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27話


目が覚める。


大分日が傾いている所を見ると、割と寝ていたようだ。

腹のスキ具合から、大体5時間ぐらいかなと食料を取り出し、食べ始める。


横では、フレアはまだ眠っていた。

酷い顔をしている。

顔中に血がついて黒く固まって、眼の下にもクマらしきものもある。

こちらはこちらで相当頑張ったようだ。


「別嬪さんが台無しだな」


ポーチから布を取り出し、収納袋から水を出し布を濡らす。

顔を軽く拭いておく。

それでも起きる気配がないのだから相当疲れていたのだろう。

もう少し寝かせておくことにする。


「お疲れ様だ。よく頑張ったな」


寝てて気づいてないだろうが労っておく。

このまま寝かせてやりたいが流石にずっとここに居るのも問題だ。

起こさないようにゆっくりと抱き上げる。

このまま帰る事にしよう。



◇◆◇ ユフノ



私は今魔導車という乗り物に乗り急いで戻っている所だ。

2人をあのダンジョンに置いて来てしまった。

あの時の私にはあの壁を壊す力など無く。

戻ったところで足手まといしかならず。

出来ることはここの危険性を報告するために生き恥を晒して戻る事だろう。


「ッツ........うぅ」

「あのう、大丈夫ですかい?」


運転手が心配をして声を掛ける。


「少し痛むぐらいですので、ご心配なく。私の身よりももっと早くお願いします」


魔導車がある街までかなりの無茶をしてしまった。

何処に隠れていたのかダンジョンの中ではゴブリン達が襲い掛かり、ダンジョンから脱出するために残りのわずかな魔力を使ってしまい、出た時には魔力がほとんどなくなり気絶しかけるという状態だった。

近くの町までは遠く、徒歩では時間が掛かってしまう。

だが、仮に魔力があったとして、伝え戻ってくる間に2人の命は.........。

薄々とだが多分ダメだろうと感じてしまっている。


いえ! シヒロさんがいます。生き残っていると信じましょう。


私は禁じ手とされている方法をとった。

魔石を一つ砕いて出てくる膨大な魔力を吸引する事だ。

大幅な魔力の回復と増大が期待出来るが、その後に来る副作用は並の者なら発狂してもおかしくない激痛が襲うが、気にしている場合ではない。

時間が無いのだ。

魔法と身体強化を使って朝方になるまで走り通しようやく魔導車が置いてある町にまでつく事が出来た。

そして今、襲い掛かる副作用で苦しんでいた。


もう使わないと思っていたんですがね。


全身に虫が這っているようなむず痒さと神経を直接削られるような痛みが走る。

体を丸め歯を食いしばり、痛みに何とか耐える。


「.......さん。.........お客さん」


その声で気が付く。

どうやら意識が飛んでいたようだ。

全身に脂汗を掻いている。


「.........到着しましたか?」

「中には入りやしたが、体調が悪いならこのまま治療院によりましょうか?」

「.......結構です。有難いですがこのまま冒険者ギルドまで行ってください。お金の支払いは受付で払いますので」


気持ちはありがたいがこの副作用に回復魔法の効果は無い。

時間の無駄になってしまう。

今でもあそこで戦っている彼等のためにも時間を無駄にしている場合でない。

何気なく外を見ると外は明るかった。

もうすぐ昼といった感じだった。


夜にダンジョンを脱出して、朝方に町について昼に魔導車に乗り込んで丸一日。

やはり半日で到着したシヒロさんは異常ですね。



「へい。到着しやした。本当に大丈夫で?」

「大丈夫です。ありがとうございます」


全身に走る激痛を噛み殺し、辛うじて受付の所まで到着する。


「あら~、ユフノさんじゃないの。どうしたの具合悪そうだけど? 二日酔い? あれ..........でも確か、あの子達とダンジョンの調査に行ってたのよね」

「も、申し訳ないのですが急いでギルドマスターを呼んでください。緊急の案件です」


激痛で脳が焼き切れてしまいそうだ。

ただ事ではない様子にすぐさま顔つきが変わる。


「わ、わかったわ。相当な案件なのね。すぐに呼んでくるわ。ちょっとそこのあんた達! サブマス急いで奥に運んで頂戴!」


と声を掛けると同時に、ガシャンと近くの窓ガラスをぶち破って外に出る。

あの窓ガラスは経費で落とせるかなと思うのは職業病という奴だろうか。


それにしても、あの人は仕事をせずにまた外で遊んでいるのですね。


私を奥の部屋へと誰かが運んでいるようだが視界がぼやけて確認できない。

神経が過敏になっているせいか、話しかけてくる声が頭の中で反響し、触れる布地がヤスリと錯覚するほどの痛みが襲い掛かる。

痛すぎて気絶が出来ないのは唯一の幸いだろう。


まだ意識を失うわけにはいかないので丁度いいですね。


ベッドに寝かされる。

今は窓から入ってくる風すら痛い。

すると横の壁が壊れた。

どうやらギルドマスターを持って来てくれたようだ。


「もうちょっと優しく扱え!! 普通にドアから入ればいいだろうが! この修理代だってタダじゃないんだぞ」

「サブマスがヤバいのよ。早急案件よ。それより仕事しなさいよ。襲うわよ」


この二人の声はよく響く。頭痛が悪化しそうだ。

ギルドマスターがこの状況を見て呆れたように呟いた。


「お前、またアレを使ったのか」

「使わざるえなかったのです。私を逃がしてくれた2人が今も戦っています」

「詳しく話せ」

「こんな状態ですので、一度だけの説明だと思って聞いてください」


これまでの事をできるだけ詳しく、要点を纏め伝える。


「大体わかった。もう寝とけ」


そう言い手をかざされると痛みが引き眠りに落ちた。



◇◆◇



「この話が本当なら、こいつには悪いが間に合わないだろうな。距離から考えても急いで一日半。生きてるとは思えない.........残念だがもう死んでると思っていいだろう」

「これまでに調査した人達..........全滅なのよね」


情報を持たらし、ユフノを生かして返してくれた恩人と犠牲になった冒険者達に黙祷をする。


「ハァ、こいつが倒れたら誰が仕事をしてくれるんだ」

「ギルマスでしょう。全く。それでどうするの?」

「早急に処理はしないといけないだろう。最優先事項は封鎖、可能なら破壊だ。放っておくと大暴走より厄介だ」

「仮にだけど、ユフノの同行者が生きてたらどうするの?」

「まぁ、無いだろうが、2次被害が出ないと判断したうえで、可能であるなら救出という事でいいだろう」

「..........了解したわ。私も行った方がいいかしら?」

「あぁ、そうしてくれ。一応ユフノの同行者の情報と今までに受諾した連中の情報を持って来てくれ。封鎖する人員は他のギルドの連中にも声を掛けとけよ。傭兵はもちろん鍛冶や錬金の連中にもな。面白い金属があると言えば飛びつくだろう。1時間後に出発できるように準備しとけ。それから.......」


気だるげに指示を出す。


すると緊急放送がこの街に響く。


『緊急連絡!! 緊急連絡!! まだ距離はあるが慨嘆の大森林から魔族が侵攻している!! 繰り返す! 魔族が侵攻中!! あいつらは相当ヤバい!!』


本来なら業務口調で話すはずなのにあの焦りよう、並の大暴走クラスではないという事を暗示させる。


「あー、何で魔族なんかが入って来る? あいつ等はこっちに入って来れないだろう」

「あら、忘れたの? 勇者たちがここのボスを討伐したって言ったじゃない。だから向こうから入って来れるようになったんでしょう」

「そうだっけ? 余計な事をしやがって。各ギルドマスター用の回線開いとけ、もし本当に攻め込んできたならここは陥落する可能性がある。一般人から順次、速やかに退散できるようにしとけ。奴隷の連中には飯食わせて、今日、ここが死に場所だと言っとけ」

「イヤな役を押し付けるわね」

「これからやる役を代わってくれるなら代わるが?」

「私が代役をできるわけないじゃない。サボったら本当に襲うからね」


部屋を出て行く。


至極面倒だと深くため息を吐く。

未だに内地の連中は魔族は弱小で弱いと勘違いしてるが、逆だ。

連中は強い。

こちらのAクラスが入念な準備と対策を立てて挑むような連中だ。

大暴走は起こるが、我々は慨嘆の大森林に守られている。

その事を馬鹿な連中は知らないのだ。


「ユフノ、悪いがダンジョンは後回しだ。取り敢えず馬鹿どもの相手をしなくてはならなくなった」


意識が無い状態のユフノに声を掛ける。


「お前もわかってるだろうが、同行者は諦めろ。一応報告したぞ」


部屋を出て、自分の部屋へと入っていく。

そして椅子に座ると、部屋の中に各ギルドマスターたちの姿が映し出される。


「相変わらず花の無い連中だな。いい加減見飽きたわ」


すると背が小さく髭が生えた老人が声を掛ける。


「お前がそういう時は、相当な出来事なのだろうな。正直に言え。ここは終わりと思っていいのか?」

「恐らくな、【危機感知】【直感】【忌避予知】のスキルがそう言ってる」

「ほぼ決まったようなものか」

「それに、あんたの所も似たような物だろ?」


癖のあるギルドマスターの中で、一際目立つ人物..........いや、人形が語りかける。


「...........調査を出したうちの部隊が全滅した。自爆するように訓練してるから情報が洩れる事は無いが貴重な人材を失ってしまったな」

「厄介極まりないうえに、あんたの所の精鋭が全滅か.........最後に、顔見せてくれないか」

「断る。抵抗はさせて貰うが、ここが滅びても私は死ぬ気はないのでね」

「この2人が同意見か.........」


2人を除く、映し出される人達が大きくため息をつく。


「全く、それならやる事は決まってしまったな。まぁここで働いてたらいつかはこうなると思ってたが、よりによって魔族か」


鍛冶ギルドのマスターが項垂れる。


「生産系のギルドの連中は逃げて良いと思うぞ、戦闘で役に立つとは思わないしな」


傭兵ギルドのマスターが声を掛ける。


「兵糧攻めの苦しみはあんたらが良く知ってるでしょうに、物流が滞ると2日と持たないわよ。それに彼らがいないと防衛すらままならなくなるわよ」


商人ギルドのマスターが話し掛ける。


「逃げる口実を作ってやったのに」

「頼んだ覚えはないわよ」

「金勘定以外で動くとは焼きが回ったな」

「ここを乗り切れれば大儲けの匂いがするのよ。リスクを取らずにリターンは望めないわよ」


「最後かもと思ってのじゃれ合いも良いが、他の連中はどうするんだ? こちらの準備は整ってる。逃げる奴はこのまま席を立ってくれ、あと10分で話をまとめたいからな」


誰も立ち去ろうとはしなかった。


「それじゃあ、話を進めていくぞ」


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