジャムづくりだ。
他にも何を作ろうかと考えていると、柵の設置を一緒にしたおじさんが、声を掛けてくれた。
何やら変わったことをしている事に興味を持ったようだ。
軽く世間話をしていると、どうやらこの人はパン屋の人らしい。
これは何とも運が良い。
予定変更。
総菜パンを作ることに大きく舵を切る。
パン屋のおじさんと交渉し、大きな竈を1つ貸してもらえることになった。
さらに材料の仕入れも手伝って貰えた。
本当にありがとうございます。
よし、ここからが本番だ。
作るパンは2つ。
一つは香草を練りこんだパン。
もう一つはフワフワの柔らかいパン。
カバンから、白墨家秘伝の酵母を取り出し、混ぜて練り上げる。
巨大に膨れ上がった生地のガス抜きをして、小さく千切って成形し、竈の中で焼き上げる。
パンの良い香りが鼻腔をくすぐる。
焼成終了。
焼き上がったパンを早速確認。
見た目よし。
見た目だけでも美味しい事が分かる。
食欲が湧いてくる。
試しの実食。
いい出来だ。間違いない奴だ。
それでは、パン屋のおじさんにも試食をしてもらう。
プロの眼からも見てもらいたい。
本当に忙しい所協力してもらってありがとうございます。
ついでに魔王とハクシにも。
まずは香草パン。
「香りが癖になる、美味いのじゃ。」
「ぎぃ!」
「変わった味だが、こりゃいけるな」
柔らかいパン。
「フワフワなのじゃ~」
「ぎぃ~」
「驚いた。こりゃすげぇ」
沢山の太鼓判を頂いたので、どんどん焼き上げていく。
そして、収納袋に入れていく。
これ本当に便利だな。
例え作り過ぎたとしても、この中に入れておけばいつでも熱々を楽しめる。
腐らない。ロスがないって素晴らしい。
竈の使用、仕入れと試食のお礼も込めて、おじさんに余ったパンの生地とレシピを渡すことにした。
出来れば売り上げの一部も渡そうと思ったが、貰いすぎると断られた。
本当にお世話になりました。
3日目。
パンの具を作成。
香草パンには、薄切りにした肉とタレで炒めた焼肉パン。
柔らかいパンには、特製のジャムを塗って販売するつもりだ。
ジャムは別売りも可。容器は持参だ。
タレの製造はそれぞれの店舗で食べ、良い所取りをしたオリジナルのタレだ。
肉は、慨嘆の大森林で手に入れた肉を使用する。
食材費は出来るだけ抑えたい。
タレを絡めて程よく焼き上げる。
一口試食。
ん~、完璧。
次は香草パンに、はさんで食べてみる。
自然と口角が上がる。
我ながら良いモノを作ったな。と自画自賛する。
ふと下を見ると、口を開け待っている魔王とハクシがいる。
半分に千切り、口の中に放り込む。
「ん~~まいのじゃ!!」
「ぎぃぃ!」
なんとも幸せそうな顔で食べるものだ。
具材はタレを肉に絡めておいておく。
当日に鉄板で焼いて販売するためだ。
出店らしく香りで客を引く作戦だ。
4日目
祭り前日。
ジャムの仕上げを行う。
じっくりと煮詰める。
甘い良い香りが漂う。
完成まで間近だ。
取り敢えず、香草の焼肉パンだけ先行発売とする。
一切宣伝をしていないので客足はまばらだが、それでも美味しいと絶賛してくれた。
リピーターになってくれればいいのだが
ジャムが完成したので、柔らかいパンにジャムを塗って試食。
甘いものが苦手な人以外は喜んでもらえるだろう。
魔王とハクシは、おかわりを希望しているが無視する。
完成したアツアツのジャムを収納袋に流し込み、翌日まで保管。
ふと、人通りを眺めていると、人が増えたように感じる。
どうやら祭り本番が近いせいか、他所からも人が集まっているようだ。
出店も昨日と比べると、多く出店している。
そして祭り当日である。