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30話

残酷かつ暴力的表現が含まれています。

前回と同じく注意してお読みください。

「み~つけたにゃ」


そう言いこちらをまるで虫を見るかのような目で見つめる。

明らかに格下、敵とも思っていない。

素早くこの状況を確認する。

視界の端で転がる死体を見てどういう殺し方をしたのかを確認する。


鋭利な物でほぼ一撃。


そして、相対する敵を観察する。

骨格から想像し、肉付きを確認し、何が出来て何が出来ないかの取捨選択を素早く処理する。


「見つかっちゃったか。上手く隠れたつもりだったんだがな」


時間を稼ぐ、相手からできるだけ情報を確認する。

どういう戦い方が好みなのか? 好戦的か? 保守的な戦い方か?

発言や仕草から情報を奪う。


「全然気づかなかったにゃ。隠れたり死んだふりがうまいにゃ」

「得意技の一つでね」


武器は奇妙な形をした剣が2つ。

刃渡りは足の長さ程。

血は片方だけついているが付着している血の量が少ない。

よほど腕がいいのか、それともほかの方法で切り刻んだのか。


「まぁ、どうでもいいにゃ」


すると目の端から消える。

咄嗟にナイフを抜き放つ。


キンッと澄んだ音が響く。


フレアの首筋ギリギリに二つのナイフが交差する。


「レディーファーストってのは男の特権だと聞いてたんだけどな」


鍔迫り合い。

金属を引っ掻くような音がする。


マズいな。相手の武器の方が一等上級品だ。

辛うじて均衡を保っているが力押しされればナイフごと切断される。

例えるなら鉄剣と木刀の鍔迫り合いだ。


「おまえ、にゃんにゃんだ?」


もう一つのナイフで攻撃しようとする。

それと同時にフレアの膝の裏を軽く蹴る。


膝から崩れ落ちるように倒れるその上をナイフが通過する。

フレアの首を掴みいったん距離を取る。


「あんまり虐めないでくれないか?」

「.............」


先程までと雰囲気が変わる。


このまま逃げるのは無理だな。

先程までだったら可能性があったが、この状態だとフレアを連れて逃げるのは無理がある。

単純の速さなら向こうが上だ。


敵から視線を外さず、視界の端で自分の武器を確認する。

受けた部分が刃こぼれしており、小さな亀裂が入っている。

咄嗟だったので強く握りしめて柄もダメになってしまった。

タダで貰ったやつだから文句も言えないが、残る武器は父さんから貰った小太刀のみか。


するとまた視界から消える。

首を狙った一撃を躱し、腕を絡めとりそのまま地面に投げ落とす。

しかし、空中でクルリと回転し綺麗に着地、そしてスルリと抜ける様に脱する。


投げ技は効果が無いと。


「お前だけは絶対に殺しとかにゃいと、いけにゃい気がするにゃ」


虫から敵に昇格したようだ。

嬉しくないがな。


だがこちらも大体のことは分かって来た。

視界から消えるのは技ではなく、膂力。

目で追えないほど速い。

それを可能にしているのが柔軟で瞬発力のある筋肉と独特な骨格。

そして猫だからなのか女性だからなのか、関節の可動域も広い。


危険で厄介だが、妹達ほどは怖くはないかな。


取り扱いを間違えなければ危険はない程度だろう。

まぁ、間違えれば大怪我は必須だが。


またもや視界から消えるが何度も見せすぎで慣れてきた。

今度は後頭部からの攻撃、躱す。

切り返しに、突き刺すよう鳩尾を狙う。


「戦う事については経験が浅いな」


半身になり躱し、掌底で顎を打ち抜く。

そのまま頭を掴み、人差し指と薬指を曲げ目に当たるようにする。

必死に暴れ体を捻るが、単純な力比べなら負ける気がしない。

そして柔らかい地面ではなく石がある所に頭を落とす。

尖っていれば尚良かったんだがな。


「素直過ぎるんだよ。フェイントぐらい覚えてこい」


ドゴン、と石が派手に割れる音と、指からグチュリと目が潰れる感触がする。

容赦や手心は自分の首を絞める。

嫌というほど経験したことだが、いい気分ではないな。

このまま止めを差そうとした時


「うにゃああああぁぁぁぁぁあぁ!!!!!」


強烈な暴風と電撃が襲う。

咄嗟に距離を取る。

握っていた手が痺れている。


「ぶち殺すにゃ........」


跳ね上がる様に立ち上がる。

手で顔を抑え、潰れた目のあたりから蒸気な様なものが吹き出ている。

そして、手の僅かな隙間からこちらを睨む目が見える。


マジかよ、潰した目が元に戻ってやがる。


確認できるのは片目だけだが、時間が経てば完全に回復する恐れがある。


クマの時だってそんなに早く回復しなかったぞ。

ならば回復しきる前に畳み掛けるか。

そういう戦い方はあまり好きじゃないが、フレアもいることだし仕方ないか。


見たところ掌底と叩きつけの効果は見られない。

結構タフだと予想がつく。そしてあの回復速度。

打撃戦は避けた方がいいな。

だが、眼球による部位破壊は期待が持てるとなると、切るより潰す方が効果的と見た。

ならば狙うは骨。

それも折られると相当苦しい所、胸骨だ。


始めるか。


手で抑えている死角の方に、軽く倒れる様に傾くと、同時に一足で間合いに近づく。

ギョッとした顔をで先程までいた場所を見ている。


視界から消えるのはお前の専売特許じゃないんだよ。

緩急と足運び、あとは相手の瞬きした時に使う技だがな。


拳を握り、アッパー気味に胸骨殴る。


パンと何かが破裂する音と、バリッと電気が放電する音がする。


「ゲフッ.........」


障壁って奴か。忘れてたが


ピシリと拳から胸骨にヒビが入る感触が伝わる。

障壁はなくなった。

体は宙に浮いている。

不意打ちで何が起こっているのか、本人はわかっていない。


喰らっとけ!!


体を回転させその遠心力をのせた蹴りをヒビの入った胸骨へ叩き込む。

胸骨が砕ける感触がした。

藪を突き破り、吹っ飛ぶ。


しまった。


「やり過ぎた。クソ、探すのが手間だな」


追いかけて止めを差そうと走ろうとした時、足が止まる。

この先へ行くのは非常にマズい気がする。

先程と同程度の何かが近づいている。

それも複数。


選択を迫られる。


このまま止めを差しに行くか、逃げるか。


答えはすぐに出た。

フレアを担いですぐにその場を後にした。


「あんな連中の相手とか勘弁願いたいものだな」


相手が慢心し戦い方を知らず、間を外し、準備させず相手を嵌め手のように倒したにすぎない。

次戦う時は、そんな事は起こらないだろう。

そして次に来る相手もそうであるとは限らない。

逃げられるなら逃げるに限る。


「生きてなんぼの人生だろうってのは、母さんからの言葉でね」


急いでその場を後にする。



◆◇◆ ケルシー



頭がハッキリとしない、まるでぬるま湯に浸かっているようだ。

だが少しずつ覚醒する。

空の色がハッキリと見えるようになる。


「おっ、やっと気が付いたか」


見慣れた顔だ。


「ヴォルドォ........か、にゃ」

「おうよ。どうやらまだ意識がハッキリしてねぇようだな。もうちっと回復するまで待ってろ」

「そうはいかにゃい。あいつを殺さにゃいと」


必死に起きようとするが体が動かない。


「止めとけ。動けるまで回復できてない良い証拠だ。スピットに感謝しとけよ。あいつがいなかったら死んでたみたいだからな」

「スピットはどこにゃ?」

「追跡中だ。追跡はあいつの得意分野だからな。応急手当が終わったらすぐに行ったよ。差し詰め、俺はお前の護衛と言った所かな。それにしても手痛くやられたな。どんな奴だ?」


【超回復】と【高速再生】を使って大分時間が経っているのに、完全に治りきっていなかった。


「それは、我が王に先に報告するにゃ。それに、こんな状態になってしまったから撤退しにゃいと、御命令、頂いたにゃ」

「フン!! それはまた何とも悠長な奴だな。九天の称号与えられた我等に泥を塗る行為だ。俺なら恥ずかしくてその場で自死するぞ。そうだろう? ケルシー」


キッとお互い視線を交わす。


「そう言うな、ゲーデン。我等の命は王の物だ。勝手に我らが使っていいはずないだろう。そして、こういう状況になってしまっては言い訳は出来ん。王の命令だ。撤退するぞ。正直言うともう少し蹂躙したかったが仕方ないだろう」

「恥を知れ」

「ま、魔王を倒せなかったお前に言われたくにゃいにゃ」

「あ?」


両者の拳が交わる。

ドゴンと重い音と共に崩れ落ちる。


「また気絶させてしまいよって」

「ふん。これぐらい動けるようになってるんだ。あと少しで回復しきるだろう」

「もう少し優しくしてやればいいだろう」


捻くれた様にそっぽを向く。


「戻った。残念だが向こうが上手。追いきれなかった」

「どいつもこいつも、我が王になんと報告すればいい」

「ありのまま報告すればいいだろう? 深く考えすぎなんだ。死んで詫びろと言われれば死ねばいい。簡単な事だ。さて、揃ったところで急いで報告だな」


フンと鼻を鳴らし、気絶しているケルシーをゲーデンが担ぐ。


「仲が良いのか悪いのかよくわからんな」

「煩い。こいつ自身は嫌いだが、実力は認めているんだ。そいつをこんな死ぬ一歩手前まで追い詰めるなんて信じられん」

「まぁ、恐らくだがこいつを投げてきた奴だろう」


ヒョイと軽く金属の棒を投げ渡す。


「気が緩んでいたと言われればそれだけだが、頭に当たっていなければ怪我をしていた所だからな」

「やはりか」

「人間は弱いのか強いのかよくわからない。追いきれなかった。自信無くす」

「そういうところに我が王は興味を持たれたのだろうな」

「ケルシー。大丈夫?」

「ああ。スピットでなければ死んでいたかもしれん。運がいいな」

「凄く危なかった」

「フン。こいつは後でスピットに礼を言わせなければならんな」

「礼はいい。耳と尻尾触らせてもらえればいい」


ワキワキと手を動かす


「気絶してる隙に好きなだけ触っとけ」

「いいの?」

「今回は怒られん。怒られても俺のせいにすればいい」

「ゲーデン好き」

「俺は嫌いだ」


「全く。ほら、早く王に報告しに行くぞ」


一同は引き返す。


慨嘆の大森林に入り、魔界へと戻っていく。

『静謐』魔王のもとへ


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