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29話

残酷な描写がございます。

気を付けてお読みください。

急いで冒険者ギルドに駆け込む。

逃げるにしても最低限の義理だけは果たさないといけないからな。


「おい、邪魔するぞ! 時間が無いから手短に報告したい! あのマッチョな受付嬢どこ行った!?」


そう問うが誰もが忙しそうに迎撃の準備に取り掛かっている。

聞こえていないようだ。


「ご機嫌な一日が台無しじゃないか」

「いい加減下ろしてもらっていい?」


おっと、フレアを肩に担いでいるのを忘れていた。

間近でよく見ると中々、尻のラインが美しいな。

とどうでもいいようなことが脳裏に浮かぶ。


「何をそんなに急いでるの? 魔族が侵攻してるみたいだけど、この前の大暴走に比べれば問題ないでしょう?」

「フレアの経験か知識かは知らんが、自分の勘以上に信じられるものはないんでね。のんびりしたいなら置いていくぞ」


ただ事では無い雰囲気にフレアは押し黙る。

すると遠くから大男、もとい、ピチピチ服装をした受付嬢が出てくる。


「........うわぁ」


近づきたくない.........が、人を掻い潜りながら受付嬢に近づいていく。


「おい!! 報告に来たぞ」


そう言って呼び止めるが、一瞬その衣装というか、その見事なまでの破壊力のある格好に吐き気を催す。


うっ.........。


「あら、なにかし.............きゃあああああああ!!」


つんざく様な悲鳴がギルドに響く。


こっちだってあんたの格好に悲鳴を上げたいよ。


色々な物をグッと堪えて報告する。


「時間が無いから手短に報告するぞ。あそこのダンジョンは人工のダンジョンだったが綺麗になくなった。自爆装置が作動して、辺り一面クレーターの様にくり貫かれた様な状態になってる。あとはユフノさんに聞いてくれ。ちゃんと居るよな?」


「い、いるわよ。え? 生きてるの? 本当に?」


パチパチと目をしばたたかせながら問いかける。


「死んだ人間がこんなに血色よく話せると思うのか?」


話すことは話せたのだから、さっさと出ていこうとするとバシッと手を握られる。


「ありがとう。ユフノを助けてもらって........本当にありがとう」

「あ、あぁ、まあ気にするな」


意外な反応に驚いた。


「大体の詳しい事はユフノにも聞いてるから大丈夫よ。ダンジョンは無くなった。でいいのよね」

「跡形もなくな」

「生きて戻ってるなら信じるに値するわ。これは報酬よ」


そう言って皮袋に入った報酬を貰う。

慌てて貰うのを忘れる所だった。


「それとこれは、あまり大きな声で言えないけど、早く逃げた方がいいわ。特にあなた達わね」

「そうするところだよ」

「広場の中央に、一般人を逃がすために冒険者たちが護衛をしてるからそれに紛れて逃げなさい」

「........ありがとうよ。あんたら逃げないのか?」

「この街に住んでる宿命みたいなものよ。ここでしか生きられない爪弾き者たちなのよね」

「無理だとは思うが、死ぬなよ」

「ふふっ。努力はするわよ。生きてたら抱かせてくれる?」

「美味い飯なら作ってやるよ。生きてたらな」

「それで我慢したあげる。早く行きなさい」


冒険者ギルドを後にする。


「.........ねぇ、シヒロ。そんなに悲惨な事なの? だって魔族って追い立てられて、それで慨嘆の大森林とか他の三つのダンジョンに守られているって」

「事実だろうが、嘘だろうが、ここの深刻さを考えればなんとなくわかるだろう」

「ここの人達どうなるの?」

「街ごと滅ぶだろうな。恐らく全滅だ。侵攻してる奴等にその気があるならだけどな」

「...........シヒロ」

「なんだ?」

「.......ッ.........何でもない」

「そうか」


何を言いかけたのか大体は理解している。

貴方なら何とかなるじゃないかとかそういう事だろう。

だが逆に言えば街ごと滅びる危険性がある所に首を突っ込んでくれと頼むような事だ。

それを理解したからこそ言葉を飲み込んだのだろう。


自分には頼み込むほどの力すらないという事も


まぁ、だけど、色々世話にはなったんだから、嫌がらせでもしておくか。

広場の所で集まっている一般人たちに紛れてフレアをその場に置く。


「どうしたの?」

「ちょっと嫌がらせに行ってくる」

「それなら私も!」

「いいから、待ってろ。すぐに終わるから」


そう言ってすぐさま踵を返し、慨嘆の大森林の方向にそびえ立つ壁面に到着する。

そのままロッククライミングの要領でよじ登る。

頂上に着くが人の気配はない。


丁度良いか。


近くにあった旗をへし折る。

そして旗の部分を毟り取り金属の棒だけにする。


空気がピリつき、周りの温度が下がったかのように感じる。

肉眼じゃ見えないが恐らくの場所はわかる。


やっぱり、こういう時は立ち向かう気は起きないな。


どういった敵なのか、何が強みでどういった戦い方をするのか?

そういう事が分からないが強いというのは分かる相手にはとりあえず距離を置きたい。

敵であるなら観察し、向こうにその気がないなら逃げるに限る。


だけど、ここの奴ら嫌いじゃないから虐めないでくれよ!!


旗であった金属の棒を全力で投擲する。

踏み込んだ石畳に巨大な亀裂が入る。

槍投げは得意ではない。

当たるとは思えないがそれなりの威嚇になればという気持ちで投げた。

投げた棒は、一直線に飛んでいきそのまま見えなくなる。

そして少し遅れて巨大な音と共に大量の鳥が飛び立った。

これ位でいいだろう。

すると放撃班らしき人物たちが登ってくる足音がする。


さて、退散するか。


ヒョイと高い壁を飛び降りその場を後にした。



・・・

・・



戻ってみると、どうやら5つに分担して脱出するようだ。

それにしてもここに居る一般人って割と少ないんだな。


「何しに行ってたの?」

「嫌がらせと牽制かな。これで生存率が上がればいいなという程度の事だ」

「そう、私達はあのグループに行くみたいよ」


そう指摘された先には、何やら見覚えがある奴等がいた。


「なんか見たことがある奴等がいるんだが、知ってる奴だっけ?」

「ここで私にちょっかい出してた奴等よ」

「?」

「あの受付嬢に熱烈なキスをされたパーティーよ」

「ああ」


あいつ等か思い出した。


「彼等が一応このグループの護衛をするそうよ」

「先行不安だな」

「貴方がいない間またしつこく勧誘されたわよ」

「モテモテだな。羨ましい」

「いつだって変わるわよ?」

「やっぱり遠慮する」


そんなことを話しながら順次脱出していく。

どうやらこのグループが最後に脱出するようだ。


「では、私達について来てください。落ち着いて静かに脱出すれば何も問題ありません。何かあっても必ず私達が守ります」


と真剣な眼差しで先導する。

おお、フレアを勧誘してた頃とは違っていい顔するじゃないか。

これなら頼もしく感じる。

ただ、あの受付嬢の洗礼を受けた少年だけは何かこう........変な仕草をしている。

無駄に体をくねらせているような。

というよりこちらに熱烈な視線を向けるのはやめろ。違う意味で寒気がするんだよ。


開けてはいけない、何かの扉が開いてしまったようだ。


そうこうしてる内に最後に残ったこの班がこの街を脱出する。


だが、危機を脱したというにはまだ早いだろう。

まだ背中にべったりと何かがへばり付いているような感じがする。

勿論さっきから、こちらの尻を見ている例の少年ではないし、背中を凝視しているフレアでもない。


もっとぬめり付く様な...........。

すると急に空気がピリついた。

咄嗟に後ろを振り向く。

少年とフレアが慌てたように視線を逸らす。


お前等じゃない。


ギュッと目を細める。

遠くを確認する様に神経を尖らせる。

すると強烈な殺気が襲い掛かる。


「伏せろ!!」


近くにいたフレアを辛うじて抱きかかえるように地面に伏せる。

それと同時に何かが上を通過した。

遅れて何かが落ちる音がする。


人の首だ。


周りから鮮血の匂いが充満する。

むせ返りそうなほどの鉄臭さだ。


悲鳴や呻き声さえ聞こえない所を見るとほぼ即死の状態だろう。

ドサドサと首を失った体が地面に倒れだす。

運がいい。

倒れた体がこちらを覆い隠すような状態になってくれた。


「何者だ!!」


叫ぶ声が聞こえる。

今ので生き残っている奴がいたようだ。

あと2人ほど動いている気配がある。

どうやらあのパーティは生き残っているようだ。だが.........


馬鹿野郎が、死んだふりでもいいからジッとしてろ



「んー、匂いを追ってここまで来たんだが、まだ奥に逃げてる奴等がいるのかにゃ?」


声と発言からして、どうやらこの惨事を起こした張本人のようだ。

死体の隙間から覗き込む。


猫と人間を足して二で割ったような奴だ。


ふんふん。と周りの匂いを嗅いでいる。


「もっと沢山いそうだにゃあ。嫌ににゃる」

「聞いてるのか!!何者だと言っている!!」

「こ、これ、全員死んでるの........」

「許せねぇ!!」


馬鹿が!! さっさと逃げろ!!

こいつの目当てはここから逃げた奴等だ。

3人別方向に逃げれば生き残る可能性は僅かだがある


声を大にして忠告してやりたいが、巻き添えになるのはごめんだ。

このまま息を殺して、やり過ごすことにする。

見殺しにするのは申し訳ないが、こちらも死にたくないからな。


「お前等、あとどれ位いるのか答えるにゃ。見逃しても良いにゃ」

「こ、断.....」

「ならいいにゃ」


そう言うとバタバタと倒れる音がする。


2人殺されたか。


「っひ。きゃあああああああ!!」


悲鳴からして死んだのは男二人か。


「煩いにゃぁ」


そう言うと声が聞こえなくなる。

代わりに何かバタついているような音が響く。

そしてその音さえ聞こえなくなると、骨が折れる音が聞こえた。

聞き覚えのある音だ。

恐らく頸椎を捩じり折った音だ。

実際に何度も折られたことがあるから聞き間違いはない。


「はぁ、面倒だにゃ」


そう言うと奥へと消えて行く気配がする。

...........しばらくはこのまま動かない方がいいな。

行った振りして確認している可能性がある。

ふとそこで、フレアの存在を思い出す。


顔を真っ赤にして何かを訴えかけようとしていた。


あぁ、そういえば悲鳴を上げないように口を塞いだんだった。

鼻まで塞いでいたようで呼吸が出来ないようだった。

抱きかかえる様に押し倒しているので身動きもできなかったのだろう。

どうりで気配の消し方がうまいと思った。


ゆっくりと手を離すと急いで呼吸を始めた。

しかし周りの血の匂いのせいで軽くむせてしまう。


マズい!!


背中に突き刺すような殺気を感じる。

急いで死体ごと飛び上がると、先程までいた場所は様々な物が混ぜこぜになった状態になっている。

そしてその上にあの猫が立っていた。


「み~つけたにゃ」




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