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36話

PV2万 ユニーク5千 ブクマ50件突破しました。

ゆっくりと遅い投稿ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。


隠し部屋から出て、倉庫に戻って来る。

すると数人のメイド達が出迎えてくれた。

あまり歓迎はされていないようだ。

一体どこから出てくるんだと驚き半分、呆れが半分といった表情をしている。


「何をなされているのですか? シヒロ様」

「掃除」

「その持っておられるものは?」

「そこの隠し部屋の中にあった。掃除の邪魔になるから一旦こちらに置いておこうと思ってな。丁度良かった。持って行ってくれ」


ジッと視線交差する。


誤魔化せたかな?

嘘はついてない。


「掃除はもう結構です。奥様が望まれた料理だけで充分です。客人にそのような事はさせられません」

「気にしないでくれ。望んでやってることだ」


またもや沈黙。


「晩餐会の準備が整いました。出席の準備をしてください」


とうとう来てしまったかと思った。

逃げる算段を付けていると、フレアが登場した。


「シヒロ!!」


メイド達は一斉に振り返る。

予想外の展開だったのだろう。

逃げるなら今だ。

力を籠めようとした時、


「ここの食材、全部持って行っていいわよ。私が許可する!!」


ガクッと力が抜ける。

間を外された。


「フフッ、さぁ、晩餐会に行くわよ」


満面の笑顔で声を掛ける。

やられた。


「..........あぁ」


観念したふりをして、逃げようとした時に小さく耳打ちをされる。


(逃げようたってそうはいかないわよ)

(よくわかったな)

(貴方の事、多少理解できて来たからね)


クスリと意地悪く笑う。

こちらは小さくため息をつく。




・・・・・・

・・・・・

・・・・



晩餐会。

流石に往生際が悪いと諦め参加した。

今回はフレアの父親もいるようで、妻と一緒に挨拶の対応で忙しそうだ。

やはり目元がフレアとそっくりだった。


しかし、肝心のフレアはまだいない。

どうやら主役は遅れてやってくるようだ。


フレアの父親に歓迎されていないのを承知であいさつに行く。

社交辞令だろうが、言葉や態度では歓迎していた。

目は笑っていない。

そして周りの専属執事らしき人物らは無反応。

仕事熱心である。

やる事も終わりフレアが来るのを待つ。

その間に晩餐会を見渡してみると、改めて凄いなと実感した。

内装や御馳走もそうなのだが、身に纏うドレスに驚いた。


キラキラと光の粉のように輝いていたり、動くたびに服の色が変わったり、服の模様が生きているかのように動き回っている。


シンプルな黒い服を着ている自分が何とも浮いている。


「嫌な目立ち方をしているな」


そう思いながら、持ってきた料理をムシャムシャと頬張る。

案の定と言えばそうなのだが、他の人からは目を引くようだ。

奇異の眼で見られるのはマシな方で、変な物言いをつけてくるのが面倒だった。


例えば、


何でお前のような者がここに居る?

下卑た匂いがするなぁ

クズがどうやって侵入してきたんだ

etc.


改めて劣人種の差別の酷さが理解できる。

ガロンド砦の連中はやっぱり変わってたんだな。


そんなことを考えているとまた一人、近寄って来る。

年は自分と同じぐらいだ。

会うなり饒舌に嫌味を語って来る。

どうやらフレアとお付き合いしたいらしく、お前ごときじゃ釣り合わない。

要約すると、こんな事を言いたいようだ。


暇な奴。


しかしながらフレアと付き合っているという話は知れ渡っているようだ。

まぁ。そうしないとフレアの虫よけとして呼ばれた意味がないのだから仕方がない。

ストレスは溜まる一方だがな。


適当に相槌を打っていたが、馬鹿にされていると感じたようで、持っていた酒をぶちまけて去っていった。

服は防水加工がされているのか全て弾いていた。


凄いなこれ。


ふと視線を感じ、待機しているメイド達に意識を向ける。

どうやらこちらを注視しているようだ。

特にフレアの父親のそばにいる専属執事の方は神経を研ぎ澄ませ、こちらを窺っている。


息苦しいな。何もしませんよ。


気にしても仕方ないので料理を食べ進める。

すると頭に隠れていた蛇? も出てきた。

取り分けた料理をムシャムシャと食べ進める。


「お前は本当に何なんだろうな?」


こいつもあのメイドに引き渡すつもりだったが、まるで今生の別れの様に必死にしがみ付くので離すに離せなくなった。

家長と相談し、処遇が決まるまではこちらで預かることになったのだが、引き取る形になっても困る。

非常食としてしか見れそうにない。


「ギッ」


もういいという様に、キッチリと自分が作った前菜だけ食べて戻っていく。

他の料理には手を付けていない。

残すのは良くないのだが......


「贅沢な奴だな。いいか、今回はお前の不始末をこっちが拭ってやる。今回だけだぞ」


自分の料理を気に入ってくれたのには悪い気持ちはしない。だから今回だけは見逃すことにする。

皿に余った料理を全て平らげる。

口についたソースをナフキンで拭う。


......んー、物足りない。取りに行こうか

だが、また誰ぞに絡まれるだろうな。


隠し持っていた収納袋から、乾物を取り出す。

妹の手作りである。

ガブリと噛みつき、噛み千切る。


クジラか? 美味いな。


味わう様にゆっくりと咀嚼する。

料理が下手な妹がよくぞここまでうまくなったものだと感心する。


「ギィ、ギィ」


何やら頭の上で動いている。

食べたいのだろうか。


ブチっと指で引きちぎり口元に持って行く。

あぐり、と一口で頬張る。

えらく気に入ったのか、のたうち回りながら嬉しそうに鳴いている。


その光景に、笑みがこぼれる。

すると先程、酒をぶちまけた奴が数人引き連れてこちらに向かっていた。


「よう、クソ野郎。聞いたぜお前劣人種なんだってな?」


まるで鬼の首を取ったかのような態度だ。

よくもまぁ知りもしないのにあれだけ言えたな

素直に感心する。


「どこぞの無礼な3流貴族かと思っていたが、劣人種とは思わなかったぞ」


踏ん反り、威張るように語る


「彼女が可哀そうだ。もう会わない方が良いだろう。みんなもそう思うよな?」


同意だという様に賛同する。


「彼女のような人物は俺のような高貴な人物に仕えた方が幸せだ。いや、仕えさせる喜びを知るべきだな」

「へぇ」


幸せの定義なんて、人によって違うだろうに。

フレアよ、知らないだろうがお前モテモテだな。

羨ましいとは思わないが。


「劣人種に彼女は相応しくない。場違いな劣人種は早々に立ち去れ」

「あぁ、考えておくよ」


舞台がかった動作に反応するのも億劫なので、残りの乾物を頬張ろうとする。


「舐めやがって!!」



持っていた乾物を叩かれ落としてしまう。



...........あ゛?



油断だった。

食べようと力を抜いた時を叩かれ、思いのほかに強く叩かれたことが原因だった。

拾おうと慌ててしゃがむが、目の前で踏みつけられた。




頭の奥で何かが切れる音がした。




ゆっくりと立ち上がる。


目の前の()かはニタニタと笑い()かを言っていた。

何を言っているのか理解できなかった。


あまりに、久しぶりの感情にどう扱って良いのか忘れてしまった。

そうだ。怒っているのだ。

振り切れるほど憤怒している。


そこでようやく言葉が耳に入る。


「..........由緒正しき血統なのだ。不貞を働いた貴様に決闘を申し込む」


名乗りを上げて、剣を抜き、してやったりといった顔で言っていた。

その言葉に何かがハマるような感覚がした。


「受けよう。シヒロだ」


「ッフ。劣人種のクセに身の程を.....ガギュッ」


受諾と同時に、相手の首を掴みゆっくりと締め上げる。

こいつがケンカを売り、こちらが買った。

さらに、向こうは剣を抜いた。

殺しても大丈夫という言質もとった。



誰の飯に手を突っ込んだとおもってやがる。



指から首の骨が軋む感触が伝わる。

しかし、すぐにメイドと執事たちが集まり、周りに見えないように壁となりながら頭を下げる。


「お止めくださいシヒロ様。もうすでに決着はついております」


構わずにゆっくりと力を籠める。

酸欠の金魚のように口を開閉させ、大量の泡を吹いていた。


「シヒロ様これが最後です。お止めください」


武装をした姿を見せる。

聞かない場合は武力行使という事だろうが


「止めてみろ。お前等に出来るならな」


歯を剥き出し、首を圧し折ろうと力を籠める。

それを止めるために凶器を振るおうとする瞬間。


「ギッ!!!」


その声に瞬間的に体が止まった。

しかしメイド達の攻撃は止まらない。

全ての攻撃が直撃した。

誰が見てもその光景は参事を予想させる。

しかしどの武器も服を貫通できても、表皮を傷つけることさは出来なかった。



鳴き声の方に視線を移すと、蛇? がキラキラとした目で乾物を咥えていた。

まるで、食べて良い? と聞いてるようだった。


...........


だめ? と首を傾げる


「はぁ、気が逸れた」


手の力を抜き、メイド達に放り投げる。


「あぁ、いいぞ。食え食え」


その声に嬉しそうに反応すると、口からはみ出しながらアグアグと食べ進める。


「邪魔だ」


その一言で道ができる。

居づらくなったな。ちょっとフレアに会いにでも行くか。



◆◇◆



「騒ぎにはなってませんか」

「はい、執事長が収めてくれたようです」


家長専属にしてこの家の執事長にはそういった意識を逸らすスキルを持っている。

お陰で、誰もこの騒ぎには気づいていなかったようだ。


「この気絶した小心者達はどうしましょうか」

「客室のベッドにでも放り投げときなさい。酔って眠ったという事にしましょう」


白目を剥いているこの貴族の御子息は仕方ないとして、取り巻きの者達は彼の殺気だけで気絶していた。

悲鳴を上げる間もなくだ。

その辺は助けられたと言えるが、こちらも被害が出ている。


「何人かは今日は使い物になりそうにありませんね」


憔悴しきって、立ち上がる事が出来ないようだ。

無理もない。戦場を経験した私でさえ、腰を下ろしたいぐらいだ。


「あれは、一体何なんでしょうか?」

「怪物か傑物の類でしょうね。フレア様が連れて来たので後者と思いたいですが、警戒を怠らないでくださいね」

「はい」


持ち場へと戻っていく。


短剣で突き刺した感触がいまだに残っている。

殺さないまでも、全力で突き刺した。

だがその感触は、とても人とは思えなかった。

まるで、限界まで圧縮した水か、弾性のある金属だ


フレア様には悪いが、あれは怪物の類だ。


今後の彼に対する処置を考えていると、慌てて近づくメイドがやって来る。

そして小さく耳打ちをする。


「まったく、次から次へと」


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