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26話

フレアとの通信が切れて少し経つ。


向こうの無事が確認出来てこちらも一安心といったところだが、こちらはそうはいかない。

確実に殺しにきている。

それも倒されることを前提に、こちらを少しずつ削っていく戦い方だ。

体が痺れて集中力が落ちている。


「しんどくなって来たな」


寝不足もあるものだと思いたい。

その場に力を抜くように腰を下ろす。

この痺れは恐らく、先程戦った空中に浮かぶ8つの口のせいだろう。

終始、金切り声のようなデカい声で攻撃してきて、近づこうものなら床を抉るほどの咬筋力で噛みついてくる。

何とか倒すことは出来たが、正直骨が折れる思いをした。

あの声のせいで体は痺れるし、耳鳴りはヒドイしで散々だ。


グゥと腹が鳴る。


だが何よりも厄介だったのはこの空腹だ。

畳み掛けるような連戦だったので食べる暇すらなかったのだ。

今は落ちてくる気配がないので栄養補給のチャンス。


「やっと小休憩が出来るな」


また落ちてくるのだろうがそれまで食事をとることにする。

『収納袋』から食料を取り出しひたすら食べていく。


それにしても、よくもまあこんな厄介な奴を次々と生み出すな。


モグモグと食べながら素直に感心する。


「枯渇知らずのアイディアマンだな。いい迷惑だが」


ボヤくが悪い事ばかりではない。

様々な経験をする事が出来た。

妹達を打倒する技や、母さん達に対抗するためのいいヒントを貰えた。

メリットもあったとポジティブに受け取ることにする。

取り出したデカいベーコンの塊に齧り付く。


『ちょっと、それ僕が食べようとしてたやつだよ。取らないでよ!』


聞きなれた声が聞こえた。

ルテルだ。


「お前か! なんか減ってるなと思ったら、勝手に食うなよ」

『いいじゃない。こんなにも美味しそうなものを見せられたら食べないのは罪だよ。事実、君が作る料理はマジ旨だよ。つまみ食いが止まらないんだもの』

「言いたい事はそれだけか?」

『すみませんでした!』

「食いたいなら一言声を掛けろ、ダメとは言わないから」

『お、随分と優しいね。あと声を掛けたくても掛けられないんだよね。出来るなら毎日がお喋りだよ』

「そいつは朗報だ」

『後ここで何してるの? 修行? こんなことしても君のレベルやスキルは上がらないよ? だって、ここの世界の人間じゃないしね。君は。あ、このお肉食べていい?』


ハァ、と溜め息をつき答えようとすると、ガンと大きな音がする。

さっそく落ちてきたようだ。

今度はデカい車輪のような奴だ。

次々に降って来る。

急いで残りを咀嚼して飲み込む。


「好きにしろ。ここに居る理由だが、ここにお前の落とし物だか、忘れ物があるんじゃないかと思ってきたんだよ。お前が何処にあるか教えてくれたなら面倒な事はしなくていいんだがな」

『..........あー、そうだったの。なんかごめんね。真面目に探してもらってるのに。そうだ! 僕のこの可愛い笑顔で許して! えへへっ!』


殺意が芽生えるが今は相手にしてる場合ではない。

降ってきた奴をよく観察する。

車輪には細やかな文字が刻まれており、こちらを直接攻撃しようとはせずに部屋中を走り回っている。

走った後にはラインマーカーの様に跡がついている。


なんだありゃ。


『んー、残念けどここに僕の探してるものはないよ。あと、あれ早く倒さないとチョット不味い事になるね』

「どういう事だ?」

『あの車輪に書かれている文字。あれは魔方陣を描くための文字だね。しかも相当ヤバい効果。あれが完成すると、この部屋が真空状態になるけど生きてられる?』

「生きられる人間がいると思うのか」

『でも7割がた完成してるよ? 大丈夫...............みたいだね』


ユフノさんを外に脱出させたときに拝借しておいた金属片を全力で投擲する。

次々と命中して粉々になる。

そして、液体化し全滅させることに成功した。

描いてたと思われる魔方陣も消滅。

素早く対処できた。


『お見事! いやはや怖いね』

「まったくだ、この施設を作った奴の頭はどうなってるんだか」

『冗談が面白いね。怖いのは君だよ。シヒロ。どうなってるんだよって感じだよ』

「なんか怒ってるのか? 棘があるぞ」

『本気で君が怖いよ。気味が悪い。何故君はそれらを平然と倒せるのか理解に苦しむよ』

「苦しんでるよ、今だって痺れが取れないし、耳鳴りがヒドイ」

『その程度で済んでることが怖いんだよ。頼むから.........』


小さく。聞こえないように。

いや、そもそも言うつもりなど無かったのか、それとも無意識に言ってしまったのか


敵にだけはならないでくれ。


「あほか」

『ふぅ、今のは忘れておくれよ。要するに僕が言いたかったのは、何かあったら頼ってよってこと。出来ることは少ないけど、出来るだけの事はするよ。君の事が何気に好きだしね.........あ、このフワフワしたの食べて良い?」

「一つ残しとけよ」

『やった!あり』


途中で切れた。

相変わらず何を考えてるのか分からない。

言葉のまま受け取ればいいのか、茶化しているだけなのか。

まぁ、今回はあいつのアドバイスで助かったかな。


するとまた、ベチャベチャと半透明のゼリーのような物が大量に降って来る。

今度も一筋縄じゃ行きそうにないな、と気合を入れ直す。


「......おいおい。何処まで降ってくるつもりだ」


落ちるスピードは加速するように上がり、大量に降っている。

部屋の半分を埋める程降り積もると、ギュッと圧縮し縦横無尽に伸び縮みを繰り返し始めた。


「いよいよ手に負えなくなってきたかな」


形作られた物は異形だった。

形容するなら2足歩行する7mの骨のような怪物。

邪神と言っても信じるだろう。

しかしよく見れば骨らしきものは脈動している。

骨と見違うほど細く圧縮された肉体なのかもしれない。


あれほど大量にあったゼリー状の物が圧縮され凝縮されたのなら、強靭であることは容易に想像がつく。


試しにと、様子見のつもりで金属片を投げてみる。

一直線に向かって投げられた金属片は当たる直前に消失した。


「あ?」


もう一度確かめる様に優しく投げる。

今度は目を見張りじっくりと見て確かめる。

やはり消失した。

何の前触れもなく、消えたのだ。


ヂイイイイイィィィァッァァアァァアアアア


地を這うような雄たけびを上げる。


「声帯が無さそうなのにどうやって叫んでるんだ」


呟いてみるが答えてくれる人はいない。

さて、どうやって倒したらいいのやら。

今まで出てきた奴等のレベルどころか次元が一つ跳びぬけてヤバい。

だが、絶望する程ではない。

母さんとジジイに比べれば希望で満ち溢れているほどだ。


ここで父さんの小太刀を使って見るか。

それとも、母さん用の技を使って見るか。


こちらを敵と認識したのか一歩、また一歩と近づいてくる。

しかし、その巨体に似合わずまったく足音がしない。

こういう意味不明の相手には、似たようなもので対抗させてみるか。

小太刀に手を掛けようとした時、化け物が頭を抱え苦し身悶え始めた。


「なんだ? まだ何もしてないだろう」


何かをする前兆なのか、それなら素早く攻撃すべきだ。

足に力を入れようとした時に


「シヒロ!!」


天井からフレアが落ちてくる。


「先に謝るわ。ごめんなさい。早く逃げるわよ」

「逃げるのはいいがどうやって?」

「入ってきた扉壊せる?」

「壊せるがすぐに元に戻るぞ?」

「良しッ! 大丈夫もう戻らないようにしたから、壊して逃げるわよ」

「あれどうするんだよ」


指さす。


怪物は頭を抱えて動かなくなってしまっている。


今気づいたように指された方を振り向く。

するとペタンと腰を抜かし、その場に座り込んでいる。

フレアも動かなくなってしまった。


すると遠くからとても小さく、機械音がする。

ピッ.......ピッ.......ピッ.......ピッ

少しずつ音の間隔が短くなっている気がする。


......まさか。


それに気づいてからの行動は早かった。

フレアを掴み。動かなくなった怪物の横を通り抜け、入り口らしき所を全力で蹴飛ばす。

部屋の半分に巨大な亀裂が入った。

前回と比べると格段に脆くなっており、元に戻る様子もない。

巨大な亀裂の隙間から抜け出し、全力で駆け抜ける。


途中、ユフノさんが倒したと思われるゴブリン? の死体が転がっている。

上手く脱出したようだ。

だが、こちらは悠長に来た道を戻る気はない。

最短距離を行くために、崩れることなど気にせず蹴り破って進んでいく。

そして、外に辿り着いた。


だがそれでもまだ駄目だ。

背中がザワつく。

死の気配がへばりついている。


走りに走ってその場からできる限り離れるように走る。

そして、それは唐突に起きた。

真後ろの気配が急に消失したのだ。

それと同時に強烈な向かい風が吹く。

身を低く構えフレアが飛ばされないように覆いかぶさる。


風が収まり、後ろを振り返るとまるで何かに抉り取られたかのようにクレーターが出来ていた。

小高い丘の上にあった遺跡が丘ごと消失していた。


「危なかった」


どれぐらいの規模なのかクレーターを覗き込むと、そのクレーターの中心に先程の奴が原形を留めた状態でこちらを見上げていた。

そしてこちらへ向かって歩き出す。


「あれで死なないとか、嫌になるな」


小太刀を抜いて迎撃の準備をする。


「ん?」


それは、歩くたびに体が崩れ出し、まるで風化でもする様に塵となっていった。

そして音もなく倒れると、頭だけ残し完全に消滅してしまう。

向こうもギリギリだったようだ。


「一応、念には念を入れてっと」


持っていた最後の金属片を頭部に命中させるとバラバラに砕け散る。


「......終わったかな」


バタンと地面に倒れる。

昼過ぎに到着したのに、もうすぐ昼になりそうだ。

どれぐらい、あそこに居たのか知らないがもう疲れた。


「疲れた。もういいや、寝る」


詳しくは起きた時にフレアに聞くことにして、心地いい風に身を任せ意識を手放すことにする。


おやすみなさい。

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