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43話

フレアと別れて数日。

とある日の早朝。

朝ごはんのために小さな湖に釣り糸を垂らしていた。

結果は上々。

現時点で大漁である。

そろそろ釣りを切り上げて朝食の準備をする。

保存食も兼ねて大量の魚を捌いていると少し困ったことになった。


「どうしたものか」

 

それは4m越えている大魚を解体している時だ。

丸飲みにされたのか、胃の中から推定12~13歳の女の子が粘液まみれで出てきたのだ。

考え込む。

一先ず、生死の確認をすることにした。

呼吸は止まっているが、脈拍はある。

死んではいないようだ。

蛇? が少女に近づき、食べれるの? と頭をかしげている。


多分食べれないぞ。


その女の子の頭をしっかりと固定し、ぐるぐると振り回し、遠心力で水を吐き出させる。


「げっほ!、えっほえっほ!! カハッ、ケホッ!」


息を吹き返した。

盛大に咽たあと自律呼吸に戻る。

そして意識がはっきりしてきたのか、目を大きく見開くと、「いやじゃ~~~!!」とパニックに陥る。

取り敢えず落ち着くまで蛇? を抱かせ、朝食の準備を進めて待つことにした。





「落ち着いたか?」

「..........うむ」


蛇? セラピーが効いたようだ。

朝食に作った魚のスープをチビチビと飲む。

次第に飲むスピードが増し、お代わりを要求する。


よほどお腹を空かせていたのだろうな。


腹も膨れ、そこそこ元気が戻ったようだ。

渡した木皿を片手に何やら語りだした。


「うむ!! よくぞわしを助けてくれたのじゃ!! 大儀じゃ!! 褒めて遣わす。アッハハハハ!」


何とも元気な子供である。

髪と眼は金色、肌は茶褐色であった。

特徴的な容姿であり地元の人とは思えない容姿だった。

遠くから移住してきたのか、移住した親の子供なのだろうか。


「それで? 何で魚に食われてたんだ?」

「........」


語らず、ただ遠くを眺めていた。


「まぁ、言いたくないなら別に構わないが、えっと。名前なんだ?」

「ん? そう言えば名乗っていなかったか。では聞くがよい!!」


ガバッと立ち上がり名乗りを上げる。


「耳あるものは我が声を聞け!! 目あるものは我が姿を見よ!! 我こそは魔王の中の魔王。最強にして至高の魔王。大魔王『泡爆』魔王なのじゃ!!!!」


腰に手を合当て、これでもかと胸を張る。


隣では、ぎぃ、ぎぃと蛇?が楽しそうな声をあげている。

こちらも拍手をしておくことにする。

彼女には拍手喝さいの音でも聞こえるのか鼻息を荒くしている。


「して、お前らは誰じゃ?」

「ん? あぁ、シヒロだ。それで、こっちが.........」


そう言えば名前を付けてなかった。

しかし、こいつは非常食。

名前をつけると情が湧いてしまう。

どうしようかと悩んだ末。


「ハクシだ」


名づけることにした。


由来はただの連想ゲーム。

こいつの白い体にちなんで白。

蛇をまつる神社もあると聞くので白神。

白い紙。

ハクシになった。

急遽つけた割にはいい名前だと思う。


「そうか。よろしくな!! シヒロとハクシ」


にっと笑う。


ハクシは、名付けられたことが嬉しかったのか、ぐりぐりと頭を擦り付けてくる。

よせ、喰いづらくなる。


「して、ここはどこじゃ? 人間界とは思うのじゃが。あっておるか?」

「あってるぞ」

「ぎぃー」


不思議な聞き方をする。

魔王という設定なのだろう。


「そうか。そんな遠くまで飛んできてしまったか。それにしても、魔力が枯渇すると体が縮むとは思わなかったのじゃ」


と、独り言なのだろうか。

声が大きいので丸聞こえだ。


「えっとな。お父さんやお母さんはどこにいるんだ? 近くにいるのか?」

「ワシに親というものはおらん。魔王だからのう」


ふふん! と得意げに語る。


「本当にいないのか?」

「おらん!!」


一切の躊躇なしに言い切る。

観察し、嘘をついていないのは確かだと判断する。



ふぅ、と一呼吸置き、ゆっくりと目頭を軽く押さえる。

聞いたことを後悔する。


つまり、本当に両親がいない。

捨てられたか、亡くなったか.......。


遠く空を眺める。

彼女のこれまでの事を想像する。

襲い来る孤独、焦燥、寂しさそういったものから、自分の身と心を守るための仮初の姿。

魔王であるという事で自分を保ってきたのだろう。

強いなにかに縋らなければならなかったのだろう。


その辛さは、よくわかる.............わかってしまった。

だから、この子の設定に暫し付き合う事にした。


「それで、魔王様はこの人間界に何用で参ったのですか?」

「ぎぃ?」

「それはじゃな。聞くも涙、語るも涙の話じゃが、語ると明日になってしまうので省く。要するに、命からがら逃げて来たのじゃ。見事なまでの敗走じゃな」


逃げたのか。


「事の始まりはアイツのせいじゃ。新しい魔王が生まれたと聞いてどんな奴かと行ってみれば...........短気な奴なのじゃ」


言いたいことを翻訳すると、いじめっ子に果敢に挑んだが負けてしまった。何とか逃げていたが、足を滑らせ湖に溺れてしまった。そして魚に食われた。と解釈したらいいのだろうか。

確かに、この子の肌の色を見ればイジメの対象になってしまう事は容易に想像できる。

そう考えると気丈に振舞うこの子に目頭が熱くなる。


「この後、昼までには近くの街まで行こうと思うんだが、一緒に来るか?」


ここにいれば間違いなく死んでしまうだろう。

自分が運よく助けなければ、魚の栄養になっていた所だ。

そして心の中で大きく溜息をつく。

どうして、子供に対して甘くなってしまうのだろう。

どれほど辛酸をなめても、どんなに裏切られても、見捨てる事が出来ない。

妹は笑い、弟は飽きられるだろうな。


「ふーむ。ゴブリンですら危ういこの状況を考えれば、盾になる者が近くにいた方がいい......か」


と呟くが、耳が良いので聞こえてしまう。

まぁ、別にいいんだけどな。


「分かったのじゃ。わしも一緒に行こう」

「ぎぃ!」


同行者が増えた。



・・・・

・・・

・・



街に到着。


アズガルド学園ほど大きくはないがそれでも中々に大きい街だ。


そこで門番と一悶着があった。

切っ掛けは身分証の提出。

身分証として、冒険者ギルドのカードを見せ、劣人種だとわかると露骨に態度が変わった。

そこはまだいい。


心証が良くない状態で、この子が大声で「我は『泡爆』魔王なのじゃ!!」と叫んだものだから騒然となる。

大声で名乗りを上げている最中にフォローを入れておいた。


「思春期特有の.....って奴です。勇者じゃなくて魔王って所が変わってますが」

「成る程な...........この子との関係性は?」

「遠い親戚です」

「そうか」


話半分であまり聞いてないようだが、とても優しい目で魔王を見つめていた。

何かを思い出しているのだろうか。


別の門番がハクシについても聞いて来た。

非常食だと伝えると「なら、食って見ろ」と言われ、眠るハクシを一口で飲み込み、非常食であることを証明した。

あまりの躊躇の無さに、呆気にとられたのか「通って良し」となる。

通った後、消化しない内にすぐに吐き出すが、ハクシは呑気に眠っていた。


お前の野生はどこに行ったんだ。



「.......というわけで、ワシこそが全ての頂点にして原点の王。『泡爆』魔王じゃ!! って、先程の人間はどこ行ったのじゃ?」


まだやっていたのか。


「通っていいってさ」

「魔王の言葉を最後まで聞かんとは、無礼な奴じゃな」


頬を少し膨らませる。


「ところでシヒロはどこに向かっておるのじゃ?」

「冒険者ギルド」

「それは何じゃ?」

「労働の代わりに対価としてお金か物資を貰うところだな」

「なんだか面倒な場所のようじゃな」

「まぁな」


この街の冒険者ギルドに入っていく。


するとむせ返るほどの汗臭さとアルコール臭、すえた匂いが鼻を突いた。

あまりの悪臭に眉を顰める。


「ひ、酷い匂いじゃ」


ごもっとも。

息を止める。


「あ~? 見ない顔だな。流れか?」

「.....あぁ」


受付の男性が声を掛ける。

明らかに不潔である。

ここらにいる連中は、清潔という概念がないのだろうか。


「すぐに出来る依頼とかあるか?」

「カード出して」


無言で手渡す。


「っは。アンタ劣人種か。大きな都市で働けないからってこんな所まで流れて来たのか。お生憎様だな」


その声に周りがニタニタと笑っている。

冒険者ギルドってのは個人情報を守らないんだな。

この街には早めに出て行くか。


「獣人族の国って何処にあるかわかるか?」

「あっち」


大雑把に西の方を指す。


「ここに、依頼はあるか?」

「あ? あぁ、まぁ、あんた程度でも出来る依頼はあるよ。ほら」


そう言い投げ捨てるように依頼書を渡す。


「.......これとこれ。依頼を受けるよ」

「あっそ」

「あと依頼の写しもらうよ」

「あぁ!? ギルド職員を疑ってるのか?」

「まぁね」


ガタっと立ち上がりこちらを睨む。

こちらが何のリアクションも取らずにいると、舌打ちをして奥へと消える。

だが見逃さなかった。

奥へと消える瞬間僅かに口角が上がるのを。


「よう、兄ちゃん。職員を困らせるのは良くねえな」

「全くだ」

「特に劣人種だったら尚更わきまえないと、いけないよなぁ」


この場にいる全員が武器を抜き立ち上がる。


フレアが言ってた通り、あそこはまだ大人しい方だったんだな。


「さて、勉強になったな。先輩たちからのアドバイスだ。授業料を払わないといけないな」

「取り敢えず身に付けてるもの全部おいていきな。勿論パンツも全部だぞ」


ガハハハッと一斉に笑い出す。


「.......ちょっと外で待っててくれ」


1人と1匹は全力で頷くと急いで外へと出て行く。


「おいおい、何処に行くんだ。お嬢ちゃんにも言ってるんだぞ」


後を追いかけようとする男が、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

その目には何が起きたのか理解できていないようだ。

虚ろ気な目でこちらを見ている。


少しづつ近づく。

その目は何かを恐れるように怯えていた。


「貴重な経験が出来ただろう? 金では買えない貴重な体験だ」


パクパクと酸欠の金魚の様に口を開閉させる。


「これ以上が欲しいならもっとやっても良いぞ? 欲しいか?」


全身を震えさせ、首を横に振る。


「テ!! テメェ! な、何をしやがった!!」


周りを見渡すと全員が小刻みに震えていた。

武者震いの類ではないようだ。

血の気が引いている。


「知りたいなら教えるが......」


分かりやすく、そして大袈裟に一歩踏み出す。

ギルドがわずかに揺れる。


「ち、近づくんじゃねぇ!!」

「授業料を払いに来たんだよ。いらないのか?」

「失せやがれ!!」

「依頼の写しを貰ったらな」


軽く舌打ちをすると元いた場所へと戻る。


あぁいうのは楽でいい。

自分より強いか弱いかをすぐさま理解できる人種だ。

強いなら噛みつかない。

大人しくする。

だが、獣と違い人間はプライドがあり、報復がある。

そこだけには気をつけないとな。


すると随分と時間をかけて職員が戻って来た。

怪我一つ無い自分に驚いているようだ。


「それじゃ、写し貰って行くな」


そういい、奪うように写しを貰い、内容を確認する。

偽装はされていないようだ。

意気揚々とギルドを出ると、何やら職員が冒険者に怒鳴っていた。

文句があるなら直接言えばいいのに。


外で大きく深呼吸している小さい魔王に声を掛ける。


「それじゃ行こうか」

「シヒロ。匂い移ってないか?」

「宿屋で体拭こうか」

「やっぱり臭いのか!! あそこは最悪なのじゃ」

「ぎぃ」


取り敢えず、依頼をする前に、体を綺麗にしていくか。

迷惑になっては駄目だからな。


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