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38話


およそ500年前。


勇者により一つの楔が外された。

そこに魔王率いる大量の魔族が侵入し、人類が応戦した。


これが人類最大の被害を与えた人魔大戦の勃発である。


侵攻してくる魔族に人類は劣勢に立たされる。

辛うじて、勇者の力と英雄と言われる者の活躍により前線を維持していたが、それでも少しづつ後退を余儀なくされ、後僅かで人類圏に侵攻されるところまで追い詰められていた。

そこに、とある人物が参戦した。

たった一人の女性である。


その女性が何者なのか詳しいことは分かってはいなかったが、『玩具シリーズ』という魔道具でもなく、生き物ですらない何かを29つ操り最前線へ向かった。


『轢死』、『滲み出る痛み』、『幸福の感染』などが有名であろう。


それ等を率いた女性はたった半年で戦況を引っ繰り返し、人類が魔族圏に大きく侵攻する事に成功した。

その結果『玩具シリーズ』も大半を失ってしまうが、2つの魔王を打ち倒すことにも成功した。

その驚異的な戦果に誰もが驚嘆し大いに喜んだ。

さらに、持ち帰った魔族圏にある鉱物や物資はどれもが人類の躍進に大いに貢献した。

これにより、人類が魔族より強いということが流布され、魔族侵攻に力を入れ始める。

そして、様々な国が彼女に功績として、金、称号、土地を与えた。

一時は、人類救世の女神と褒め称えられた。


だが、それも長くは続かなかった。


彼女が用いた『玩具シリーズ』は製作方法があまりにも非人道的であったからだ。

(製作方法が何故漏れたかは不明)


それが知れ渡ると、褒め称えた国は一堂に手のひらを返し、彼女から全てを没収した。

いや、正確には奪った。

劣勢を覆し、魔王の首すら刈り取れる戦力に、どの国も欲しがり渇望したのだ。

機嫌を取りその方法を得ようとしたが、この醜聞により手っ取り早く奪う事にしたのだ。

しかし、結果として奪うことは出来なかった。

この事を予想していたのか、彼女は誰にも奪われないよう破棄していたのだ。


だが、『玩具シリーズ』の29の製作方法だけは破棄されなかったようで、各国がそれを我先に奪った。

兵器運用、国を大きく発展させるために嬉々として作成されたが、全てが失敗、もしくは暴走した。

彼女だからこそ、あれ等を運用できたと気づいたころには、幾つかの国が滅んでいた。

ゆえに誰が言ったのか、『欠陥の玩具シリーズ』と言われるようになり、禁術として扱われるようになった。


それから幾十数年。

驚くべき事が起こった。


彼女の研究室と思われるダンジョンが発見された。

どうやら処分はされておらず。

慌てて逃げたような痕跡が見受けられた。

そして詳しく調べたことにより、新たな事が判明した。

29と思われていた『欠陥の玩具シリーズ』は、本当は43存在していた。

この情報は国の一部の上層の人間により黙殺された。

(余計な混乱を生まないための配慮か。それとも、その魅惑的なそれを独占するための動きなのかは不明)


その後。


5体は突如として現れ、歴代勇者によって討伐された。

1体は途中で放棄されていたのが、研究所の資料を解読する事によって判明した。

残りの8体の存在は不明であったが、その内の1体はブライトネス家領地に突如として現れた。


◆◇◆



「あー、大丈夫か? あんた。いや見た感じ大丈夫って感じではないけど」


地図に従い走っていると、死にかけた大柄な人が歩いていた。

見た感じ助からないであろう人物だ。

骨は剥き出し、皮膚は全て燃え尽きて炭化している。

焼死体といっても信じるだろう。


「なんか言っておきたい事とか、しておきたい事があるなら聞くが?」


口から煤が吐き出される。

内臓が焼き爛れているのだろう。

話すことはできない。


「.......介錯ぐらいならできるが?」


自分に出来るのはそれぐらいだ。

別に無視しても良かったのだが、自分も似たような経験があるだけに無視できなかった。


全身火傷はつらいよな。


瞳の無い顔がこちらを向く。

喉を掻き毟り、声にならない悲鳴を上げる。


「------ッ!!!!!!!」


口から大量の煤が吐き出される。


「.......あー、介錯の方でいいのか?」


手を突き出しながらこちらに走って来る。


「死ぬなら戦って.......か。勇敢だな。すぐに終わるよ」


出て行くときに持ってきたポーチから、父さんから貰った小太刀を取り出し、抜き放つ。

墨よりも暗く。

煤よりも黒く。

薄気味悪いほど人工的な黒。


「まだ慣れてはいないが、失敗はしないから安心して休んでくれ」


走るそれに、黒い線が闇夜に滑る。

風もなく、静けさだけが支配する世界に、小さな音が響いた。

糸の切れた人形の様に倒れこむと、首が転がる。


着ていたマントをそっと被せ、目を瞑り、静かに黙祷する。

そして、踵を返しダンジョンの方に向かい走る。



・・・

・・



「ここか」


多少の寄り道はあったが、地図に記された目的地に到着した。

どうやら洞窟のようで、奥からは爬虫類の匂いが微かにした。

だが気になるのはそれではない。

壁を軽く指で触れてみる。


「煤がついてるな」


あの火傷した人物は、ここで被害にあったのだろうか。

慎重に中に入っていく。

生き物の気配は一切ない。

壁に天井、あちこちに煤がこびりついている。

中は涼やかで、何か燃やした様な熱も匂いも感じない。


「一応、奥まで行ってみるか」


慎重に進むが、途中から速度を上げていく。

ここに居ただろう生き物の痕跡はあるが、一度も遭遇しない。

確かに一度も会うことが無かったことはあったが、それでも何かしらの気配はあったのだ。

だが、ここには何の気配もない。


「皆殺しか」


走りに走り、一番奥に辿り着く。

そこは広い空間になっていた。

ただ、まるで巨大な蛇のような形をした煤が壁一面にこびりついていた。


「探していたダンジョンではなかったか」


恐らくここのダンジョンのボスだったのだろう。

煤だけを残して殺されていた。

苦労はした割には、成果はない。

あまり期待はしていなかったので落胆も少なかった。


ここの有様は、第3者にやられたか。

恐らくあの人もそれに巻き込まれたと考えて良いだろう。


「無駄足だったが、悪くはないか」


帰ったらブライトネス家の食料を分けてもらおう。

主に調味料やスパイス等を。

手ぶらでまったり洞窟から出ると、目を疑うような光景が移っていた。


「なんだありゃ」


夜であることを疑う様に空が明るくなっていた。

いや違う。

原因はあの白く燃えているモノであろう。

目を細め凝視する。


「.........フレアか?」



◆◇◆ ???



彼がダンジョンに向かってから少しして、


「あれ~? 何で首が取れてるの?」


マントが体に引っかかっているので人を襲ったということは分かる。

だが、何故壊れているのかわからなかった。

これにはスキルとして【物理無効】【魔法耐性】【自動修復】等がある。

それに、ずっと見ていたわけではないが、目を話した短時間で壊されるとも思えなった。

なので、たった一人の人間に、たった一撃で壊されたなど考えもしなかった。


「もしかして経年劣化かな? まぁ、500年も昔のものだし、調整はしてたけど古くなり過ぎたか」


納得できる理由としてはそれしか考えられなかった。


はぁー、と重いため息をつく。

何もない空間から一つの注射器を取り出す。


「どうせ壊れるなら、もっとド派手に暴れてから壊れてよ」


心臓付近に突き立てると、一気に注入する。

大きく跳ね上ると、ゆっくりと起き上がる。


「あちゃ~、頭は完全に壊れてる。これは無理か」


煤の塊となってボロボロに朽ちていた。


「ここまで経年劣化が酷いとは、他のも良く調べとかないとな。あ、君にはこれをあげるよ」


角の生えた頭骨を取り出す。


「本当はもっといいのがあったんだけど。『人形使い』に奪われちゃったんだよね。あいつは絶対に殺すからこれで我慢して」


頭を装着すると、頭骨の眼底に黒い炎がともる。


「ん? あらら、マントが癒着してる。取ってから注射したらよかったね」


肉と骨にマントが癒着しており剥がせなくなってしまった。


「まぁいっか。よっし! じゃあ行ってこい!」


煤火の狂人はブライトネス家を目指し、闊歩する。

それは先程の姿とは似つかなく、少しずつ巨大化していった。


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