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幕間 それぞれの視点

◆◇◆魔王連合


『蝕淫』がもつ筒から出た煙の映像が途切れる。


「ふふ。これで終りね」


「ッカ!! 馬鹿馬鹿しい。肝心の倒した相手の顔が映ってねぇじゃねぇか」

「あんたのペット終始ビビって逃げてるだけじゃない」

「...........ごめん。少ししか見てなかった。どうなったの?」


倒れこむ姿勢から顔だけを動かし『蘇生』魔王が問いかける。


「ッハ!! ちゃんと見とけ。要するに魔王クラスの楔が一人の人間に一方的に殺されたって事だ」

「それも上位の奴じゃの」

「何あれ? ていうか人間なの?」

「私も良く分からないの。少なくとも勇者ではないかもね」


フフッ、と妖艶に微笑む。

まるで楽しむように。

絡めとるように。


「ッ!! 『蝕淫』!! 止めなさい!! ぶん殴るわよ!!」

「あら、ごめんなさい。少し興奮しちゃって。凄いわよね」


はぁ、と甘い吐息を漏らす。


「ッカ!! まぁ、確かに『蝕淫』の言う通り勇者の可能性は薄い。特徴あるスキルや魔法を使ってない。素手か小さなナイフだけだ。だとするなら何者だ?...........『蝕淫』、外に出とけ。互いの邪魔にしかならない」

「ごめんなさい。ちょっとクールダウンしてくるわ」


そういって、ドアから出て行く。


「まぁ、『蝕淫』が興奮するのも分かるがのう。あやつは強い異性が好きだからのう」

「スキルや魔法を使わないなんて大層な自信家ね。余裕ってアピールかしら」


スッと倒れた姿勢のまま手をあげる。


「なに? 『蘇生』。貴方そのまま倒れてていいのよ。今日は結構頑張った方だから」

「.........逆じゃないの?」


この場にいる全員が首をかしげる。


「........使わないんじゃなく。使えない」

「ッハ!! それこそ有り得ない。それならば一切の魔力がない事になる。素の力だけで楔を倒した事になるんだぞ」

「『蘇生』。貴方少し寝てなさい」


だがこの場で一人唸り声をあげる。


「有り得なこともないかもしれないのう」

「ッハ!! どうした『凝固』。気になる事でもあんのか?」

「ったく。老人はこれだから。さっさと言いなさいよ」


『孤毒』は気になるのか身を乗り出し催促する。


「.........ん」


と『蘇生』がまた手をあげる。


「.......僕の考えだけど、間違いないと思うよ。点の攻撃が当たってない。そして、点から面の攻撃になってたよね? 少ししか見てなかったから確証はないけど」

「あんたホント説明が下手ね」

「やはりか」


合点がいったように頷く。


「どういう事よ!! 説明しなさい!! 『狂乱』!!」

「ッハ!! なんで俺に聞くんだよ」

「あんたの説明が一番わかりやすいのよ。それともあんたも分かってないの?」

「ッカ!! 大体は理解してるよ。掻い摘んで話すとだ。前提としてこいつには本当に魔力が無いってことになる。だからあの楔は点の魔法攻撃が当てられないんだよ」

「ん?」

「ッハ!! いいか。魔法を当てるのにはまず2通りある。目視等による感覚によるもの、魔力を感知して当てる方法だ。つまり、知覚と感知。大概はこの2つを併用してる。ここまでは良いか?」

「ダイジョウブ」


難しい顔をしているがついて行けてると判断する。


「ッカ!! だがら急に目視だけの感覚になると目測が狂うんだ。接近戦で急に片目になって戦うようなもんだ」

「あ!! そう言う事。だから外れないように面に対する攻撃をしたのね」

「そう言う事じゃの」

「まぁ、確かに筋は通るのかしら?」

「..........あくまで仮説」

「鵜呑みは危険じゃが可能性の一つとして考えるのは悪くないじゃろ」


唸り声が部屋に響く。


「んで? これ誰が対応するの? 私は嫌よ遠いから。新しい魔王の方が気になるし」

「儂もじゃの。差し迫っての脅威は新しい魔王か」

「ッカ!! 俺もだ。抱えてる仕事が多すぎて手が回せそうにない。一旦保留にするか?」


「.........僕がする」

「意外ね」

「.........彼は新しいタイプだと思う。聞いてると強いかも。もしかしたら僕を殺してくれるかもしれない」


その時ドアが開く。


「だぁめ。私が担当するわ」


『蝕淫』が入ってくる。


ジッと視線を交差する。

ジリジリと焼けるような空気が部屋に充満する。


「..........君じゃ僕を殺せないよ」

「あらぁ、私の奥の手はまだ知らないでしょう?」

「へぇー」


「ッハ!! いい加減にしろ」


コインを取り出し、軽く弾く。


「おもてぇ」

「.......裏」


「ッカ!! 表だ。『蘇生』は『蝕淫』のあとだ」

「.........わかった。殺さないでね」

「ふふ。ありがとう。努力するわ」


「それじゃあ今回はこの辺にするとして、解散するかの」

「思ったより時間かからなかったわね。さすが『狂乱」ね」

「ッハ!! バカにしやがって」


その言葉を最後に全ての魔王がこの場から消えた。

己が城に帰っていったのだ。




◆◇◆アベル=エル=キングストン


彼はフレア=レイ=ブライトネスとシヒロ=シラズミの2人と席を賭けた決闘で敗れた。

その後、彼は憑りつかれたように魔道具の研究を進めていた。

アズガルド学園の姉妹校であるキサラギ学園に在籍している。

アズガルド学園が魔法、キサラギ学園が魔道具を主に専攻としている。


彼自身の勝手な行動は、勘当されてもおかしく無かった。

しかし、彼自身が発明、発案した幾つかの特許が彼の功績と判断され、自由に行動する事が許された。

当の本人は、勘当されようが認められようがどうでもいい事だったが、公認による自由は柵が減った分よかったと言えた。


もちろん顰蹙も多かった。

親の金や権力のおかげだ、と揶揄されていることも少なくはなかった。

しかし、彼からすれば「だからなんだ? 環境も才能の一つだろう?」それが彼の言い分だった。


才能を遺憾なく発揮して何が悪い。


「.......やはり、肉体をベースにした強化には限界があるか。それならスーツの様に着用する魔道具にするか、それとも腕を切り落として腕自体を魔道具とするか」


自分の利き腕を軽く撫でながら考える。

やはりスーツタイプだな。

腕を切り落とした場合、日常生活すらままならなくなり、研究スピードが落ちてしまう。

効率的ではない。


スーツ........いや、それならいっそ。

だとすると素材が。

従来の方法だと稼働しないか。


そんなことを試行錯誤していると後ろから声がかかる。


「まだやってるの? いい加減寝ないと死んじゃうよ」


彼女はモーラル。


気が付けば自分の所に入り浸っている同年代の女子だ。

いつからなのかは覚えていないが気が付けばいた。


「効率が落ちたら寝る様にしている。何か用か?」


視線を合わせずに応対する。


「あなたが申請した『アベル式魔力流動』。特許申請に通ったって」

「それは朗報だな。これで資金面に余裕が出来るな」


彼が取得した特許は合計5つ。

何もしなくても生活できる程度には特許料が入って来る。

だが、己が研究に費やすため、常に金欠気味となっている。


「今度は何作ってるの?」

「今度じゃない。はじめから作るべきものは決まっている」


先程の情報で少し浮かれているのかもしれない。

いつもより饒舌になってしまった。


「なに?」

「化物を倒すための魔道具だ」

「へぇー」


何とも間抜けな声だ。

じろじろと設計図や資料を読んでいる。


「ドラゴンとでも戦うつもり?」

「そんな楽な相手ならこっちも苦労しない」


そうだ。

目指すべきはあいつだ。

寝ても覚めてもあいつの顔がチラつく。

一切の容赦がなく。

一切の余地を挟まないほど強く。

怖い。


知れば知るほど、経験すればするほど、その距離がハッキリと分かってしまう。

遠く。高く。届かない化物。


「ドラゴンより強いってどんな生き物なの?」


いつも感情が読めないモーラルが興味を示している。


「人間だ。.......ただの人間。クハハ。馬鹿馬鹿しい。あれがタダの人間であるはずがない。だが、侮蔑されている人種だ」

「強いけど。クズって事?」

「どうだろうな。案外クズなのは世間なのかもしれない。俺を含めてな」


自虐的に笑ってしまう。


「私から言わせてもらうと、ドラゴンは最も強い種族」

「かもしれないが、例外がある。その例外を俺は打ち破りたい。俺じゃなくてはならないんだ」


あのときの決闘を思い出す。

一方的に蹂躙するはずが、蹂躙された。

あいつの瞳に映る自分の怯えた顔が今でも忘れられない。

許せない。


言葉にし、心に留めると、体の芯に火が灯る。

静かに。だが、激しく燃え上がる。


「ところでお前は、それを報告しに来たのか? だとするとずいぶんと暇なようだな」

「あなたに会いに来たって言ったら?」

「やっぱり暇人か。羨ましいよ」


皮肉を言う。

お喋りはこれぐらいでいいだろう。

時間の使い方なんて人それぞれだ。

怠惰に暮らそうが、復讐に身を焦がそうが人それぞれだろう。


己が書き留めた論文を纏めようとすると、何やら紙の束を差し出される。


「なんだこれは?」

「勇者の走り書き。欲しいって言ってたでしょう?」

「........はは。本当に持ってくるとは思わなかった。それで? 条件は何だった?」

「一日デート」

「酔狂な奴だな」

「でも、それよりドラゴンより強いって人の話を聞きたくなった」

「言いたくない」

「なら渡さない」


ッチ。と露骨に舌打ちをするが、特に気にしたような感じではない。


「なぜそんな事を気にする。ただの言葉の綾だとは思わないのか?」

「思わない。貴方が寝る間を惜しんで全力を尽くしているから」


暫しの沈黙。


「誰かが何かに夢中になっている姿は美しい。そう言った人が私は好きだ。貴方が夢中になる人がどんな人か知りたい」

「知った事じゃない。だが、まぁいいだろう。どうせつまらない話だ。ちゃんとそれは置いて行けよ」


そうして呟くように話し始める。

眉を顰め、言葉汚く話し始めるが、どこか誇らしげで、嬉しそうに語っていた。



◆◇◆???


とある草原に爆破音が響く。

その中心地にとある人物が倒れこんでいた。


「ん? んーーー?」


ゆっくりと起き上がる。


「生きておるか。そうか! そうか! 生きておるか!!」


ブワッハハハハ!!と大声で笑う。


「見たか! 悪運だけは強いのじゃ!!」


誰に憚れる事無く、拳を頭上に突き出す。


ゲギャ!!と声が聞こえる。

ゴブリンであった。


「ん? なんじゃ。とっとと失せろ。見逃してやる」


だが、威嚇は止まらず仲間がどんどんと増えていく。


「強者に挑むか。その心意気は買ってやるのじゃ。だが愚かなのじゃ」


そう言い魔法を使おう手を前に伸ばす。

しかしその時に違和感を感じた。


手が小さいのだ


「なんじゃ? なんじゃ!? なんじゃこれは!!」


確かめて見ると手だけでなく体ごと縮んでいた。


「待て待て、魔力もすっからかんではないか」


魔力がないため足がふらついている。

自分の現状を確認していると、周りのゴブリンたちが騒ぎ始める。


「あっ。あー。ちょっと落ち着こう。そうじゃ。暴力はよくないぞ。暴力は何も生み出さないのじゃ」


ジリジリと後ずさりする。


ゲギャ!! と大きな声を出すと一斉に襲い掛かる。


「いやじゃー!!!」


小さな手足を必死に動かし、全速力で走った。



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