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幕間2 白墨家族



電話をする。この人物に連絡をするのは久しぶりだ。

しばらくの呼び出しの後、向こうの人物が出る。


「やあ、久しぶり、白墨だけど元気してる?」


慌ただしい音がする。

ついでに怒鳴っている。


「声が大きいよ。耳が痛くなってしまう。あっはは。そんなマニュアルみたいな話し方して、どうせ逆探知してるんだろう? 残念だけど居場所は分からないよ。........もちろん企業秘密さ。だから何度やり直しても違う国になるはずだよ」


無駄だと判断したのか呆れたように崩した口調で話す。


「いやあ、少し大変な事になってしまってね。.........うん。よくわかったね。そう。家の息子が見つからないんだよね。............あぁ、まぁその通りだよ。居場所が分かるようなものを32種類ほどつけてたんだけどね全部壊されたみたいだ。妻に教えてもらうまでは気づかなかったよ」


驚いたように話し掛ける。


「流石うちの息子だよね。遺伝子レベル、イヤ分子レベルで理解していたつもりだったんだけど、予想を超えさせられたよ。..........うん。正直に驚いている。そうだね、君達に渡した。バイオ・ナノマシン基礎構造理論があっただろう? あれの数百倍凄い奴と言ったら君達にも想像が出来るかな? あれが壊されたと考えるべきだね。..........っはは。怒らないでよ。君達じゃあ実現できないよ。いいじゃないか、劣化版だとしても医療革命はもうすぐそこじゃないか。それで我慢してくれ。僕の考えだとあと50年は掛かると思うけど頑張りなよ」


呆れた様な唸り声をあげる。


「連絡したのはそんな事じゃない。ちょっと息子のこの挑戦を受けて立とうと思ってね。...........簡単さ、息子が考えそうなことだよ。『見つけてみなよ』ってね。だからちょっと世界を引っ繰り返しながら探そうかなってね?」


するとまた怒鳴る。


「だから一応報告したんじゃないか。一応言っとくけどやめる気はないよ。久々の親子喧嘩だからね」


怒ると同時にすぐに探せばよかっただろうと叫び声が聞こえる。


「いやぁ、僕もそうしたかったんだけど、可愛いうちの妻が中々離してくれなくてね。ほら、愛されてるから。まぁ、いいハンデだと思ってるよ。一応報告したから。邪魔だけはしないようにね。バレない様にするから」


まだ何か言い続けているが途中で切ることにした。


「.........ふぅ。さて、息子の挑戦に挑むとしますか。ふふっ。全く親孝行ものだな。愛してるぞ」



◆◇◆


長男、史宏が独り立ちして数日後。

とある姉と弟の会話。


「..........ねぇ」

「なぁに? 姉ちゃん?」


ゴロゴロとソファーに寝転びながらひどく退屈そうにしていた。


「最近、生活に張りが無くなったと思わない?」

「兄ちゃんがいなくなったからでしょ。ついこの前はあんなに嫌ってたのに、ツンデレって奴?」

「なにそれ?」

「好きだけど嫌いな振りしてるって感じ」

「意味が分からない。好きなら好きだって言えばいいのに」

「嫌われるぐらいなら嫌った方が傷つかない心の防衛反応だとおもうよ。興味ないから詳しくは知らないけど」

「へぇー」


どうでもいいような反応をする。


「まぁ、あんたももう少ししたら分かるようになるわよ。なんでか知らないけど、兄ちゃんに凄い嫌悪感を感じるようになるから。...........んー、なんであんなに嫌ってたんだろう?」

「反抗期か思春期って奴じゃない? 普通は親に対してやるものだけど、家の家系はどう考えても普通じゃないからね。シワ寄せみたいな感じで兄ちゃんに向かったんじゃないの?」

「ふーん」



暫しの沈黙。



「だー!! やっぱり兄ちゃんと組み手をしてないから体が鈍る!!」


バタバタとソファーの上で暴れる。


「代わりに僕が相手しようか?」

「あんた嵌め手みたいなことばっかりじゃん!! 違うんだよ! 兄ちゃんみたいに血と骨が噴き出すような殴り合いがしたいの!!」

「兄ちゃん........大変だったんだな」


遠い眼をする


「母さんとかに頼んでみたら?  喜んで相手するでしょ?」

「強すぎてお話にならない。戦ったら絶対にへこむもん」

「確かに、兄ちゃんが丁度良いよね、届きそうで届かない絶妙な強さ。あと少し、あと一回やれば勝てるんじゃないかって思うもんね」

「そう!!  実力が絶妙に拮抗してるから楽しいんだよね。いっつも戦う初めは、兄ちゃんは超えたなって感じるんだけど、僅差で負けるんだよ。あー!!  悔しい」


打ち上げられたマグロのようにソファーで跳ね回る。


「やっぱり姉ちゃん変わったね。ちょっと前まで汚物を見るような目で見てたのに」

「人は変わるよ。今は兄ちゃんLOVEだもん」


空気が変わった。

声質から冗談を言っていない。

これが小さい子なら笑えるのだが姉ちゃんもいい歳だ。

何より目がヤバい。


「それは冗談だよね? それとも家族愛としてのLOVE?」

「ん? まさか。女として男に惚れるLOVEだよ」

「ちょっと! それはまずいよ。家族間で気まずい空気になるじゃんか! 僕イヤだよ!!」

「大丈夫。父さん、母さん、爺ちゃんにはもう許可はとってる」

「え!!?  うそ。なんの?」


動転する。姉の超ド級の爆弾発言に。


「結婚して子供を産んでいいって」


キャッと恥じらうよな乙女の振る舞いをする。


「何考えてんの!! うちの家族は!! 兄妹だよ。無理だよ結婚は!! 全員何か頭がおかしくなったの?」

「落ち着け少年」

「無理だって、いや、落ち着くのは姉ちゃんだよ!! 兄ちゃんだよ? 確かに姉ちゃんに釣り合いそうな男性は世界を探しても滅茶苦茶少ないと思うけど、なんで身内!?」

「私が全力で戯れても死なないし、顔だって割と好みだし。家事完璧。料理美味しい。何より筋肉が素晴らしい!!」


変に共感できてしまうのが嫌だが。


「でも兄妹だよ? 血縁関係はマズいよ」

「あぁ、そうか。知らなかったんだっけ? 兄ちゃんとは血がつながってないんだよ。母さん曰く拾って来たんだって」

「へ?」

「ゴミ箱に捨てられたのを拾ったって言ってた」

「本当?」

「本当。これ聞いて私、反抗期? だっけ? それになったわ。信じてきた兄ちゃんが兄ちゃんじゃなかったって、裏切られた気分になったもん。今では心の底からラッキーって思うけどね」

「............」

「あんたも薄々気づいてたんじゃないの? 私みたいに馬鹿じゃないんだから」

「言われてみれば納得できる。イヤ、しっくりくるところがある」

「家族の誰にも似てないもんね」


血が繋がっていない。

でも、それでも兄ちゃんである。

だけど


「ショックだよ」

「分かるわぁ」


うんうんと、肩を叩いて同情するように頷いてくる。

鬱陶しい。


「でも案外驚かないんだね。私聞いた時兄ちゃんに八つ当たりしたもん。なんで黙ってた!! って」

「言われれば納得出来ちゃったし、それより姉ちゃんの爆弾発言の方が驚いた」

「そうでもないでしょ? 結構お似合いだと思うよ。仮に私が彼氏として兄ちゃんを連れて来たらどう思う? 家族とか抜きで」

「...........おじさん趣味かな? って思うよ」

「あ、うーん。若干否定できない。確かに年齢より少し老けて見えるけどそこが逆にいいって言いうか、でも美味しいもの食べてる時の兄ちゃん滅茶苦茶可愛いじゃん」

「んー。可愛いというか間が抜けたような顔っていうか.........まぁ、可愛いのかな」

「でもなんであんなに老けたんだろうね? 昔の写真とか見ると結構年相応だったのに、急に来てるよね」

「それ間違いなく母さんと爺ちゃんのせいだよ。苦労とストレスが半端無かったんだろうね。事実数えきれないぐらい死にかけてたし。今年でどれくらいだっけ?」


んー、と首をかしげながら考える。


「心臓止まったの入れたら相当数だよね。100ぐらい?」

「もっといってると思うよ。毎週必ず死にかけてるから」

「初めて見た時は号泣したよね。兄ちゃんが死んだって」

「ねぇ。その翌日か数日したらケロッとして普通に生活してるんだから、治療してる父さんの凄さというか狂気を感じるよ」

「あ、それで思い出した。父さんに聞いたんだけど、兄ちゃんの体のストックがあるって知ってた?」

「知ってる。脳みそ以外5つ以上のストックがあるって聞いたよ」

「私たちの分もあるのかな?」

「あるらしいよ。兄ちゃんみたいにボロボロになる事ほとんどないから使用する事ないらしいけど」

「へぇー」


「やっぱり兄ちゃんが一番溺愛されてるよね。まぁ、その愛がこちらに回ってきてほしいとは思わないけど」

「素直に死んじゃうもんね。父さんがいれば死なないと思うけど」


「ああー。やっぱり兄ちゃん以外いないと思うんだよね。私の生涯の相手となると」

「...........兄妹を除けば、確かにね。でも兄ちゃんの気持ちも考えなよ? 向こうは絶対姉ちゃんを妹としか思ってないから」

「そこは大丈夫。兄ちゃんはなんだかんだ言っても、ちゃんと責任はとる人だし、押し倒して無理矢理ヤッちゃえば責任取って結婚してくれると思うんだ」

「.........兄ちゃんに同情するよ」

「それに!! 刮目せよ!!」


バッと一瞬にして全裸になる。


「この磨き抜かれた体を見れば兄ちゃんもメロメロ!!」

「はしたないから服着なよ。姉ちゃん」

「よし、このまま風呂に入って来る!! 母さんと裸の付き合いをしてくるわ!! 一緒に行く?」

「もうお風呂入った。いってらー」


脱いだ服を担いでお風呂場に向かう。

ふと天井を見上げてしまう。


「血..........繋がってなかったのか。マジかー」


ボディーブローを喰らってしまったようにジワジワと効いてくる。


「ショックだな」



◆◇◆



白墨家には大きな風呂場がある。

ざっと10人は入れるほどの大きさだ。


風呂場は大きい方が家族全員で入れる!! という提案で、父親の調査と祖父と母親の力により、源泉かけ流しの露天風呂が完成された。


近くに民家どころが道すらない所なので、安心して大自然を楽しめる。

そこにとある親子が入っていた。


「出て行っちゃったなぁ。私の息子。この家が気に入らなかったのかなぁ。それとも私達に愛想つかして出て行ったのかな」


ぼんやり呟く。


「んなわけないだろう。お前だってあいつより若い時にふらっと勝手に出て行ったじゃないか。その分あいつは筋通して出て行ったんだ。俺らよか十分上等だよ。俺よか良い親じゃねえか」


ガシガシと乱暴に頭を撫でる。

グスッと鼻をすする音がする。


「父さんもこんな気分だったの?」

「いんや。いずれ来るのがもう来たかと思ったよ。まぁ、自分よりマシに成長した分だけ嫁にゃあ感謝してる」

「母さんは泣いてた?」

「湿っぽいのは嫌いだと言いながら..........な。まぁ気にするな。いない分だけ2人の時間が楽しめた」

「だとよかった」


後ろに置いてあるクーラーボックスを開く。


「父さん何飲む?」

「ビール」

「んじゃ私はワイン」


クーラーボックスの中に入っているグラスを取り出し、注いでいく。


「はいよ」

「ん」


ギュッと一息で飲み干す。


「はぁ、贅沢!」

「.......まったくだ」


そこに、どたどたと走り入ってくる人物が来る。


「なんだ、爺ちゃんもいたのかって、あー! 母さんも爺ちゃんもずるい!! 私も飲む!!」


飛び込もうとするところに、同時にお湯を手で掬っい顔面に向かって投擲する。

バチッと顔面に当たり、バランスを崩すもくるりと一回転して着地する。


「「体洗え!」」

「むー」


渋々といった感じで洗い場に行く。


「昔のお前にそっくりだ」

「そう? あの位の歳ならもう少し胸とかあったよ?」

「聞こえてるよ母さん!! これぐらいが丁度良いの!! デカさじゃなくてバランス!! デカすぎると下品になるもん!」

「ほら、お前そっくりだ」

「納得いかない」


その顔には少しだけ影がさす。

気丈に振舞ってはいるが、やはり寂しい物なんだな。

こいつも立派な母親になったもんだと、しみじみと感じる。


「安心しろ。出て行った孫は、ひ孫連れて戻って来る。嫁とセットでな」

「ははっ。私もお祖母ちゃんか」

「兄ちゃんは私と結婚するんだからね!!」


頭を洗いながら念を押す。


「それはお互いに了承したらの約束だろ?」

「まぁ、どこぞの馬の骨連れてかれるなら、史宏の方がなんぼかマシではあるよね」

「どうだかな。お前は学校でいい奴とかいないのか?」

「いない!! 兄ちゃん以上に魅力のある人なんていない!! せめて私と釣り合うぐらいの実力は欲しい」

「.........そりゃあ。難しい注文だな」

「逆に聞くけど。爺ちゃんの知り合いとか母さんの知り合いとかいないの? 私とフィーリングが合いそうな人!」

「全員死んじまったからな」

「私は父さんに惚れたら、他の男とか興味なくなったからな」

「ほら見てよ! やっぱり兄ちゃん以外いないの!! 兄ちゃんじゃないとイヤ!!」


ハァ、と同時に深いため息をつく。


「強情なところがお前そっくりだ」

「それは、受け継がれたものだよ」

「兄ちゃんは私の物だから、母さん取らないでよ!!」

「アホか」


追加のワインを出しグラスに注ぐ。

別に狭くもなかったのに、一人いなくなっただけでこうも家が広く感じてしまう。

空を見上げぼんやりと寂しさを噛みしめる。


「...........もう一人増やすか」

「どうした?」

「ん? いやぁ、孫をもう一人量産しようかと」

「工場じゃねぇんだから」

「よっし!! 思い立ったら行動だ。ちょっと旦那誘惑してくる」


立ち上がると風呂場から出て行った。


「世話しねぇなあ」

「母さんどうしたの?」

「父さんと内緒の相談だとさ」

「へぇー、それよりさ!! どうしたら兄ちゃんが............」


面倒くせぇなぁ。

そう思いながら、孫の相談を右から左へと聞き流していた。


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