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37話

一日PV数1000突破、初レビューありがとうございます。

読んでくれる皆さんのためにも、これからも頑張ってい行きたいと思います。


今回は視点が多く変わります。


会場の照明がわずかに落とされる。

スポットライトが会場の中心を照らし出す。

その中心にいるのはブライトネス家三姉妹の姿であった。

そのドレスはそれぞれの髪の色を意識した色調をしており、一歩進むだけでドレスから花弁が舞い上がる。

感嘆の声が漏れる。

目の肥えた貴族たちさえ目を奪われ、誰しもがその姿に酔いしれた。

暫しの静寂の後、嵐のような拍手に包まれる。



「凄いな。女は化けるっていうけど本当だったわ」


青黒く、髪が隠れるような羽が付いたドミノマスクを被っている。


こうなった経緯はこうだ。


フレアの所に突撃。

メイドに邪魔されるもフレアに会うと着替え中だった。

何が起きたのか分からないようでフリーズ。

構わず平静に会話をする。

「晩餐会の途中だが、ここから出てダンジョンに行きたい」と伝える。

すると意識が戻ったのか「いいわよ。ただし.....」と条件を付けられる。

騒ぎを起こしたので無理だ、と答えると

「これつけたらいいわよ」と近くにあった紙とドミノマスクを投げ渡す。

紙を広げると地図だった。

信じてるわよ、と微笑む。

「これが終わったら行くからな」

「仕方ないわね」とこたえる。


さて、と仕切り直し顔を差し出す。


「ケジメは大事だからな」

「? 何のこと?」


ん、と下を指さす。

それにつられて下を向くと自分のありようが理解できたようだ。

パン!! と子気味のいい音がして、今に至る。


ちなみに、ボロボロになった服は同じ部屋にあった服と交換した。

歌劇のようなマント付きの服だ。

少し鬱陶しい。


それにしても出された条件が、父親とのダンスが終わったら、次のダンスは一緒に踊る事だった。

まぁ、その程度なら問題ない。

仮初とはいえ恋人なのだから踊ることに疑問はないが、心配事があるとするならこちらが踊れるかどうかだ。


社交ダンスなら多少は踊れる。

母さんが悪ふざけで教えてくれたのだ。

「史宏と一緒に踊って見たかったんだ」と酔っぱらった状態で踊らされたのを覚えている。

余談だが踊ったのは女性パートで、踊り終わったら腰を痛めた。


照明が落とされる。

それに合わせて音楽が始まると、フレアと父親が躍り出す。

白い羽と赤い花弁が混じり合うような幻想的な光景だった。

改めてあいつも貴族なんだなと納得する。

何とも色っぽい表情で踊るものだ。


なぜか一部のメイドが感極まり涙を流していた。


そういえば、お転婆だって言ってたからな........苦労してたんだろうな。


踊り終わるとまた拍手に包まれる。

すると幾人かの男性がフレアに近づいていく。

フレアは誰かを探すように視線を動かしている。


この男どもを割っていかなければならないのか。

せっかく変装したのに、また顰蹙(ひんしゅく)を買いそうだ。


しかし行かなければならないのだろう。

これが最後だと言い聞かせ、壁を蹴り上げフレアの真上まで飛びあがる。

そしてフレアの真後ろに静かに着地すると、そっと手を握る。


「私と踊ってくれませんか?」

「あ、いえ、あっシヒロ」


どうやら一瞬分からなかったようだ。

まぁ、自分だとバレないように声色まで少し変えているから仕方ないか。


「いかがでしょうか?」

「謹んで受けます」


すると先程同様に音楽が始まり、男どもは退散していく。


(流石ね)

(ここまではな。踊りとか自信ないぞ)

(シヒロなら大丈夫よ。呼吸を合わせて私に合わせてくれればいいのよ)


無茶言いやがる。


(行くわよ)


フレアとのダンスが始まった。


先程のダンスと違い、ユラユラと波のような動きでゆっくりと踊る。

音楽も先程と同じなのに違った印象を与える。


成る程、これなら簡単だな。



◆◇◆



緩やかな時間が流れる。

それは単純な踊りだったが不思議と見る者を引き込んだ。

その中で、踊っている2人には、それぞれ感じるものがあった。


彼女は踊って理解したことがあった。

それは、ともに踊っている男性は頂上が霞むほど大きい存在であるということだ。

歳もそんなに変わらないというのに、何故ここまで差があるのか想像できなかった。

越えた死線の数が違う、失い、得た物の数が違うのだろう。

たったそれだけが分かった事ともいえた。


不思議とそれが誇らしく思えた。

私が惚れた男はこんなにも凄いという事に、それに気が付けた自分に賞賛を送りたい。

だからこそ贅沢になる。

知りたい、と。

彼のことを知りたい。もっと知りたい。もっともっと理解したい。

何に怒り、何に悲しみ、何に喜ぶのか。

どんな子供だったのか、どういった経験をしてきたのか。何を目指しているのか。

.......そして、私の事をどう思っているのだろうか。

首に浮き出る血管に自然と視線が移る。

良くない妄想が広がる。

舌を這わせ、歯を立て、吸い付いて、彼に私という存在を刻みたい衝動が止まらない。

逆に私にも彼のを、と......妄想すると、ゾクゾクッと蠱惑的な感覚が背筋を通った。

チロリと唇を舐める。


知るべき事はもう知った。前回とは違う。

今度は、失敗しない。


恋は乙女を暴走させた。



彼は踊って分かった事があった。

それは、彼女が普通の女の子だということだ。

小さく、柔らかく、脆く、何処か儚げだ。

少しでも力を籠めれば潰れてしまいそうなほどに。


家の女性陣を基準に考えていたが、やはり自分の家族がおかしい事にも気付けた。

そんなおかしい家族に振り回されるのは理解できる。

自分よりも強いからだ。

だが、今までの事を考えると自分よりも弱く小さな彼女に振り回されていることに気付いた。

渡された地図を持っているのに行かない事。

彼女と踊っている事。

彼女の家に寄っている事。

どれもこれもが手間だ。

しがらみが多い上に時間が掛かる。

一人で行動した方が何倍も早く終わっていただろう。


ではなぜ彼女に振り回される?


借りがあったからだろうか? この世界の事を教えてくれた恩ゆえにだろうか?

それ等はお釣りがくるほど返したはずだ。

何度も命を救ったのだから。

それでも足りないと言ったとしても、自分は十分返したと思っているのだからどうこう言われる必要はない。

だから切り捨てて行っても良かったのだ。

なのにそうしなかった。


何故か。


.........嫌ではなかったのだろう。

一緒にいて、何だかんだ楽しかったのだ。

振り回されることが気に入ってたのかもしれない。


これが娘を持った父親の心境だろうか。


彼は感じたことのない感情を、父性であると位置づけた。

お互いに向き合う感情はバラバラだが、同時に微笑んだ。


しかしながら、彼は、家族以外に振り回されたのには少し癪だったので、仕返しがしたくなった。

悪戯心が首をもたげた。



◆◇◆



せっかくだ。こちらの世界の踊りを教えてやろう。

母親から教えてもらった社交ダンスを実行する。

腰を痛めた奴だ。


「う、っわ」


振り回されたフレアが驚きの声をあげる。


堪能しろよ。


テンポを上げる。

ステップにキレを持たせる。

静から動へ。

密着している所を利用して、フレアを操る。

傍目から見ても一緒に踊っているように見えるだろう。

母さんほど上手くないが、自分も中々だと自負している。


フレアから小さな悲鳴が聞こえる。

それもそうだろう。

今までが散歩なら、今は短距離の全力疾走のようなもの。


驚いてもらわないとな。


音楽も佳境を過ぎ、踊りも終わりに近づく。


これで終わり。


限界までフレアの腰を捩じり反らせると、演奏が終わった。

暫しの静寂の後に、割れんばかりの拍手が起きた。


一応、腰を痛めないように、腰に手を添え、体重も分散させてる。

後は呆然とした顔か不満を漏らすフレアの顔を拝むだけ。

フフンと笑う。


しかしフレアを見るとその笑みも消えてしまう。

濡れたような瞳、上気した頬、緩んだ口元、荒い呼吸に不意に心臓が高鳴る。


.......父さんのを読んでから何か変な感じがするな。


フレアを抱き起し、軽く頭を下げ、こちらも拍手をしながら退場していく。

その後、鳴りやまない拍手を背に会場を後にした。



◆◇◆



主賓席に座る夫婦が語る。


「たった1ヶ月見ない間に、大きくなったな」

「それ、本人に言ったら嫌われますよ」

「そういう意味じゃない、人としてだ」

「冗談です。知ってますよ」


クスリと微笑む。


「少し前までは、パパ、パパ、って言ってたのに、踊るときにお父様って言ったんだぞ? 娘の成長は嬉しいが悲しくもあるな」

「それは上の2人の時も聞きましたよ」

「毎度思うんだよ」


その時にふとハンカチを渡される


「鼻水が出てますよ」

「悪いな」


鼻を軽く拭う。


「初めて会った時のお前そっくりだ」

「そうですか? 私はあんなに目力はありませんよ」


フフッと笑う。


「目元が似たんだろうな。顔は全部お前に似てくれればよかったんだが」

「そうですか? 私はあなたに似てくれてよかったと思ってますよ? 可愛いですから」

「そうやって昔は何時もからかわれたな」

「好きな子は虐めたくなる性格ですから」


フフッとお互いに笑う。


「私が貴族としてよかったと思ったことは少ない。だが、良かったと思えることはお前と出会えたこと、3人の娘を授かれたことだ。数にしてしまえば少ないが、それだけでよかったと思えるよ」

「それも何回も聞きましたよ」

「何回でも言うさ。奇跡だと。これ以上はない」


妻が旦那の後ろから抱きしめる。


「すみません。男の子を生めなくて」

「それは何十回と聞いた。婿養子といえど、これ以上望めばお義父さんに怒られてしまう。跡継ぎならアルルアかヴァルサの旦那に継がせればいいだろう。嫁に行ったと言っても何とかなる。それに、あの娘達が見惚れた相手だ。私より上手くやるだろう」

「私はあなた以上はいないと思っていますよ。父よりも優秀です。保証します」

「そういって貰えたのは初めてだな。嬉しいよ」


「ところでフレアが連れて来た彼氏はどう思います?」

「ダメだ!! 絶対にあんな奴に娘はやらん!! 大体年が離れすぎているだろう」

「資料をお読みになられましたか?」

「見なくても絶対に渡さん。あの子は一生私が養う!!」

「また娘に嫌われますよ?」

「絶対にやらん!!」


そこに一人の執事が2人に耳打ちをする。


◆◇◆


「準備は済みましたか?」

「はい、後は家長の許可を頂くだけです。いつでも脱出用魔道具を起動できます。外壁の3重結界はすでに発動しています」


家長の心配性で集められた魔道具の数々。

何かあってはならないと集め、死蔵された数々であった。


「無駄であってくれればよかったんですがね」

「その通りね」


そこにメイドが資料を持って現れる。


「確認出来ました。対象は、新ダンジョンから現れた魔物のようです」

「すぐに見せて」


資料に素早く目を通す。

そこに写された魔物の姿を見る。

見たことのない魔物。いや、魔物なのかこれは?

どうみてもこれは


「人間の焼死体のように見える」


それが歩いているのだから、アンデットの類かもしれない。


「失礼しますよ」

「執事長」


眼鏡をつけ、それを確認する。

すると苦虫を嚙み潰したよう顔になる。


「『煤火(すすび)の狂人』」


その言葉に幾人かのメイドが反応した。

想定していたよりも深刻そうである。


「『欠陥の玩具シリーズ』がどうしてここに......」


面白いと思っていただけると嬉しいです。


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