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28話


「いい天気だ。そして外で朝ご飯。なにより朝食が美味しい。贅沢だ。そう思わないかおばちゃん?」


ご機嫌な一日が始まりそうだとそんな予感をさせる。


「朝っぱらからそんなに食べて、吐いても知らないよ」


そう言って呆れた顔をする。


「一日の始まりは朝食から始まる。だからこそ、朝こそたくさん食べるべきだと思うんだよ」

「加減ってもんがあるだろ。食べ過ぎは体に毒だよ」

「分かってるさ。常に腹八分を心掛けている。だからあと朝の満腹朝食セット10人前追加で」

「はぁ、残したら倍の料金払ってもらうからね」

「あいよ」


と軽い感じで返事をする。


あれから夜通し走り通したおかげで、朝になるころには戻る事が出来た。

まぁ、一度通った道だから迷う事は無かったうえに月明かりが明るく助かった。

そのお陰で、遅めの朝食にありつける事が出来た。

自分で作るのも良いが、やっぱりたまには人が作ってくれたものが食べたくなるよな。

スープを飲み干し、追加が来るまでのんびり待つことにする。

ちなみにフレアは椅子をくっつけてクマの毛皮を布団代わりに寝かせてある。


それにしてもユフノさんは無事に付いただろうか。

まさかとは思うが、こちらが先に着いたという事は無いだろう。

御飯を食べ終わったら冒険者ギルドに報告しに行くか。


そうぼんやりと考えていると、今まで寝ていたフレアがのっそりと起きる。


「よう、相変わらずよく寝てたな。もうすぐ追加の朝食が来るから一緒に食べるか?」

「..........シヒロ?」

「なんだ」

「.......頭痛い」

「あぁ、頭を使うようなことをするとたまになるよな。ちょっと待ってろ」


そういって収納袋から様々な液体をコップの中に入れて、軽くそれを混ぜ合わせる。


「完成だ。白墨特性ドリンクだ。飲むと楽になるぞ」


ズイっと渡すと渋い顔をする。


「........恐いわね」

「しょうがないな」


そう言って一口飲む。

あー、体に染み渡るな。


「ほら大丈夫だ。中身は果汁とハチミツ、樹液を混ぜたものだから安心していいぞ」


そう言うと恐る恐るといった感じで一口飲む。


「甘いわね」

「疲れた時こそ甘いものだ。特に頭を使った時は糖分が必要だ」

「博識ね」

「経験から基づいてるからな」


ギュッと一息で飲み干す。

フゥとコップを置く。


「頭に染み渡る感じがするわ」

「ちょっと楽になっただろう」

「だいぶ楽になったわ」


すると先程のおばちゃんがやって来る。


「はいよ、お待たせ。満腹朝食セット10人前。お! お嬢ちゃん起きたのかい? 何か食べるかい?」

「何か体に優しいものを一つ。おまかせで」

「任せな」


奥に戻っていく。


「......見てるだけで胸焼けしそうな量ね」

「フレアは少食だからな。もっとたくさん食べないと体が持たないだろう」

「普通は一人前で十分事足りるわよ。私半分も食べれないかも」


ここの女性はそうなのだろうか?

よくそんなので体が持つな、省エネってやつか。

そんな事を考えながら朝食を頬張る。


「それよりフレアの所のその後がどうなったのか知りたいんだが?」

「どうとは?」

「さっきまでいた遺跡みたいなダンジョンでの事だ。謝ってから逃げようって言っただろう」

「あぁ、それね。シヒロと連絡が取れてから結構頑張ったんだけどほとんど理解できなくて、弄ってたらどうやらそれが、異常行動だと認識されたのよ」

「よく無事だったな」


ダンジョンの心臓部ともいえる制御室で異常があったら、間違いなくそれを排除しにかかるはずだ。


「貴方が下で暴れててくれたおかげよ。私より下の方が手に負えなくなっていると正常(・・)に判断したのよ。まあ。当然こちらでは操作が出来ないようになってしまったのだけれど」


言い方に含みがあるな。


「あのダンジョンは正常じゃなかったのか?」

「そうね、結論から言うと第3者が介入してたみたい」


サラダを咀嚼しながら黙って聞く。


「本来なら、あの魔物達は一定度以上には強くならないのよ。あくまでどうすれば強くなるのかの観測する場だったと思うのよ。安心安全にね」


積み上げられた10枚のステーキ肉を切り分けながら真剣に耳を傾けながら答える。


「つまり、とある第3者があの施設に侵入、余計な事をして、際限なく強い物が生まれるようにしたって事か? 何のために?」


主食であろうパンをかじる。

パサパサしてるが肉と挟んで食べると結構うまい。


「正直分からないわ。でも碌でもないでしょうね」

「同感だな」

「それで、正常に戻った施設が最後に生み出されたのが手に負えないものだって判断したみたいなのよ。一部の機能を停止させてでもエネルギーを確保して自爆するつもりだったみたい。だから急いで逃げたのよ」


だからあの慌てようだったのか、納得だ。


「確かに、あいつは大分ヤバかったからな。その自爆装置で死んでなかったし」

「ッ!! そうよ。あれは!! あれはどうなったの!!?」


そう言ってズイッと顔を近づける。


「死んだと思うぞ。体中が風化して砂みたいになってたし、残った頭部もバラバラに砕いたからな。あれで死んでなかったら笑うわ」


そう言って最後のスープを飲み干す。


「笑えないわよ。あんたアレがいったいどれほどヤバいのかわかってたの?」

「わかってたよ。下手をすれば死ぬかなとは思ってた。フレアのお陰で生き残れたな」


直接戦っていないから詳しくは分からないが、クマ以上ではあったな。

運が良くて、重傷は覚悟していた。

生きててラッキーだな。


その言葉を聞いてへにゃへにゃと力が抜けるように座り込む。


「私の常識が音を立てて壊れていくのが分かるわ」

「常識なんて生きた年数の偏見でしかないから気にするな」


するとフレアの朝食をおばちゃんが持ってきた。


「待たせたね。たんとお食べ」


凄く小量な朝食がフレアの前に置かれる。


「おばちゃん。こんなに少ないとこいつが倒れちまうぞ」

「普通はこれ位なんだよ。特に女の子わね。あんたが異常なんだ。食い過ぎだよまったく」


食べ終えた食器を回収して戻っていく。

フレアのを見ると何かドロドロとしたお粥のような物が出されていた。

これで足りるんだから、低燃費で羨ましいな。


「あ」


何かを思い出したようにフレアが顔をあげる。


「シヒロ、あなたのそのステータス、全部嘘でしょ」


ん? あぁ、その事か。いずれ聞かれると思ってたが今回の事で流石に怪しまれるか。

誤魔化すべきか、正直に話すべきか。

まぁ、正直に話しても信じてもらえないかもだしな。

......話すか。


「フレア」

「なに」

「今から話すことは本当の事だ。信じられない事だからといって、なんかの比喩や例え話では無い事を念頭において聞いて欲しい」

「......わかったわ」


食べかけの朝食を置いて真剣なまなざしでこちらを見る。


「信じられないとは思うが......異星人なんだ」

「......は?」

「正確に言うなら異世界人と言った方がいいのか?」

「え?」


おお、見て取れるほど困惑しているな。

自分も穴に落ちた時は相当驚いたものだしな。

ここは冷静に、ここへ着いた経緯も説明した方がいいだろうな。


「地球の日本ってとこに住んでたんだけど、良い頃合いだし独り立ちしようと思って旅立ったんだ。そしたら地面に穴が開いて、この世界まで真っ逆さまだ。はっはっは。流石に体感3時間の落下は生まれて初めての経験だったな」


どうしよう。自分で言ってて頭がおかしい人にしか思えない。

胸ぐら掴まれてぶん殴られても仕方ないな。

恐る恐るフレアの反応を見る。

ポカンと口を聞いていた。


殴られるかな。


しかし、その期待を裏切る様に残した朝食を食べ始めた。


無視は一番きついな。まぁ正常な判断だろう。

嘘をついてるか誤魔化していると思われて怒っても仕方ない。

逆の立場だったら全力で殴ってるか病院に連れて行ってる。


「......んっん。以上だ」

「そう、大変だったのね」


軽く口を拭う。


「あぁ? 今の信じたのか? 自分で言ってて相当胡散臭いぞ」

「そうね、もしあなたじゃなければ胸ぐら掴んで燃やしてたわ」


こわっ


「でも、逆にそれぐらいぶっ飛んでないとあなたの強さは納得できないもの」

「本音は?」

「少し半信半疑って所かしら」


っふふ。と小さく笑う。


「あなたの世界は皆あなたのように強いのかしら?」

「どうだろうな。社会的には隔絶してるようなところで暮らしてたし、稀に人に会っても全員頭がおかしい連中だったな。平気で銃器をぶっ放すし、虫を殺すように殺しに来る奴ばっかりだったな。まぁでも、うちの家族に比べれば可愛い子猫みたいな感じだな。うん。だから特別強いと思うぞ」


大抵、他人に会う時は見知らぬ土地のど真ん中で目が覚めた時に会う。

眠っている時に両親が移動させているのだろうが、正直に言うと鬼畜の所業だと思う。

どこぞの部族の生贄にされかけた時もあったし、どこぞの抗争の銃撃戦のど真ん中に放り込まれた時もある。


懐かしい。


「地球に.....日本.....か」


どこか遠いよう目をしている。


「どうした?」

「そうね、あなたやっぱり勇者?」

「そう見えるか?」

「違うわね。聞いてみただけ。でもそれに近いモノだってことはよくわかったわ」

「そもそも勇者との違いは一体何なんだ? 仮に勇者だと言ったら信じられるのか?」

「......信じられないでしょうね。今までの勇者に共通してることは、髪が黒く、瞳も黒く『チキュウ』の『ニホン』から来たこと。そして桁外れの魔力と魔質を持っている事と、勇者特有のスキルを持っている事ね」

「前半だけあってるな。魔力を持ってない勇者なんかいないって事か」

「そういう事になるけど、でもあなたそのステータスは何かのスキルで誤魔化してるのでしょう? 出来れば教えて欲しいわね」

「誤魔化しているが内緒だ。色々と面倒だからな」


ルテルの事まで話すことになってしまう。

話しても良いのか分からないし、本人の了承が得られたら話すとしよう。


「最後に聞きたい事があるんだけど」

「答えられることならな」

「私は、......強い、かしら」


急に話が変わったな。

もしかして、アレを目の前に動けなくなったことを恥じているのか?

どうしようもないと思うけどな。


「強いと思うぞ。同年代なら敵なしじゃないか?」


ちゃんとフォローをしておく。

それに事実だと思うしな。


「そういう意味じゃなく。仮にあなたの敵として立ち塞がったり、勝てそうにない敵を前に私がいたらの話よ。そういう意味で私は強いの?」


言いにくい事だな。

真剣な目付きで、覚悟を持って聞いてくるんだから尚更だ。


「はぁ、聞いてどうするんだよ」

「いいから」

「.......敵にもならないし、足手まといだと感じるだろうな」

「そう」


予想してたのか案外ダメージが無いように感じる。

自分の今の立ち位置を確認したかったのかな。

そういう時が自分にもあったな。よく母親に聞いたもんだ。


『弱くはなってないぞ。強くもないけどな』


いつもそう返されてたな。


「最後に」

「さっきのが最後じゃなかったのか?」

「最後に、あ、貴方から見て、そ、その、えっと、私は......どう見えるの?」

「どうとは?」

「......やっぱりいいわ。何でもない」

「言いかけて止めるなよ。どういう意味だ?」

「いいのよ! ほら、ご飯も食べたしギルドに報告に行くわよ!」


立ち上がるとすたすたと歩いていく。


「まったく。おばちゃん!! 勘定ここに置いておくよ」

「あいよ! 毎度どうも......ってちょっと多いいよ」

「迷惑料も入ってるから取っといて、また食べに来るから」

「次来たらチョットだけサービスしてあげるよ」

「ありがとう」


そう言ってフレアの後を追おうとすると。

背筋に冷たいものが走る。

バッと振り返る。


方向は慨嘆の大森林のほうだ。

何か嫌な感じがする。


『緊急連絡!! 緊急連絡!! まだ距離はあるが慨嘆の大森林から魔族が侵攻している!! 繰り返す! 魔族が侵攻中!! あいつらは相当ヤバい!!』


......逃げるか。


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